おちょこと徳利と箸と酒のつま

「美味しい日本酒が飲みたい!」と張り切って酒屋さんに行ったものの、あまりの種類の多さに何を選べばよいかわからなくなってしまった・・・という経験をしたことがある人はたくさんいるのではないでしょうか。

そんな迷子状態に陥った時に役立ってくれる頼もしい助っ人が、瓶に貼ってある「ラベル」です。ワインなどほかのお酒と同様、日本酒のラベルは、まさに情報の宝庫。そして同時に酒蔵からのメッセージでもあります。

ラベルに書かれていることについてきちんと理解しておけば、酒屋さんでのお酒選びももう怖くありません。「今、自分が飲みたい!」と思える味のものをチョイスできるように、ここでしっかり学んでおきましょう。

 

ラベルを読み解けば、そのお酒の性格がわかる!

日本酒の瓶

日本酒には、瓶の表と裏にラベルが貼られています。多くの場合、ラベルの種類は3つ。それぞれについてご説明しますね。

~表ラベル~

まずは表ラベル。瓶の胴部分の表側に貼ってあるラベルのことです。たいていの場合、ここには、次のような必要最小限の情報が明記されています。

・特定名称酒

特定名称酒は、醸造アルコールを加えるか否かといった原材料や、精米する歩合、製造方法などの違いによって、純米大吟醸酒・純米吟醸酒・大吟醸酒・吟醸酒・特別純米酒・純米酒・特別本醸造酒・本醸造酒の合計8種類に分かれています。その日本酒がいずれの特定名称酒に分類されているかが、この記載でわかります。

・銘柄

お酒の銘柄の名前です。酒蔵の名前は知らなくても、銘柄は知っているというケースも多いのではないでしょうか。美味しいと評判な銘柄や、名前は聞いたことがあるという銘柄も重要な選択肢になりますよね。

・品目

「清酒」または「日本酒」と表記されます。

・酒蔵名

お酒を造った蔵の名前が明記されています。

~肩ラベル~

瓶の胴より上のなだらかな部分に、たすきのように斜めに貼ってあるラベルのことです。「肩貼り」などとも呼ばれます。

この肩ラベルには、コンテストなどの受賞歴やこだわりの製法、醸造年度など、消費者に特にアピールしたい、そのお酒のセールスポイントについて記載されています。

~裏ラベル~

瓶の胴部分の裏側に貼ってあるラベルのことです。表ラベルとは異なり、こちらでは成分に関する内容など細かいデータを記載しています。いわば、お酒の「履歴書」のような存在と言えるでしょう。

数値データはあくまでも目安ではあります。しかし、そのお酒の経歴やプロフィールを知ることで、ある程度の味の傾向をさぐることが可能になるので、とても重要な情報なのです。

酒屋さんによっては試飲をさせてくれるところもあるので実際の味を確かめることができますが、テイスティングができない場合には、この裏ラベルの情報が頼もしいナビゲーターの役割を果たしてくれますよ。

・原材料名

米、米麹など、使用されている原材料名を表記しています。「山田錦」「五百万石」「美山錦」など、お米の品種まで記載されている場合には、好きなお米で選ぶという選択肢も。

コアなファンが多い「雄町」は、特にお米でチョイスする人が多いようです。

・精米歩合

お米を磨いていって、最終的に残った(=実際に仕込みに使う)部分の割合をパーセンテージで表したものです

一般的に、お米をたくさん削ると軽快な味わいになる傾向があります。逆にあまり削らないと濃醇な味わいになりやすく、お米感をたっぷり味わえるタイプに仕上がります。

ですから、ここでもだいたいの味わいの想像がつくというわけですね。

・アルコール度数

お酒に含まれているアルコールの量を表します。日本酒のアルコール度数は、だいたい15~16%くらいが平均です。ちなみに加水する前の原酒だと、おおよそ18%です。

・酵母

使用されている酵母に関する表記です。酵母は、日本酒の香りや味わいに大きな影響を与えるファクターのひとつです。

「これは、きょうかい9号を使っているから華やかな香りが楽しめそうだな」とか「静岡酵母ということは、フルーティでキレイな味わいに仕上がっているだろう」といった具合に、酵母で選べるようになれば、もはや立派にマニアックの域に達していると言って良いでしょう。

