歴史その6~平成時代

Sake

平成時代(1989年~現在)

Heisei era

~「級別制度」の廃止~

1943(昭和18)年に採用された、一級~四級の級別による課税制度は、その後も改定を繰り返し、実質的に特級・一級・二級の三段階へと落ち着いていきました

級別制度を導入した理由は、戦時体制下における戦費の調達を目的とした酒税の強化です。一般的に、級別表示がされていれば、二級より一級、一級より特級の方が上等な日本酒なのだろうと人は判断してしまいますよね。

そうなると、より良い日本酒を求めて、より等級の高い日本酒を選ぶようになります。その消費者心理を利用して、等級が高い日本酒にはより高い酒税を設定したのです。

具体的には、特級酒の酒税が一升(1.8リットル)当たり約1,000円の場合、一級酒だと約500円、二級酒だと約200円という酒税がかけられます。

つまり、特級と二級では、一升瓶サイズでなんと800円もの差が開くというわけです。お酒というよりも、もはや税金を飲むと言ったほうが近い状態かもしれませんね。

それぞれの等級のだいたいの基準はこうでした。「特級は品質が優良であるもの。一級は品質が佳良であるもの。二級は特級及び一級に該当しないもの。」というものです。等別を認定するのは、国税局の酒類審議会です。官能審査をおこなうことで判断されました。

酒蔵は、自社のタンクからサンプルとして日本酒を提供し、自分が希望する等級の審査を受けるという仕組みです。実は、日本酒は、出来上がった段階ではすべて二級酒として扱われました。酒蔵が「この日本酒は、特級酒として売りたいです。」と申請し、審査に通過して初めて特級酒として認められるというわけです。

このような級別制度に不満を抱き、異を唱える酒蔵も多かったようです。中には、特級酒クラスの上等な日本酒を、あえて審査を受けずに値段の安い二級酒として売るところも現れるようになりました。

その結果、時には、大手が造る特級酒や一級酒よりも、地方の小さな酒蔵の二級酒のほうが美味しいという逆転現象まで起き始めたのです

こういった現象に加え、日本を再発見しようという機運の高まりとともに、地方の小さな酒蔵が造る、いわゆる「地酒」が注目されるようになり、地酒ブームがわき起こりました。

このブームを牽引した代表格が、石本酒造株式会社(新潟県新潟市)の「越乃寒梅」です。淡麗辛口ブームの火付け役ともなった「越乃寒梅」は、生産量が少なく、一時期「幻の酒」とまで呼ばれ、通常の何倍もの高価格で流通したこともあったほどです。

こうして、次第に形骸化していった級別制度は、段階的に廃止されていきました。1989(平成元)年に特級が、そして1992(平成4)年に一級及び二級が廃止。50年以上にわたって続いた制度は、その長い歴史に幕を下ろしました。

~新たな「特定名称酒」制度の誕生~

級別制度に変わって、アルコール度数によって課税額を定める新たな制度が導入されました

具体的には、アルコール度数が15~16度の日本酒の場合、1キロリットル当たり140,500円となり、15度を1度超えるごとに1キロリットル当たり9,370円がプラスされ、逆に15度を1度下回るごとに、9,370円がマイナスされるという仕組みとなったのです。

また、日本酒の分類方法も、「特定名称酒」という制度が浸透していきました。これは、酒類業組合法により、1989(平成元)年に定められたものです。

醸造アルコールを加えるか否かといった原料や、精米する歩合、製造方法などの違いにより、純米大吟醸酒・純米吟醸酒・大吟醸酒・吟醸酒・特別純米酒・純米酒・特別本醸造酒・本醸造酒の8種類に分類されます。

特定名称酒は、そのほとんどがラベルに該当する名称を表示しているので、目にする機会は多いでしょう。

純米酒や本醸造酒といった新しい名称は、長い間主流となって日本酒の評価を貶めていた三倍増醸酒とは違って、「米だけで造った、混じりっけのないピュアな日本酒」「本当の本物の醸造酒」というポジティブなイメージが受け、人気を博すようになりました

ちなみに、これらの特定名称酒の基準に該当しないものは、すべて「普通酒」と呼ばれます。もっとも、普通酒というのはいわば通称で、ラベルに普通酒と記載されることは基本的にありません。

~バブル時代に起きた、吟醸酒ブーム~

1980年代~1990年代前半に、日本は空前の好景気に沸いていました。いわゆる「バブル期」ですね。この時期に起きたのが、「吟醸酒」ブームです。

従来の日本酒のイメージとはかけ離れた、華やかな香りとフルーティーな味わいに仕上げた吟醸酒は、女性やワイン愛好者といった、それまで日本酒にあまり興味を持っていなかった層から受け入れられました。

吟醸酒を造ること自体は、それまでも技術的には十分可能でしたが、コストも手間もかかるため、商品化すると価格設定をかなり高くしなければならず、したがってあまり一般的ではありませんでした。

