
飲みたい日本酒を見極めるために大事なのは、データなどの「情報」だけではありません。ここでは、知識に頼らない選び方についてご紹介します。
「ジャケ買い」のススメ
CDやレコード、DVDや本などを、内容を知らないのにもかかわらず、直観的にカバーのデザインに魅かれて買うことを「ジャケ買い」と言いますよね。日本酒でも、この「ジャケ買い」はおススメの方法の1つなんです。
昨今、日本酒はクォリティがどんどん良くなっていますが、同時にラベルにもこだわった個性的なデザインの日本酒がすごく増えているんですよ。中には専属のデザイナーを抱える酒蔵まであるとか。
思わずくすっと笑ってしまうユニークなデザインから、ワインのようにスタイリッシュなもの、さらには萌え系キャラをあしらったものやアニメとコラボしたものまで、まさに百花繚乱なのが現代の日本酒なのです。
「ジャケ買い」は、「どのお酒を選べばいいのかわからない」という日本酒ビギナーの人にとっても、さらなる新たな出会いを求める日本酒ファンにとっても楽しいもの。味を想像しながら遊び感覚で選べるので、とってもワクワクします。飲んでみて、思っていたとおりの味わいだったときは、「私、すごい!」と自画自賛したくなります。
ここでは、特に個性的なラベルデザインにこだわる酒蔵をいくつかご紹介しますね。
・三芳菊酒造(徳島県三好市)
「ラベルのデザインもひとつのメッセージ」というポリシーを掲げる三芳菊酒造。「えっ!これが日本酒?」と思わず驚きの声を上げてしまうような、従来の日本酒とはまったく異なるテイストの斬新なデザインで有名な酒蔵です。
ポップでカッコかわいくて個人的にお気に入りなのが、ギターラベルのシリーズ。蔵元自身が大の音楽好きということで、「リッケンバッカー」「ギブソンレスポール」「フェンダーストラトキャスター」などのギターを女の子が抱えるデザインは、日本酒の概念を覆すインパクトでした。
また、蔵元の3姉妹の長女の綾音(あやね)さん、次女の織絵(おりえ)さん、三女の胡春(こはる)さんの姿をイラストにしたシリーズも、ちょっと萌えキャラっぽくてキュートです。
ちなみに、試飲感覚で気軽に楽しめるよう、「ワンカップ三芳菊」なるものも販売されているので、気に入ったデザインのお酒をお試しでいろいろ買ってみるのもオススメです。
・冨士酒造(山形県鶴岡市)
私がもっともジャケ買いをしてしまうのが、「栄光富士」を醸す冨士酒造です。
ときどき訪れる角打ちのお店で物色していたところ、一目見て即、手に取ったのが「ZEBRA(ゼブラ) 純米大吟醸無濾過生原酒」。
白黒のシマウマの姿がドーンとあしらわれたデザインは、一度見たら忘れられません。あととても気に入っているのが、「SURVIVAL(サバイバル) 純米大吟醸無濾過生原酒」。
「サバイバル」の名前どおり、迷彩柄のラベルが実にワイルドでカッコいいんです。男性へのプレゼントにするのも良いかと思いますよ。
・白糸酒造(京都府宮津市)
アニメとのコラボ日本酒で全国に名をはせるのが、老舗酒蔵の白糸酒造。十代目の宮崎美帆さんが「新しい日本酒の形に挑戦したい!」という想いから始まりました。
第一弾は、2013年に発売された『装甲騎兵ボトムズ』とのコラボ酒「最低野郎(ボトムズ)」。イラストがなく、ただ白いラベルに黒文字で最低野郎とだけ書かれた日本酒は、その見た目のインパクトで大いに話題になりました。
その後、『攻殻機動隊』『ベルセルク』『弱虫ペダル』『黒子のバスケ』など新旧のアニメ作品と次々にタイアップ。
アニメ好きな人にはたまらないラベルの商品が目白押しな白糸酒造は、いったい次はどの作品とコラボするのか、今後も目が離せません。
ネーミングで選ぶのも「アリ」
銘柄の「名前」で選ぶというのもエンターテインメント要素が強く、入門者にもおススメの方法です。
今は本当に個性豊かなネーミングのものが多いのでここでは書きれませんが、いくつか私のお気に入りをご紹介しますね。
・「死神」加茂福酒造(島根県邑智郡邑南町)
蔵元曰く、「日本一縁起の悪い名前のお酒」。その誕生は、今からおよそ20年前の淡麗辛口ブームの頃です。
「流行と真逆のお酒を造ったらおもしろいのではないか」というアイディアからこのお酒は生まれました。テイストは淡麗辛口とは真反対の芳醇旨口の純米酒。