・日本酒度

日本酒の比重を表した数値です。基準は0+(プラス)になるほど糖分が少なく、反対にマイナス(-)になるほど糖分が多くなります

つまり、+(プラス) になるほど辛口に、マイナス(-)になるほど甘口になる傾向があるというわけですね。

もっとも、日本酒度が同じでも次に述べる酸度の度合いいかんによって甘いか辛いかの印象は大きく変わってきます。ですから、判断する際のおおよその目安と考えると良いでしょう。

・酸度

日本酒に含まれる有機酸(リンゴ酸、クエン酸、乳酸、コハク酸など)の量を表します。酸度が高ければ辛く感じ、低ければ淡麗で甘く感じる傾向があります。

日本酒度とも大きな関わりがあるのが、この酸度。日本酒度が高くて酸度も高ければ濃厚辛口に、日本酒度が高くて酸度が低ければ淡麗辛口に感じやすいと言われています。

・アミノ酸度

日本酒に含まれるアミノ酸の量です。味わいの濃淡の目安となります。

一般に、アミノ酸が多いほど旨味とコクが深まり、逆に少ないとスッキリとした淡い味わいになる傾向があります。

・容量

容器の中に入っている日本酒の量です。

・製造年月

容器に詰められた年月のことです。

ちなみに、近頃は「BY」という表記がされているものも多く見られます。

BYとは、Brewery Yearの略で「酒造年度」の意味です。日本酒の世界というのはちょっと変わっていて、7月1日から翌年の6月30日までの1年間を酒造年度と定めているのです。

たとえば、「29BY」と書いてあれば、それは平成29年7月1日から平成30年6月30日の期間に造られたことを表します。この制度は昭和40年に制定され、日本酒のほか、本格焼酎、みりん、果実酒などでもこの酒造年度が使われています。

結婚や出産、家の新築や起業など、節目や記念となるような年のお酒を探すというのも楽しい選び方のひとつです。自分用に買うときだけではなく、誰かに贈るときにもそのBYを選んだ理由を添えてプレゼントすると、一層喜ばれると思いますよ。

ちなみに、上級者の中には、「同じ銘柄のBY違いを飲み比べるのが趣味」というツワモノも。BYひとつで、いろいろな楽しみ方ができますね。

・製造者の名称など

お酒を造った蔵の名前や住所などの表記です。

・推奨する温度帯

「冷やして」「常温で」など、そのお酒をどのくらいの温度で飲むのがオススメなのかが書かれていることもよくあります

・相性の良い料理

そのお酒と一緒に頂くと美味しい料理の例について書かれているものもあります。食べたいお料理が決まっているときなどは、とても参考になりますね。

ちなみに、近頃では、「あえて」成分データを表記しない日本酒も増えています。「データに左右されることなく、実際に飲んでみて味わいを自分の五感だけで感じ取って欲しい」というのがその理由のようです。

確かに頭でっかちになり過ぎては、自分の感覚や感性が先入観に引きずられてしまう可能性は否定できないですよね。知識と感性、どちらも大事にして味わっていきたいものです。

 

ラベルに載せる情報、載せてはダメな情報

日本酒の瓶ともっきり

日本酒のラベルへの記載事項は、酒類業組合法という法律で細かく決められています。規定は3つ。

絶対に表示しなければならない「必要記載事項」と、要件に該当すれば表示が認められる「任意記載事項」、そして表示が許されない「表示禁止事項」です

少々専門的で細かい内容ではありますが、ご興味があればご一読ください。

1)必要記載事項

① 原料名

使用した原材料を使用量の多い順に記載します(水は除外)。なお、特定名称を表示する清酒については、原材料名の表示箇所に近接する場所に精米歩合を併せて表示する必要があります

