
「日本酒とピッタリ合う食事やおつまみを選びたい」「日本酒いちばん美味しい状態で味わいたい」。
誰しもが抱くこんな願いですが、そうは言ってもなかなかハードルが高いかもしれません。確かにラベルにある程度の情報は確かに書いてはあります。
でも、あまり飲みつけていない人には、一体どの日本酒とどの料理を組み合わせたら良いのか、大いに悩むところではないでしょうか。
そこで役立つのが、日本酒を4つのタイプに分類するという手法です。「え?日本酒ってすごく種類が豊富なのに、たった4つに分けられるの?」「特定名称酒だって8種類あるって習ったんだけど?」などと疑問を持つ方も多いかもしれませんね。
では、以下でくわしくご紹介していきます!
21,000種類の日本酒をテイスティングして到達した、「4タイプ分類法」とは?
日本酒の「4タイプ分類法」とは、「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)」が提案するメソッドです。
SSIとは、日本の酒である「日本酒」「焼酎」の提供方法を中心とした酒類の総合研究・啓蒙活動を通じて、日本の酒や食文化の継承発展を目指して設立された団体です。唎酒師(ききさけし)の資格の認定なども、こちらがおこなっています。
このSSIが、どうにかして日本酒のわかりやすい提供方法を見つけたいと、数年をかけて研究に邁進。
21,000種類にも及ぶ日本酒をテイスティングした末にたどり着いたたのが、「日本酒は香りと味わいで4つのタイプに分類できる」という結論です。この分類法は、今では、飲食店などで広く使われています。
SSIによる4タイプは、以下のようにカテゴライズされます。
・「爽酒」(そうしゅ):軽快で爽やかなタイプ
・「醇酒」(じゅんしゅ):コクのある旨口タイプ
・「熟酒」(じゅくしゅ):コックリとした熟成タイプ
「薫」「爽」「醇」「熟」といった漢字から、なんとなくイメージが伝わってきますよね。それでは、ここからは4タイプのそれぞれの特徴について具体的に解説します。
4タイプそれぞれの「特徴」
① 薫酒
・香り:華やかな香り高さが薫酒の最大の魅力です。バナナやリンゴ、桃、洋梨、メロン、ライチといった甘いフルーツや、スミレやレンゲ、白バラ、桜といった花のような香りなど、日本酒とは思えないほど芳醇な甘い香りがただよい、幸せを運んでくれます。
・味わい:ジューシーで上品な甘さ、キレイな透明感は、エレガント・ビューティと呼ぶにふさわしい味わいです。軽快なものから濃醇なものまで、さまざまなタイプが存在します。
・色:無色から淡い色調
・該当する日本酒:吟醸香と呼ばれる華やかでフルーティーな香りを持つ日本酒が主に当てはまります。「純米大吟醸酒」「大吟醸酒」「大吟醸酒」「吟醸酒」といった、「吟醸」と表記されているものの多くは、この薫酒タイプに相当します。
② 爽酒
・香り:控えめで清楚な香りが持ち味です。ゆずやレモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジといった柑橘系のフルーツや、ローズマリーやタイム、ディルなどのハーブ類、それに三つ葉や笹などの緑の葉の香りが、心地よい清涼感を醸し出しています。
・味わい:酸味は穏やか。さらりと軽快、爽やかでスッキリした味わいが特徴です。
・色:無色から淡い色調
・該当する日本酒:醸造アルコールを添加している「本醸造酒」「吟醸酒」「普通酒」、火入れをしていない「生酒」、それに低アルコールタイプの日本酒などが、この爽酒タイプに多く見られます。
③ 醇酒
・香り:原料の米や米麹そのものを想わせるような、ふくよかで落ち着いた香りは、まさに日本酒の原点。飲む人の心を優しく癒してくれます。つきたてのお餅や米菓子、それに上質のヨーグルトや生クリーム、発酵バターといった乳製品の香り、他にはシメジやシイタケ、ホワイトマッシュルームなどを彷彿とさせるものもあります。
