日本酒ができるまでその6

日本酒ができるまで

ここまで来れば、日本酒造りのプロセスもいよいよ終盤戦です。まだまだやることはさまざまありますが、各工程をひとつひとつ見ていきましょう。

 

おり引き

おり引き

搾りたての原酒は、米粒の細かい破片や酵母、麹などが浮遊しており、薄く白濁しています。この固形物のことを「おり」と呼びます。このおりを取り除く作業が「おり引き」です。

おり引きのやり方ですが、まず上槽したお酒を貯蔵タンクに入れて、数日間放置します。すると、白濁した部分が底に沈んで澄んだ部分と分かれてきます。この澄んだ部分を取り出すのです。

貯蔵タンクの側面の底部に近い部分には、「呑穴」(のみあな)と呼ばれる取り出し口が2種類ついています。上の取り出し口が「上呑」(うわのみ)、上呑より約15㎝ほど下にある取り出し口が「下呑」(したのみ)と呼ばれるものです。通常のおり引きでは、上呑から、澄んだ部分を取り出します。

下呑から出てくるお酒は、沈殿したおりをたくさん含んでいますが、これを「おり酒」と呼びます

また、下呑から取り出したおりを、上呑から取り出した透明な液体にあえて混ぜた「おりがらみ」と呼ばれるお酒も存在します。「ささにごり」「うすにごり」「かすみ酒」などと呼ばれる場合もあります。

おりを混ぜたこれらのお酒は、基本的には混ぜてから飲みますが、あえて混ぜずに澄んだ部分とにごった部分の2つの味わいを別々に楽しむという飲み方をすることも、もちろんアリです。

おりには、米のエキス分が非常に多く含まれており、アミノ酸などが豊富です。そのため、おりを入れることで、通常のおり引きをしたものよりも濃醇で、お米の旨味をたっぷりと感じられる味わいのものに仕上がります

また、まだ残っている生きた酵母が炭酸ガスを発生させるため、微発泡のさわやかな飲み口となるのも楽しいところです。

「おり酒」を作っているところはそれほど多いとは言えず、なかなか飲む機会はないタイプのお酒かもしれません。

でも、興味があるという方におススメしたいのが、1886(明治19)年に創業した月の輪酒造店(岩手県紫波郡紫波町)が手掛ける「月の輪 滓酒(おりざけ)」という商品です。紫波町は、日本最大の杜氏集団である南部杜氏発祥の地として有名なところです。

この「月の輪 滓酒」の造り方をご説明しますと、昔ながらの搾り方である槽を使って取った、さまざまな種類のおり酒を別置したタンクに混入していきます。そのタンクがいっぱいになったときに瓶詰めをするのです。

気になる味わいはというと、ひとことでは言い表せない複雑な美味を醸し出しています。毎年3,000本に予約限定し、2月下旬より販売されており、この時期の発売を毎年待ちかねているコアなリピーターファンが多い人気のお酒です。

ちなみにアルコール度数は18.5%と一般の日本酒より高め。成分は毎年異なりますが、大きな差はないとのことです。

 

濾過

濾過

おり引きが終わると、一般的なお酒は次に「濾過」という工程に入ります。濾過の目的は、おり引きでは除き切れずに残った固形物や酵母などを除去することです。

濾過のやり方は大きく分けて2つあります。

1つは、活性炭を用いる方法です。原酒の入ったタンクの中に活性炭の粉末を投入したり、または活性炭を入れたお酒を濾過機に通したりしておこないます。

活性炭が余分な雑味や色や香気成分を吸着するために、日本酒の持つ色や雑味がなくなり透明でスッキリとした味わいになります。淡麗辛口タイプのお酒は、活性炭を多めに使ったものが多いようです。ちなみに、濾過に使われた活性炭は、もちろんその後分離して取り除かれるので、心配はいりません。

もう1つは、活性炭を使わずに、濾過機を通すだけという方法です。「素濾過」と呼ばれます。

濾過機には、フィルターを通すだけの簡易タイプや、さらに精密な濾過がおこなえるタイプなど種類がいくつかあり、用途に応じてどの機械を使うかが決められます。

濾過機に使用する濾紙には、珪藻などの濾材や、精密濾過と呼ばれる0.2~3ミクロン(1ミクロン=1000分の1ミリ)ほどの微細な穴が開いたフィルターなどが用いられます。

活性炭を用いると、香気成分が必要以上に吸収されてしまうことがありますが、濾過機だけで濾過すると、取り除かれるのは不純物だけその日本酒が持つ特性を損なわず、香気成分や色や旨味がきちんと残るので、濃醇でボリューミーな味わいになります

山吹色がかった日本酒は、目にも美しく、見るからに酒飲みゴコロをくすぐってくれます。

ところで、近年人気が高まっており酒屋さんでもよく見かけるのが「無濾過」というタイプの日本酒です。無濾過というと、濾過機すら用いていないのではないかと思われがちなのですが、実は素濾過したものも無濾過と表示されている商品が多くあります。

