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還暦祝いのよもやま話3

60歳からの「銀座日記」
歴史小説・時代小説の人気作を数々世に送り出し、1990年に鬼籍入りしたものの未だ根強いファンの多い池波正太郎(敬称略)。生前の彼の食通ぶりはファンならずとも有名な話です。作品の中にも、さまざまな献立が登場し、インターネットを検索すれば、その献立の再現に挑戦したものも見かけることができます。そうした小説の一方で、彼自身の日頃の食事が紹介されていたのが、地域ミニコミ誌の先達「銀座百点」に連載されていたエッセー「銀座日記」です。実は、この掲載がスタートしたのが60歳、すなわち池波正太郎還暦の歳のことでした。
その内容を覗いてみれば、持病の痛風の発作を恐れつつも、ある時は『レストランで、ビールをのみ、海老グラタンを食べ…(中略)…買物をしてから帰宅。夜食にカツ丼を食べる』、またある時は『鉄板で、カツレツ、餅天、牛天、オムレツ、やきそばなどを自分でつくりながら食べ、酒をのむ。そのいそがしいこと。まるで体操をしているようなものだ』と、なかなかの健啖家ぶりを見せています。献立も素材も、まるで若者のノリ。しかし、そこは浅草に生まれ育ち、粋で鳴らした江戸っ子。『合鴨の焼いたのと牡蠣そばで酒を二号のみ、その後でせいろを一杯』と、有りし日の姿が思い浮かぶ一文も。また、『到来物の蛤をコンロで焙りながら酒一合半』とか『新鮮な鯒(こち)の薄造りに、カマの塩焼き。酒を二本のんで…』とくれば、その傍らに控えるのが燗酒であるか人肌であるか、はたまた冷酒であるかは好みとしても、左党の方なら一度はやってみたいお酒の楽しみ方ではありませんか。というわけで、芸術を愛し、食を愛し、酒を愛した巨匠に想いをはせつつ、今夜あたり、ご一献、いかがでしょう。
※文中の『 』の部分はすべて「池波正太郎の銀座日記(全)[新潮文庫]より抜粋」