名前も、おめでたいイメージとは逆をついて、蔵元の好きな落語の演目「死神」からつけたのだそうです。おどろおどろしいフォントで「死神」とシンプルに記されたラベルは強烈なインパクト。
ちなみに、反転した文字で書かれたラベルが印象的な通称「ウラ死神」というバージョンもあり、こちらは不気味さがさらに倍増しています。
・「メガネ専用」萩野酒造(宮城県栗原市)
「メガネの、メガネによる、メガネのための日本酒」がこのお酒のコンセプト。
蔵人の8人が全員メガネをかけていること、そして「日本酒の日」の10月1日が「メガネの日」でもあることから、蔵元の佐藤曜平さんが思いついたのだそうです。
ラベルには、視力検査に使うアルファベットのCのようなマーク「ランドルト環」をあしらうなど、遊び心満載。
世に出るや瞬く間に話題を呼び、販売するとすぐに売り切れてしまう人気商品です。
・「富久長 海風土(シーフード)」今田酒造本店(広島県東広島市)
私も初めて漢字を見たときは読み方がわからなかったのが、この「海風土」です。
酒蔵の地元は、牡蠣をはじめとする「シーフード」の宝庫。地元の海が育む魚介類を美味しく食べてもらいたいということで造られました。
クエン酸をたっぷり生成する白麹菌で醸しており、レモンなどの柑橘を思わせる爽やかな酸味がたまりません。
一般的な日本酒に比べて酸度が高いので、白ワインの感覚で楽しむことができる、とてもキレイなお酒です。
・「8:00pm」福光屋(石川県金沢市)
「午後8時からの大人の楽しみを届けたい」、そんな想いでから命名された逸品。
大人になりたての若い世代に親しんでもらえれば、という願いがこもっているそうです。
・「タクシードライバー」喜久盛(きくざかり)酒造(岩手県北上市)
映画好きな人ならこの名前にすぐピンとくるかもしれません。
1976年公開のアメリカ映画で、監督はマーティン・スコセッシ。主演を務めたのは名優ロバート・デ・ニーロ。ジョディ・フォスターが娼婦アイリス役を13歳にして演じたことも大きな話題を呼んだ名作「タクシードライバー」にちなんで名付けられたお酒です。
ラベルは昔の映画ポスターを彷彿とさせるようなデザインで、デニーロの顔のアップをイエローキャブを思わせる黄色×黒の市松模様がはさんでいます。通称「タクドラ」。
・「嫉(そね)み」喜久盛(きくざかり)酒造(岩手県北上市)&「妬(ねた)み」三芳菊酒造(徳島県三好市)
喜久盛酒造と三芳菊酒造の衝撃のコラボ日本酒が、「嫉み」と「妬み」。そう、合わせて「嫉妬」です。
強烈なネーミングのこれらのお酒は、個性あふれる2つの酒蔵が、使用する酵母を取り換えて造ったのだとか。セットで飲みたくなること間違いなしの2本です。
私も酒仲間と行った飲み屋さんで見つけて、もちろんそうしました。場を大いに盛り上げてくれるのも嬉しいパワフルなお酒です。
■瓶の色からも、だいたいの傾向がイメージできる!?
瓶の色というのも、実は外側から見て味わいを想像するためのヒントになるんです。「瓶の色は、味わいやイメージでチョイスしている」と明言する酒蔵もあるくらいですから、重要な情報源になるというわけですね。
一般的な日本酒の瓶は、紫外線からお酒を守るために、濃い茶色か緑色がよく使われています。しかし、昨今では、透明な瓶も見かけるようになりました。
透明だと紫外線を通すので品質をキープするのが難しいとされていますが、にごり酒などはお酒の色合いを見せるために透明な瓶を使うケースも多いです。
また、夏酒など清涼感を印象付けたいものには、ライトブルーの瓶を使うことも。
高価な純米大吟醸などには、高級感を演出するために黒い瓶も使用されています。黒い瓶には、艶感のあるタイプと、艶消しタイプのフロスト瓶の2種類があります。
ちなみに黒い瓶は実際に瓶自体の値段が高く、艶感のあるタイプよりフロスト瓶の方が値が張るのだとか。
最近では、瓶・ラベル・デザインの3点を合わせて、トータルコーディネートしている酒蔵も増えてきているそう。オシャレな日本酒がどんどん登場してくると、SNS映えも楽しめるので嬉しいですね。
■超簡単!ピンポイントで選べる、食べ物に特化した日本酒なら失敗なし!
