ビールやワインと並び、最近若い世代や女性からの人気も高まりつつある日本酒。日本酒に合うこだわりの料理を提供するカジュアルなバーや居酒屋も増え、日本酒には詳しく はないとしても、思わず入ってみたくなる素敵なお店も増えています。しかし日本酒を試してみたいけれど、種類が多すぎて選ぶのが難しい、興味はあるけれど取っ掛かりが分からないと思うビギナーも少なくないのではないでしょうか。テイスティング(利き酒)の方法を少し覚えておくだけでも、お店の人とも会話が弾み、千差万別の日本酒の中から自分好みの酒を探すうちに、自分自身の日本酒の世界を広げることになるかもしれません。

 

テイスティングというとワインが思い浮かびますが、日本酒のテイスティング方法をご存知でしょうか?日本酒を提供する酒屋や飲食店では、日本酒の香りや味わいを記憶し、お客様の要望に応えられるお酒を提供できるように日々テイスティングの鍛錬を積んでいます。プロのように香りと味が複雑に混じり合う日本酒の味わいを見極めるには経験と技術が必要とされますが、一般人でも自分の好みの日本酒とはどういうものなのか、日本酒についてもう少し深く知りたい、自分の好みや好きな銘柄を探せるようになりたいと思う方は多いのではないでしょうか。

 

テイスティング(利き酒)とは

酒の味や香り、色などにより、酒の品質を判定することをテイスティング「利き酒」といいます。繊細な酒の味わいや香りを機械などで判定するのは難しく、人間の五感の内、視覚・嗅覚・味覚により行います。一般的なテイスティング(利き酒)の手順は、専用の酒器「利き猪口」の7分目まで酒を注ぎ、色や透明度を確認します。次に香りの性質や強さを確かめ、少量を口に含み、5〜10秒間舌の上で転がして味をみた後、飲み込まずに吐き出します。酒の名称や分類に香りや味を結びつけ、しっかりと覚えておきます。酒蔵が出荷前に酒質をチェックするためにする、官能検査時(人間の感覚:視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚など、を用いて製品の品質を判定する検査)や、利き酒師や酒匠(さかしょう)が使用するプロ用の利き猪口は、口径8cm、容量200mlで、小ぶりの湯のみ程度の大きさです。一般用はもう少し小さいサイズが多くなっています。形は、口が広がっていない寸胴系で、香りを逃がさずしっかりと嗅ぐことができます。素材は、酒の色味が分かりやすいように白地に表面がつるりとした時期茶碗です。利き猪口のそこには青い二重丸のヘビメ模様が入っています。これは酒の光沢を見るためのもので、わずかな濁りや、微妙な色の違いを判定することができます。

一般の人が居酒屋や酒店で酒の味比べとしてのテイスティング(利き酒)を行う場合は、香りや味を見極め、それぞれの酒の特徴を記憶していくことがポイントになります。あまり難しく考えずに、自分好みの酒を知る目的で、楽しみながらテイスティング(利き酒)を試してみましょう。自身の日本酒の世界を広げられるかもしれません。

 

テイスティング(利き酒)の目的

日本酒のテイスティングは、利き酒とも呼ばれ、もともとは造り手が酒の品質をチェックし、異常がないかどうかを調べることが目的でした。しかし近年日本酒のタイプも増え、香りの立つものも多くなったことで、ワインのように香味や味わいの特徴を評価し表現するテイスティングが一般的に行われるようになりました。

ひとことでテイスティングといっても利き酒師や製造者などのプロが行うテイスティングは、日本酒の特徴を判別し、的確に情報を伝えることが目的なので、厳しい減点法で行われます。一方で、一般的なテイスティングは、日本酒をもっと楽しむ目的で行われます。

テイスティング技術を磨けば、酒の個性や味わいを分かりやすい言葉で表現できるので、自分の好みの日本酒を探したり、相性の良い料理や飲み方を判断したりしやすくなります。

 

 

自分の言葉で表現してみる

利き酒

テイスティングは単に味を見るだけでなく、外観を見る、香りを嗅ぐ、舌で味わうという3ステップに分かれます。

まずは白色のお猪口やワイングラスに日本酒を注ぎ、視覚を使って外観をチェックしましょう。外観とは酒の色合いや透明度、粘度のことです。にごりの有無や色の付き方、とろみの具合は味や香りを想像するヒントになります。次に嗅覚を使って香りをチェックします。お猪口やグラスに鼻を近付けて日本酒から漂ってくる匂いを嗅ぎ、香りの強さ、香りの複雑性、ベースとなる香りは何か、香りの要素などを感じます。

