もっきり

マナーを守って、楽しく美味しく日本酒を

料理が置いてあるテーブルに2つの日本酒が入ったグラスが置いてある

かつての日本では、宴会での作法が細かく決められていました。献杯や返杯、お酒の注ぎ方など、一定の様式にのっとって酒席は進められていたのです。

一方、現代では、飲み会からは堅苦しさがなくなり、もっぱら純粋に楽しむための機会となりました。

とは言っても、羽目を外し過ぎたり、調子に乗って飲みすぎて泥酔したりしては、周囲に迷惑をかけ会が台無しになってしまう上、体にも良くありません。

窮屈な作法までは必要ありませんが、相手にとっても自分にとっても気持ち良く飲める場にしたいもの

ここで、お酒を飲む際に心得ておきたいマナーや振る舞いなどについて考えていきましょう。

 

日本の宴会スタイルの歴史

飲み会で日本酒が入ったグラスで乾杯する人たち

まず、酒席での作法の歴史についてご紹介していきますね。

~日本式宴会作法の起源は、東国武士の酒盛りにあり~

現代に生きる私たちも、宴会をスタートする際に、皆で「カンパーイ!」とやりますよね。

これは、実は「式三献」(しきさんこん)がルーツであると言われています。

「式三献」とは、鎌倉時代に東国の武士たちによって確立された宴会の作法のことです。

「式三献」では、宴会が始まり、酒肴(しゅこう)が出されると、主人はまず一献目の盃を主賓にすすめます。

盃と言うと、小さなものを思い浮かべるかもしれませんが、実はこれがかなりのビッグサイズ

大きな盃にはなみなみとお酒が注がれており、初めにすすめられた客はそれを少し飲んで、次々に隣の人へまわしていきます。こうして、盃は上座から下座へと渡っていくのです。

一献目が終わると、二献目、三献目と同じようなスタイルで盃がまわされます。

ちなみに酒肴は、一献目、二献目、三献目でそれぞれ違うものが用意されました。

ひとつの盃でまわし飲みをする、というのは、今の私たちの感覚からすると少々違和感を覚えます。飲み会で、お猪口やグラスのシェアなんて普通しないですよね。

カップルがデートのとき、ひとつのドリンクをふたりでストローを使って飲む・・・なんていう光景は、時々見かけなくもないですが(笑)

実は、「式三献」における盃の共有は、お酒のルーツと関わりがあると考えられています。

古来、お酒はまず神様に捧げられました。そののち、人間がそのおこぼれにあずかっていたのです。

こうすることで、神様と人間の関係が親密なものとなり、神様からの恩恵を得ることができる、と我々の先祖は考えていたのです。

そういう考え方の流れから、おそらく、全員が同じ盃でまわし飲みをすることで共通の恩恵を受けようとしていたのでしょう。

ちなみに、結婚式でおこなう「三三九度」や、任侠の世界で親分子分、兄弟の契りをかわす「固めの盃」なども、この「式三献」に由来するとされています。

~「無礼講」を初めて取り入れたのは、後醍醐天皇~

「今夜は無礼講でやりましょう!」というセリフは、会社の飲み会などでときどき聞きますよね。

「無礼講」とは、身分や上下関係の別なく、礼儀作法など堅苦しいことを抜きにして催す宴会のことです。

この「無礼講」を初めておこなったのは、後醍醐天皇(1288~1339年)だと言われています。

鎌倉幕府をほろぼして「建武の新政」という政治を推し進めことで有名な、歴史上の人物ですね。

後醍醐天皇は、倒幕の密談をするにあたって、不信の者を選別するために宴会を催しました。

この際、身分関係を無視して、みんなでたっぷりとお酒を飲み、山海の珍味に舌鼓を打ち、歌い踊ったのが「無礼講」の始まりというわけなんですね。

このときの宴会の様子は、南北朝時代の軍記物語である『太平記』に記されています。

参加者は、烏帽子や法衣といった通常の衣装を脱ぎ、リラックスして盛り上がりました。

従来の宴会の作法から解き放たれて、心ゆくまで楽しんだことでしょう。

もっとも、鎌倉幕府を打倒することはできたものの、後醍醐天皇はその後、足利尊氏ら武士と激しく対立。

吉野(奈良県)へと逃げ、「南朝」と呼ばれる朝廷を開きましたが、そのわずか3年後に病気で人生を終えました。

歴史上あまり人気の高くない後醍醐天皇ですが、無礼講スタイルを考案してくれたことは、後世の日本人にとってはありがたい限りです。

 

