枡に入った米とおちょこに入った日本酒

普通酒と聞くと「なんの特徴もない、あまり美味しくない日本酒」「居酒屋で出される安酒」との印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。

昨今、大吟醸、吟醸などの特定名称酒の販売数の伸びは目覚ましいものがありますが、普通酒の売れ行きは頭打ち。

しかしながら、良心的に普通酒に力を入れて作っている蔵元も存在します。

飲み口はフルーティーで爽やか、コクもキレも遜色ない上に価格は低め設定の普通酒。使用米は純米大吟醸など特定名称酒に使われている山田錦。

今回は、山田錦を使った普通酒の魅力と蔵元入魂のおすすめ普通酒5選をご紹介します。

普通酒で使われる等外米とは?

 

大吟醸、純米大吟醸、吟醸、純米吟醸、特別本醸造、本醸造、純米酒などは特定名称酒と呼ばれ、使用するお米は酒造好適米が選ばれています。

酒造好適米でよく使われているトップ5は、

  1. 山田錦(やまだにしき)
  2. 五百万石(ごひゃくまんごく)
  3. 美山錦(みやまにしき)
  4. 秋田酒こまち(あきたさけこまち)
  5. 雄町(おまち)

 

その中でも一番人気は山田錦。米粒が大きく、精米に時間をかけてもデンプン質部分の心白が壊れにくい、という特徴を持っています。

山田錦を使って日本酒を作らなければ全国新酒鑑評会の金賞は取りにくい、とまで言われています。

しかし、山田錦の生産量は年々少なくなる一方。そこで日本酒造りでは山田錦規格外の「等外」と呼ばれるお米を利用する蔵元も現れました。

特定名称酒の味わいを保ちながら、価格の安い等外を使う事で、価格を低めに設定する事ができるのです。

味は特定名称酒なみではありますが、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(略称 酒類業組合法)によって特定名称酒を名乗ることはできません。

だから普通酒として流通しているわけです。

酒米の等級付け

等外という言葉の意味を知るためには酒米の等級から知る必要がありますね。

酒米の等級は下記の図のとおりです。

等級名

整った米粒の割合

特上米

90%以上

特等米

80%以上

1等米

70%以上

2等米

60%以上

3等米

45%以上

以上の6段階に分けられます。お米の形が悪くて整っていない米粒の割合が45%以下は「等外」とされます。

酒造好適米」とされているのは、特上米から3等米まで。特定名称酒を名乗るには等外米を使ってはいけない決まりなのです。

等外米は酒作りには向かない米のように聞こえますが、味が悪いというわけではありません。酒米の等級付けは、味よりも外観で判断され、判断は肉眼で行われるのみだからです。

しかし、等外米で作った日本酒は、どんなに手間暇かけて極上に仕上げても特定名称酒とは名乗れません。ただの普通酒です。

特上米から3等米までの酒造好適米は山田錦を含め100以上の品種がありますが、全体のお米の生産量から見るとわずか1%のみ。

昨今では酒造好適米の生産量も少なくなってきています。もちろん特上米などと等級付けされたお米を使った方が旨い日本酒作りに向いているのですが、等外米も積極的に利用して旨い日本酒を作る蔵元も少なくはありません。

獺祭にも等外を使ったおすすめの普通酒あり!【山口県 旭酒造の獺祭 等外23】

 

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sumi—rinฅ🐱さん(@sumi_tom)がシェアした投稿 – 2018年 8月月4日午前5時40分PDT

ラベルに「等外山田錦使用」と表示されているように、等外を使って価格を抑えた普通酒です。

日本酒のネット販売では「獺祭 等外23」はアクセス数ナンバー1!精米歩合は23%で「純米大吟醸」並みです。

獺祭の純米大吟醸は需要が多く、品切れ状態が続くほど人気が沸騰しています。しかし、いつも気軽に飲めるお値段ではありません。

そこで、旭酒造は誰もが飲みたいときに気軽に買える日本酒、というコンセプトのもと「獺祭等外23」を誕生させています。

 

口コミ:

今年の酒始めは獺祭 等外23‼︎
純米大吟醸磨き二割三分と同じ山田錦同じ精米歩合だけど等外米を使ってるので普通酒扱いという、見つけたら即買い(リアクションバイト)必至。香りよく綺麗な味わいで、余韻は甘口。これがこの値段で飲めるならいうことありませーん(^^)

 

出典:ツイッター

 

獺祭 等外23を詳しく見る

 

「これならいつでも飲める」コスパ最強!山田錦等外普通酒【おすすめ5選】

おちょこと徳利 日本酒

等外で醸した日本酒はどれほど精米歩合を低くしても、低温で長期発酵させても、醸造アルコールや水を添加していなくても、圧力をかけて絞らない「袋吊り」で漉しても、すべて「普通酒」です。

