日本酒の選び方その4

日本酒の選び方

西日本エリアのお酒は、「パワフルで濃醇」

伊丹酒蔵

西日本エリアで造られる日本酒は、パワフルで濃醇なものが多いのが特徴です。お米の旨みたっぷりで、単調ではない複雑な風味にはダイナミックさも感じられます。ワインで言えば、ボディがしっかりしているという表現が当てはまるでしょう。

西日本エリアは、東日本エリアに比べて、温かい気候の地域が多く含まれています。気温が高い環境では、酵母の活動が活発になるためアルコール発酵が早く進む上、搾った後の熟成も早くなります。そのため、「パワフルで濃醇」な酒質に仕上がるものが多く見られるのです。

それでは、西日本エリアの日本酒の特性を県別にご紹介していきます。

~東海地方~

名古屋城

・岐阜県

7県にぐるりと取り囲まれている岐阜県は、北部の山間部・飛騨地方と、南部の木曽川流域・美濃地方の2つの地域に大きく分けられます。

飛騨地方の日本酒は濃醇タイプのものが多く、美濃地方は淡麗なものが多いのが岐阜県の傾向。風土や気候などの違いによって、異なるタイプの日本酒が生まれてくるというわけですね。

岐阜県を代表する酒造好適米といえば、「ひだほまれ」。大吟醸などの高級酒造りに最適とされており、「ひだほまれ」を使って醸したお酒は甘・辛・酸・渋・苦の五味がバランス良く仕上がることから、県内の多くの酒蔵で盛んに用いられています

また、岐阜県オリジナルの「G酵母」華やかな吟醸香と高い発酵力が特徴で人気の高い酵母です。2002年には、低アルコール清酒製造を目的とした多酸性タイプのものも開発されました。

・愛知県

愛知県の酒造りの歴史は極めて長く、古事記や日本書紀などの文献にも記録が残っています。江戸時代に入ると、酒好きな名古屋藩主による奨励もあり、酒造業は急速に発展。

アルコール度数の高さから「鬼ころし」の愛称で親しまれ、江戸では灘の酒に負けないくらいの人気を博し、一世を風靡しました愛知県で醸される日本酒は、旨口タイプのものが多いのが特徴。八丁味噌を使った濃い味付けの郷土食によく合います。

近年では、愛知県オリジナルの酒造好適米「夢山水」(ゆめさんすい)の開発に成功。

山間地でも無理なく栽培できる品種で、良質な酒米生産を通じて県の山間部の活性化に貢献したいとの想いから、このように名付けられたそうです。「夢山水」を使うと、香りの良いキレイなお酒に仕上がるため、女性からも高い支持を得ています。

・静岡県

太平洋に面した温暖な気候の静岡県ですが、実は名だたる「吟醸王国」。爽やかで繊細な味わいが全国的に高い人気を獲得しています

その原動力となったのが、「静岡酵母」の存在。静岡県が独自に開発した、温暖な気候での酒造りに適した酵母です。

この「静岡酵母」の開発により、静岡県の日本酒は全国新酒鑑評会において入賞が続出。静岡県の評価は一気に上がり、それまで全国的には無名であった静岡県のお酒が大躍進する立役者となりました。

自治体が開発した酵母の成功のパイオニアであり、これをきっかけに、ほかの多くの自治体でもオリジナル酵母の開発に熱を入れるようになりました。

「静岡酵母」は、香りが華やかで、キレイでしかも丸く感じる酒質を目指して開発されました。この酵母で仕込んだ日本酒は、酸が少なくエレガントな味わいが秀逸。シンプルなお魚料理をはじめ食中酒として最適です。

地理的には西日本エリアでありながら、東日本エリアに近いテイストと言えるでしょう。

・三重県

南北に細長く伸び、十字型にも見える独特の地形の三重県。地域により味わいはさまざまですが、共通するのは甘くふくよかな酒質です。

三重県と言えば、美食の宝庫。世界に冠たる松阪牛や、伊勢エビ、的矢湾の無菌牡蠣、桑名の蛤などの海の幸に加え、松茸や、猪、鹿、雉など山の幸もとても豊富です。

三重県の酒蔵では、これらの多種多彩な食材を使ったお料理に合う日本酒造りに励んできたため、高品質な美酒が数多く世に送り出されています。2016年の伊勢志摩サミットで提供されたことから、その魅力と実力がさらに広く知られることとなりました。

三重県は、「三重酵母」などさまざまなオリジナル酵母の開発でも知られており、近年では、低アルコール酵母も生み出しています。

~関西地方~

関西地方

・滋賀県

面積のおよそ6分の1を琵琶湖が占める滋賀県。水質も優良で、古くより“近江米”として知られる関西地方の代表的な米どころです。

酒造好適米の栽培も非常に盛んで、「玉栄」(たまさかえ)「吟吹雪」(ぎんふぶき)などといった県独自のものも。また、「日本晴」(にっぽんばれ)という品種も滋賀県産が高いシェアを誇っています。滋賀県のお酒の特徴としては、芳醇で旨口タイプのものが主流を占める傾向にあると言えるでしょう。