最後に、味覚を使って味わいをチェックします。酒を少しだけ口に含み、息を軽く吸い込みながら口中全体、舌の上で転がします。口に含んだ瞬間のアタック、複雑性、甘辛度、酸度、テクスチャーやフレーバーを味わいます。これらを踏まえた上でテイスティングを行っていけば、好みの日本酒に出会えるチャンスがぐっと増えるでしょう。

酒の風味を表現するには「香り」と「味わい」を強弱で表すのが基本です。香りの強弱は「穏やか」と「華やか」で表し、味わいの強弱は「すっきり」と「濃厚」で表します。この4つの表現を組み合わせることにより、基本的な酒の特徴を言い表すことができます。

さらに具体的に日本酒を表現するのに、香りは2つ、味は5つの言葉があります。お猪口からすっと立ち上がる香りが「上立ち香(うわだちか)」、酒を口に含んだ時に鼻に抜ける香りを「含み香(ふくみか)」といいます。味は「五味(ごみ)」といわれる甘味・辛味・酸味・苦味・渋味の5つの味の要素で構成されています。

ラベンダー

それよりさらに一歩踏み込んだ表現方法にはどのようなものがあるのでしょうか。酒の味や香りを表す言葉はたくさんありますが、ビギナーは香りと味わいを何に例えるかを考えると良いかもしれません。例えば、華やかな香りのする酒であれば、ラベンダーやオレンジの花などの花の香りやリンゴやマスカット、桃などの果実に例えるなど、ためらうことなく自分の直感で表現してみましょう。

 

ワイングラスで日本酒を

ワイングラス

日本酒専門のバーや日本酒に力を入れている飲食店など、ワイングラスで日本酒を提供するお店が年々増えています。ワイングラスはお猪口よりも高さがある分、香りがこもりやすいので、日本酒の芳しい香りをより一層楽しむことができます。例えば、フルーティでエレガントな香りを持つ吟醸酒は、ワイングラスで飲むとその華やかな香りやほのかな香りがはっきりとし、より一層その香りを堪能できます。また一口で舌全体に味がいきわたるため、五味(甘味・辛味・酸味・苦味・渋味)をしっかりと味わえることも大きなメリットです。

見た目にもおしゃれなワイングラスはお猪口のように一気に飲み干す習慣もなく、ゆっくりと飲むことができるため、女性にとっても日本酒を手に取りやすいかもしれません。

普段使いできる安価なグラスはもちろんのこと、例えば、蔵元、日本酒の専門家をはじめ、約2000人のテイスティングを経て生まれた「大吟醸グラス」は、唇に当たるグラス部分が薄く作られており、飲み心地がよく、日本酒本来の味をダイレクトに感じることができます。日本酒の種類やシチュエーションに合わせて器を変え、日本酒との合わせ方を考える、味の違いを楽しみながら自分の好みを探すのも良いでしょう。また、ワイングラスは持ち歩きがしやすい形状のため、様々なジャンルの人々が集うパーティや懇親会などの機会に用意をして、ワイングラスを片手に会話を広げてゆく糸口とするのも良いのではないでしょうか。

 

料理とのマリアージュ

国内に限らず、海外での人気が高まる日本酒。世界各地のフーディの間では、和食に合わせるだけではなく、世界各地の料理とのマリアージュを楽しむことも多いそうです。

実は日本酒は大抵の料理に合うので、食中酒にぴったりなお酒なのです。例えば、生牡蠣にはシャブリのような辛口の白ワインが合うとされていますが、日本で育った新鮮な魚介類には、やはり日本の土壌で育まれた日本酒との相性が良いのです。一般的に、同じ土地で作られた食材と酒は相性が良いといわれています。また、日本酒には殺菌効果もあり、生臭さがなく旨味を存分に引き出してくれます。