現在の時点では、無濾過に関する厳密な規定が存在しないので、表示に関しては解釈が分かれており、酒蔵の裁量に任されているのです。最近では、「無濾過」に加えて、「素濾過」という表示をしている日本酒も増えています。ちなみに、素濾過もおこなわないことは、「完全無濾過」と呼ばれます。

 

火入れ

火入れ

~火入れとは?~

日本酒は、通常2回の加熱処理をおこないます。この作業を「火入れ」と呼びます。

火入れの目的は、主に2つあります。

1つは、「酵素」の働きを止めることです。この段階ではまだ糖化酵素やタンパク質分解酵素などを含んでいるため、日本酒の品質が変化してしまう恐れがあります。それを防ぐために、加熱して酵素を失活させる必要があるというわけです。

もう1つは、「火落ち菌」の増殖を防ぐことです。火落ち菌とは、このタイミングで増殖するリスクが高い乳酸菌の一種です。この火落ち菌が混入してしまうと、日本酒は白く濁り、俗に火落ち臭と呼ばれる悪臭が生じてしまい、とても飲むに堪えないひどい代物になってしまいます。

多くの日本酒はアルコール度数が15%程度であり、このような高いアルコール濃度中ではたいていの細菌は生きていくことができません。しかし、火落ち菌はアルコール耐性がとても強く、日本酒の中でも容易に増殖できるという特殊性が備わっているのです。まさに、日本酒の天敵と言える恐ろしい菌ですね。

~火入れの方法はいろいろ~

火入れと言うと、「火」という文字からグラグラと沸騰させるイメージを抱く方もいるかもしれませんが、実際は低温でおこないます。温度はだいたい60~65℃くらいです。

貯蔵する前と瓶詰めする前に2回おこなうのが一般的です。多くの酒蔵では、熱いお湯を張ったタンクに蛇管と呼ばれるパイプを入れ、その中に日本酒を流し込むという方法で火入れをおこなっています。

また、近年では、プレートヒーターという機械を用いて火入れをする酒蔵も増えてきています。プレートヒーターの利点は、加熱と冷却をごく短時間でおこなえることです。

その時間たるや、わずか数秒間というから驚きですね。時間を大幅に短縮することで、日本酒の持つ味や香りを損なわずに済むことを可能にする、新しい機械の登場です。ますます美味しい日本酒が増えてきそうですね。

さらに、「瓶火入れ」という手法を取り入れているところも増加しています。日本酒を瓶詰めして「軽く」栓をしたのち(栓をきつく締めてしまうと、温まったお酒が膨張して栓がポーンと飛んでしまうのだそうです)、瓶ごとお水の中に入れて加熱するという火入れ方法です。

水からお湯を沸かすのは、瓶の中まできちんと温める必要があるからです。温度が60~70℃くらいにまで上がったら、お湯を抜いて素早く冷却します。いきなり冷たい水をかけると瓶が割れてしまう危険があるため、まずはぬるま湯、そして冷水、最後に氷水という要領で徐々に冷ましていきます。

この「瓶火入れ」を用いると、一般的な火入れでは加熱によって損なわれてしまう香味成分や味わいを瓶の中にギュッと閉じ込めることが可能となります。

それゆえに、一般的な火入れをおこなったものに比べて、よりフレッシュ感のある味わいになるのです。手間と時間をたっぷり丁寧にかけた、とても贅沢な火入れ方法なので、深い敬意と感謝の気持ちを持って飲みたいですね。

また、最近では瓶火入れを自動化した「パストライザー」という機械も登場しています。瓶に詰めたお酒をベルトコンベヤーで移動させながら熱いシャワーを瓶に吹きかけ、次に冷たいシャワーをかけて冷却するというものです。

この後は、冷蔵庫で瓶のまま貯蔵します。手作業でおこなう瓶火入れに比べて、格段に労力を減らして、香りと味わいを閉じ込めた美味しいお酒を大量に造ることができる、酒蔵にとっても私たち酒飲みにとっても実にありがたい設備ですね。

~火入れをしないものもある?~

ちなみに、火入れはすべての日本酒でおこなわれているわけではありません。

火入れをまったくおこなわないものもあれば、通常2回火入れをおこなうところを1回だけにする、というやり方も存在するのです。

① 生酒(なまざけ)

火入れを一切おこなわないものを「生酒」と言います。「本生」(ほんなま)、または「生生」(なまなま)と呼ばれることもあります。

生酒の最大の魅力は、なんと言ってもそのあふれるフレッシュ感です。みずみずしく、弾けるようなピチピチした味わいがたまりません。

栓を開けると、日に日に酒質が変わっていくので、その変化を比べながら味わうのも楽しみのひとつです。

② 生貯蔵酒

火入れをおこなわずに貯蔵し、瓶詰めの直前に1回だけ火入れをおこなったものを、「生貯蔵酒」と言います。

火入れをしない生の状態が貯蔵されている間ずっと続くため、ほどよいフレッシュ感とともに、幾分の熟成感も味わえるタイプです。

③ 生詰め酒

貯蔵する前に1回火入れをし、瓶詰めの際には火入れをおこなわないものを「生詰め酒」と言います。生酒や生貯蔵酒に比べてフレッシュさは落ち着いており、ほどよい熟成感があります。

