日本酒を味わいつくそう その3

日本酒を味わいつくそう

「冷酒」と「冷や」は同じではない!?

冷やと冷酒は別物?

日本が誇る国酒・日本酒だけが持つユニークな個性は、ありとあらゆる温度帯で楽しめること

同じお酒であっても、冷たい状態では、香りが閉じていたり、酸がトゲトゲして飲みにくかったものが、少し温めるだけで、芳醇な香りが花開いたり、酸がまろやかになったり、旨味が増したり、とまったく別の表情を見せてくれることに驚きを覚えることがよくあります。

そんな日本酒の温度帯はというと、ざっくり分けると「冷酒」「冷や」「燗」の3つに分類されます。「燗」とは、温かいお酒のことだと皆さんわかりますよね。

でも、ここで、「えっ?“冷酒”と“冷や”って同じもののことじゃないの?」と頭にクエスチョンマークが浮かんだ方も多いのではないでしょうか。そんなモヤモヤをスッキリ解決するために、「冷酒」と「冷や」の違いについてご説明します。

簡単に言うと、「冷酒」とは冷蔵庫などで冷やした日本酒のこと。5℃〜15℃くらいの温度のものを指します。そして「冷や」とは、「常温」の日本酒のこと。おおむね20℃くらいの温度のものです。

つまり、「冷酒」の方が「冷や」より温度の低いお酒ということになります。

それでは、いったいどうして「冷酒」「冷や」といった紛らわしい呼び名が存在しているのでしょうか。

実は、日本酒を冷蔵庫で管理して「冷酒」で飲むことが一般的になったのは比較的最近のことなのです。それまでは、日本酒は常温で保存し、飲むときにはお燗をするというスタイルがほとんどでした。

そのため、常温のお酒は、温めていないお酒という意味で「冷や」と呼ばれていたのです。その時代の名残が今も根強く残っているというわけなんですね。

ただ、やっかいなのが、飲み屋さんによって「冷酒」と「冷や」に対する認識に違いがあるという点です。常温くらいの日本酒をまったり飲みたいと思って「冷やを下さい」とオーダーしたのに、キンキンに冷えた「冷酒」が出てきた・・・というトラブルはけっこうよく起こりがち。

このような悲劇(?)を未然に防止するためにも、初めて行く飲み屋さんでは、常温のものか冷たいものか、希望の温度をハッキリ伝えるようにすることをオススメします。

 

温度によって何がどう変わる?

日本酒の温度による違い

それでは、いったい日本酒は、温度によってどんな点がどのように変化するのか、具体的にご説明していきますね。

・香り

冷やすと、爽やかさが増しますが、閉じた印象となり、香りそのものが感じにくくなります

温めると、さまざまな要素が広がり、わかりやすく感じられるようになりますが、爽やかさは失われます。

・味わい

冷やすと、ボリューム感が弱くなります。

温めると、ボリューム感が強まり、まろやかさが出てきます。

・甘味

冷やすと、スッキリと軽やかに感じられるようになりますが、甘味そのものが感じにくくなります

温めると、しっかりと強く感じられるようになります。時にはクドい印象を受けることもあります。

・酸味

冷やすと、シャープさが増し、爽やかで清涼な感じになります。

温めると、柔らかさが増しまろやかな感じになりますが、清涼感は損なわれます

・旨味

冷やすと、軽やかになりますが、旨味そのものが感じにくくなります

温めると、米本来の味が引き出され、ふくよかさが強まります。時にはクドく感じられることもあります。

・苦味

冷やすと、爽快なキレが出て引き締まった印象になりますが、硬く感じられるようになります。

温めると、柔らかくまろやかになりますが、締まりなくぼやけたように感じられるようになります。

・アルコール

冷やすと、揮発性が低くなり、引き締まった印象になります。

温めると、揮発性が高くなり、強く感じるようになります。50℃を超えると、舌にピリッとした刺激を感じることもあります。

 

酸の種類によって温度を変えよう

酸の種類によって温度を変えよう

温度にからんで、ここで酸についてもご説明しておきましょう。

日本酒に含まれる有機酸は、「温旨酸」(おんしさん)と「冷旨酸」(れいしさん)の2種類に大別されます。醸造する過程で、原料であるお米や麹、酵母から派生するものです。

