2つのおちょこと徳利(背景はピンクで春のイメージ)

ペアリングって何?

かつおのたたきと徳利&おちょこ

近頃、耳にすることが多い「ペアリング」。具体的にはどういう意味なのか、あいまいな人も多いかもしれませんね。ずばり、ペアリングとは、「お酒と相性の良い料理の組み合わせ」のことです。

日本酒は、お米が主原料。旨味の素であるアミノ酸をたっぷりと含むお米は懐が深いすぐれものです。炊き立てのホカホカのゴハンはどんなオカズとも好相性ですよね。

日本酒も同様で、酸が強いワインなどと比べて合わせられる料理の幅はとっても広いのが大きな特徴です。とはいえ、近年は、日本酒がどんどん多様化。

バナナやリンゴを思わせるような香りの高い吟醸酒や、フレッシュな生酒、酸が高めのお酒、濃厚な無濾過生原酒、にごり酒、スパークリングタイプなど、味も香りもまさに百花繚乱の時代が到来しています。

また、お料理も、和食はもちろん、フレンチ、イタリアン、スパニッシュ、中華、エスニック、トルコや中東のお料理などなど、実にバラエティ豊かな味が楽しめるのが今の日本です。

そこで、ぜひ知って欲しいのが、日本酒のペアリングのルール。日本酒とお料理とのマッチング方法をしっかりとマスターして、もっともっと日本酒ライフを満喫しましょう。

家族や友人と日本酒を飲む場合に、美味しい組み合わせを提案してあげれば、きっと盃も話も弾んで、さらに笑顔も増えるのではないでしょうか。

ちなみに、お酒の世界では、ペアリングと似た言葉で、「マリアージュ」という言葉もよく聞きますよね。マリアージュとは、フランス語で「結婚」の意味。基本的には、ペアリングもマリアージュも「組み合わせ」という意味で使われているのは共通しています。

ただ、マリアージュには、お酒と料理をうまく組み合わせて、「新たな第三の味わいを生み出す」というニュアンスが含まれていることが多いのが特徴です。

 

日本酒より歴史が深い、ワインのペアリング

ワインのボトルとグラスに注がれた赤ワイン

ワインの世界では、日本酒よりずいぶん先にペアリングが確立されています。誕生したのは1980年代

その元祖と言えるのが、フランス・パリの三ツ星レストラン「ルカ・カルトン」のオーナーシェフをしていたアラン・サンドラス(1939~2017年)です。

サンドラスは、1960~70年代にフランス料理の新しい潮流「ヌーヴェル・キュイジーヌ」を生み出した鬼才です。それまでの「ワインはボトル単位で飲む」という常識を打ち破り、「この料理には、このワイン」というペアリングのサービスを発案しました。

料理一皿ごとに異なるワインを合わせるというスタイルは、その当時は誰も思いつかなかった斬新なアイディアです。人々からは、“革命的”とすら称されたほどだと言われています。

このワインペアリングは、近年日本でも人気が急上昇。2010年頃からワインペアリングのコースを設けるレストランが増えてきています。

 

ペアリングの効果

白いおちょこと徳利と赤身の刺身

ペアリングでは、次のような嬉しい効果が得られます。

・同調

香りや味が似ているもの同士を合わせることを「同調」と言います。

似た者同士なので、日本酒と料理がお互いの持ち味を損なわず、ケンカもせず、口の中で混然一体となったバランスが生み出されるという効果です。

ポイントは、とにかく日本酒と料理の間に共通した要素を見つけること。そして香りや味のボリュームをそろえることです。

・マスキング

「マスキング」とは、魚介類や海藻、お肉などに特有の生臭さを包み込んで緩和させる効果です。

日本酒は、昔から「臭い消し」として料理で重宝されています。その秘密は、日本酒に豊富に含まれるアミノ酸。これが、素材自体の臭いを旨みへと昇華させていくというわけなんですね。

