天気のいい日の酒蔵

日本酒の酒蔵ってどのくらいあるの?

酒蔵の外に干されている大きな酒樽

現在、日本酒の酒蔵の数はだいたい1,500くらいだと言われています。製造免許を持っているだけで稼働していないところも多くあるため、実際に日本酒造りをおこなっている酒蔵はだいたい1,200ほどです

この数を聞いて、多いと感じる方も少ないと感じる方もいるかと思いますが、実は、酒蔵の数は年々減少を続けています。第二次大戦後の酒蔵の数は1960(昭和35)年頃の約4,000をピークに減り続けているのです。ちなみに、1881(明治14)年には、なんと27,000もの製造業者がいたそうです。小さな規模のところも多かったでしょうが、現在の18倍とは驚きの数ですね。

酒蔵が大幅に減っているということは、造られる量ももちろん減りますよね。日本酒の生産量は、1973(昭和48)年に約176万キロリットルとピークを迎えた後は、減少傾向にあります。ちなみに2015(平成27)年はというと、約55万キロリットルピーク時の3分の1以下ですね。背景として考えられるのは、少子化にともなう人口減や、加速する高齢化、若者のアルコール離れ、企業の交際費の減少などによる消費の低迷など、さまざまなものがあるでしょう。

しかし、日本酒の消費量が減っていると言っても、激減しているのはいわゆる「普通酒」に属するものです。純米大吟醸酒などの「特定名称酒」に分類される高級な日本酒の消費量は、着実に伸びているのです

また、酒蔵が減ってはいるものの、世代交代した若い蔵元が次々に画期的な商品を誕生させ、全国各地で開催される日本酒イベントも活況を呈しています。加えて、外国での日本酒人気も高まっており、訪日の際に酒蔵を見学する、いわゆる酒蔵ツーリズムも年々盛り上がっています。酒造技術の飛躍的な向上とともに、今が日本酒史上でもっとも美味しい時代と言えるでしょう。

 

酒蔵数の県別ランキングTOP5

天気のいい日の酒蔵

日本酒をたくさん造っている県といえば、皆さんはどこのエリアを想像しますか?ここでは、酒蔵の多い県のトップ5をご紹介します。データは、国税庁の「清酒製造業の概況
」(平成28年度調査分)に基づいています。

第1位 新潟県【88蔵】

これには「やっぱり!」と納得の方も多いのではないでしょうか。淡麗辛口な日本酒のイメージを持つ人が多い新潟県。2004年より、毎年3月に新潟市で開催されている最大級の日本酒イベント「にいがた酒の陣」は、新潟県内のほとんどの酒蔵が出品するとあって、毎回来場者数の最高記録を更新。2018年には2日間で14万人以上もの日本酒ファンが全国各地から参戦しました。

しかし、なかなか新潟までは行けないという飲兵衛のために、「にいがた酒の陣in 日本橋」がここ数年、日本橋三越本店にて開催されています。1枚で約30mlの試飲ができる試飲チケット(お猪口付き)で、新潟の銘酒を仕事帰りに気軽に味わえるとあって毎回盛況です。日本酒にぴったりのおつまみを提供するコーナーや、新潟名物の「へぎそば」などが味わえるイートインコーナーもあり、また蔵元のトークショーなども日替わりで催されるので、私も楽しみにしているイベントのひとつです。

第2位 長野県【76蔵】

日本アルプスを有し、美しく豊かな自然に恵まれた長野県。お酒造りに欠かせない豊富な水脈から湧き出す美味しい水で醸される日本酒の数々は、高い人気を集めています。

第3位 兵庫県【68蔵】

生産量は日本一、大手の酒蔵をいくつも抱える日本有数の酒どころ兵庫県が、3位にランクイン。酒米の王者・山田錦の産地としても有名です。ミネラル分が豊富で日本酒造りに適した「宮水」で醸される灘地方のお酒は、キリッと辛口。「灘の男酒」として知られています。

第4位 福島県【61蔵】

全国新酒鑑評会の金賞受賞蔵数が2013年より6年連続日本一という快挙を続けている福島県。エリアごとの個性がキラリと光るのが福島県のお酒の特徴です。浜通り・中通り・会津の各地域で造られる日本酒は、同じ県内とは思えないほど、地域によって多彩な味わいが楽しめる銘醸地です。

