
冷やして美味しく飲める日本酒が急増中!
昨今、お燗酒の魅力を再発見する人が増えているとはいえ、手軽に日本酒を楽しむためにも、冷やして飲むというスタイルはやっぱり大きな魅力。
しかも、近年バツグンの人気の高さを誇る吟醸酒や無濾過生原酒、スパークリング日本酒などは、いずれも冷やして飲むと美味しいタイプです。
かつて、ほんの30年くらい前までは温めて飲むのが当然だった日本酒ですが、冷やして美味しいタイプの日本酒をさまざまな形で生み出してくれた蔵元の方たちの熱意と努力には、ただただ感謝です。
特に、猛暑日なる日が当然のように毎年やってくる、このところの暑すぎる日本の夏には、冷酒はもはや生きる上での必須アイテム。
氷をたっぷり入れたグラスに注いだキンキンに冷えた日本酒を飲むと、「今年も夏がやってきたなぁ」と実感します。
ビギナーは、冷酒から入ると日本酒と仲良くなれる
冷酒は、日本酒が大好き!な人にはもちろん、まだあまり飲んだことがないという人に特にオススメしやすい飲み方です。
他のお酒類とは違って、幅広い温度帯で楽しめるのが日本酒の醍醐味です。とは言うものの、日本酒に慣れていない人にとっては、お燗することで立つ独特のふくらみのある香りやアルコール臭に苦手意識を持つ人も多いのが現実でしょう。
そんな日本酒ビギナーに是非飲んで欲しいのが、冷酒です!ビールやハイボール、酎ハイなど、たいていのお酒は冷やした状態で飲みますよね。
こういった冷たいお酒に慣れている人にとっては、日本酒も冷酒なら違和感なく馴染んでいけるはず。食前酒や乾杯酒には、最近人気急上昇のスパークリング日本酒も良いでしょう。
キリッと冷やしていただくと、従来の日本酒にはなかった爽快な炭酸ガスとスッキリした喉越しが楽しめて、日本酒への固定観念を覆すこと必至です!
また、冷酒はワインのように楽しむことができるのも大きな魅力。吟醸酒などの芳醇で繊細な香りを味わうには、ワイングラスがピッタリです。
それに、ワイングラスで飲むと、スタイリッシュなオシャレ感が演出できるのも嬉しいところ。
日本酒はカッコ悪い、おじさんくさいなどと敬遠しがちだった女性の間でも、ワイングラスでいただくスタイルが人気を集めています。インスタグラムなどSNS映えもばっちりですしね。
ちなみに、2011年からは、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」というコンテストもスタートしました。
ワイングラスで日本酒を飲むスタイルの普及を通じて、3つのボーダー(世代・料理ジャンル・国)を超えて日本酒の登場シーンを増やし、広く需要を拡大することがその趣旨です。
審査員は、日本醸造協会顧問や、日本酒造組合中央会理事などの酒造技術者や、流通関係者、酒類ジャーナリストなどおよそ35名のプロフェッショナルたち。ブラインドで官能審査をおこない、7段階で評価します。
9回目となる2019年には、日本全国の250社から883点ものエントリーがあり、年々規模が大きくなっている注目のコンテストです。
美味しい冷やし方
上手に冷やすことで、冷酒の味わいはさらにアップします。美味しく飲める冷やし方をご紹介しますね。
・氷水に浸けて冷やす
ボウルや桶などに氷水を張り、瓶ごと、あるいは日本酒を入れた徳利を冷やす方法です。
優しく柔らかな味わいを残しながら、香りや味わいの全体的なバランスを取ることができます。いちばんオススメしたいのが、この方法です。
・冷蔵庫で冷やす
冷蔵庫に入れて冷やすという、とってもお手軽な方法です。
ただ、冷蔵庫の中の空気とともにじわじわと冷えていくので、氷水に浸けた場合と比べて、全体的にどこかボヤっとした味わいになる傾向があります。
・冷凍庫で急速に冷やす
冷凍庫に入れて冷やすと、あっという間に温度を下げることができます。
急いで冷やしたいときには便利な方法ですが、香りと味わいが閉じ込められ、こもった固い印象になってしまいます。
便利でオシャレ!冷酒グッズも活用しよう