・相乗効果

ペアリングをすることにより、単体のときに比べて味わいが増し、美味しさがワンランク上にアップします。これも日本酒にたくさん含まれているアミノ酸のパワーです。

・補完

基本味と呼ばれる味の要素である、甘味・酸味・苦味・旨味・塩味(五味)を補完するという効果です。

たとえば、日本酒と塩辛を組み合わせると、日本酒には含まれていない塩味を補うことができ、五味が完成されるのです。

・ウォッシュ

「ウォッシュ」とは、料理の脂っこさや辛さ、くどさなどを、口の中でスッキリ洗い流す効果のことです。「リセット」などとも呼ばれます。

 

ルールを知れば、ペアリングは難しくない!

具体的なペアリングのルールやテクニックを解説と話す女性

では、ペアリングの効果を理解したところで、具体的なペアリングのルールやテクニックについてご説明していきますね。

・「味の濃淡」でペアリング

「味の濃淡」を合わせるというのは、ペアリングの基本中の基本です。まずはこの法則をしっかり覚えておきましょう。

ルールはごく簡単。あっさりした淡泊な料理には軽やかな味わいの日本酒を合わせる、反対にこってりした濃厚な味の料理には、しっかりした味わいの日本酒を合わせる、これだけです。

日本酒と料理の味の濃度を合わせることで、心地良いバランスが生まれるというわけなんですね。

ちなみに私の日本酒の師匠は、このルールを「シーソーの法則」と呼んでいます。双方の重さのバランスを取るというポイントを鑑みると、イメージがとってもつかみやすいですよね。絶妙のネーミングだと思います。

この「シーソーの法則」にのっとれば、たとえば、淡泊で繊細な味わいを持った白身魚のお刺身なら、スッキリしたタイプの日本酒がピッタリです。お互いの個性が花開き、口の中で一体感が広がります。

逆に、すき焼きやウナギのかば焼きのような、味の濃い、こっくりとした味付けの料理なら、濃厚な料理の味に負けないような、お米のボリューム感のあるふくよかな日本酒がベストマッチ。箸も盃もぐいぐい進むこと必至です。

調子に乗ってついつい食べ過ぎ飲み過ぎてしまい、翌日体重計に乗って大後悔・・・なんて事態に陥らないよう、くれぐれも気をつけましょう。

・「テクスチャー」でペアリング

テクスチャーとは、日本語で言うところの「質感」のことです。「舌触り」「食感」「飲み口」などと呼ばれることもよくあります。

とろっとしたテクスチャーの日本酒には、同じようにとろりとした舌触りの料理を合わせると、一体感がぐんとアップします。

とろっとしたテクスチャーが楽しめる日本酒の代表格と言えば、何と言っても「にごり酒」でしょう。

一口ににごり酒と言っても、澱をたっぷり含んだ濃厚な「とろとろタイプ」のものと、澱が少なめで澄んだ部分の多い「さらさらタイプ」のものの2種類に分かれます。

とろとろタイプのにごり酒には、とろみ感のしっかりした料理(グラタンなど)や、ねっとりした舌触りのもの(クリームチーズなど)を、反対に、さらさらタイプのにごり酒には、とろみ感のゆるい料理(豆乳を使ったものや、八宝菜・かに玉など)を合わせると、質感がそろって絶妙なハーモニーを醸し出してくれます。

・「製法」でペアリング

発酵することで造られる日本酒は、同じく発酵という製法で生まれる食材と相性がバッチリです。しょうゆ、味噌、ナンプラー(魚醤)のような発酵調味料を使った料理と非常によく合います。

また、塩蔵した魚を米飯とともに漬けて熟成させ乳酸発酵させた「なれ鮨」とも好相性。もっとも有名ななれ鮨といえば、琵琶湖の「ふなずし」ですよね。

なれ鮨は独特の酸味とにおいが特徴で、好き嫌いがハッキリ分かれる料理ですが、しっかりした濃醇なタイプの日本酒と一緒にいただくと、驚くほどピッタリです。

そのほか、ぬか漬けやチーズなどといった他の発酵食品と合わせてももちろんGOOD!