しかし、バブル期は贅沢なものを求める人が多かった時代です。新しい美味しさを持った日本酒というだけでなく、品質の高い高級なお酒としても注目を浴びたのです。

中には、グラス1杯で数千円もするような日本酒まで登場しました。

そして、吟醸酒用の酵母も数多く開発されるようになりました。近年注目を浴びている「花酵母」も吟醸酒用にと東京農業大学で研究・開発されたものです。

花酵母とは、花の蜜に集まってくる酵母を分離することでできた酵母のことです。ナデシコ、ベゴニア、ツルバラ、アベリア、シャクナゲ、日々草、カーネーション、ヒマワリ、コスモス、ツツジ、イチゴ、月下美人、カトレア、マリーゴールドと、現在14種類もの花酵母が開発されています。

これからもますます増えていくのではないでしょうか。大いに期待したいところです。

~若手蔵元主導による、「新しい日本酒」の時代が到来~

The advent of a new sake era

バブルが崩壊すると、日本酒業界にも変化が訪れます。吟醸酒ブームで起こった、行き過ぎた高級志向の反動からか、造り手自身が本当に造りたい日本酒を追求する流れが起きました

原点回帰とも言うべき、伝統的な製法を試みる酒蔵が増えてきたのです。そして、無濾過生原酒や、純米酒、熟成酒、生酛造り、にごり酒といった、昔から受け継がれてきた製法で造られる日本酒が世に送りだされ、人々の注目を集めるようになりました。

また、若手を中心とした蔵元杜氏が増えてきたことも、大きな変化のひとつです。蔵元杜氏とは、経営者と製造責任者を兼任する人のことを言います。そのパイオニア的存在とも言えるのが、「十四代」でおなじみの高木酒造株式会社(山形県村山市)の高木顕統さんでしょう。

日本酒の蔵では、それまでは経営は蔵元、日本酒造りは杜氏といったように完全な分業制度が敷かれていました。お互いの持ち場には口を出さないというのが暗黙のルールだったのです。

杜氏はお酒造りの時期だけ酒蔵で仕事をこなし、春になると故郷へ帰るといった季節雇用が基本でした。

若手の蔵元杜氏が誕生した理由は、それら杜氏が高齢化したことも一因ですが、中にはバブル崩壊後の実家の酒蔵の立て直しに取り組むためというケースもありました

バブル時代に過剰な設備投資をした酒蔵も少なくなく、バブル崩壊後、家業を継いで、その負の遺産を背負うところからスタートを切った若き後継ぎの苦労は、さぞ大変なものだったでしょう。

酒蔵の後継者は、東京農業大学醸造科学科で学び、その後修行を経て実家の酒蔵で働くというケースが一般的です。

しかし、若手の蔵元杜氏には、まったく畑違いの仕事を経ているなど、さまざまなバックグラウンドを持つ人も目立ちます。その中でも特に有名なのが、東京大学文学部出身でジャーナリストのお仕事をしていたという異色のキャリアを持つ、「新政」でおなじみの新政酒造株式会社(秋田県秋田市)の佐藤祐輔さんでしょう。

「日本酒業界の革命児」として、頻繁にメディアにも取り上げられているので、お名前やお顔を知っている方も多いのではないでしょうか。保守的と言われる日本酒業界にあって、こういった若手の蔵元杜氏は、柔軟な発想で次々と自分が美味しいと思う日本酒造りに取り組みました。

酒蔵の世代交代に加え、さらなる技術革新もあいまって、それまではタブー視されていた酸に注目し甘酸っぱい味わいに仕上げた日本酒や、日本酒に飲みなれていない人にも飲みやすい低アルコールの日本酒や、シャンパンを思わせるシュワシュワ感が楽しいスパークリング日本酒といった、個性豊かなさまざまな日本酒が世に送り出され、新たなファンを獲得しています

~日本酒イベントが大人気に~

近年、日本酒がテーマのイベントも、全国的に活況を呈しています。開催される数も増え、大勢の日本酒愛好者でにぎわっています。

数あるイベントの中でも有数の大きな規模なのが、「にいがた酒の陣」でしょう。毎年3月上旬の土日におこなわれる、新潟の一大イベントです。

回を重ねるごとに人気が高まり、2018年の来場者数は2日間で14万人超という、驚くほどの盛り上がりぶりです。酒蔵数日本一を誇る新潟県のほとんどの酒蔵が出展しているとあって、開催を待ちわびる日本酒ファンが全国各地から新潟市に結集しています。

毎年11月に東京・五反田で開催される、ハワイ発の逆輸入型日本酒イベント「JOY OF SAKE」(ジョイ・オブ・サケ)も高い人気を集めています

「全米日本酒歓評会」に出品された日本酒を一般に公開する会で、ホノルル、ニューヨーク、東京の三会場で順番に開かれています。イベント当日は、400種類近くもの日本酒に加え、有名レストランによる日本酒に合うおつまみを堪能できるとあって、日本酒ファンはもちろんグルメの舌をもうならせるイベントです。

