酒粕で造られる焼酎とは?

焼酎は蒸留酒で、日本酒はお米から造った醸造酒。その2種類のお酒の特長を合わせ持つ本格焼酎があります。それは、酒粕から造られた「粕取焼酎」。

日本酒作りで最後に残る酒粕を捨ててしまうには惜しいという、杜氏たちの思いが粕取焼酎を生み出しました。今では多種多様な焼酎のバリエーションがあり、あえて酒粕を使って焼酎を造る蔵元は少なくなったといいます。銘酒と醸した酒粕を使用し、日本酒の名蔵元が造る「粕取焼酎」をご紹介します。

 

粕取焼酎とは?

そもそも粕取焼酎とはどんなものでしょうか。日本酒

作りの副産物「酒粕」には、約810%のアルコール分が含まれており、この酒粕を原料とするのが「粕取り焼酎」です。

起源は正確に分かりませんが、江戸時代の17世紀後半以降の文献には、その製造方法が記されています。
酒粕は栄養価が高く良い肥料となるのですが、アルコール濃度が高すぎると植物に害を与えます。このため、農民たちは酒粕を蒸留して焼酎を造り、「下粕」と呼ばれる残った粕を肥料として利用しました。つまり、粕取焼酎は元々「副産物」だったという見方もできます。

 

古くは「早苗饗(さなぶり)焼酎」と呼ばれ田植えを終えた祝いの酒として親しまれてきました。製法は太宰府天満宮の「神領田(しんりょうでん)」(神様に備える稲を作る田んぼ)のある地域から広がったと伝えられています。

このように粕取焼酎には日本の農村文化が色濃く反映されているのです。

製法はシンプルで、酒粕にもみ殻を加えて混ぜ、せいろ式の蒸留機で蒸留して造られていました。

 

粕取焼酎の造り方

 

日本酒を造るときに出る酒粕。「カス」といっても、日本酒造りの工程で、もろみをしぼったときに固形物として分けられるものです。日本酒や米の旨味が凝縮されている栄養豊富な食材です。

酒粕には、約8%のアルコール分が含まれています。それを蒸留して造られるのが、「粕取焼酎(酒粕焼酎)」です。

酒粕には、アミノ酸などのうま味成分が豊富に含まれています。粕取焼酎はその酒粕を原料として使用しているため、芳醇な香りと味わいに仕上がるのです。

 

粕取焼酎は、蒸留して酒粕に残った雑味を取り、クリアなアルコール分を取り出すという仕組みが重要ですが、その製法は2種類あります。

粕取り焼酎は、種類によって特長が全く異なる味わいを楽しむことができます。

 

 

酒粕焼酎の種類

粕取焼酎は大きく2種類に分類されます。

 

吟醸粕取焼酎

酒米を50%〜60%以下まで精米して造られる日本酒が吟醸や大吟醸です。この酒粕を使った粕取焼酎を「吟醸粕取焼酎」といい、さわやかな吟醸香がそのまま残り、上品ですっきりとした日本酒に近い味わいが特徴的です。また、酒粕に水や酵母を加え再発酵させ、蒸留したものもあります。

日本酒愛好家にもファンが多く、吟醸酒のように、淡麗でキレのある味わいになることが特長です。

 

 

正調粕取焼酎

日本酒を搾ったあとの酒粕に水を加えると酵母により再発酵が始まります。十分にアルコール発酵がすすんだところで、もみ殻を混ぜて蒸気の通りを良くし、蒸篭(せいろ)型蒸留機にかけます。蒸篭の上から出てきたアルコール分を冷やして液体に戻し、正調粕取焼酎となります。
また、酒粕を熟成させたものを使用することもあります。熟成させると茶色いペースト状になり、味噌にも似た香りになります。酒粕を熟成させることで旨味が増すといいます。

 

江戸時代から続く伝統的な製法ですが、蔵人の手で少しずつ行われる作業で、大変手間がかかるため、採算が取れないといいます。

昔ながらの製法を守って造られるものを「正調粕取焼酎」と呼び、香ばしさと甘みがあり、強い芳香を放ちます。クセが強いものの、慣れるととてもおいしく感じられます。

 

