刺身とグラスに入った日本酒

そもそも、「酔い」の正体とは?

食事中にお酌をする

「お酒を飲むのは楽しいけど、悪酔いはしたくない」というのは、酒飲みならば誰しもが思うところでしょう。

酔っぱらって失言やケンカをしてしまったり、飲みすぎて二日酔いになったり、体調を崩してしまったり・・・などの失敗談は、笑い話で済む程度ならまだ良いのですが、取り返しのつかないことになっては大変です。

ありがちな失敗は賢く未然に防ぎ、上手にお酒と付き合っていきたいものです。

そもそも、「酔っぱらう」とはどういう状態のことを言うのでしょうか?それは、血液が脳に運んでいったアルコールによって、“脳が麻痺した状態”になることです。

体内に吸収されたアルコールは血液に溶け込み、門脈と呼ばれる太い静脈を通って肝臓に運ばれます。しかし、肝臓はすぐにはアルコールの分解ができません

そのため、大部分のアルコールは血液とともに心臓へ送られ、そこから脳や全身に拡散されたのち、最終的に肝臓へ向かうという経路をたどります。

ちなみに、アルコールが脳に到達するまでの時間は、だいたい30分から1時間くらいとされています。

お酒のみならず、嗜好品の多くは、摂取量によっては脳に影響を及ぼします。ただ、お酒と他の嗜好品には大きな違いがあります。

それは、一般的な嗜好品は、脳の一箇所にのみ作用するのに対して、お酒の場合は複数の箇所に作用するという点。

“ドーパミン神経系”や、記憶に関与する“興奮性アミノ酸神経系”など、脳のさまざまな部位に働きかけると言われています。

 

「酔い」には、6つの段階がある

飲み屋でグラスに入ったビールを手に持つ

一般的に、「酔い」の状態はアルコール血中濃度によって6段階に分類されています。ここでは、各段階におけるアルコール血中濃度、酒量、主な症状について解説していきます。

(1) 爽快期

アルコール血中濃度:0.02~0.04%

酒量:日本酒(~1合)、ビール中びん(~1本)、ウイスキー・シングル(~2杯)

主な症状:さわやかな気分になる、陽気になる、判断力が少し鈍り始める

(2) ほろ酔い期

アルコール血中濃度:0.05~0.10%

酒量:日本酒(1~2合)、ビール中びん(1~2本)、ウイスキー・シングル(3杯)

主な症状:ほんのり酔った状態になる、身振り手振りが大きくなる、心理的な抑制が外れ解放的な気分になる

(3) 酩酊初期

アルコール血中濃度:0.11~0.15%

酒量: 日本酒(3合)、ビール中びん(3本)、ウイスキー・ダブル(3杯)

主な症状:気が大きくなる、大声でどなる、怒りっぽくなる、立つとフラフラする

(4) 酩酊期

アルコール血中濃度:0.16~0.30%

酒量:日本酒(4~6合)、ビール中びん(4~6本)、ウイスキー・ダブル(5杯)

主な症状:ヨロヨロと千鳥足になる、同じことを繰り返し話す、吐き気や嘔吐が起きる

(5) 泥酔期

アルコール血中濃度:0.31~0.40%

酒量:日本酒(7合~1升)、ビール中びん(7~10本)、ウイスキー・ボトル(1本)

主な症状:まともに立ち上がれない、意識がもうろうとする、言っていることが支離滅裂になる

(6) 昏睡期

アルコール血中濃度:0.41~0.50%

酒量:日本酒(1升以上)、ビール中びん(10本以上)、ウイスキー・ボトル(1本以上)

主な症状:ゆすっても起きない、呼吸がゆっくりと深くなる、死亡に至るケースも

 

以上、6段階についてご紹介しましたが、楽しく気持ちよくお酒が飲めるのは、第2段階の「ほろ酔い期」までだということがお分かりいただけたかと思います。

実際のアルコール血中濃度がどのくらいなのかは、もちろん調べない限りわかりません。

でも、飲んでいるお酒の量や、現れ始めた症状などから、酔いのどの段階にいるのかはだいたい判断できるでしょう。

飲む際は、自分のことはもちろん、一緒に飲んでいる人のことも気にかけてあげて、みんなで楽しくほろ酔い気分をキープしたいですね。

 

アルコールが代謝される仕組み

グラスに入ったウイスキーと2冊の本

お酒を飲むと、体内に摂取されたアルコールは約20%が胃から、残りの大部分が小腸から吸収されます。

吸収されたアルコールは、血液に溶け込み、全身に拡散されたのち肝臓へと運ばれていきます。

肝臓では、肝細胞にあるADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロソームエタノール酸化系)の働きによって、アルコールをアセトアルデヒドという成分に分解します。

このアセトアルデヒドは人体に対する有毒性を持つ物質です。

お酒を飲んだときに顔が赤くなったり、気持ちが悪くなったり、頭が痛くなったりするのは、このアセトアルデヒドが引き起こしている症状なのです。

有害物質であるアセトアルデヒドは、ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)の働きにより、人体に無害なアセテート(酢酸)に分解されます