・「海か山か」でペアリング

「海の幸には海の酒」。
「山の幸には山の酒」。

これらは、私が尊敬してやまない、食と酒をテーマとするフリージャーナリスト・山同敦子(さんどうあつこ)さんが提唱するペアリング方法です。

山同さんは、日本酒に関するご著書も多数。人気の食の雑誌「dancyu」(プレジデント社)や、文化誌「サライ」(小学館)などにたびたび寄稿されているので、お名前を目にしたことがあるという方も多いかもしれませんね。

郷土料理とその土地で醸された日本酒は、バツグンによく合う、鉄板の組み合わせです。気候や風土が同じなわけですから、当然と言えば当然ですよね。

けれど、山同さんが長年にわたって膨大な種類のペアリングをしてきた結果、たどり着いた結論は、「たとえ地域が異なっていても、風土や気候が似ていれば、料理と日本酒は互いの魅力を引き立て合うことが多い」ということでした。この発見によって、これら2つの法則を導き出したというわけです。

まずは、ひとつめの「海の幸には海の酒」について。海の近くにある酒蔵で造られた日本酒には、魚介を使ったシンプルな料理がピッタリ合います。

海沿いの町では、当たり前ながら、新鮮な魚介類がふんだんに手に入ります。とれたばかりの海の幸は、生のまま食べたり、さっとゆでたり、軽く炙ったりというシンプルな方法で料理するのが一般的。味付けも塩をかけるだけだったり、ちょっと醤油を垂らすだけということが多いのも特徴です。

水揚げされたばかりで新鮮そのものの魚介類は、できるだけ手を加えないほうが、その素材本来の持ち味が生きてきますからね。

このような、手をあまりかけていない魚介系の料理には、スッキリとした淡麗な味わいの日本酒が実によくマッチします。

そして実際、海の近くに位置する酒蔵では、まさに今述べたようなタイプの日本酒が多く造られているのです。味が控えめなため、単体でいただくとやや物足りなく感じることもあるけれど、シンプルな魚介料理の魅力をしっかり引き出す力を秘めているというわけなんですね。

そして、ふたつめの「山の幸には山の酒」。山の近くにある酒蔵で造られた日本酒には、しっかりと濃厚に味付けした料理や、肉料理がピッタリ合います。

山間部や内陸部では、なかなか新鮮な海の幸は手に入りません。そのため、保存食文化が発達しているのがこの地域の特徴です。漬物・塩漬け、発酵食品や、味噌や醤油で濃いめに味付けされた料理など、保存性を高める工夫が施された料理の数々が日常的に食卓に並びます。

山の酒は、このような濃厚な味わいの料理の個性を生かす、メリハリのしっかり利いた、酸も強めのタイプに仕上がっているものが多く見られます

海の酒とは対照的に、単体で飲むと、ちょっと強すぎる印象を受けることもあるかもしれません。でも、クセの強い猪や鹿などのジビエ料理などと一緒にいただくと、相性はバッチリ。ボリューム感たっぷりの旨味が、濃い風味の料理をしっかりと受け止めてくれます。

・「温度帯」でペアリング

日本酒は、どんな温度帯でも楽しむことができるのが大きな魅力の1つです。けれど、料理に合わせて温度を変えると、ペアリングの完成度は大きくアップします。

わかりやすく失敗の少ない組み合わせとしては、冷たい料理にはよく冷やしたお酒を合わせるというペアリング。また、あたたかい料理にはお燗したお酒を合わせるのも良いでしょう。

けれど、これらにこだわりすぎず、いろいろな温度帯を試してみると、意外かつ素敵な組み合わせが発見できるかもしれませんよ。

是非、色々な温度帯にチャレンジして、そのお料理を引き立ててくれるちょうどいい温度を探し当ててみてください。試行錯誤して、最高のペアリングに到達したときに生まれる心地良さと達成感はきっと格別でしょう。