まずひとつめの「温旨酸」とは、温めることで美味しさが増す有機酸のことです。乳酸、コハク酸がこれに当たります。

乳酸は、冷たい状態だと、酸の刺激が強く、とげとげしさを感じてしまうのですが、温めることによってグンとまろやかになります。温度を上げると甘味の感じ方が増すため、酸とのバランスが取れ、絶妙なハーモニーを奏でてくれるのです。

乳酸をたくさん含んでいる日本酒の代表といえば、生酛や山廃酛で醸したもの。温めることでポテンシャルが最大に発揮される、というポイントを押さえておきましょう。

コハク酸は、貝の汁のような味わいを持つ旨味成分です。酸味、苦味、酸味と混ざったような旨味が特徴で、豊かなコクや味わいの広がりを日本酒に与えてくれます。酸味はやわらかく穏やかです。

余談ですが、コハク酸には、魚や肉に特有の生臭いにおいを消す効果もあるので、日本酒は調理の際にも頻繁に使われていますよね。

そしてふたつめの「冷旨酸」とは、「温旨酸」とは反対に、冷やすことで美味しさが増す有機酸のことを言います。リンゴ酸やクエン酸などがこれに当たります。

リンゴ酸は、その名の通りリンゴにはもちろん、バナナやブドウなどの果物に多く含まれている酸です。リンゴから見つかったことから、このように呼ばれています。一方、クエン酸は、レモンやオレンジなど柑橘系の果物に多く含まれています。

どちらも、温めると酸味がボヤッとした印象になってしまいますが、冷やすことでスッキリとしたシャープな酸味を楽しむことができるという特徴があります。

リンゴ酸やクエン酸を豊富に含んだものが多く見られる日本酒は、大吟醸酒や、近年よく見かける「夏酒」と銘打った夏限定のお酒です。清涼感たっぷりの味わいなので、暑い夏を心地よくクールダウンしてくれますよ。

 

温度によって変わる日本酒の風流な呼び方

温度で違う日本酒の呼び方

世にあまたあるお酒の中でも、きわめて幅広い温度帯を持つ日本酒。その温度帯の豊富さから、実は、それぞれの温度帯によって、名前がつけられているんですよ

およそ5℃単位というわずかな変化を楽しむ細やかさには、日本酒に対する深い愛情が感じ取れます。

日本人らしい繊細さと風雅さが詰まったこれらの名称と味わいの特徴を覚えて、お酒仲間にぜひ披露してあげてください。特に、外国の方は、ビックリするとともに感動してくれることが多いですよ。

・5℃=「雪冷え」(ゆきびえ)

俗に言う「キンキンに冷えた」状態がこの雪冷えです。スッキリとドライな味わいを楽しみたいときに向いています。グイッといきたい最初の一杯や、スパークリング日本酒や活性にごりにピッタリの温度です。

ただし、香りは立ちにくくなり、味わいも閉じることから固く感じることがあります。また、温度が低いことから、甘味や旨味なども弱く感じます。

・10℃=「花冷え」(はなびえ)

花冷えとは、暖かくなって桜の花が咲く頃に寒さが戻って冷え込むことを意味する言葉です。俳句の季語にも使われていますね。日本酒の世界では、10℃を花冷えと呼んでいます。

花冷えの目安は、冷蔵庫で数時間冷やしてから取り出したばかりの頃です。瓶に触れると、すぐに冷たさを感じます。

香りが小さく控えめになり、味わいにまとまりが出て、きめ細やかな印象になります。ドライなテイストのものや、酸味がしっかりしたお酒をキリッとシャープな味わいで飲みたいときにオススメの温度です。

・15℃=「涼冷え」(すずびえ)

涼冷えの目安は、冷蔵庫から取り出してしばらく経った頃。瓶に水滴が現れ始めるくらいで、瓶を手に持つと、はっきりと冷たさを感じます。

吟醸酒や大吟醸酒などの、華やかな香りを持ったフルーティーなタイプのお酒に適しているのがこの温度。甘く華やかな香りがほど良く立ち上がり、心地良さを与えてくれます

また、フレッシュ感あふれるまろやかな生酒も、この温度くらいがピッタリです。みずみずしい香りとシャープな味わいを楽しむことができます。

余談ですが、日本酒度の測定をする際は、15℃のお酒に日本酒度と呼ばれる特殊な浮秤(ガラス管の底に鉛粒が入っているもの)を浮かべて、比重を計測することになっています。

