ベルギーに数あるトラピストビールの一つがオルヴァルです。
他の修道院ではいくつかの種類のビールを醸造していますが、リュクサンブール州オルヴァル寺院では、このビールだけを作り続けてきました。
歴史がつまったビールは、その評価も高く、数あるトラピストビールの中でも逸品です。
丸みを帯びたシンプルなボトルからグラスにそそげば、黄金のきらめきとともにみずみずしいホップの香りが広がります。
その醸造方法は、実は一度、フランス革命の折に失われてしまいました。
レシピもなくなり、わかっているのはビールを作っていたという事実だけ。
しかし、修道院では試行錯誤してこのビールを蘇らせることに成功しました。その製法は実に複雑、かつ手間をかけたものです。
まず一次発酵時には麦芽やキャディーシュガーを使用し、従来のベルギービールらしい味わいが実現。
そこへ、二次発酵のときにドライホッピング製法が加わります。
ドライホッピングとは、完成間際のビールに生のホップを漬け、ホップの香りを移す製法で、イギリス発祥の技術。
ですからこの手法をとるベルギービールは珍しく、独自の香りを生んでいます。
また、このビールは二種類の酵母を使用しており、これにより麦汁の甘味成分が軽減。
ベルギービール特有の甘さが控えめに、逆にホップの香りが際立つ、オリジナリティに富んだ味わいが楽しめます。
華やかな香りとコクのある味わいやホップの苦み。
複雑な製法にふさわしいふくよかな余韻は、オルヴァルでしか楽しめない魅力が詰まっています。
その複雑な製法から生まれるもう一つの特徴が味の違いです。
瓶に詰められたあとも熟成し続けるこのビールは、ボトルによって酸味が際立つ味わいのときもあれば、まろやかで深みのある味わいのときも。
ボトルによってさまざまな表情の違いを見せるのは、実は熟成の度合いの違いによるものです。
もっとも味が大きく変わる節目は、醸造から9か月目。
出荷日などを目安に、同じビールの味わいの違いを確かめてみるのも、オルヴァルならではの魅力を楽しめます。
独特な味わいでありながら包容力のある味は癖がなく、どんな料理にでも合うのが特徴。
和食などの繊細な料理にも合うので、食卓にもぴったりの一本です。
醸造所のほど近くにマチルドの泉と呼ばれる小さな泉があり、ビール造りにはこの泉の水が使われています。
かつて、イタリアの伯爵夫人がこの泉に亡夫からの大切な指輪を落としてしまった伝説があります。
伯爵夫人はこのとき、聖母マリアに「指輪が戻ってきたらこの地に修道院を立てます」と祈ったそうです。
すると、指輪を咥えた鱒が泉の中から姿を現したのだとか。
このとき伯爵夫人が「ここは本当に黄金の谷(オルヴァル)だわ」と言ったことから、この地域はオルヴァルというようになったそうです。
伝説の通り、その地に建った修道院で作られる黄金のビール。
そのボトルキャップには聖母マリアの祝福をしめすかのように、指輪を咥えた鱒の姿があります。