・冷酒カラフェ
ガラス製のカラフェの胴体に、氷を入れるポケットが付いているものです。日本酒を薄めることなく、ひんやりした冷たさをしっかりキープすることができます。
ポケット部分のみ鮮やかなブルーや、爽やかなグリーン、上品なパープルの色ガラスを用いたものなどバリエーションはとっても豊富。
また、本体部分に、雪月花の模様をあしらったものや、金箔を施したものもあり、好みや季節に応じて選べるのも嬉しいところです。
・ガラス製 地炉利
コーヒーや紅茶などの茶器で有名なメーカーのハリオでも冷酒器を作っています。ティーポットを思わせるオシャレで上品なデザインが魅力で、洋風のインテリアにもピッタリです。
付属の氷入れに入れた氷がお酒に直接触れないので、お酒を薄めずに保冷することができます。ガラス製なので、見た目もとっても涼しげ。
丸いフォルムのものや八角形のタイプのものなど、いろいろなデザインが用意されています。
・陶磁器製 冷酒クーラーセット
ガラス製もいいけれど、和のテイストを楽しみたい方には、陶磁器の酒器はいかがでしょう。
いちばん大きな器にステンレスの筒を立て、その中に日本酒の入った徳利を入れる冷酒クーラーセットです。
周りに氷をたっぷり入れることで、冷酒の温度をしっかりキープし、最後まで美味しい冷酒を楽しむことができます。
ガラス製はすぐに割れてしまいそうで心配という人や、外国人の友人や知人を日本らしい演出でおもてなししたいという人にもピッタリです。
正解は、ひとつじゃない!いろいろな飲み方で自由に楽しもう
~キリッと爽快!コールド編~
・オンザロック
氷を入れたロックグラスに日本酒を注いで飲むスタイルです。無濾過生原酒など、濃厚でしっかりした味わいのお酒や、アルコール度数の強いお酒にピッタリの飲み方で、たちまち夏仕様に変身します。
オンザロックで美味しい日本酒の代表格ともいえるのが、木下酒造(京都府京丹後市)が醸す純米吟醸無濾過生原酒「Ice Breaker(アイスブレイカー)」でしょう。
氷の溶け具合にしたがって温度やアルコール度数、味わいの変化をエンドレスで楽しめます。
ちなみに、Ice Breakerとは英語で「緊張をほぐすもの、場や雰囲気を和やかにするもの」の意味。コミュニケーションツールとしても役立ってくれる日本酒にふさわしいネーミングですね。
イギリス人杜氏フィリップ・ハーパーさんを抱える蔵だけあって、英語のセンスがキラリと光っています。ペンギンをあしらったラベルのデザインも涼やかでとってもキュート。
あまりの人気ぶりで、毎年、酒屋さんたちの間で争奪戦が起こっているそうです。
・水割り
グラスに日本酒を注ぎ、お水で割るというスタイルです。お水の量は好みにもよりますが、
オススメの目安は、「日本酒:水=8:2」。引き締まった味わいにしたければ硬水を、ソフトでのびやかな味わいにしたければ軟水を使うと良いでしょう。
度数が高めの原酒や、生酛・山廃酛仕込みのタイプに適した飲み方です。
・日本酒ハイボール
たっぷりの氷を入れたグラスに日本酒を注ぎ、炭酸水で割って飲むというスタイルです。ハイボールと言えばウィスキーを使うのが一般的ですが、日本酒もなかなかイケるんですよ。
クリアな爽快感を味わいたいのなら、お水は「ウィルキンソンタンサン」「伊賀の天然水強炭酸水」などといった強炭酸タイプがオススメです。
どちらも甘味料やフレーバーが入っていないため、日本酒本来の旨味や甘味を損なうことなく、心地良いスッキリ感をプラスしてくれます。
柚子やスダチ、カボスといった和の柑橘類のスライスを少し加えると、さらにスッキリとしたフレッシュ感が味わえます。ついつい飲みすぎてしまうことだけが難点です(笑)
・日本酒サングリア
女性や日本酒ビギナーでも、抵抗なくスイスイ飲めるのがこの日本酒サングリア。
作り方はとってもカンタン。お好みのフルーツと日本酒を密閉容器に入れて、冷蔵庫で数時間寝かせるだけ。
