おちょこに入っている日本酒

~四国地方~

坂本龍馬の銅像

・香川県

瀬戸内海に面した風光明媚な土地、香川県。海の幸はもちろんのこと、讃岐山脈がもたらす山の幸にも恵まれています。そんな香川県の日本酒は、全体的にやわらかな味わいのものが多いのが特徴です。

そして、香川県と言えば「うどん」ですが、「香川に行けば讃岐の酒を飲み、デザートがわりにうどんを食べよう」と言われるほど、実は日本酒もとても人気が高いんです。

ちなみに、うどんや出汁とのペアリングを楽しんで欲しいと開発された3種類の「うどんに合う酒」なる日本酒も存在します

綾菊酒造・西野金陵・森國酒造の3蔵が、日本酒とうどんへの熱い愛情を込めて2013年にプロデュース。讃岐うどんのいりこ出汁や生醤油と絶妙にマッチするしっかりとした味わいで、うどん好きからも日本酒ファンからも人気を博しています。

また、香川県は独自の酒造好適米の開発にもチャレンジ。1986年から香川大学農学部や農業協同組合などがタッグを組み、約20年間に及ぶ研究を経て、「オオセト」と「山田錦」を交配し、県としては初となるオリジナル酒米「さぬきよいまい」を誕生させました。

・徳島県

徳島県は、山地が全面積のおよそ8割を占める自然豊かな地。四国第2の高山・剣山(つるぎさん)を筆頭に、1,000メートルを越える山も数多くそびえています。

この剣山地と讃岐山脈との間を流れる吉野川の伏流水を仕込み水に使い、軟らかい水質を活かしたソフトでまろやかな中甘口のお酒が徳島県の持ち味です。

実は、世界でもトップクラスの「LED先進地域」として知られる徳島県。高輝度青色LEDの製品化を世界で初めて成功させ、LED応用製品の開発メーカーが100社以上集まるハイテク王国なのです。

そのLEDを利用して2016年に誕生した酵母が「LED夢酵母」。徳島県立工業技術センターが、約2年間にわたり紫外線を出す特別なLEDを使用しての実験を2,000回以上繰り返し、品種改良した清酒酵母の中からフルーティーな香りと発酵力の強さを持ったものを選定し、このように命名しました。

「LED夢酵母」を使って醸したお酒は、リンゴを思わせる香りとスッキリした爽やかな味に仕上がり、これまで日本酒になじみのなかった人たちでも飲みやすい日本酒ができるとあって、大注目の新酵母です。

余談ですが、徳島県を舞台に、父親と息子たちが苦悩や葛藤を乗り越えて日本酒造りに奮闘する物語を描いた映画も2017年に公開されています。

タイトルはずばり『酒蔵』。本物の酒蔵で撮影された酒造りのシーンでは、本物の材料と機材を使用。リアルな匠の技を臨場感たっぷりに見ることができる映像には、実際に酒蔵を訪れているかのような気分を味わえます。

・高知県

高知県と言えば、古くより酒豪の多さで知られる日本酒王国。酒はどのくらい飲めるかと聞かれ「ほんの少々」と答えてしまってはさあ大変。

「ほんの少々」→「ほんの升々」→「二升は飲めます」という恐ろしい脳内変換がなされてしまうという笑い話があるくらい、高知県の人たちは男女問わずよく飲みます。

そんな高知県の日本酒の特徴は、飲み飽きしないキリッとした辛口。グイグイと豪快に量を飲めるというのも納得です。

幕末の志士として絶大な人気を誇る坂本龍馬も高知県の生まれ。坂本家は酒造業などを営んでいた豪商「才谷屋」(さいたにや)の分家でした。龍馬自身もかなりの酒豪だったそうで、「酒は呑むべし酒は呑むべし」という一節から始まる漢詩『愛酒詩』を書き残しています。

ちなみに、人気テレビ番組『酒場放浪記』で有名な、酒場詩人こと吉田類さんも高知県の出身です。

高知の名産品「可杯」(べくはい)も忘れてはいけません。可杯のひとつである「ひょっとこ杯」はひょっとこの口の部分に小さな穴が開いている酒器。指で穴をふさがないとお酒が漏れてしまうので、飲み干すまで下に置くことができないのです。

