米麹と日本酒

酒造好適米と食用米の違い

米粒

日本酒の主な原料は、お米です。お米と言っても普段私たちが食べている食用米とは違う、酒専用の「酒造好適米」を使います。

1951年より一般のお米と区別されて、「酒造好適米」と言われるようになりました。このような酒造りに適した「酒造好適米」の種類はとても多く、現在ではその数は全国でなんと100種類以上にものぼります。

酒造好適米と、食用米にはいろいろな違いがあります。主なポイントは次の4つです。

その1:粒が大きい

酒造好適米は、食用米と比べると、米の粒が大きいのが特徴です。酒造好適米は、食用米よりも、表面を大きく削る必要があるため、粒の小さな米だとすぐに砕けてしまうからです。

千粒重(お米を千粒単位で計った重さ)でいうと、酒造好適米は25~30gであるのに対して、食用米は24g以下の重さです。

その2:心白(しんぱく)が大きい

米と徳利とおちょこ

酒造好適米の最大の特徴は、食用米に比べて大きな心白があることです。心白とは、米の中心部にある、光に透かすと白く濁って見える部分のことを指します。

適度な大きさの心白があることで、麹菌の菌糸が中心部まで入り込みやすくなり、酒造りに欠かせない米のでんぷんの糖化が促進されるというメリットがあります。

また、心白は柔らかいので、吸水性に優れ、発酵中にも溶けやすいため、日本酒造りにとってきわめて大きな要素と言えます。

その3:タンパク質や脂質の含有量が少ない

酒造好適米は、食用米に比べてタンパク質や脂質の含有量が少ないのも特徴のひとつです。

お米に含まれるタンパク質や脂質は、ご飯として食べるときには旨味となりますが、日本酒になると苦みや雑味、異臭として現れてしまうのです。

その4:稲穂の背丈が高く、高価である

田んぼの稲穂

食用米に比べて、酒造好適米の稲穂は背丈が高いのが特徴です。

食用米のコシヒカリやササニシキの稲穂の高さは、だいたい1m20cm~30cm程度ですが、最も生産量が多い酒造好適米である山田錦は、1m50cmを超える高さのものあります。その高さゆえに、倒伏しやすいというリスクがあり、特に台風のシーズンなどは注意が必要とされています。

栽培が難しく手間もかかる割には収穫量が少ないため、酒造好適米の価格は当然かなり高くなります。兵庫県産の山田錦などの場合は、食用米の2倍以上にもなります。

以上が、酒造好適米と食用米の基本的な違いです。

 

精米

精米と話す女性

酒造好適米は、そのままでは酒造りには使えません。精米という、お米を削り取るプロセスを経てから使います。

精米の主な目的は、お米の表層部に多く含まれるタンパク質や脂質、それにビタミンやミネラルを取り除くことです。タンパク質は、旨味の要素となるアミノ酸に変わるとても大切な成分ですが、たくさんありすぎると、雑味の要因となってしまいます。

また、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルは、発酵を促す微生物である麹菌や酵母の栄養素となりますが、多すぎては過剰な活動を促進してしまい、思ったとおりの酒質になりにくくなるというデメリットもあります。

精米方法は酒蔵によって異なります。多くは、専門の精米業者に委託するケースが多いようです。しかし近年では、精米機器を購入して自分の酒蔵で精米をするところも増加しています。

精米機器は大変高価ですが、自家精米すると、米が割れたりしないようデータを見ながら管理ができるという利点があります。食用米の精米では、だいたい8%くらいしか削りませんが、酒造好適米は30%以上削り取ることがほとんどです。そのため、酒造好適米の精米には、かなりの時間を要します。

一般的には、30%程度削り取るのには約8時間、60%程度削り取るのには約48時間、90%程度削り取るのには約60時間かかると言われています。

ちなみに、酒造好適米の精米に使われるのは、竪型精米機(たてがたせいまいき)です。食用米の精米では主に横型精米機を用います。竪型精米機は昭和初期に開発されました。

竪型精米機の発明以前は、杵でつくような技術しかなかったため、削れるのはせいぜい10~30%どまりでしたが、竪型精米機ができたことで、30%以上削り取ることができるようになったのです。これにより、日本酒のクォリティは飛躍的に向上しました。