カラフルな果物がたっぷりで見た目も華やかだから、ホームパーティなどにもピッタリです。
「日本酒×フルーツ」という意外性のある組み合わせということもあり、SNSに投稿すると、きっと評判になりますよ。
・日本酒モヒート
本家本元のモヒートはホワイトラムで作りますが、これは日本酒バージョン。
あらかじめ冷蔵庫でよく冷やしたロンググラスに、ミントの葉、氷、日本酒、炭酸水を入れ、ライムを添えれば完成です。
夏場やお風呂上がりにはたまらない、爽やかマックスなドリンクなので、是非試してみてください。
・日本酒ジンジャーエール割り
ハイボールにも使うことの多いジンジャーエールで日本酒を割るという飲み方です。
オススメの割合は、「日本酒:ジンジャーエール=1:1」。日本酒ビギナーでもゴクゴクいけること請け合いのカクテルです。
ジンジャーエールは、ドライなタイプのものを選ぶと良いでしょう。
・みぞれ酒
みぞれ酒とは、日本酒をシャーベット状に凍らせたものです。
日本酒は、通常マイナス8℃くらいで凍ってしまうのですが、専用の冷蔵庫でゆっくり静かに冷やすことで、マイナス15℃くらいまで液体の状態を保つことが可能になります。これを“過冷却”と言います。
この状態だと、ちょっとした振動で一気に氷結するため、グラスに注ぐと、まるでシャーベットのようなみぞれ酒ができあがるというわけです。
雪景色を思わせる真っ白な美しさは、バツグンの清涼感。ひと口含むと、みぞれが口の中で優しくフワッと溶けて、味わいと香りが広がります。
オトナだけが楽しむことを許されたシャーベットは、試す価値大です。飲み屋さんやバーなどで見かけたら、迷わずトライしてみてください。
また、自宅で手軽に作ってみたいという方には、玉乃光酒造(京都府京都市)のみぞれ酒専用酒を使えばカンタンです。
商品名は、「純米吟醸 玉乃光『みぞれ酒』青パック」。お好みのジュースやリキュールで割ってオリジナルカクテルを作るのも楽しいですよ。
・にごり酒カクテル
甘味と旨味がたっぷりなタイプの活性にごり酒は、ダークラム(濃い褐色で風味の強いラム酒)を2~3滴垂らして飲むという、“和洋酒折衷”な飲み方もアリです。
オススメのにごり酒は、鈴木酒造店(山形県長井市)が醸す、夏限定の「標葉(しねは)にごり」。蔵元さんでは、このにごり酒を牛乳で割るのも推奨しています。
「日本酒×牛乳」という発想は、初めて聞いた時は奇想天外すぎる感じもしましたが、いざやってみると予想を超えた美味しさにビックリ。夏バテ防止にももってこいの飲み方ですね。
~ほっこりぬくぬく!ホット編~
・お湯割り
グラスにまずお湯を入れ、その後に日本酒を注いで作ります。お湯の量のオススメの目安は、水割りと同様「日本酒:水=8:2」。
魚介料理に合わせるときは硬水を、野菜料理と一緒に飲むときは軟水をお湯にして使うと、それぞれの料理の持ち味に寄り添ってくれますよ。
・割り水燗
日本酒を、10%程度のお水で割ってからお燗をするという方法です。昨今、ちょっとした人気を集めている飲み方なんですよ。
ちなみに、ポイントは割水をした後しばらく置いてからお燗をすること。お水とお酒のなじみがグンと良くなるのでオススメです。
・そば湯割り
そば湯割りというと焼酎で作るイメージが強いですが、実は日本酒でもイケるんです!
そばの甘味と日本酒の旨味が互いを引き立て合い、日本酒の香りの中から、そばの香りがふわりと漂ってくるのがたまりません。お好みで、少し塩や七味を入れても美味しいですよ。
・ダシ割り
おでんのダシと日本酒を混ぜていただくという、実に斬新な飲み方もあるんです。日本酒好きといえども、このやり方は未体験という人も多いのではないでしょうか。
このダシ割りを出す店として有名なのが、東京・赤羽の立ち飲み店「丸健水産」。
赤羽は、せんべろ(1000円でべろべろに酔えるお店のこと)など、昼間から安く飲める居酒屋が数多く集まった、吞兵衛にとってのディープな聖地です。中には早朝から営業しているところや24時間営業のところもあるんですよ!