第5位 福岡県【57蔵】

九州地方の福岡県が5位とは、ビックリした方も多いかもしれませんね。九州というと焼酎のイメージが強いですが、実は福岡は九州のなかでも日本酒造りがとても盛んな県なのです。博多の民謡で「酒は飲め飲め飲むならば~♪」という文句で始まる「黒田節」という歌がありますが、この中で飲まれているのも焼酎ではなくて日本酒です。

以上、トップ5をご紹介しました。自分の住んでいる都道府県にはどれぐらいの数の酒蔵があるのか、興味のある方は調べてみると楽しいと思いますよ。

 

酒蔵別の売上高TOP20

グラスに日本酒をつぐ(周りには桜が飾られている)

酒蔵別の売上高ランキングについてもご紹介します。第1位から第20位までまとめてみました。データは、帝国データバンクがおこなった「清酒メーカーの経営実態調査」の「2016年度清酒メーカー売上高上位20社」に基づいています。

第1位  白鶴酒造(兵庫県) 代表銘柄「白鶴」

第2位  月桂冠(京都府)  代表銘柄「月桂冠」

第3位  宝ホールディングス(京都府) 代表銘柄「松竹梅」

第4位  大関(兵庫県) 代表銘柄「大関」

第5位  日本盛(兵庫県) 代表銘柄「日本盛」

第6位  小山本家酒造(埼玉県) 代表銘柄「金紋世界鷹」

第7位  菊正宗酒造(兵庫県) 代表銘柄「菊正宗」

第8位  旭酒造(山口県) 代表銘柄「獺祭」

第9位  黄桜(京都府) 代表銘柄「黄桜」

第10位  オエノンホールディングス(東京都) 代表銘柄「大雪乃蔵」「福徳長」

第11位  朝日酒造(新潟県) 代表銘柄「久保田」

第12位  八海醸造(新潟県) 代表銘柄「八海山」

第13位  辰馬本家酒造(兵庫県) 代表銘柄「白鹿」

第14位  菊水酒造(新潟県) 代表銘柄「菊水」

第15位  加藤吉平商店(福井県) 代表銘柄「梵」

第16位  剣菱酒造(兵庫県) 代表銘柄「剣菱」

第17位  小西酒造(兵庫県) 代表銘柄「白雪」

第18位  沢の鶴(兵庫県) 代表銘柄「沢の鶴」

第19位  中埜酒造(愛知県) 代表銘柄「國盛」

第20位  清洲櫻釀造(愛知県) 代表銘柄「清州桜」

やはり生産量1位の兵庫県の酒蔵がたくさんランクインしていますね。酒蔵数が日本一の新潟県からも「八海山」「久保田」「菊水」といった全国的に有名な銘柄を醸す酒蔵が入っています。また、「獺祭」でおなじみの旭酒造が、2007年の調査ではトップ20圏外だったのが今回は第8位と大躍進しているのが印象的です。

 

東京の都心や沖縄にも酒蔵はある?

東京の都心や沖縄にも酒蔵はある?と話す女性の頭の部分のクローズアップ

さて、酒蔵というと、地方や郊外をイメージする方が多いかもしれません。しかし、意外なことに、東京23区内にも日本酒造りをおこなっている酒蔵があるのをご存知でしょうか。しかも、東京の中でも大都会の港区芝、慶應義塾大学の近くという、なんともお洒落でハイソなロケーションです。

その酒蔵の名は「東京港(とうきょうみなと)醸造」。東京港醸造は、もともと「若松屋」という屋号で、今から約200年前の1812(文化9年)から100年間続いた酒蔵でした。当時の若松屋には、奥座敷があり、東京湾に直接通じる水路があったそうです。そのため、密談をするには絶好の立地ということで、江戸城無血開城の立役者である勝海舟や西郷隆盛といった歴史上の偉人が多く訪れていたという言い伝えが残っています。

しかし、後継者問題と酒税法の改正などにより、1911(明治42)年に廃業。それから100年後の2011(平成23)年に酒造業の復活を目指して製造免許を取得し、100年の時を経て21世紀に蘇りました。