食べたいものが決まっているときは、ピンポイント銘柄をチョイスするのが簡単かつ確実なのでオススメです。
実は近年、多くの酒蔵が特定の食べ物に合わせるためのお酒を次々と世に送り出しているんですよ。食べ物の種類に分けてご紹介していきますね。
~お肉編~
・焼き鳥
「94(きゅうじゅうよん)」玉乃光酒造(京都府京都市)
定番中の定番のおつまみ・焼き鳥にピッタリの日本酒を造りたい!ということから開発がスタートしたお酒です。
しかし、味の感じ方や相性の捉え方にはどうしても個人差があることから開発は難航。そこで、第三者の客観的な判断を求めて、AI(人工知能)を搭載した味覚センサー「レオ」を使用し、焼き鳥との究極の相性の良さを実現することができました。
塩味の焼き鳥とももちろんよく合いますが、特にタレ味の焼き鳥とのペアリングが最高だとか。お燗にしてタレ味の焼き鳥と食べ合わせると、なんと相性度は 97.8%という驚きの数値が出たそうです。進化を続けるAIは、今や日本酒の世界にまで進出しているんですね。
・骨付き鶏
「讃岐くらうでぃ」川鶴酒造(香川県観音寺市)
骨付鶏というのは香川県の人気ご当地グルメのこと。骨付きの鶏もも肉を塩コショウ、ガーリック、スパイスなどで味付けし焼き上げたお料理です。
このスパイシーな味わいに抜群に合うお酒を目指し開発されたのが「讃岐くらうでぃ」。「くらうでぃ」という名前から想像されるとおり、白く濁っていてクリーミーに仕上がっています。
また、乳酸飲料のように甘酸っぱく、言ってみれば「大人のカルピス」的な味わいなのもこのお酒の大きな特徴です。
その秘密は、通常の3倍の量の麹。しかも焼酎用の白麹菌を使っているので、クエン酸がたっぷりなんです。アルコール度数も6%と低く、一般的な日本酒と比べてかなり飲みやすいので、あまりお酒が強くない人でもぐいぐい進みます。
骨付鶏以外にも、全般的に鶏料理との相性はピッタリ。鶏のからあげ、軟骨のからあげなどとも良く合いますよ。ちなみに、オススメの飲み方はオンザロックだそうです。氷を入れると味わいが七色に変化するのだとか。是非お試しください!
・ビーフステーキ
「COWBOY YAMAHAI(カウボーイヤマハイ)」塩川酒造(新潟県新潟市)
お肉料理に合う味わいであることと、アメリカ市場を開拓するという意味を込めて「カウボーイヤマハイ」と命名されたこのお酒。名付け親は、アメリカで最初の地酒専門店を開いたボー・ティムケン氏です。
このお酒がお肉に合う理由は、山廃仕込みに由来する、たっぷりと存在感のある「酸味」と、やわらかくすっきりとした「旨味」。
塩焼きかガーリック醤油のソースにレモンやわさびを添えたステーキと一緒にいただくのが最高だそうです。
・ジビエ
ジビエとは、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味するフランス語です。
山野を活発に駆け回っていたイノシシやシカや野ウサギ、自由に空を飛んでいた山鳩やマガモやキジなどの天然のお肉は、脂肪分が少なく引き締まっており、かつ栄養価も高いとあって、ここ数年日本でも人気が高まっています。
ここでは、そんな注目のジビエ料理にフォーカスした日本酒を2種類ご紹介しますね。
① 「無手無冠(むてむか) gibier(ジビエ)」無手無冠(高知県高岡郡四万十町)
日本最後の清流とも呼ばれている四万十川。その中流域の山間部に位置する四万十町では、古くからジビエ猟が盛んにおこなわれています。
野性味あふれるジビエの濃厚な肉汁や脂に負けない、力強さと濃醇な味わい、そしてほどよい酸味が心地よいお酒です。
② 「純米吟醸 ジビエ」梅乃宿酒造(奈良県葛城市)
ふくよかで深みのある味わい、そして力強い酸味が堪能できるお酒で、ジビエ料理との相性の良さはさすがです。
常温や冷やでも美味しくいただけますが、お燗をするとさらにGOOD!