日本酒と料理を合わせるポイントは双方の味の濃度を合わせることです。例えば淡麗な味わいの本醸造には、鯛やイカの刺身、しっかりとした味わいの純米無濾過生原酒にはすき焼きなど味の濃い料理を合わせると良いといわれています。揚げ物や味の濃いものには生ビールで口の中をすっきりとした方が美味しく感じるので、日本酒であれば淡麗の辛口酒を選んでしまいそうですが、飲み進めるうちに料理の味が酒に負けてしまい、次第にペースダウンしてしまうのです。

とはいえ味覚には個人差があるので、自身の舌で試してみるのが一番なのかもしれません。

また、日本酒の香りと料理を合わせるということもあります。吟醸酒の中にはりんご、洋梨、バナナ、メロン、マスカット、桃、ライチ、パイナップル、マンゴー、イチヂクなどフルーツの華やかな香りを持つものがあります。そういった日本酒には、イチジクと生ハムの前菜、ポークスペアリブのオレンジソース煮、フルーツチャツネを使ったカレーなどフルーツを使った料理がよく合います。家飲みであれば、生のフルーツやドライフルーツとフルーティな日本酒を合わせて、手軽に少し非日常的なおもてなしやアペロをすることができます。ちなみに、アペロはアペリティフ(食前酒)の略で、夕食の前に軽く飲みに行くことです。元々はラテン語の「aperire=開ける」が語源となっています。その意のとおり、食事の前に胃袋を開け、夕食に備えるという、グルメ大国フランスならではの理にかなった習慣であり、フランス人の文化には欠かすことのできない習慣なのです。

 

日本酒の温度

日本酒は、飲む温度により様々な味わいを楽しむことができます。基本的には、日本酒は冷やすと全体的に締まり、シャープな味わいになります。口に含むとすっきりとして、苦味や渋味、酸味などの味わいそのものが切れ味よく刺激が増します。一方で、日本酒を温めると、全体的に味はまろやかに、ふくらむようになります。香りが広がり、甘味がより一層引き立てられます。苦味や渋味、酸味などは旨味を増して一体となります。また、室温そのままの「冷や(常温)」の状態は、日本酒本来の味わいが最もよく分かります。

温めた「燗酒(かんざけ)」も「冷酒」も、それぞれ 5℃刻みの温度帯で呼び名が変わります。冷酒は15℃で「涼冷え(すずひえ)」10℃「花冷え(はなびえ)」、5℃「雪冷え(ゆきひえ)」と呼ばれています。一方で温めた燗酒は、30℃「日向燗(ひなたかん)」、35℃「人肌燗(ひとはだかん)」、40℃「ぬる燗」、45℃「上燗(じょうかん)」、50℃「熱燗(あつかん)」、55℃「飛びきり燗」と呼ばれています。温度により変化する味わいを試して、自分の好みを探してみましょう。

燗酒を楽しむ

やかんを使った熱燗

一般的に、美味しい日本酒は冷や(常温)でその酒本来の味を堪能し、そしてあまり美味しくない日本酒を燗にしてごまかすというイメージがあるのではないでしょうか。

実は、燗酒はもてなしの酒、寒い中訪れてきてくれた客人に芯から温まってもらうために手間と時間をかけて生み出した先人の知恵なのです。燗酒を楽しむためにまずは固定概念を捨てて、様々な日本酒を温めて飲んでみましょう。とはいえ開栓したてのお酒を燗酒にするのは気がひけるという方は、まず冷やで飲み、次に燗酒を試してみるのもいいかもしれません。同じ日本酒で様々な香りや味わいを楽しめると同時に、自分の好みの温度帯を見つけることができます。

例えば、フレッシュ感が魅力の生酒は燗をすることでアルコール感と角(かど)が取れ、まろやかな味わいになるといいます。また一方で高温な場所で長期間さらされた日本酒の劣化臭、老香(ひねか)の出たお酒を燗にすると、老香は影をひそめ、重たいと感じた味は複雑味へと変わります。

まとめ

日本酒は、酒米を作る農家、酒を醸す蔵人、そしてその酒を売る酒販店や料理と合わせて提供する飲食店の人々へと長い旅路を経て、ようやく飲み手のもとへとたどり着きます。

飲むごとに目や鼻、舌を通じて匠の技とおいしさを実感することができる日本酒。温度帯や酒器により表情を変え、飲み手に喜びと驚きを与えてくれます。無限に広がるバリエーションの中から、自分好みの日本酒を見つけるためにテイスティングの旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。