・味わい:米本来の充実した旨味や甘味を感じさせるコクのある味わいが特徴です。後味はしっかりしており、やや長めに続く旨味の余韻を楽しむことができます。
・色:うっすらと黄色がかっている
・該当する日本酒:「純米酒」や「特別純米酒」といった、米と米麹の使用割合が高い、あるいは、あまり磨いていない米を使用した日本酒が当てはまります。とりわけ、生酛や山廃酛といった「生酛系酒母」で醸されたお酒はこの醇酒タイプに該当する傾向が高いです。
④ 熟酒
・香り:ナッツやドライフルーツ、メープルシロップ、スパイスなどを思わせる凝縮した複雑な香りが秀逸。カラメルソースのような独特の練れた熟成香は、しばしば中国の紹興酒にもたとえられます。
・味わい:芳醇で重厚なとろりとした甘味や、ボリューム感たっぷりの旨味が合わさった力強い味わいが魅力です。粘性が高く、シルクを思わせるなめらかな舌触りには思わずうっとり。余韻がとっても長く続くのも大きな特徴です。
・色:黄金色や琥珀色
・該当する日本酒:「長期熟成酒」「古酒」といった、長期間にわたって熟成させたものが、この熟酒にカテゴライズされます。
4タイプそれぞれの美味しい「温度」
① 薫酒
オススメの飲用温度:10℃前後(8〜15℃)
冷やすことによって爽快感がアップしますが、冷やしすぎては持ち味である華やかな香りが感じにくくなってしまいます。
薫酒特有のフルーティーな香りを存分に楽しみたいときは、10℃くらいがベストでしょう。ちょっと甘ったるく感じるなら、もう少し冷やすとシャープな味わいに変身しますよ。
基本、冷たくして飲むと美味しいのがこの薫酒ですが、香りが穏やかで旨味がしっかりしたタイプなら、40℃くらいのぬる燗にしてもOKです。
② 爽酒
オススメの飲用温度:5〜10℃
軽快で清涼感のある爽やかな味わいが特徴的なこのタイプは、しっかりと冷やすことで持ち味が活きてきます。
軽快感を存分に堪能したいなら、5℃くらいまで冷やしていただくのがおススメです。
③ 醇酒
オススメの飲用温度:15〜18℃、または40〜55℃
常温から55℃以上の飛び切り燗まで、温度帯がもっとも広いのがこの醇酒。品温の違いによってさまざまな変化を見せるタイプです。
たっぷりのコクと旨味成分を引き出すには、やや高めの温度で飲むのが良いでしょう。
④ 熟酒
オススメの飲用温度:15〜25℃、または35℃前後
重厚感あふれるものから淡麗なものまでタイプはさまざまなため、それぞれのタイプに合わせた温度設定をすると良いでしょう。
重厚な旨味成分を持つものなら温度は高めに、淡麗なタイプなら低めにして飲むと、それぞれの持ち味が活きてきます。
お燗にする場合は、温度が高すぎるとバランスが崩れてしまうこともあるため、やや低めにすることを心がけると良いでしょう。
経年により独特の香りと味わいを持つ熟酒は、飲み手によって好き嫌いが大きく分かれる傾向が見られます。苦手な方は、少し低めの温度設定にすると、特有の強い風味を抑えることができるため、マイルドで飲みやすくなりますよ。
4タイプそれぞれと相性抜群の「料理」
① 薫酒
単独でいただける食前酒としてもピッタリなのが、この薫酒。華やかだったりフルーティーだったりと、香りがハッキリしているので、どちらかというと料理を選ぶ傾向があります。
オススメは、自然で柔らかな甘味を持つ淡白な食材やフルーツを使った料理など。
調理法は、薫酒のフルーティーな香りと清涼感を損なわないように、蒸す、焼く、あるいは生のままといったシンプルなものが良いですよ。
② 爽酒
香りが控えめで味わいもスッキリ軽快なため、どんな料理とも相性が良い、いわばマルチプレイヤーなのが、この爽酒。
基本的には、軽めのタイプの料理と合わせるのがベターです。また、シャープな飲み口が、脂っこさをキレイに洗い流してくれるため、コッテリした料理にこの爽酒を組み合わせるというのもアリですよ。