・20℃=「常温(冷や)」

瓶を持つと、ほんのりとした冷たさがゆっくり伝わってくる温度です。昔の日本の住宅にあった土間の室温が、だいたい20℃くらいだったとか。

舌の感覚で言えば、「冷たくはないけど、ぬるくもない」と感じる程度と考えてください。これより冷たい温度では隠れていた香りが開き、味わいがソフトになるのがこの温度の特徴です。

先ほども書きましたが、「冷や」とは常温のこと。冷蔵庫で冷やした「冷酒」とは温度が異なることに注意しましょう

ちなみに、利き酒をおこなう際のベストな温度は、この常温です。あまり冷たくては香りが立ちにくくなってしまうためです。実際、プロを対象にした利き酒会では、お酒の温度はすべて常温のものが用意されます。

・30℃=「日向燗」(ひなたかん)

人間の体温よりも低い30℃くらいの温度に温めることを日向燗と言います。ポカポカなひだまりがイメージされる素敵なネーミングですね。

この温度だと、口に含んでも熱さや冷たさは感じません。日向燗にすることで、常温よりもさらに日本酒の香りが立ち、なめらかで飲みやすいお酒へと変化します。

この温度ではまだアルコール臭があまり立たないため、「燗酒は、あの独特のにおいがちょっと苦手」という方にもオススメしやすい温度です。

・35℃=「人肌燗」(ひとはだかん)

人間の体温に近い35℃は、人肌燗と呼ばれます。ちょっと色っぽさも感じさせるネーミングですね。

ひと口含むと、ほんのりとした温かさが、口の中で優しくスウッと広がります。米や麹の滋味あふれる香りがし、ふくらんだ甘味や旨味を楽しむことができます

私は実際、自分の肌で燗をすることもあります。「お酒がちょっと冷たすぎるかな」「酸が若干とげとげしい感じがするな」と思ったときは、お酒を入れた器を両手でしばらく持って温めるのです。ガスも電気も使わないので、とってもエコな温め方と言えるでしょう(笑)。

話はそれますが、人間がもっとも甘味を強く感じる温度は、体温より少しだけ高い37℃くらいだと言われています。

・40℃=「ぬる燗」

徳利を手にしたときに、ほんのり温かさを感じる程度が、ぬる燗の目安です。香りは高くなり、旨味も増して、ふくらみのある味わいになります。

お燗に適したお酒がもっともポテンシャルを発揮することが多い温度です。

・45℃=「上燗」(じょうかん)

上燗の目安は、徳利を持ったときにしっかりとした温かさを感じ、注いだときに湯気が出る程度です。

香りが引き締まり、ふくらみながらも引き締まった味わいを楽しむことができます。純米酒には、この温度でもっとも輝きを放つものが多く見られます。

・50℃=「熱燗」(あつかん)

徳利から湯気が見え、手に持つと熱く感じるくらいの温度が、熱燗の目安です。キレの良い辛口へと味わいが変化し、香りもシャープになります

昔はお燗といえば、だいたいこのあたりの温度で飲まれていました。本醸造酒や普通酒などは、熱燗でもっとも美味しくなるものが多いです。

ところで、「熱燗=温めたお酒」だと思っている人が多く見られますが、これは実は大きな誤解です。「燗」とは、お酒を温めるという意味の言葉なので、「熱燗」とは、熱い=高い温度に温めるという意味なのです。

・55℃以上=「飛び切り燗」(とびきりかん)

最後は、飛び切り熱いその名も「飛び切り燗」。温度が55℃以上に上がっているため、徳利を持つとかなり熱いです。

香りがとても強くなり、鼻にツンとくる刺激を感じます。また、味わいは極めて辛口になります。好き嫌いが大きく分かれ、飲み手を選ぶ温度と言えるでしょう。

アンチ燗酒派の人は、最初にこのくらいの温度で飲んだため、強いアルコール臭に苦手意識を植え付けられたというケースも多いのではないでしょうか。

飛び切り燗は、純米酒や本醸造酒、普通酒に適した温度です。また、熟成酒にもオススメの温度。独特の熟成香がほど良く和らぎ、飲みやすさがグッとアップします。