粕取焼酎の飲み方

生、ロック、水割り、お湯割などの飲み方が楽しめます。しかし、古くから親しまれている粕取焼酎独特の飲み方が、砂糖や蜂蜜などの甘味料を加える飲み方です。「粕取焼酎」初心者におすすめの飲み方といえます。

 

ストレート

粕取焼酎のふくよかな香りを知るために、まずはストレートで飲んでみることをおすすめします。グラスを両手で包み込み、ゆっくり舌の上で転がして風味を確かめてください。「バニラの香りがする」「ほんのり酸味を感じる」など、その風味は種類によってさまざまです。まずは粕取焼酎がどのようなお酒かを自らの舌で確かめてから、お気に入りの銘柄を見つけてみてください。

 

ロック

すっきり味わうなら、ロックがおすすめです。焼酎のクリアな口当たりと、お米の風味の両方を感じることができるからです。美味しい水で製氷された、透き通った大きめの氷を用意して、水がゆっくり溶けるにつれて変化してくゆく味わいも楽しむことができます。また、ロックで飲むことは、食中酒として食事のお供にするのもおすすめです。お米が原材料なだけあって、和食などさまざまな料理と合わせやすいお酒です。

 

ソーダ割り

ソーダ割りは、炭酸で割ることで飲みやすくなる一方で、酒粕ならではの芳醇な味わいもしっかり楽しめます。炭酸のシュワシュワとした清涼感の中に溶け込むほのかな酒粕の甘さは、飲んでいるうちにクセになるかもしれません。

粕取り焼酎のアルコール度数は、一般的な25度の焼酎より高いことが多いため、はじめて飲む方は、ソーダ割りにしてゆっくりと慣れていくのが良いのではないでしょうか。ソーダ割りも料理に合わせやすい飲み方です。

 

粕取焼酎は、基本的に一般の酒販売店では取り扱っていないことが多いです。手間がかかる割に需要が少なく、採算が合わないことから、地元で消費できる分量しかつくらない酒造が多いためです。酒造を訪ねた際に、実際に味を確かめつつ、おすすめを聞きながらお気に入りを見つけることが一番良い選び方ではありますが、酒造のオンラインショップ、楽天やAmazonといったECサイトで、自宅にいながら多種多様な粕取焼酎を比較して選ぶのもよいかもしれません。

 

吟醸粕取焼酎

獺祭 焼酎39度【旭酒造】

「獺祭(だっさい)」といえば、日本酒ファンはもちろん、日本酒をそれほど知らなくとも一度は聞いたことがあるほど有名な銘柄です。獺祭を生み出した旭酒造は純米大吟醸だけに専念するという経営方針のもと、酒造りの過程を詳細にデータ化し、杜氏に頼らないノウハウを完成しました。その獺祭を生み出した大吟醸酒の酒粕を再発酵させて蒸留した焼酎です。純米大吟醸の香りを色濃く残しつつ、軽やかな味わいを実現しています。

アルコール度数は39度とどちらかというとウイスキーやブランデーに近いアルコール度数で、封を開けた瞬間からフルーティな甘い香りが漂います。甘く華やかな風味を感じられるまるで濃い「日本酒」を飲んでいるような口当たりです。ロックやストレートで飲むよりは、水割りやお湯割りで楽しむのよいのではないでしょうか。

 

宜有千萬(よろしくせんまんあるべし)【八海山】

清酒「八海山」を生み出した八海醸造株式会社がつくる粕取焼酎が「宜有千萬」です。高品位でかつ新鮮な酒粕のみを原料に、ゆっくりと時間をかけて減圧蒸留しています。蒸留後3年以上貯蔵することで、味に円熟したまろやかな口当たりと日本酒特有の風味が一体化したふくよかな味わいを引き出しています。ゆっくりと時間をかけて減圧蒸留することで、銘酒「八海山」の吟醸酒を思わせるほのかな吟醸香を漂わせた粕取り焼酎に仕上げています。

 