 

日本酒界の若きカリスマ女性が提案する、革新的なペアリング

スプーンや皿に入れられた様々なスパイス

千葉麻里絵さんという女性をご存知でしょうか。東京・恵比寿にある日本酒バー「GEM by moto(ジェムバイモト)」の店主で、今、もっとも日本酒ファンから熱いラブコールを送られている日本酒界のカリスマなのです。

麻里絵さんがカリスマと呼ばれる理由のひとつは、他のお店とは一線を画す大胆かつ画期的なペアリング方法にあります

GEM by motoのコンセプトは、古い日本酒のイメージをぶち壊して、若い女性も喜べるような「料理とのペアリング」を楽しめること。従来の概念を覆すような革新的な組み合わせを提供し続けています。

このお店を代表する名物ペアリングは、驚くなかれ、「どぶろく×ブルーチーズハムカツ」。普通、ハムカツにはソースをかけますよね。けれどここでは、なんとソースの代わりにどぶろくを合わせるのです。

順番としては、まずはハムカツを一口パクリ。その後素早くどぶろくを口に含むと、まるでソースをかけたかのような味わいに変化するのです!どぶろくが持つ米粒由来のミルキーな甘みが、ソースの持つまろやかな甘みの役割を果たすというわけなんですね。これは凡人には到底思いつかない発想です。

麻里絵さんのこの独特のペアリングは、単なるひらめきではありません。きちんとした根拠に基づいているのです。

麻里絵さん曰く、日本酒に合う料理に必要なものは、日本酒に含まれないものなのだとか。日本酒にはない「香り」(パクチーといったハーブなど)、「酸味と甘味」(果物など)、「スパイス」(山椒やコショウなど)、それに「油」(オリーブオイルなど)を組み合わせて料理にプラスすることで、日本酒とペアリングしたときに「第三の風味」が登場するのだそうです。そういう意味では、先に述べた「マリアージュ」に近いかもしれませんね。

ちなみに、もうひとつビックリのペアリングをご紹介します。それは、「スパークリング日本酒×生コショウ」。そもそもコショウって料理じゃなくて香辛料ですよね、というツッコミが聞こえてきそうですね。

いただく順番としては、まずはコショウを1粒口に放り込み、ガリガリとかみ砕きます。その後すかさずスパークリング日本酒をグイッと飲むと、不思議なことにすぐさまコショウの辛みは消えてなくなり、日本酒の甘みだけが口に残るのです。

私もお店の常連さんに連れられて来店したとき、この2つのペアリングを出していただきました。予備知識ゼロで訪問したため、粒コショウが出てきたときには正直面食らいましたが、「何事も体験!」とチャレンジ。まるでプロの手品を見せられたような気持ちになりました。

ちなみに麻里絵さんは、2019年春に公開されたドキュメンタリー映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』にも出演しています。

この映画では、日本酒の世界で活躍する三人の女性先駆者たちにフォーカス。日本酒の世界の魅力を再発見できるのはもちろん、今を自分らしく生きる勇気を与えてくれるとあって、注目を集めている作品です。

 

自分好みのペアリングもどんどん探そう!

緑色のおちょこに日本酒が入っていて、それを手に掴んでいる様子

ここまで、ペアリングのさまざまなルールや法則について書いてきましたが、決してこれらがすべてというわけではありません。香りや味の感じ方はひとそれぞれです。

好みももちろん十人十色。また、そのときの体調や、シチュエーション、それに誰と飲むかなどによっても味の感じ方は変化するものです。

ですから、あまり難しく考えすぎる必要はありません。自分の感性や好みを頼りに、遊び心を持って楽しんでください

もし人から「え、こんなペアリングは合わないんじゃないの?」などと指摘されることがあっても気にしてはいけません。

決して他人と比較する必要はないですし、テストを受けているわけでもないのですからね。日本酒と料理を心から「楽しむ」ことが何より大事なエッセンスですよ。