このアセテートは、血液によって体内を巡るうちに、やがて水と二酸化炭素に分解され、最後は尿や汗、呼気となって体外へと排出されます。

肝臓のアルコール処理能力は、一般的には、体重60~70kgの人の場合、1時間に5~9gくらいとされています。

しかし、体重だけでなく体質やその日の体調などによっても大きく異なるため、一概には言えません。

ちなみに、肝臓の機能のピークは30代とも言われていて、年を取っていくにつれ次第に弱くなっていくので、若いころに比べて酔いやすくなるのです。

もちろん個人差はあるものの、年齢に応じた飲み方を心がけたいですね。

 

日本人は、欧米人に比べてお酒が弱い!?

日本人は、欧米人に比べてお酒が弱い!?とビールを飲みながら話す女性

日本人は外国の人たちよりもお酒が弱い人が多い、という話を聞いたことがあるでしょうか?実はこれは、哀しいことに真実なのです

そのカギを握るポイントになるのが、先ほど解説した代謝酵素のALDH2です。

ALDH2には、酵素活性が強い「活性型」、酵素活性が弱い「低活性型」、酵素活性がまったくない「非活性型」といった3つの型が存在します

アセトアルデヒドを代謝するスピードが速い「活性型」を持つのは、お酒が強い人。反対に、代謝スピードの遅い「低活性型」や「非活性型」を持つのは、お酒が弱い人です。

どの型を持っているかは遺伝子レベルの先天的な問題なので、残念ながら鍛えようと思っても後天的に変えることはできません。

日本人の37~38%は「低活性型」、6~7%は「非活性型」であると言われています。ちなみに、「非活性型」を持つのは、モンゴロイド(黄色人種)だけ。

コーカソイド(白色人種)やネグロイド(黒色人種)には「非活性型」どころか「低活性型」の人すらいないのだそうです。

私は数年間、外資系の出版社に勤務していた経験があり、同僚にはアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人、カナダ人など数多くの外国人がいました。

彼らの大半は、深夜まで延々と飲み続けても、翌朝はケロッとしていて二日酔い知らず。

私も決してアルコールに弱くないほうだと自負していたのですが、うっすらと敗北感を覚えたことを思い出します。

 

魔法の水「和らぎ水(やわらぎみず)」のススメ

日本酒もしくは水、透明の液体が入ったグラスが光に照らされている

世の中には、老若男女問わず「日本酒が苦手」という人が結構たくさんいます。

そういう人たちが口をそろえて言う理由は、「他のお酒と比べて、日本酒は次の日に残るから」。特に、「冷酒や常温の日本酒は悪酔いする」という声をよく聞きます。

でも、それは大きな誤解。悪酔いするのは日本酒のせいなのではなく、飲み方や飲む量の問題なのです

日本酒のアルコール度数は、平均して15~16%。他のどの醸造酒よりも高い度数です。

そして冷酒や常温の日本酒は口当たりがよく、すいすいと喉を通ってしまうので、ついついたくさん飲みすぎてその結果悪酔いしてしまう、というのが真実だと言えるでしょう。

翌日に残さず悪酔いを防ぐために是非おすすめしたいのが、「和らぎ水」。初めて聞く言葉だと言う人もいるかもしれませんが、これは日本酒の合間に飲むお水のことです。

日本酒を飲みながらお水を飲むと、胃腸の中のアルコール濃度が薄められるので、酔いの回り方がゆっくりになります。

また、お水が舌をリセットしてくれるため、次のお酒やお料理を美味しく味わうことができるという嬉しい効果も期待できます。

さらに、アルコールが持つ利尿作用によって脱水症状も防ぐことができ、飲んだ翌日に特有のイヤな喉の渇きを和らげてくれるのです。

そんな良いことづくめの「和らぎ水」を有効活用しない手はありません。是非これからは、「日本酒を一杯飲んだら、お水も一杯飲む」を習慣にすると良いでしょう

酒造組合の全国組織である日本酒造組合中央会でも「和らぎ水」を積極的に推奨。日本酒関連のイベントの多くでも、無料でお水が配布されています。

昔気質の年配の男性の中には、「酒を飲みながら水を飲むなんて野暮だ」などと言い放つ人もいますが、楽しく健康的に飲めるのが一番。

家族や友人など、周りの人たちにも是非お水をたっぷり飲むことをどんどん勧めてください。

 