その「ひょっとこ杯」のさらに上を行くのが「天狗杯」。大きな鼻の部分にまでお酒が入るので容量はたっぷり。そして天狗の長い鼻が邪魔をするため、これまた全部飲んでしまわない限り下に置くことができません。さすがは四国ならぬ“酒国”ですね。

・愛媛県

愛媛県というとあまり日本酒のイメージがわかないという方も多いかもしれませんが、実は知る人ぞ知る、隠れた酒どころ。四国の中でもっとも多い数の酒蔵を抱えているのです。

東洋の地中海とも称される穏やかな瀬戸内海と、黒潮が流れ込む宇和海という2つの海に面した風光明媚な地である愛媛県は、白身魚を中心に豊富な海の幸に恵まれています。

そんな愛媛県で醸される日本酒は、魚介類にピッタリ寄り添う伸びやかで軽快な喉越しの味わいが魅力です。

愛媛県ならではのユニークな取り組みが、スペイン料理に合う県内産の日本酒の統一ブランド「mar」(マール)。スペイン語で「海」を意味することばです。瀬戸内海は地中海と気候や風土、そして食文化が似通っています。

地中海料理の中でもとりわけスペイン料理は愛媛県と同じように魚介類や豆・穀類に恵まれているなど共通点が多いことから、愛媛の日本酒とスペイン料理をマッチングさせようというプロジェクトが2012年にスタートしました

スペイン料理でよく使われる「生ハム」や「トマト」などの料理に最適な一本を毎年選出し、選ばれた銘柄は、「mar」の統一ラベルを貼って販売されます。

愛媛県産の酒米の代表格は「松山三井」(まつやまみい)と、この松山三井を元に開発された愛媛県初のオリジナル酒造好適米「しずく媛」(しずくひめ)。「しずく媛」という名前は、愛媛の「媛」と米からおいしい「滴」が生まれるという意味を込めて付けられたそうです。

~九州・沖縄地方~

田んぼが広がる田舎の風景

・福岡県

九州では最大数である56もの酒蔵を抱える酒どころ福岡は、また米どころでもあります。酒造好適米の王様・山田錦の生産量は、なんと兵庫県に続いて第2位「九州の灘」とも呼ばれているのが福岡県なのです。

筑後川や遠賀川(おんががわ)など豊かな水流に恵まれた福岡県で造られる日本酒は、軟水仕込みが主流米本来の自然な甘みを引き出した、まろやかで飲みやすいものが多いのが特徴です。

柳川杜氏、三潴(みづま)杜氏、久留米杜氏といった大きな杜氏集団が昔より存在し、現在に至るまで全国的に見ても有数の銘酒の生産地としての地位を保ち続けています。

福岡県では、日本酒のイベントも盛んに開催。なかでも毎年5月に実施される「&SAKE FUKUOKA」(アンドサケフクオカ)は、県内の全酒蔵が一挙に集結する福岡史上最大の酒イベントとして、毎回活況を呈しています。

・佐賀県

九州の中で一人当たりの日本酒消費量がもっとも多いのが、この佐賀県です。肥沃な佐賀平野では古くから米作が盛んで、かつ良質な伏流水も豊富なこの地

江戸時代に藩主の鍋島直正公が財政再建のために付加価値の高い酒造りを奨励したこともあり、焼酎のメッカ・九州において「日本酒県」と称されるほど日本酒が盛んに造られています。

佐賀県の日本酒は、甘口傾向の強い九州の中でも特に濃醇甘口で酸が効いたものが多いのが特徴です。近年、佐賀県は、全国の日本酒ファンからの熱い視線を浴びています。

その大きな契機となったのが、富久千代酒造(鹿島市)が醸す「鍋島」(なべしま)。2011年に、世界最大級のワイン・コンクールである「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)の日本酒部門で見事チャンピオンに輝いたのです。

佐賀県は、造り手さんたちも個性的で激熱です。佐賀県の蔵元が多数出演する「日本酒ダンス佐賀酒バージョン」からもその本気度と熱気がムンムンと伝わってきます。

猛暑の中、10テイクも20テイクも取り直したという汗と涙の結晶は、必見です!是非、「日本酒ダンス佐賀酒バージョン」をキーワードにYouTubeを検索してみてください。