また、サッカーの元日本代表選手・中田英寿さんがプロデュースする「CRAFT SAKE WEEK」(クラフト・サケ・ウィーク)といったイベントも年々注目度が高まっています。

毎年4月に11日間にわたって、日本全国から選りすぐりの酒蔵の日本酒を、各日10蔵ずつ日替わりで楽しめるとあって、毎日のように通うリピーターも多いようです。六本木ヒルズという会場の場所柄か、外国人の来場者が目立つのもこのイベントの特徴のひとつです。

ほかにも、全国各地で大小さまざまな規模で多種多彩なイベントが開かれています。イベントに参加すると、酒蔵の方たちと直接会ってお話が聞けることも多く、また新たな日本酒と出会える場としても魅力的なため、行き出すとハマる人が多いようです。

私の周りにも、週末のたびに各地のイベントに足を運ぶようなコアな日本酒ファンがたくさんいます。

~「SAKE」は世界へ、伸びる海外市場~

新しいタイプの日本酒の登場や、イベントの活況ぶりとは対照的に、日本酒の消費量自体は減少しています

その原因としては、少子化にともなう人口減や、加速する高齢化、若者のアルコール離れ、企業の交際費の減少など、さまざまなものが挙げられます。

酒蔵自体も減少し、昭和30年代には4,000近くあったのが、現在では1,500以下にまで減っています。実際に稼働している酒蔵に限ると、その数はさらに少ないでしょう。

しかし、日本酒の消費量が減っていると言っても、激減しているのはいわゆる「普通酒」に属するものです。純米大吟醸酒などの「特定名称酒」に分類される高級な日本酒の消費量は、着実に伸びています。

地元産の日本酒による乾杯を薦める「乾杯条例」を制定する自治体の動きも、京都市を皮切りにどんどん広がりを見せており、日本酒文化の魅力を知ってもらう後押しになるのではないかと期待されています。

また、実は日本酒は、海外での評価が近年ものすごく上がっているのをご存知でしょうか。輸出金額は2006年から2017年の間でおよそ3倍にも伸びているのです。

輸出が最も多い国は、意外かもしれませんがアメリカで、そのあとに香港や韓国、中国、台湾、シンガポールなどのアジア諸国が続いています。

日本酒がグローバルに注目されるようになったきっかけの1つは、「和食;日本人の伝統的な食文化」が2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことでしょう。和食とともに味わう日本酒の魅力が広まり、認知されていったのです。

2017年に日本を訪れた外国人の人数は前年比19.3%増の2,869万人と、毎年のように最高記録を更新しています。政府は2020年に4,000万人の訪日を目標として掲げていますが、現実味を帯びつつありますね。

これら訪日外国人観光客の間でも、日本酒の人気が高まっています。2017年に、アメリカ・イギリスから来日した観光客に対してリサーチ会社がおこなったアンケートによれば、回答者のうち8割が日本酒を飲み、6割が酒蔵を訪ねたそうです。酒蔵見学を目的に日本を再訪したいと答えた人も8割にのぼりました。

また、訪日中に印象に残った日本食としては、お寿司、ラーメンに次いで、日本酒が3位だったそうです。居酒屋などに行くと、外国人観光客に出会うことも珍しくなくなってきました。

そういう時は、英会話力にあまり自信がなくても、恥ずかしがらずに思い切って話しかけて、日本酒について教えてあげてはいかがでしょうか。一緒に日本酒でKAMPAI(乾杯)できたら、それだけで十分に楽しい国際交流となりそうですね。

余談ですが、海外でも、日本酒を造る酒蔵はいくつもあるんですよ。数も徐々に増えていて、現在はフランス、ノルウェー、スペイン、アメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、ベトナムなどに酒造場があります。これらの国を訪れる機会があれば、ぜひお店で見かけたときはトライしてみてください。

ここまで、日本酒の歴史について、その始まりから現在に至るまでご紹介してきました。

日本酒は、私たちの祖先が日本人の主食であるお米を使って、長い歳月をかけて英知を振り絞り、試行錯誤を繰り返して現在の形にまで昇華させたお酒です。まさに、「國酒」と呼ぶにふさわしい飲みものでしょう。

それが、今や広く外国の人たちにも楽しんでもらえていると思うと、日本人として、とても嬉しく感じます。そして、びっくりするほどバラエティ豊かな日本酒が楽しめる現代は、日本酒史上最高に恵まれた時代と言っても過言ではありません。

ぜひ、いろいろなタイプの日本酒に挑戦し、好みの味や香りのものを探してみてください。昨今は、ラベルのデザインが凝ったものもたくさんあるので、いわゆる「ジャケ買い」から始めるのも良いでしょう。宝探しのようなワクワク気分で、日本酒を思いっきり楽しんでください!