最近の精米技術の急速な進歩は目を見張るほどです。そのため高精米を競う動きにも拍車がかかり、2017年には、なんと99%も削り取った米を使った日本酒も登場して、日本酒業界では大いに話題になりました。これとは反対に、10%程度しか削らないお米を使った日本酒も現れています。

 

酒造好適米の種類

広い田んぼがある風景

酒造好適米の種類は増加の一途をたどり、先ほども書いたように、現在は100種以上にものぼります。

以前は、酒造好適米として登録されるためには、心白が粒の平面の2分の1以上の大きさがあることが必要とされていましたが、1989年以降、規制緩和が進められたこともあって、現在ではほとんどの都道府県で酒造好適米が開発されています。

地産地消の推進が広がったことや、交配技術や栽培技術が向上したことも、酒造好適米の開発を後押ししていると言われています。

 

酒造好適米の代表的な品種とその特徴

枡に入った米と徳利・おちょこと稲穂

日本酒の主な原料である酒造好適米は、お酒の出来映えに大きな影響を与えます。ここでは酒造好適米の代表的な品種とその特徴を、生産量の多い順に10種類ご紹介します。

1位 山田錦(やまだにしき)

100種類にもわたる酒造好適米の中でも、全国一の生産量を誇る品種です。粒が大きく心白も程良い大きさなので、安定した酒造りができることから、高い人気を誇っています。

山田錦を使って造られたお酒は、豊潤な香りとふくらみのある綺麗な味わいのお酒に仕上がります

大吟醸酒(50%以上のお米を削って造ったお酒)や鑑評会に出品する日本酒にも多く使われており、全国新酒鑑評会での金賞受賞酒の80%ほどが山田錦を使って醸されたお酒です。

新しい品種が次々と開発されているなか、今でも質量ともに「酒造好適米の王様」として不動の地位にあり続けています。

主な生産地は兵庫県で、全生産量の約70%を占めていますが、岡山県、山口県など全国的に栽培されています。

2位 五百万石(ごひゃくまんごく)

山田錦と並んで酒造好適米のツートップとして知られています。五百万石はやや硬めのため、五百万石で醸された日本酒は、淡麗でスッキリした辛口の味わいに仕上がることが多いです。

1957年に、新潟県産米の生産量が五百万石(約75万t)を突破したことを記念して名づけられました。2001年に山田錦に抜かれるまで、40年近く生産量1位でした。この五百万石と山田錦で、生産量全体の60%以上を占めています。

主な生産地は新潟県ですが、富山県、福井県、石川県など北陸地方でも多く栽培されています。

3位 美山錦(みやまにしき)

1978年に長野県農事試験場にて誕生した突然変異種で、比較的新しい酒造好適米です。耐冷性が高く、寒冷地での栽培に適しています。

美山錦を使ったお酒は、五百万石に近い、軽快でスッキリとしたスマートな味わいが特徴のものに仕上がります。吟醸酒(40%以上のお米を削ったお酒)系のお酒によく使われています。美山錦という名前は、北アルプスの雪のような心白があることから名づけられました

主な生産地は長野県ですが、秋田県、山形県など東北地方でも多く栽培されています。

4位 雄町(おまち)

最古参の酒造好適米で、山田錦と五百万石のルーツとされる品種です。起源は江戸時代末期に遡るほど古くからある品種ですが、栽培の難しさから次第に生産量が減少し、1970年代には絶滅の危機に瀕していました。

しかし、近年岡山県の酒造メーカーが中心となり栽培を復活させたことで、雄町を使った日本酒が再び生産されるようになりました。雄町を使うと、独特の甘みや膨らみを感じさせてくれる、芳醇でコクのある味わいに仕上がるのが特徴です。

「オマチスト」と呼ばれる熱狂的なファンがたくさんいるのも特徴で、雄町で醸した日本酒だけが出品されるマニアックなイベント「雄町サミット」も毎年夏に開催され、多くの「オマチスト」が全国各地からつめかけています。酒造好適米をテーマにしたイベントはかなり珍しいものです。

主な生産地は岡山県で、生産量の約95%を岡山県産が占めています。

5位 秋田酒こまち(あきたさけこまち)