「宜有千萬」という酒名の意味は、「限りなく多くの福が得られるようにと願う言葉。」です。中国で古くから使われている吉語から由来しています。

「よろしく千萬あるべし」という米焼酎も発売されています。

「宜有千萬」の風味を楽しむには、ストレートまたはロックがおすすめです。また、水割りにされる場合は、5:5の割合にして一晩寝かせると、直前に割ったものよりも円やかでバランスの良い風味をお楽しみいただけます。

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古酒 乙焼酎【石本酒造】

石本酒造といえば清酒「越乃寒梅」で有名な酒造会社です。新潟市のほぼ中央に位置する亀田郷地域で江戸時代から作られてきた日本酒「越乃寒梅」は、日本酒ファンでなくてもこの銘柄を知らない人はいないでしょう。

乙焼酎は、石本酒造の2代目が抱いていた「蒸留酒を作りたい」との想いを引き継ぎ、平成2年に商品化されました。主に大吟醸酒の酒粕に米を加え再発酵させて絞った発酵液を減圧蒸留し、冷凍濾過しています。その後約5年間熟成させて完成します。吟醸香の広がりと、長期熟成のまろやかさが口に広がります。

上品で澄み切った米の香りと旨味の備わったアルコール度数40度の焼酎は、湯割りやロックで飲むのがオススメです。香味の広がりと伸びを感じさせてくれます。

お盆と暮れの限定商品になります。

 

節五郎【菊水酒造】

城下町として栄えた新潟県新発田市で、酒蔵としての歴史を刻み始めた「菊水酒造」。不老長寿の菊の水を謳った能楽から付けられた日本酒「菊水」シリーズは、全国で広くたのしまれています。創始者の名前を冠した銘柄「節五郎」は、酒蔵としての様々なチャレンジを表現する酒が揃います。

日本酒「菊水」の酒粕を使って造られた粕取焼酎が「節五郎」です。減圧蒸留を行なっているので、雑味が少なく透き通るようなクリアな味わいです。酒粕由来の芳醇でフルーティな香りが漂い、ほのかな甘みが残ります。アルコール度数35度の粕取焼酎で、ロックで飲むと特徴的な酒粕に由来する風味をそのまま美味しく味わうことができます。

 

雪 焼酎つんぶり/黄金波 超音波熟成【北雪酒造】

北雪酒造は、新潟県佐渡島の小さな港から酒造りを始めた酒造です。明治5年の創業以来、伝統と革新を組み合わせた酒造りを行っています。音楽演奏や超音波振動、遠心分離機など、今までされることのなかった日本酒製造の技術を取り入れ、世界的にも知られる酒造です。農薬や化学肥料を使わず、 天然水を利用して酒米造りを行い、その上質な酒米は「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」(朱鷺認証米)に認定されています。
北雪酒造では日本酒同様、こだわりの米焼酎が造られていることでも有名です。

「黄金波 超音波熟成」は、自家製の大吟醸粕と高精白粕で造られた後、超音波をあてて熟成された1本です。華やかな吟醸香とまろやかな味わいが特徴的です。また、超音波熟成により、アルコール代謝が早く、酔い醒めが爽やかです。

「山のいただき」を意味する方言に由来して名付けられた、粕取焼酎「つんぶり」は、減圧蒸留機を用いて酒粕の香りと旨味が閉じ込められています。「つんぶり」は、ロックで酒粕の旨味を堪能する飲み方がおすすめです。

 

七田 吟醸粕取焼酎【天山酒造】

天山酒造のルーツは水車業です。現在酒造のある佐賀県小城市で小京都小城の祇園川の清流を利用し、水車業を営み、製粉・製麺業を文久元年(1861年)に開始しますが、平行して地元の造り酒屋からも酒米の精米を引き受けていました。そして明治の初めから酒造会社として、日本酒「天山」を作り続けています。「七田」は県外向けに販売されるブランドです。吟醸酒の酒粕を原料とし作られる「七田 吟醸粕取焼酎」は、豊かな吟醸香とキレのよい飲み口が楽しめます。アルコール度数は25.5度あり、雑味は全くなく、フルーティな香りとアルコールの甘さが渾然一体となっています。少量の水を加水して作る水割りやロックがおすすめです。