URL:https://www.youtube.com/watch?v=5N4l_TklNlM&feature=youtu.be

・長崎県

焼酎を造る酒蔵が多数を占める長崎県ですが、日本酒造りが盛んな佐賀県に近いエリアででは日本酒造りをおこなう酒蔵も多く存在します。佐賀県の日本酒は、甘い味付けのものが主流の郷土料理によく合う、甘口で濃醇なタイプが特徴です。

ここのところ日本酒ファンが注目する長崎県の日本酒と言えば、「重家(おもや)酒造」(壱岐市)が醸す「横山五十」(よこやまごじゅう)

重家酒造は1990年までは日本酒を造っていましたが、杜氏の高齢化に伴いやむなく日本酒造りを断念。それ以来、壱岐島で日本酒が造られることはありませんでした。

転機が訪れたのは2014年。「壱岐島で日本酒蔵を復活させたい」という強い想い抱いた蔵元が、「東洋美人」で有名な澄川酒造場(山口県萩市)に泊まり込みで酒造りを開始。全作業を自らおこなって出来たお酒「横山五十」はたちまち評判となりました。

そして2018年5月、ついに念願の新しい日本酒蔵「横山蔵」が壱岐島の重家酒造内に完成。28年もの時を経て、壱岐島で醸された日本酒が誕生したのです。その芳醇旨口な味わいは、たくさんの日本酒好きの舌を大いに悦ばせています。

・熊本県

豊富な水資源に恵まれた地である熊本県。なんと1,000か所以上もの湧水源があり、県民の生活用水のおよそ8割が天然の地下水でまかなわれているほどなのだとか。

熊本県と聞いて日本酒好きな人の多くが真っ先に思い出すのは、「熊本酵母」ではないでしょうか。熊本県酒造研究所の野白金一(のじろきんいち)さんが分離・培養に成功したこの酵母は、吟醸酒造りに最適。穏やかな酸と華やかな香りを引き出すことができるのが特徴です。

その優秀さから、日本醸造協会の「きょうかい9号酵母」と定められ、県内はもちろん日本全国の酒蔵で使われるようになりました。

「熊本酵母」の人気ぶりは、「YK35」という言葉にも表れています。この暗号めいた言葉の意味というと、Y=山田錦、K=熊本酵母、35=精米歩合35%。とても華やかな吟醸香を生み出す手法で、かつては全国新酒鑑評会で入賞するための黄金律とも言われていました。日本中の酒蔵がこぞってこのスタイルで日本酒を造っていた時代があったほどです。

この「熊本酵母」を生み出した熊本県では、香りが高くまろやかな味わいのものが多く造られています

2014年には、14年の歳月をかけて開発された熊本県初のオリジナル酒米「華錦」(はなにしき)も誕生。芳醇タイプから淡麗辛口まで幅広い味わいに仕上げることができる酒米とあって、熊本県の日本酒はこれからさらにバラエティ豊かに進化しそうです。

・大分県

麦焼酎のメッカ、大分県。2007年には「大分麦焼酎」「大分むぎ焼酎」が地域ブランドとして次々と商標登録されるほど、大分県における麦焼酎の存在感は圧倒的です。

とは言え、日本酒造りも非常に盛んで酒蔵の数も多く、九州では福岡県に次ぐ出荷量を誇っています

大分県の日本酒の傾向はというと、甘口で濃醇なタイプが主流。しかし近年では、辛口のものも多く造られるようになってきており、また、吟醸酒造りに熱心に取り組む蔵も増えてきています。大分県のお酒を、名産品のブランド魚である関サバや関アジ、それにふぐ料理などの魚介と合わせていただくと、まさに口福そのもの。

大分県で今いちばんスポットライトを浴びている酒蔵と言えば、中野酒造(杵築市)でしょう。2018年、フランスで開催される唯一の⽇本酒コンクール「Kura Master」において、総出品数 650 銘柄の頂点に輝く日本酒に与えられる「プレジデント賞」を、中野酒造の「ちえびじん 純米酒」が受賞したことで、人気・知名度が大きくアップした注目蔵です。