~魚介編~
・サバ
鯖専用日本酒「SABA de SHU(サバデシュ)」吉久保酒造(茨城県水戸市)
酒蔵のある茨城県は、実はサバの水揚げ高が日本一。国内シェアにして25.7%を占めるサバ大国なのです。そのご自慢のサバと一緒に味わって欲しいと生まれたのが、この「サバデシュ」というわけなんですね。
私も実際に合わせてみましたが、サバ特有の生臭さを押さえつつ旨味を引き出してくれているな、という印象を受けました。
ちなみにラベルには「〆鯖、焼鯖、鯖煮とサバざまな鯖料理と共にお楽しみ下さい」という、ちょっとさかなクンぽいおちゃめなコメントが記載されてます。なんだかなごみますね。
・サンマ
「秋刀魚と呑む越路乃紅梅」頚城(くびき)酒造(新潟県上越市)
たっぷり脂ののった旬の秋刀魚の味わいに負けない旨味と、濃厚な口当たりと豊かな香り、 酸味もあるキレ味の良い後口が魅力の1本です。
8月下旬から11月末頃までの期間限定で販売されています。
・牡蠣
「IMA(アイ・エム・エー) 牡蠣のための日本酒」今代司酒造(新潟県新潟市)
創業250年の老舗酒蔵が3年かけて開発した、牡蠣と一緒にいただきたい日本酒です。
白ワインを思わせるような甘酸っぱさとジューシーさが牡蠣の生臭さを抑えて旨味を引き出してくれます。
牡蠣の味に合うだけではなく、お酒に含まれているリンゴ酸が「海のミルク」とも呼ばれる牡蠣の豊富な栄養分を体内に摂り込む手助けもしてくれるのだとか。ちなみに、牡蠣にかけるのもおススメだそうです。
~その他和食編~
・油揚げ
「舞鶴 鼓 鶴と油揚げ 本醸造」恩田酒造(新潟県長岡市)
「地元の食べ物に合うお酒を造って欲しい」という新潟の酒屋さんからの依頼で生まれたのがこのお酒。
長岡市の名産といえば、何と言っても「栃尾の油揚げ」。通常の3倍もある大きさが特徴で「厚揚げ」と間違える人も多いジャンボサイズかつ肉厚な油揚げです。
そのまま焼いて薬味を載せ醤油をかけて食べるときは「冷酒」、油揚げの間にネギや納豆を挟んで食べるときは「燗酒」がおススメだそうです。
・うどん
「金陵 うどんに合う酒 純米」西野金陵(香川県仲多度郡琴平町)
うどんの生産量・消費量ともに日本一のうどん県・香川ならではのお酒ですね。
「蕎麦×日本酒」という組み合わせはポピュラーですが、「うどん×日本酒」という組み合わせは新鮮な驚きでした。
落ち着いた香りとしっかりとした味わいで、常温でいただくと特に讃岐うどんのいりこ出汁に実に良く合います。
~お菓子編~
・チョコレート
「I LOVE CHOCO」寒梅酒造(埼玉県久喜市)
チョコレートのために生まれた日本酒です。
日本酒の新たな楽しみ方を提案するために、寒梅酒造と、日本酒を中心に約100種類のお酒が飲み比べできる「KURAND SAKE MARKET(クランドサケマーケット)」を運営するKURANDが共同で企画・開発したものです。
約10年間寝かせた熟成古酒で、ウイスキーのような高い香りが特徴です。熟成古酒とチョコレートは相性の良いことで知られていますが、この「I LOVE CHOCO」は、特にチョコレートの風味を包み込むコクと、まろやかさを引き出してくれるんです。
オススメの温度は約40℃。温めることでホットウイスキーのような芳醇でふくよかな味わいを堪能できます。スイーツ女子にもピッタリですよ。
・アイスクリーム
「達磨正宗 アイスクリームにかけるお酒」白木恒助商店(岐阜県岐阜市)
アイスに日本酒をかけるという斬新なコンセプトで造られた熟成古酒。
この酒蔵では、かねてより疲れた時にアイスに古酒をかけて癒されていたことから、この楽しみ方をもっと多くの人に伝えたいという想いを込めて生まれたのだそうです。
どの古酒を使うかを決めるまでが苦労の連続で、110種類以上ある古酒の中から選び出す試行錯誤の作業が続いたそうです。
お値段が安くあっさりしたラクト系のバニラアイスにかければ、たちまち高級アイスに早変わりするという優れもの。一度やると病みつきになる人が続出しているとか。
酒屋さんに教えてもらおう!
日本酒選びは、相談に乗ってくれる人がいればとても楽ですよね。
重量があることもあってネットで買う場合も多い日本酒ですが、酒屋さんに足を運んだ時には、お店の人に相談に乗ってもらうことをオススメします。
何と言っても、酒屋さんはプロ中のプロ。日本酒のことに熟知している絶好の相談相手であり師匠です。
「こんなことも知らないなんて恥ずかしい」「売りつけられたらどうしよう・・・」などと深く考えすぎずに、どんどん話しかけていろいろ教えてもらいましょう。
日本酒そのものについてだけでなく、プロだけが持つ貴重な情報や業界の裏話まで聞けちゃうかもしれませんよ。