2004年に品種登録された新しい酒造好適米です。山田錦にも劣らない品質を目指して秋田県で開発されました。吟醸造りに適していて、秋田酒こまちを使った日本酒は、香りが高く、上品な甘みと旨味を感じ、軽快な後味のものに仕上がる傾向があります

主な生産地は秋田県です。

6位 出羽燦々(でわさんさん)

吟醸王国と呼ばれる山形県を代表する酒造好適米です。米が比較的柔らかく溶けやすいので、米の味が出やすく、やや濃醇な香味に仕上がる傾向があります。出羽燦々という名前は、山形県にある1400mまでの山の数が33あることにちなんで名づけられたそうです。

山形県酒造組合では、この「出羽燦々」を100%使用していて、精米歩合55%以下の純米吟醸酒であり、山形酵母と山形オリジナル麹菌「オリーゼ山形」を使用しているという条件を満たした日本酒に、「DEWA33」の称号を与えるというプロジェクトも展開されています。

主な生産地は山形県です。

7位 ひとごこち

長野県で開発された上質な酒造好適米です。ひとごこちを使った日本酒は、端麗ながら味に幅のある酒質に仕上がる傾向があります。美山錦に替わる長野県産の酒造好適米を目指して開発されており、美山錦に比べて耐冷性が高く多収な品種です。

主な生産地は長野県ですが、栃木県や山梨県などでも栽培されています。

8位 八反錦1号(はったんにしきいちごう)

広島県を代表する酒造好適米です。キレが良くスッキリとした上品な香味に仕上がる傾向があり、吟醸酒にも向くとされている品種です。姉妹品種に「八反錦2号」などもあります。

主な生産地は広島県です。

9位 華吹雪(はなふぶき)

まろやかでふくらみのある味わいが特徴の山田錦と、直線的な味わいが特徴の五百万石とのちょうど中間的な香りや味わいを持つ、青森県の酒造好適米です。青森県の酒米農家や酒造メーカーからの評価が非常に高く、主に純米酒(米・米麹・水だけで造られた、アルコール添加無しのお酒)の原材料として用いられています。

主な生産地は青森県です。福島県や秋田県でも栽培されています。

10位 吟風(ぎんぷう)

酒造好適米の北海道代表格。北海道産米を原材料とした酒造りが広がるきっかけとなった品種です。吟風で醸した日本酒は芳醇なものに仕上がる傾向があります

ヨーロッパで初めて日本酒造りを始めたノルウェーの醸造所「ヌグネ・エウ」でも、主力の酒造好適米として使われています。「ヌグネ・エウ」では、北欧の風土や精神を表現することをコンセプトに掲げており、ノルウェーと緯度が近い北海道産ということも、吟風を選んだ理由のひとつだそうです。

主な生産地は北海道です。

 

「特A地区」について

夕方の田んぼの風景

「酒造好適米の王様」と称される山田錦は、1936年に兵庫県立農事試験場で誕生しました。産地も拡大し、今では全国的に栽培されるようになりましたが、総生産量の70%近くは兵庫県であり、その中でも最上とされるのが「特A地区」の山田錦です。

「特A地区」とは、兵庫県の三木市や加東市などにある産地です。この地域は、昼夜の寒暖差が大きく、酒造好適米の栽培に必要な栄養分が豊富であることから、古くから山田錦の良質な生産地として知られていますが、とりわけこの「特A地区」で栽培された山田錦は最高峰として位置づけられています。

 

お米の量の単位

3つの枡

お米の量の単位は、「㎏」の他に「升」(しょう)や「合」(ごう)がよく使われます

1勺(しゃく) 約15g
1合(ごう) 約150g
1升(しょう) 約1.5 kg
1斗(と) 約15 kg
1俵(ひょう) 約60kg
1石(こく) 約150kg

これらの単位は、平安時代の頃から用いられていましたが、1951年に制定された計量法によって、公式の場からは姿を消しました。けれども、慣行としては現在でもよく使われています。

ちなみに、「1石=平均的な人1人が1年間に食べる白米の量」と見なされています。つまり「1万石の大名」とは「1万人を養える」ということになります。

よく、加賀百万石と言いますが、つまりは、加賀藩藩主は100万人もの民を養えるほどの大大名だったというわけですね。