② 製造時期

瓶など製品容器に詰められた年月のことです。たとえば、2018(平成30年)12月に詰められたお酒なら、次のいずれかの方法で記載します。

製造年月平成30 年12 月 / 製造年月30.12 / 製造年月2018.12 / 製造年月18.12

また、容器の容量が300ml 以下の場合には、「年月」の文字を省略しても良いことになっています。ラベル自体が小さいですからね。

ちなみに、日本酒は、冷暗所などで正しく保管すれば数年間は品質を保つことができるため、賞味期限というものはありません

③ 保存又は飲用上の注意事項

生酒のように一切加熱処理をしないで出荷する日本酒の場合は、保存もしくは飲用上の注意事項を記載します。

ちなみに、一般に生酒は5℃以下での冷蔵保存が推奨されています。

④ 原産国名

輸入品の場合には記載が必要となります。

⑤ 外国産清酒を使用したものの表示

日本国内において、国内産の清酒と外国産の清酒の両方を使用して製造した清酒については、その外国産清酒の原産国名及び使用割合を記載します

なお、使用割合については、10%の幅を持たせて記載してもよいことになっています。

以上のほか、次の事項も必ず記載するよう清酒製造者に表示義務が課されています。

・製造者の氏名又は名称
・製造上の所在地(記号で表示しても可)
・容器の容量
・清酒(「日本酒」と表示しても可)
・アルコール度数(1%の幅を持たせて記載してもよい)
・発泡性を有するものはその旨
・「お酒は20歳になってから」「未成年者の飲酒は法律で禁止されています」などの文言

2)任意記載事項

次に掲げる事項は、それぞれの要件に該当する場合に表示することができます。

① 原料米の品種名

表示しようとする原料米の使用割合が50%を超えている場合に、使用割合と併せて、たとえば、「山田錦100%」などと表示できます。

② 清酒の産地名

すべてがその産地で醸造されたものである場合に表示できます。したがって、産地が異なるものをブレンドした清酒には産地名を表示することは認められません

③ 貯蔵年数

1年以上貯蔵した清酒に、1年未満の端数を切り捨てた年数を表示できます

ちなみに貯蔵年数の異なるものをブレンドしたときには、一番短い貯蔵年数を表示することが必要となります。

④ 原酒

製成後、水を加えてアルコール度数などを調整しない清酒に対して表示できます

なお、アルコール度数1%未満の範囲内で加水調整をすることは、差し支えないことになっています。

⑤ 生酒

製成後、一切加熱処理をしない場合に表示できます。

⑥ 生貯蔵

製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、出荷の際に加熱処理した場合に表示できます。

⑦ 生一本

単一の製造場だけで造られた純米酒については表示が認められています。

⑧ 樽酒

木製の樽で貯蔵し、木香のついた清酒に表示できます。

なお、販売する時点で木製の容器に入れられているかどうかについては問いません。

⑨ 「極上」、「優良」、「高級」等品質が優れている印象を与える用語

自社に同一の種別または銘柄の清酒が複数ある場合に、品質が優れているものに表示できます。他社製品との比較による表示は許されていません。

なお、表示が認められるのは、使用原料等から客観的に説明できる場合に限ります。

⑩ 受賞の記述

国や地方公共団体など公的機関から受賞した場合には、その旨の表示が可能です。

上記以外の事項については、事実に基づき別途説明表示する場合に限り表示しても差し支えないことになっています。なお、銘柄、特定名称酒の表示も任意記載事項です

ほかにも、成分値(日本酒度、酸度、アミノ酸度など)や、杜氏の流派、使用酵母、仕込み水の硬度、粕歩合(精製後に残った酒粕の割合。粕歩合が高いほど、取れたお酒が少なくなります。

つまり、それだけ贅沢な造りをしたお酒だということがわかります。もろみ日数(留添えから上槽までにかかった時間)なども記載して良いことになっています。

3)表示禁止事項

次に掲げる事項は、容器または包装に表示してはいけません。

① 清酒の製法、品質等が業界において「最高」、「第一」、「代表」等最上級を意味する用語
② 官公庁御用達又はこれに類似する用語
③ 特定名称酒以外の清酒について特定名称に類似する用語

ただし、特定名称に類似する用語の表示に近接する場所に、原則として8ポイント以上の活字の大きさで、特定名称の清酒に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合には、表示しても問題ありません