正しく美しいお酌の仕方

日本酒を徳利とおちょこでお酌する

お酌をし合いながら楽しめるのが日本酒の魅力。さしつさされつを繰り返すことで、心のバリアも自然となくなり、なごやかな雰囲気が生まれます。

そんな究極のコミュニケーションとも言える、お酌のやり方について学んでいきましょう。

基本さえきちんとおさえておけば、注ぐ側、受ける側の双方にとって、さらに気持ちよく楽しめる場になりますよ。

~注ぎ手側~

・盃の中身をちらっと確認してからすすめよう

相手の盃をさりげなくチェックし、残りが少なくなってきたタイミングで、お酒をすすめましょう。

だいたいの目安としては3分の1くらいと言われていますが、そこまで厳密に考える必要はありません。当然のことながら、無理強いは厳禁

くれぐれも相手の迷惑にならないように気をつけましょう。

・注ぐときは一声かけて

注ぐときは、その前に必ずひとこと声をかけてからにしましょう。テーブルに置いてある盃に、勝手に注ぐのはマナー違反です

こういうことをする人をときどき見かけますが、親切のつもりであってもやめましょう。お酌はコミュニケーションですからね。

・片手注ぎは失礼

徳利は右手で持ち、左手を下に添えて注ぐのが正しいスタイルです。片手で注ぐのは無作法ですし、見た目にも品がなく美しくありません。

男性は、親しい間柄で飲むときなどは、右手だけで注ぐこともよくありますが、目上の人にしてしまうと失礼にあたります

ケースバイケースで、状況に合わせて対応すると良いでしょう。

・逆手(さかて)注ぎは禁止

手のひらを上にして注ぐことを逆手注ぎと言います。これは不祝儀にあたりますので、絶対にやめましょう。

徳利を持つ右手の甲が上を向くように持つのが正しい注ぎ方です。

・なみなみと注ぐのはやめましょう

あふれそうなほどなみなみと注ぐのはNGです。量が多すぎては飲みにくく、盃を持ったときにこぼれてしまう危険性があります。

手や衣服、テーブルなどを汚してしまう可能性もあるので、注ぐ量はほどほどを心がけましょう。

だいたい8分目くらいを目安にすると良いと言われています。

~「お酌の際に徳利の注ぎ口を使ってはならない」とする説がある?

ところで、徳利でお酒を注ぐ時には、「注ぎ口は上に向け、注ぎ口以外の部分から注ぐのが正しいマナーである」という説を聞いたことはありませんか?

テレビ番組などで取り上げられたことから、一時期ちょっとした話題となっていました。

これは、徳利の注ぎ口に毒を盛るという暗殺手法が戦国時代に多くとられていたことからだとか、細くとがった部分から注ぐと“角が立つ”からだとか、はたまた、注ぎ口は円の切れ目であり“縁の切れ目”につながると考えられていたからだとか、由来については諸説あります。

しかし、現代においては、この説に重きを置く人は決して多いとは言えません

私も徳利でお酌をするときは必ず注ぎ口を使っていますが、相手から嫌な顔をされたことも怒られたこともありません。

そもそも徳利の注ぎ口は、注ぎやすくするために作られているものです。ですから、注ぎ口がある場合は使って差し支えありません

徳利の作り手さんのせっかくの努力を無にせず、こぼさずに美しく注ぐことを一番に考えれば良いのではないでしょうか。

~受け手側~

・盃は手に持つこと

お酌をしてもらう側は、必ず手で盃を持ちましょう。テーブルに置いたまま注がせるというのは、大変失礼です。

盃は右手の親指と人差し指で軽く持ち、左手は指先で底に添えるようにすると良いでしょう。

・お礼を忘れずに

注ぎ終わったら、必ずお礼の言葉を述べましょう。その上で、相手の盃が空いていたら、返礼として相手にもお酒を注いで良いか確認します。

繰り返しになりますが、お酌はコミュニケーション。このようなやり取りをおこなうことで、相手との良好な関係性が築けるのです。

・注いでもらったら、まずは一口

注がれたあとは、そのままテーブルに置くのではなく、一口でも飲むのがマナーです。

ただし、一度に飲み干すのではなく、少し残しておくと良いでしょう。

 