生酒、生貯蔵酒、生詰め酒は、火入れをおこなっていない、あるいは火入れ回数が少ないため、その分、品質はものすごくデリケートです。買って帰ってきたら、必ず即、冷蔵庫に入れて5℃以下で保存しましょう。

ちなみに、家庭用の冷蔵庫だと一升瓶を入れるのは難しいので、私は一升瓶が収まるタイプのワインセラーを日本酒専用冷蔵庫として使っています。

 

貯蔵

貯蔵

火入れを終えたお酒は、しばらくの間、貯蔵用タンクに移されて貯蔵されます。貯蔵の目的は、お酒を熟成させ、旨みや深みを増し、酒質を落ち着かせることです。

貯蔵には、通常はホーロー製のタンクが使われますが、中には瓶や、杉などの木製の樽などで貯蔵する場合もあります。

瓶で貯蔵することのメリットは、タンク貯蔵に比べ、空気との接触が減るために酸化のリスクが低くなることです。また、木樽で貯蔵すると、杉の木の香りがお酒に移り、独特の爽やかさを楽しむことができます。木樽は、奈良の吉野杉を用いたものが特に有名です。

目的とする酒質により、貯蔵する期間は変わります。期間が短いとフレッシュで若々しい味わいになり、逆に期間が長ければ熟成が進み、丸みを帯びた落ち着いた味わいになります
それぞれの種類ごとに、味わいがのってきた最高のタイミングで貯蔵期間を終えます。

また、貯蔵の際は、温度が高いと熟成が進みすぎてしまうためので、酒質に合わせて適切に温度管理をおこなう必要があります。

一般的には15℃くらいで管理されますが、大吟醸酒などは5℃~10℃くらいで貯蔵することも多いようです。また、火入れをしていない生酒の場合は、もっと低い温度で貯蔵しないといけません。酒蔵の中には、生酒はマイナス5℃で氷点貯蔵するところもあります。

 

出荷まで

出荷まで

貯蔵が終わると、出荷に向けて次のような工程をおこないます。

① 調合

原料や仕込み方、醸造方法が同じものでも、貯蔵を終え出来上がった日本酒の香味は微妙に異なります。そこで、品質を均一化するために複数のタンクの日本酒をブレンドします。この作業を「調合」と言います。

初めから調合することを前提として、香味の異なる日本酒を醸造し、調合してから瓶詰めするというケースもあります。

いずれのケースにしろ、この調合は各酒蔵の香味に対するコンセプトや特徴を決定づける非常に重要なプロセスであり、厳密なテイスティングや成分分析をしながら調合のバランスを見極め、慎重におこなわれます。

② 加水

目的とする酒質に合わせてアルコール度数や香味を調整するために、原酒に水を加える作業をおこないます。「割水」(わりみず)とも呼ばれる工程です。多くの場合は、この際の水には仕込み水が使われます。

日本酒の原酒のアルコール度数は18~21%程度にもなっています。たいていの日本酒は、原酒に加水してアルコール度数を15%前後になるまで希釈してから製品化されます。

しかし、中には加水を一切おこなわずに、原酒のままで製品として売られるものもあります。原酒は、日本酒に本来備わっている香りと旨味たっぷりのコクがあり、濃醇でしっかりとした味わいのものが多いのが特徴です。

昔は酒蔵以外ではなかなか飲めませんでしたが、ここ近年は、無濾過原酒や蔵出し原酒などの製品が数多く誕生し、人気を博しています。原酒はアルコール度数が高いため、氷で割って、オンザロックで飲むスタイルもポピュラーです。

低アルコールがトレンドの最近では、アルコール度数を10~15%程度と低めに仕上げた原酒も増えてきました

中でも注目なのが、「越の白鳥」で知られる新潟第一酒造(新潟県上越市)が醸す「YANMA 13%(サーティーン) 山間(やんま) 特別純米 無濾過原酒」です。

製品名からもわかる通り、アルコール度数は13%。低アルコールのため口当たりは軽く感じますが、しっかりとした旨みとコクのある味わいに仕上がっています。

③ 瓶詰め

多くの日本酒は、2度目の火入れをおこなってから瓶詰めをし、打栓します。その後、瓶の胴部分の表と裏、それと上の方に「肩ラベル」を貼ります。

肩ラベルとは、たすきのように斜めに貼ってあるラベルです。中には、裏と肩は貼らないものもあります。

また、ラベルを貼った後に、ものによっては白い半透明の紙をかぶせることもあります。

これで、やっと出荷ができます。めでたく酒屋さんへのデビューを果たせるわけですね。それにしても、美味しい日本酒を造り出すというのは、本当に大変なお仕事ですね。