交通の要所でもあった滋賀県は、昔から街道沿いに多くの宿場が軒を連ね、その周辺には、たくさんの酒蔵ができました

滋賀県と言えば近江商人。京都をはじめ越後や関東にまでその活動範囲を拡大し、近江の高い醸造技術を他の土地に伝えるという重要な役割を果たしたことでも有名です。

現在でも、全国各地に近江商人ゆかりの酒蔵がいくつも残っています。

・大阪府

江戸時代、「天下の台所」と称されたほどの美食の地、大阪。大阪の酒造りは、この優れた食文化とともに栄えてきました。

天下一の酒どころとして知られ、摂津・河内・和泉と呼ばれた三州から江戸に向けて運び込まれた銘酒は、「下り酒」として一世を風靡。江戸の人々を大いに熱狂させました。

大阪の日本酒の味わいは、スッキリとした飲み口で、飲み飽きしないのが特徴。奥行きの深さが感じられる持ち味のものが多く見られ、多彩な料理をさらに美味しくしてくれます。

・京都府

国内トップクラスの日本酒の生産地である京都市・伏見区を擁する京都府。「月桂冠」や「松竹梅」などの日本酒好きでなくても知っている有名銘柄を造る大手メーカーも蔵を構えるエリアです。

伏見は、万葉の昔からその豊かな水で知られ、「伏水」とも記されるほど質の高い伏流水に恵まれていました。ミネラル分をほどよく含んだ伏見の水を使って仕込んだ日本酒は、口当たりのよいまろやかな風味に仕上がるのが特徴。「伏見の女酒」と称される、はんなりと柔らかでなめらかな味わいは、さすがのクォリティです。

伝統的な古都のイメージが強い京都ですが、最先端技術も貪欲に取り入れています。2018年には、伏見酒造組合は大阪ガスと組み、大阪ガス独自の画像認識技術を活用して、日本酒の大吟醸酒造りに用いられる高度精白米の新たな評価手法を開発しました。

客観的な評価手法を活用することは、大吟醸酒の高品質化が期待できるとともに、次世代への酒造り技能伝承にもつながっていくことでしょう。

今後もさらに評価手法を共同開発していくことを表明しており、その取り組みに熱い視線が注がれています。

・兵庫県

兵庫県は、国内最大の日本酒の生産地。中でも、灘地区は、西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの地域からなる「灘五郷」を擁し、日本を代表する酒どころとしてあまりにも有名です。

灘の日本酒のキモとなるのが、「宮水」(みやみず)の存在。六甲山系の伏流水で、関西では珍しい中硬水の水質は酒造りに最適です。

江戸時代後期から灘五郷の酒造りに欠かせない名水として知られています。宮水で醸す灘の酒は、「伏見の女酒」に対し、「灘の男酒」と呼ばれる、しっかりした濃醇辛口な味わいが大きな魅力です。

灘の日本酒の魅力をより広くかつ効果的に発信したいと、灘五郷酒造組合は、2017年より阪神電鉄などと組み、「灘の酒蔵」活性化プロジェクトを始動。

阪神電車で、ラッピングトレイン「Go!Go!灘五郷!」を運行したり、さらにはつり革の上部にミニチュアの酒樽を付けたりするなど、幅広いファン層の獲得を目指してさまざまなプロモーション活動をおこなっています。

・奈良県

清酒発祥の地、奈良県。酒の神・大物主大神様(おおものぬしのおおかみさま)を祀った日本最古の神社である「大神神社」(おおみわじんじゃ)があることからもそう呼ばれています。

この聖地・大神神社では毎年11月14日に全国中から蔵元・杜氏が集まり「醸造祈願祭」を開催。大神神社は杉玉発祥の地でもあり、醸造祈願祭の後には全国の酒蔵へと杉玉が届けられていきます。

奈良県の日本酒は、濃醇甘口で、たっぷりした旨みを感じさせる風味のものが多い傾向にあります

近年では、かつて隆盛を極めた奈良の酒造りを復活させたいと、奈良県ならではの取り組みが盛んにおこなわれるようになりました。その代表的な例が、日本酒の原型とも言える酒母「菩提酛」(ぼだいもと)での酒造りです。

「菩提酛」は奈良市の菩提山正暦寺で開発された製法で、長年にわたり途絶えていたものの、『御酒之日記』などの古い文献をもとに試行錯誤を経て、数百年ぶりの復活を見事に成し遂げました。

・和歌山県

和歌山県というと、梅やみかんが有名で、日本酒のイメージは薄いかもしれません。けれど、熊野三山や高野山など、世界遺産にも登録された美しく豊かな自然に恵まれたこの地では、美酒も数多く造られています。

和歌山県は、かつては灘や伏見に桶売りをしていた酒蔵が数多く存在していました。そのため、味の特徴をつかまえるのは難しいとされていましたが、全体として、旨みとコクのある濃厚な特徴のものが主流を占めています