東京港醸造の代表銘柄は、「江戸開城」。残る言い伝えにぴったりなネーミングですね。また、東京に存在する個々の街をイメージして味や香りに変化を効かせた「東京シリーズ」として「芝の酒」「麻布の酒」「六本木の酒」「銀座の酒」の4種類を世に送り出しています。どれもなかなかそそられるネーミングですね。東京港醸造では、テイスティングカーでの角打ちを、平日の夕方18時から21時まで営業しているので、フラッと立ち寄って軽く一杯やれるのが魅力です。ちなみに雨天時は中止なのでご注意ください。

東京港醸造の建物は、都心だけに、通常の酒蔵にあるような大きな蔵も煙突もない4階建てのコンパクトなビルで、4階から1階に向かって工程が流れるような設計になっています。ちなみに、東京港醸造が仕込みに使っている水は、「東京都の水道水」!私も最初に知ったときはとっても驚きましたが、聞けば、東京都の水道水は高度な浄水処理がほどこされているうえに、銘醸地の京都・伏見や広島・西条の水と硬度が近い中軟水なので、簡単な濾過はするものの、酒造りに使う分にはまったく問題ないのだそうです。

ところで、ここで質問です。「現在、日本酒を造っていない県はあるでしょうか?」

答えは、「No」です。

そう聞くと、「沖縄県にも酒蔵があるの?」と驚く方もいるかもしれませんね。お酒といえば泡盛とオリオンビールが圧倒的に有名な沖縄県ですが、実は1軒だけ日本酒を造っている酒蔵があるのです。その名は、うるま市の「泰石(たいこく)酒造」。「黎明」(れいめい)」という銘柄の日本酒を造る、日本最南端の酒蔵です。

ちなみに日本最北端の酒蔵はというと、北海道増毛町(ましけちょう)の「国稀(くにまれ)酒造」です。代表銘柄は「国稀」。JR北海道・留萌本線の廃線にともない、最寄りの増毛駅が2016(平成28)年に廃駅になってしまったこともあって、交通の便は決して良いとは言えません。けれど、試飲コーナーや石蔵の資料室など施設が充実しており、酒蔵見学者を積極的に受け入れているので、行ってみるととても楽しいですよ。私もローカルバスを乗り継いでお邪魔したことがあります。

また、旧増毛駅は、駅舎が開業時と同じ広さに復元されてリニューアルオープンしたので、鉄道好きにとっても魅力的なところです。

 

最古の酒蔵は、創業800年以上!

平等院の写真

日本酒を醸す酒蔵は古い歴史を持つところがたくさんあり、200年以上も続く老舗企業が特に多い業種です。そんな中、現存する酒蔵でいちばん昔から日本酒を造り続けているのが、代表銘柄「郷乃譽」を醸す、「須藤本家」(茨城県笠間市)です。

いったいどのくらい古いかというと、なんと創業が平安時代!1141(永治元)年というのだから、桁外れの歴史ですね。それゆえ、現在の当主である須藤源右衛門氏は、なんと第55代目なのです。須藤家はもともと武家だったところ、年貢不足を補うためにお酒造りを始めたのだとか。須藤本家の日本酒は、全て濾過に炭素を使わない純米大吟醸酒というのが大きな特徴です。また、使うお米は収穫後5ヶ月以内の新米にこだわり、ほとんどの商品が生酒というきわめて珍しい酒蔵なのです。

そして、2番目に古いのは、「飛良泉本舗」(秋田県にかほ市)。創業は、室町時代の1487(長享元)年。1487年といえば、応仁の乱(1467年~1477年)が終わった10年後、京都に銀閣寺が建立された頃とほぼ同年代です。以来、26代にわたり素晴らしい日本酒を世に送り出し続けています。堅実な東北人気質らしく、信条は「派手な桜の花よりも、地味ながらもふくらみのある梅の花のような酒をつくりたい」。頑固なまでに昔ながらの山廃仕込みにこだわり続け、小さな蔵ならではのきめ細やかな手造りを守り抜いている酒蔵です。

ちなみに次期当主の斎藤雅昭専務は、東京の大学で経営を学んだ後、テレビのCSチャンネルの広告営業の仕事に就いていたという異色の経歴の持ち主。「お酒はエンターテインメントで、テレビと通じるところがある」という考えを持つ専務が、これからいったいどんな楽しいお酒を生み出してくれるのか、ワクワク感が止まりません。