日本酒のダシ割は、「丸健水産」の人気裏メニューのひとつ。半分くらい飲み終わったカップ酒をレジに持っていくと、おでんのダシを入れてくれるんです。
塩味のあるカツオのダシが日本酒の旨味や甘味を引き出し、ビックリするほど見事にマッチします。お好みに合わせて七味をかけるのもGOOD!ピリッとしたアクセントで、違った表情の味わいを堪能できますよ。
・イカ徳利酒
イカの胴の干物を徳利の形状に加工したのが、その名も「イカ徳利」。この徳利に熱燗の日本酒を注ぐと、イカの風味が溶け出して広がり、お酒にしっかりイカの香りと風味が移ります。
イカ徳利は、数回使った後は、なんと食べることもできるのがミソ。お酒が染みたイカを炙れば、あっという間におつまみへと大変身。ひとつで二度美味しい、お得感あふれる酒器なのです。
ちなみに、徳利は個体のイカを使って加工しているので、ときには少しお酒が多少漏れる場合もありますが、これもご愛敬。酒飲みの懐の深さで、それごとまるっと楽しんでください。
・ひれ酒
こんがりとキツネ色になるまで炙ったフグなどのひれをコップに入れ、熱燗のお酒を注ぐというスタイルです。
飲み屋さんのメニューでも見かけることの多い、昔からあるポピュラーな飲み方ですね。蓋をして3分くらい蒸らすと、ひれの香ばしさや旨味がしっかりと日本酒に移ります。
寒い季節に、ほかほかの鍋料理とともにいただくと、もう最高!「日本人に生まれて本当に良かった」と感じるひとときを与えてくれる飲み物ですね。
自宅で作る場合、お酒は純米酒よりも本醸造がベター。純米酒は、ひれ酒にすると味が少しくどくなってしまうこともあるので、まずは是非本醸造で試してみてください。
また、ひれを焼くのは加減が難しい、面倒くさいという人は、お手軽なひれ酒のモトを使うとカンタン確実です。
オススメは、とらふぐの本場・天草海産(熊本県上天草市)の「ひれ酒用とらふぐの焼きひれ」。遠赤煤煙加工で仕上げているので、焼きひれ本来の香りと風味をあますことなく堪能することができますよ。
・骨酒(こつざけ)
丸焼きのイワナや鮎を入れた鉢に熱燗を注いでいただくという、なんとも豪快な飲み方です。魚から出るダシのエキスが日本酒に移り、香ばしくてそれは美味しいお酒になります。
使うお酒は、安いパック酒やカップ酒で十分。というより、むしろオススメです。
魚を丸ごと入れやすいようにと、魚をかたどった横長タイプの徳利も作られています。仲間内など大勢で飲むときに、盛り上げ役として大活躍してくれること必至な珍アイテムです。
・他にもいろいろ!変わりお燗酒の可能性は無限大
お燗酒のバリエーションはまだまだあります!
魚介類を使ったものだと、「でべら酒」というのも酒飲みならば一度は試してみたいもの。
でべらとは、広島県尾道市の冬の風物詩とも言える魚で、正式名称は「タマガンゾウビラメ」。
軽く炙ったでべらをコップに入れ、その上から熱燗を注いでいただきます。尾道に行ったら是非飲んでみてください。
ちなみに、尾道の人々の、でべらへの愛はかなりディープ。尾道市非公認しかし尾道市長公認という「でべらーマン」なるご当地ヒーローも誕生。乾物屋さんの店主が、でべらの魅力をPRするために、でべらの被り物で奮闘しています。
あと、忘れてならないのは「甲羅酒」。
中身を食べ終わったカニの甲羅(カニ味噌を少し残しておくと、さらに美味しくなるのでオススメです)に日本酒を注ぎ、火にかけた網の上にのせて、ぐつぐつと煮立たせたら完成です。
手に持つと熱いですが、やけどに気をつけつつ甲羅から直接飲みましょう。カニの風味を堪能できること請け合いです。
ほかには、「昆布酒」なるものも存在します。
NHKの朝ドラ『ごちそうさん』に登場したことから、一気に知名度が上がりました。作り方は、いたってシンプル。日本酒に昆布を入れて、湯煎にかけてゆっくりと温めるだけです。
日本酒の品質が今ほど良くなかった時代、お酒の味をよりまろやかにして楽しむための知恵だったとか。ダシが美味しい乾物は、お酒に漬けることで、旨味成分が溶け出すのだそうです。
安いお酒を上等なお酒へとグレードアップしてくれるこの昆布酒。お給料日前など、ちょっとお財布事情がキビしい時には、実にありがたい存在ですね。
魚介類以外だと、ユニークなところで「イモ酒」をご紹介します。
『鬼平犯科帳』に登場した飲み方なので、池波正太郎ファンならご存知かもしれませんね。作り方は、小さく切った山芋を熱いお湯に浸し、すり鉢で丁寧にすり、そこに温めた日本酒を入れれば出来上がり。山芋たっぷりで、とっても精がつきそうですね。
これらのほかにも、燗酒に梅干しを加える「梅干し酒」や、塩漬けの桜の葉を入れる「桜酒」など、美味な飲み方はまだまだたくさんあります。
先人の酒飲みたちの創意工夫には頭が下がります。それだけ日本酒が欠かせない存在だったのでしょう。
世界中の食材や飲み物が手に入る現代の日本。自分で新たに面白い組み合わせを見つけて、オリジナル酒を考えるのも楽しそうですね。