近年では、平和酒造(海南市)の若手後継者が醸す「紀土」が女性や若者など日本酒初心者にも広く受け入れられて、全国的な人気を獲得。和歌山県の日本酒の地位向上に大きく貢献しています。

~中国地方~

中国地方

・岡山県

備中・備前・美作(みまさか)の3地域から成る岡山県。古来より稲作が発達し上質な米で知られているこの地は、酒造りでも長く深い歴史を有しています。

万葉集にも「吉備の酒」という言葉が出てくるほどで、美作という地名は「うまさか」つまり「うまいさけ」に由来するという説まであります。岡山県で造られる日本酒は、甘くやわらかで飲み口の良いものが多いのが特徴と言えるでしょう。

岡山県は、人気の酒造好適米「雄町」発祥の地としても有名です。収穫量が少ないため、幻の酒米とも呼ばれている「雄町」。

この「雄町」の歴史は古く、栽培され始めたのは明治時代にまでさかのぼります。この時代から存在する酒造好適米は「雄町」のみ。しかも、現在も残る唯一の混血のない米なのです。

そして、その品質の優良性から、現在全国で使用されているほとんどの酒米のルーツにもなっています。

・広島県

広島県が誇る酒どころ・西条(東広島市)は、灘や伏見に次ぐ西日本エリア有数の酒都(しゅと)です。

広島県の日本酒を語る上で欠かせないのが、19世紀末に安芸津町出身の三浦仙三郎が編み出した「軟水醸造法」。広島県に湧き出る水のほとんどは軟水や超軟水ばかりで、かつては酒造りには向かないとされていました。

しかし、低温で長期に渡りゆっくり発酵させるという、当時としては画期的なこの「軟水醸造法」の開発により、広島県の日本酒のクォリティは飛躍的に向上。

まろやかな口当たりとふくよかな味わいが楽しめる広島酒が誕生することになったのです。この広島酒は、現在の吟醸酒の基礎を築いたとされており、「吟醸酒のふるさと」とも呼ばれています。

西条では、毎年10月第2土・日曜の2日間にわたって「酒まつり」を開催。20万人を超える人出でにぎわう大イベントとして、日本酒ファンを魅了し続けています。

・山口県

本州の最西端に位置する山口県は、日本海、瀬戸内海、そして関門海峡と三方を海に囲まれ、海の幸に恵まれた土地です。山口県で醸されるお酒は、飲みごたえがあるけれど飲み疲れしない、食中に向くキレイな酒質のものが多い傾向にあります。

「地産地消」を掲げる山口県は、県産米の栽培にも意欲的です。幻の米「穀良都」(こくりょうみやこ)を復活させ、さらにはそれを改良した山口県オリジナルの酒米「西都の雫」(さいとのしずく)を誕生させています

また、桜の花から分離した酵母「やまぐち・桜酵母」の開発にも成功。もっとも日本を象徴する花・桜を、日本の国酒である日本酒と組み合わせたい、という強い想いから、100本もの満開の桜から分離を試みたそうです。

・島根県

日本最古の歴史書『古事記』の出雲神話や『出雲国風土記』にもたびたびお酒の話が出てくるなど、古来よりお酒とのゆかりが深い島根県。

スサノオノミコトが大蛇ヤマタノオロチを退治するために飲ませた「八塩折(やしおり)の酒」に象徴されるように、濃醇な味わいが島根県の日本酒の持ち味です。

ボディがしっかりしていて濃い旨みを備えた、飲みごたえたっぷりのお酒は、日本酒愛好家の心をギュッととらえて離しません。また、お燗にすると美味しさが際立つタイプのものも数多く見られます。

島根県には、酒の神様であるクスノカミを祀っている「佐香(さか)神社(松尾神社)」という聖地もあります。クスノカミは日本中から集まる神々にお酒を振る舞ったという言い伝えも残っているのだとか。

ちなみに、この佐香神社と、それに出雲大社は、実は酒造免許を持っているのです。さすが神社とお酒は切っても切れない深いつながりがあるのだと実感させられますね。

・鳥取県

中国地方最大の山・大山(だいせん)をはじめとする中国山地がそびえる鳥取県。これらの山々の雪解け水が、数百年もの時間をかけて地中で濾過され伏流水となっており、数多くの名水に恵まれた地です。

その鳥取県のお酒の味わいはというと、まろやかな旨みをたっぷりと含みながら、スパッと切れる飲み口の辛口タイプのものが多く見られます

鳥取県と言えば、忘れてはならないのは、大正時代に鳥取県を原産として生まれた幻の酒造好適米「強力」(ごうりき)の復活です。

穂先までの長さが150センチにまで成長するその丈の高さから栽培が難しく、長い間忘れ去られた存在だったこの「強力」を、鳥取県の酒米として見事に完全復活を成し遂げました。「強力」を使って醸した日本酒は、独特の酸味があり、お燗にしても大変美味しくいただけるのも魅力のひとつです。