 

正調粕取焼酎

昔ながらの製法を守る正調粕取焼酎ですが、あくまで日本酒製造の副産物としてつくられます。どの蔵も日本酒をつくりながら、地元で求める人のために製造を続けているのが現状です。

近代以降、日本酒や芋焼酎、麦焼酎などは、輸送手段の発達や技術革新などによって広範囲へと流通するようになり、全国ブランドの大企業も生まれました。その一方、地域のための酒として造られてきた正調粕取焼酎は、農村の近代化とその後の衰退、また、飲み手の嗜好の変化で癖の強い味わいが敬遠されたことにより、製造する酒造は大幅に減少してしまい、希少価値が高まっています。

そんな正調粕取焼酎の中から比較的入手しやすいものを中心にご紹介します。

 

博多小女郎 粕取焼酎 大亀【光酒造】

福岡県糟屋郡粕屋町長者原にある光酒造。この糟屋郡の地名は酒粕の糟、つまりこの周辺に酒粕を産する清酒蔵が多かったことが語源だといいます。そのため周辺には、酒殿(さかど)、酒屋(さかや)といった地名が今なお残っています。

光酒造は焼酎専門の蔵としてスタートしたという珍しい背景があります。主力商品は麦焼酎「博多小女郎」、米焼酎、にんじん焼酎といったものまでありますが、清酒「西乃蔵」の製造は平成に入ってから始められました。粕取焼酎「大亀」の香りはもみ殻特有の焦げ臭はあまりなく、落ち着いたまろやかさを感じさせる濃醇な味わいが特徴です。

 

粕取焼酎 三隈(みくま)【クンチョウ酒造】

クンチョウ酒造が位置する大分県日田市は、「九州の小京都」とも呼ばれ、北部九州の中心に位置する盆地です。周囲を囲む山々が蓄える水は豊かな質の良い地下水となり、昔から酒造りが盛んな地域でした。

「三隈(みくま)」は、独特の強い香りを好む根強いファンに支えられている粕取焼酎です。アルコール度数が25度と35度があり、初心者はマイルドで飲みやすい25度から始めるのがおすすめだそうです。

地元日田では、アルコール度数35度のものは、梅の収穫時期に梅酒を漬ける焼酎として使われています。ロック、濃いめの水割り、砂糖や黒糖をまぜるのがおすすめの飲み方です。

 

粕取焼酎 辰泉【辰泉酒造】

会津の米と会津の水を存分に生かして醸される清酒「辰泉」。辰泉の酒粕を原料に杉材を使った「サナ」と呼ばれる蒸篭(せいろ)式蒸留機で昔ながらの製法を守りながら造られています。もみ殻の焦げ臭さはウイスキーのピート臭にも似た良い香りがします。シングルモルトの香りが特長的な正調粕取焼酎です。

 

富源(ふげん)【浜嶋酒造】

浜嶋酒造は、明治221899)年に大分県大野郡緒方町で創業し、「鷹来屋」という銘柄の日本酒を醸し続ける酒造所が「浜嶋酒造」。「鷹来屋」という名前は、創業当時に浜嶋家へ鷹がよく飛来してきていたことに由来しているそうです。

「富源(ふげん)」は、蔵元が地元の愛好家のためにごく少量のみ製造されています。そのため、そのほとんどは地元で消費され一般に流通することは少ないそうです。地元緒方町から大野町の一部だけで流通しており、ネット販売も行われていません。個性的で強烈な香りが特徴的です。味わいはその強烈な香りに反して穏やかで深みがあります。

 

まとめ

あまり聞き馴染みのない「粕取焼酎」。特に、製造工程が手作業で手間のかかる正調粕取焼酎の生産は、危機的状況にあるようです。とはいえ、正調粕取焼酎独特の強烈な香りこそが粕取焼酎の原点といえるのかもしれません。

もし焼酎自慢の居酒屋さんなどで見かけたときは、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。