調理法は、蒸す、焼く、生のままといったシンプルなものがオススメです。
③ 醇酒
この醇酒も、さまざまな料理と好相性を発揮します。中でもピッタリなのが、しっかりとした味付けの料理や酒の肴系の料理。
また、乳酸菌に由来するクリーミーな味わいを持つ、生酛や山廃酛といった生酛系の日本酒は、バターやクリーム、チーズといった乳製品を使った洋風料理にもよくマッチします。
調理法は、焼く、煮る、炒める、揚げるなど。濃いめの味に仕上げると、この醇酒の旨味とのバランスが取れます。
④ 熟酒
とても複雑かつ重厚な風味を持つため、合わせられる料理の幅は決して広くはありません。
そのかわり、他の3タイプでは考えられないような料理との組み合わせが楽しめるのが、この熟酒のすごいところです。
味や香りが濃密な独特の「凝縮感」と「熟成感」は、ハチミツなどで濃い甘味を付けたもの、フォワグラなどの脂の多いもの、クセの強い食材や調理料と相性バツグン。
また、ドライフルーツや干物、乾燥ポルチーニ、干しシイタケといった乾物を用いた料理にもよく合いますよ。調理法は、焼く、揚げる、煮る、それに燻(いぶ)すなど。
あと、熟酒は実は食後酒としてもイケるんです。デザートや熟成感の強いチーズと一緒にいただくとピッタリですよ。
4タイプそれぞれの個性を引き出す「酒器」
① 薫酒
薫酒の酒器選びには、大きな魅力であるフルーティーな香りとジューシーな味わいを活かすことが最優先です。
立ち上る香りを長い時間しっかりキープできるよう、空間が広く、口径が狭いタイプがベストです。
ピッタリなのが、ボウル部分が大きく膨らんでいるバルーン形状の、ブルゴーニュ型ワイングラス。
また、ワイングラスの名門ブランド、リーデル(オーストリア)が2000年に大吟醸酒用に開発した「リーデル・オー 大吟醸グラス」もオススメです。縦長のボウル形状で、フルーティーなみずみずしい香りを満喫できますよ。
② 爽酒
軽快でシンプルな味わいが持ち味の爽酒には、口径が小さく縦長のフルートグラスがピッタリ。
日本酒が舌先から直線的に細く流れていくので、軽快感が際立ちます。冷たい温度で飲むことが多いため、温度が上がらないうちに飲み切れるよう、小さなサイズの酒器が良いでしょう。
錫(すず)やチタンなどの金属製のグラスだと、さらに冷たさをキープできます。また、竹製の酒器や切子グラスだと、涼やかな印象をもたらしてくれるので、これらもオススメです。
③ 醇酒
日本酒の原点ともいえる、米の風味がたっぷり感じられる旨口テイストの醇酒。平盃など口径の広い酒器を選ぶと、旨味やコクをしっかり味わうことができます。
また、香りは控えめなため、丈の低い、顔を下に向け鼻先を近づけて飲むぐい呑みもOKです。ゆったりじっくり嗜むには、和の印象を与える酒器もピッタリ。
片口や焼き物などにこだわって、渋くて良い風情を演出できるので素敵です。日本的な雰囲気が創り出されて、日本人はもちろん、外国の方にも喜ばれること請け合いですよ。
④ 熟酒
長い歳月により得られた熟成がもたらす凝縮した香りを最大限に楽しむには、大きめのボウル状のものが良いでしょう。
ブランデーグラスのように、極端に湾曲した形状の酒器を選ぶのがオススメです。もっとも、香りが十分強いため、シェリーグラスやショットグラスのような小さめな酒器でももちろん香りは楽しめますよ。
ディープなファンが多い熟酒ですが、あまり飲みつけていないビギナーからは独特の熟成香がちょっと苦手といった意見があるのも事実。
そんな初心者の方には、口径の広い平盃タイプがGOOD。香りが揮発しやすいため、香気がまろやかになって飲みやすくなりますよ。
黄金色や琥珀色などの美しい色調を活かすことも重要なポイント。透明のグラスやカットの入ったグラスだと、その豊かに輝く色合いを存分に楽しめます。
また、中が金塗りの漆器なども高級感が醸し出されて素敵ですよ。