・宮崎県

九州の中でもとりわけ焼酎文化が色濃い宮崎県。柔らかな味わいで飲みやすいライトタイプの焼酎が多く造られています

焼酎に使う原料も実に多彩で、芋・米・麦・そばといった定番以外にも、ピーマン、ショウガ、カボチャ、それにナツメヤシやヨモギを使ったユニークなものなど、個性豊かな焼酎が楽しめるのも面白いところです。

そんな宮崎県にも、日本酒を製造している蔵が2軒あります。ひとつが、千徳酒造(延岡市)。県内で唯一、日本酒に特化した酒蔵です。

大吟醸酒や吟醸酒、純米酒といった特定名称酒はもちろん、スパークリングタイプや低アルコール酒、普通酒まで幅広いラインナップを誇ります。ここで杜氏を務める門田賢士さんは、宮崎県立延岡工業高等学校時代の1981年に春のセンバツ高校野球大会に出場したという経歴の持ち主。27歳の時に入社して以来、南国生まれの旨い酒を皆様に届けたいと、全力投球で酒造りに邁進しています。

もうひとつの蔵が、雲海酒造(宮崎市)。雲海酒造は、人気女優の吉田羊さんが美味しそうに本格芋焼酎「木挽BLUE」を味わうテレビCMでおなじみの会社です。主力商品は焼酎ですが、日本酒も2種類製造。米本来が持つ上質な旨みを巧みに活かした純米酒「菊初御代」(きくはつみよ)と、穏やかな香りとスッキリした味わいが嬉しい本醸造酒「初御代」(はつみよ)を醸しています。

・鹿児島県

鹿児島県と言えば、本格芋焼酎の本場。南九州に広がるシラス台地は火山噴出物が堆積した地で、サツマイモの栽培には向いているけれど米の栽培には適さないこと、南国である鹿児島県では温度管理が難しいことなどから、約40年前に鹿児島市内にあった日本酒の蔵が閉じられて以来、県内での日本酒造りはストップしたままでした。

そんな中、焼酎メーカーである浜田酒造グループの「金山蔵」(きんざんぐら)が2014年に日本酒造りに着手。およそ40年ぶりに鹿児島県で醸造された日本酒が「薩州正宗」です。

長年の焼酎造りで培った経験やノウハウを活用し世に送り出した「薩州正宗」は、純米酒と純米吟醸酒の2タイプ。華やかな香りと旨み、そして甘みが絶妙なバランスに仕上がっています

「焼酎の口直しに飲む日本酒」というコンセプトどおり、濃いめの味付けが多い薩摩の郷土料理に負けないしっかりした味わいで、いったん飲みだすと盃もお箸もなかなか止まりません。

・沖縄県

人が暮らす日本最南端の地・沖縄県。沖縄のお酒と言えば、泡盛やオリオンビールなどを思い浮かべる人がほとんどかもしれません。

しかし、亜熱帯の南国・沖縄でも実は日本酒を造っている蔵が1軒だけ存在しているのです。それは、沖縄本島中部に位置する沖縄県第3の都市うるま市の「泰石(たいこく)酒造」

1967年から半世紀以上にわたり、沖縄唯一の酒蔵として「黎明」(れいめい)というブランドで日本酒を醸し続けています。

「黎明」は、本醸造酒と純米吟醸酒の2種類。本醸造酒のほうは、辛口仕立てのしっかりとした味わいが持ち味です。冷やでも燗でも美味しくいただけますが、ぬる燗程度に温めると旨味が際立ちおススメだとか。

沖縄料理の定番中の定番、こってりした豚バラ肉がたまらない「らふてー」などにピッタリです。一方、純米吟醸酒のほうはというと、少し冷やすとスッキリ感が高まり美味しさがアップします。濃厚な大豆の味わいが光る「島豆腐」などに合わせていただきたい日本酒です。

日本酒造りが盛んでない沖縄県での製造は苦労の連続。肝心の原料米に関しても、県内には高精米ができる施設がないため、九州で精米したものをわざわざ仕入れているそうです。

まだまだ生産量が少ないため、沖縄以外ではなかなか出会えない「黎明」ですが、「どうしても飲んでみたい!」という方は、泰石酒造の公式サイトからネット通販で購入できますよ。