悪酔いしないために、心がけておきたいこと

ガラス製のおちょこと徳利、そしておつまみの枝豆

「和らぎ水」を飲む以外にも、酔い過ぎや悪酔いを防ぐ方法はいくつもあります。

~空腹で飲まない~

お酒は食事とともに楽しむ、というのも、酔っぱらわないための大事なポイント。

筋金入りの呑兵衛の中には、おつまみなどに目もくれず、塩を舐め舐め飲み続ける、という人も時々見られます。

しかし、胃の中が空っぽの状態でお酒を飲むと、アルコールの吸収が速くなり、すぐに酔いが回ってしまうのです。

お料理と一緒にお酒を飲むと何が良いのかというと、胃の中の食べ物が粘膜の上に層を作ってくれること

この層によって、胃の荒れが軽減され、アルコールの吸収も遅くなるというわけなんですね。

お酒を飲む際には、お豆腐など良質なタンパク質をたっぷり摂るのがおすすめ

中でもチーズは、消化吸収されにくく胃の中に長時間とどまるタンパク質や脂質が豊富に含まれているので、アルコールの吸収を緩やかにしてくれます。飲む前に食べておくと、絶大な効果を発揮してくれますよ。

また、ネバネバ成分たっぷりの納豆やオクラ、長イモなども是非お酒のお供にしたい優秀食材。ネバネバの正体である糖タンパク質のムチンには、胃腸を保護してくれる効果があるんです。

飲酒の際に大量に消費されるビタミンB群が豊富な豚肉も、肝臓のアルコール代謝を促進してくれるため、酒飲みの強い味方になってくれます。飲み屋さんでは、焼きとんや豚の角煮など、豚肉料理を一品は注文すると良いでしょう。

また、鶏のから揚げやアヒージョなど油もの料理も、おつみまにはピッタリ。油分は胃での滞留時間が長く、アルコール血中濃度の上昇を緩やかにする効果があるのです。

~薬と一緒には飲まない~

お酒を飲んでいるときに薬を飲む、という行為は、結構やりがちなことではないでしょうか。けれど薬は、お酒と同様に肝臓で分解されるので、一緒に飲むと肝臓の負担が倍増

その結果、アルコールの分解に時間がかかってしまい、酔いが進んでしまうのです。

また、中にはアルコールの分解力を弱めてしまう薬もあるため、薬と一緒にお酒を飲む事はやめた方が良いでしょう。

 

「ちゃんぽん」は酔いやすいってホント?

テーブルに置かれたたくさんのお酒

ちゃんぽんとは、さまざまな種類のお酒を一度に飲むこと

「ちゃんぽんをすると酔っぱらう」という声をよく聞きますが、実は正確には、ちゃんぽんという行為自体が原因なのではありません

ちゃんぽんが危険なのは、アルコール度数の異なるお酒をいろいろ飲むことで、自分が一体どれだけ飲んだのか、わからなくなってしまうことにあります

そのため、ついつい量を飲みすぎてしまい、肝臓が処理しきれなくなってしまうのです。

居酒屋などの飲み放題コースでは、日本酒や焼酎、ビール、チューハイ、カクテル、ハイボールなど、これでもかと言わんばかりの豊富な種類のお酒がメニューにズラリと並びます。

たいていのお店では時間制限もある上、元を取りたいという気持ちもあいまって、次々といろいろなお酒を頼みがちになるのが、呑兵衛の常。

何をどのくらい飲んだのか、だいたいで良いので把握するようにしておきましょう。そして、飲むだけでなく、お水とおつまみをきちんと摂ることを、くれぐれも忘れずに。

 

日本酒は、他のお酒より太る??

グラスに入った日本酒で乾杯する仲間たち

「日本酒はカロリーが高くて太っちゃうからイヤ」と言って、日本酒を敬遠する女性を時々見かけます。

けれどこれは、まったくの誤解。酒類に含まれるアルコールは、1グラムあたり約7キロカロリー

日本酒も、それ以外のどのお酒でもこれは変わりません。つまり、摂取カロリーは、アルコール度数と飲んだ量で決まるのです

そして、アルコールのカロリーはすぐに熱として放出され、体内に蓄積されにくいことから「エンプティ(空の)カロリー」とも呼ばれています。

また、糖類を含んでいるとは言っても量はほんのわずか。つまり、日本酒だから太るというわけではないのです。

そうは言っても実際、飲み会の翌日は体重がグンと増えてしまったという経験を持つ人も少なくないでしょう。

かくいう私にも覚えがあります。実はこれはお酒のカロリーのせいと言うよりは、食べ過ぎでしまうのが最大の要因なのです。

日本酒に限らずどのお酒にも、食欲を増進させる効果があります。アルコールを摂取することで、血の巡りが良くなり胃液の分泌も活発になるため、食欲が増すというわけなんですね。

あとは、酔ってくると気が大きくなって、「ダイエットなんて明日からでいいや」という気分に陥りやすいということもあるかもしれません。

私もたびたびリミッターが解除されてしまい、翌日激しく後悔した経験が何度もあります。

確かに、健康のためにも美容のためにも食べ過ぎは避けたいところです。しかし、そうかと言って空腹で飲むのは、すぐに酔っぱらってしまう危険性が大。

先ほどご紹介したおつまみ類を適度に食べながら飲むようにすると良いでしょう。