続いて3番目はというと、生産量日本一の兵庫県の老舗、神戸市灘区の「剣菱酒造」1505(永正2)年からお酒を造り続けています。灘のお酒は、江戸で大人気を博していたことでも知られています。赤穂浪士が、亡くなった主君・浅野長矩の仇である高家吉良義央の屋敷に討ち入りをした際にも、47人が杯を酌み交わしたのは、この剣菱だったそうです。剣菱のラベルには、不動明王の右手に握られている降魔(ごうま)の剣の刀身と鍔(つば)の形を模した特徴のあるロゴを大胆にデザイン。たいていの方はどこかで一度は見たことがあるのではないでしょうか。

4位は、1532(天文元)年創業「山路(やまじ)酒造」 (滋賀県長浜市)。長浜市は、北陸と京の都の中心を結ぶ北国街道(ほっこくかいどう)上にある街です。昔から主要な道路として人々の往来も盛んで、また文化や産物が活発に行き交うこの地で、山路酒造はお酒造りをスタート。減農薬農法や有機質肥料にこだわり、480年以上にわたって生真面目なお酒造りを続けています。主要銘柄は、この道にちなんで名づけられた「北国街道」スッキリとした辛口ながら、お米の持つ旨味やコクも味わえる銘酒です。また、詩人・島崎藤村が愛した「桑酒」(くわざけ)というリキュールも人気です。近江のもち米と麹と桑の葉を独自の方法で焼酎に漬け込み、伝統味醂の製法で作られており、ほのかな甘い香りが楽しめます。

そして5位は、日本一の酒蔵数を誇る新潟県で、主力ブランド「吉乃川」を醸す長岡市の「吉乃川酒造」。戦後の米不足の中、多くの酒蔵がたくさんのお米を使う必要がある吟醸造りをやめてしまった時代でも、「酒造りの基本は吟醸」と技術の研鑽を真摯に続けてきた誠実さが光る酒蔵です。創業は1548(天文17)年。天下統一にあと一歩まで迫った戦国武将・織田信長が、美濃の国主である斎藤道三(さいとうどうさん)の娘・濃姫(のうひめ)と結婚した年です。いずれも、戦国時代好きにはおなじみの名前ですよね。

また、イエズス会を創設したフランシスコ・ザビエルが日本に最初にキリスト教を伝えたのが、創業の翌年の1549(天文18)年です。ちなみに、日本酒を初めて飲んだ外国人は、ザビエルだという言い伝えが残っています。いったいどのお酒を飲んだのでしょうかね。

いかがだったでしょうか?日本史の出来事と照らし合わせると、その酒蔵が紡ぎ続けてきた歴史の長さがよくわかりますね。

 

日本一新しい酒蔵はどこ?

枡に日本酒をついでいる様子(横には黄色い花が飾られている)

ところで、日本でもっとも新しい酒蔵はというと、それは「上川大雪(かみかわたいせつ)酒造」。2017(平成29)年9月、北海道上川郡上川町に誕生したばかりという新しさなのです。上川町は、女子スキージャンプの高梨沙羅選手の出身地としても知られています。スキー競技が盛んだということは、つまり寒くそして雪が多いということ。年間平均気温はなんと約5.5℃、万年雪を冠する大雪山系の冷たい湧き水が豊富な立地のため、酒造りにふさわしい場所と言えます。

上川大雪酒造は、日本酒の酒造免許の新規での発行はかなり難しいと言われている中、業界の常識をくつがえす方法で誕生した酒蔵です。三重県の休眠していた酒蔵「株式会社ナカムラ」から製造免許を移転するという極めて珍しいやり方を用いて設立されました。

上川大雪酒造が目指しているのは「飲まさる酒」だそうです。「飲まさる」とは、「ついつい飲んでしまう」という意味の北海道弁。どんな料理にも寄り添うことができる究極の食中酒を造り上げるという目標に向かって邁進しています。上川大雪酒造の日本酒は、まだ北海道以外での取り扱いはあまり多くはないので、もしラッキーにも見かけたときは、ぜひ迷うことなく飲んでみて下さいね。