これはNG!やってはいけないマナー違反

ばつサインをして「これはNG!やってはいけないマナー違反」と話す女性

ここでは、どういった行為がマナー違反にあたるのか、具体的に見ていきましょう。

「こんなの言われるまでもない常識でしょう?」と思えるようなものから、「知らずに思わずやってしまっていた・・・!」というものもあるのではないでしょうか。

楽しく飲むためにも、同じ過ちを繰り返さないためにも、一度確認しておきましょう。

・のぞき徳利

徳利の中をのぞきこんで、どのくらい日本酒が残っているか確認することです。

ときどき見かけることもありますが、見た目にも優美とは言えず、品性を疑われかねない行為なのでやめましょう。

・振り徳利

徳利を振ってお酒が残っているか確認することを言います。

これも美しいビジュアルとは程遠いですよね。しかも、お燗酒の場合は、中身が冷めてしまう原因にもなってしまいます。

・併せ徳利

いくつかの徳利を集めて少しずつ残っているお酒を1本の徳利にまとめる行為のことです。

日本酒の温度や風味に影響してしまうため、好ましくないとされています。

・倒し徳利

飲み終わったことがわかるようにと、徳利を横に倒す行為をこのように呼びます。中身が少しでも残っていれば、こぼれてテーブルを汚してしまいますよね。

また、徳利が転がり破損してしまう恐れもあります。

倒し徳利をしている人を飲み屋さんで何度か見たことがありますが、テーブルの上が乱雑になって見苦しい上、いつ床に転げ落ちるかと、他人事ながらハラハラしてしまいました。

・逆さ徳利

飲み終えた徳利を逆さにして置く行為です。残っている日本酒が、ほぼ確実にテーブルにこぼれて、衣類などが汚れる危険性がとても高いですよね。

倒し徳利に比べて実際におこなっている人はあまり多くないようですが、徳利が倒れて壊れる危険性はさらに高まります。

値段の高い徳利だと、弁償額を聞いてビックリ・・・ということもありますので、くれぐれも避けましょう。

・徳利の持ち歩き

いくつものテーブルに分かれる大規模な宴会だと、お酌のために席を立って、自分のテーブルの徳利を持ち歩く、ということは珍しいことではないでしょう。

けれど、歩いている最中に、中身をこぼしたり徳利を落としたりしかねません。お酒が入った状態だとなおさらです。

お酌をする際は、向かった先のテーブルにあるものを使うことをオススメします。

・逆さ盃

これ以上は注がないで欲しい、という拒絶の気持ちを伝えるために、盃を裏返してテーブルに置くことです。

けれど、いくらもう飲みたくないからといって、露骨に盃をひっくり返すというのは失礼にあたります

相手に対する絶交の意思だと受け取られる場合もあると聞きます。

だからといって、もちろん無理に飲む必要はまったくありません。

そろそろ終わりにしたいと思ったら、注がれそうになった時に丁寧にお断りすれば問題ありません。

もしくは、注がれたお酒を一口だけ飲んで、あとはテーブルに置いておくのもOKです。

 

無茶飲みは、そもそもマナー以前の問題

飲み屋のテーブルで酔って寝てしまう男性

・一気飲み

場を盛り上げようと、自ら一気飲みをしたり、周囲の人に一気飲みをさせるような行為は、絶対にやってはいけません。

1980年頃から、テレビのバラエティー番組などの影響もあって、周囲の人間がはやしたてるかけ声に合わせてお酒を一気飲みするということが若者世代を中心にポピュラーになり出しました。

その後も勢いは衰えず、1985年には、「イッキ!イッキ!」という言葉が日本流行語大賞に選ばれたほどでした。

昔に比べれば減った印象もありますが、いまだにお酒の一気飲みによる若者の死亡事故は起き続けています

お酒はあくまで、楽しみながら自分のペースで飲むものだということを忘れてはなりません

・泥酔

泥酔することは、飲み会でもっとも迷惑な行為のひとつです。ひとりでも泥酔者がいると、せっかくの楽しい場が台無しになりかねません

人によっては、泥酔状態になると、周りの人にしつこくからんだり、セクハラをしたり、暴れたり、暴力をはたらいたりするといったケースも見受けられます。

そうなれば、悪質な場合には、社会的・法的な責任を追及されたり、会社をクビになるという事態も十分に起こりえます。

周囲にとっても自分自身にとっても、取り返しのつかないことにならないよう、節度を持つことを心がけましょう