山田錦等外酒は獺祭だけではありません。普通酒だけど、手間暇かけた「味よし」「価格よし」、ワイングラスで飲みたいくらい芳醇な香りと味の「山田錦等外使用の普通酒」をご紹介します。

フレッシュなマスカットの香りがおすすめの普通酒【白龍 芳醇超辛口 番外山田錦 游(YOU)】吉田酒造

自社栽培の自然農法で作ったお米で日本酒を醸している蔵元。そのこだわりが生きた普通酒が「番外山田錦 游(YOU」)です。

マスカットを思わせる香りを楽しんで口に含むと、最初にふっくらとした旨味が口の中に広がります。飲んだ後はキレがあり口の中がスーッとさっぱりするという不思議な味。

このバランスの良さをお得なお値段で味わってください!

 

商品名読み方

はくりゅう ほうじゅんちょうからくち ばんがいやまだにしき ゆう
原料米 山田錦等外米
精米歩合 70%
アルコール度数 15.5度
日本酒度 +9
酸度 1.7
辛口
おすすめの飲み方 15℃から55℃で

 

口コミ:

白龍のもう一つのレーベルから番外山田錦。
吉田酒造さんの山田錦は自社田から産出されており、基本的に白龍に使用される
大きさが基準に満たなかったモノがこちらのサンプルに回るんだけど、小粒な山田錦は醸造時のアミノ酸やグルコースの量が少ないというメリットがある。

出典:ツイッター

 

番外山田錦 游(YOU)を詳しく見る

お米の旨味たっぷりでおすすめの普通酒【ワイルド・サイド 零 ZERO 山田錦等外米 無濾過生原酒 おりがらみ】三芳菊酒造

 

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#千歳烏山#焼き鳥#日本酒#鬼金棒 #今日もやってます #三芳菊ワイルドサイドを歩け

鬼金棒さん(@kikanbow0888)がシェアした投稿 – 2018年 6月月12日午前2時43分PDT

「おりがらみ」の「おり」とは、細かいお米や酵母のことです。このままタンクに入れておけばおりは下に沈み、上部に澄んだ日本酒だけが残ります。

おりのない日本酒は透明ですっきりした味わいですが、おりが混ざった日本酒にはお米の旨味が生きており、酵母とともに複雑な味を楽しむ事ができます。

この状態のお酒を「おり」が絡んでいる、と言い「おりがらみ」と呼んでいるのです。

「ワイルド・サイド 零 ZERO 山田錦等外米 無濾過生原酒 おりがらみ」火入れなしの生、水の添加なしの原酒。絞ったお酒をそのまま瓶詰めしたものです。

無濾過だから薄く濁ってはいますが、山田錦の米の風味や酵母の旨味を感じたい方には理想のお酒と言えます。

新酒なので香りも華やかでフレッシュ。

パイナップルのように甘酸っぱくフルーティーな味と酸味。本来なら「無濾過生純米原酒」と名乗るべき奥深い味わいです。

 

商品名読み方

わいるどさいど ぜろ やまだにしきとうがいまい むろかなまげんしゅ おりがらみ
原料米 山田錦等外米
精米歩合 70%
使用酵母 徳島酵母
アルコール度数 15度
酸度 1.7

 

口コミ:

今日のお酒【三芳菊 零 無濾過生原酒おりがらみ】全国有数の芳醇無比な日本酒「三芳菊」の、等外米播州山田錦で仕込まれた高コスパの限定おりがらみ酒。一升2500円未満ながら香水のような鮮烈な芳香、甘みを抑えたパイナップルジュースそのものの味、素晴らしいキレを併せ持つ美酒です。

出典:ツイッター

 

ワイルド・サイド 零 ZERO 山田錦等外米 無濾過生原酒 おりがらみを詳しく見る

 

熟成された旨さと山田錦の濃い風味でおすすめの普通酒【無風 山田錦50 等外米】玉泉洞酒造

山田錦を50%まで磨いた純米大吟醸と同じ製法で醸された普通酒です。

火入れは1回のみ。その後瓶詰めされて半年間の熟成を経て出荷されます。

味わいは奥深い風味が特徴。口に入れるとしっとりと柔らかな含み心地。冷やでも燗でも美味しくいただけます。

 

商品名読み方 むかで やまだにしきごじゅう
とうがいまい
原料米 山田錦等外米
精米歩合 50%
アルコール度数 15度以上16度未満
日本酒度 +3
酸度 1.3
辛口
おすすめの飲み方 冷や・燗

 

口コミ:

醴泉で知られる玉泉堂酒造さんが醸す、醴泉の別ブランド「無風」
今年の秋は、コスパ抜群の等外山田錦を大吟醸規格まで磨いた山田錦50を購入。
醴泉と同じく、香りは控えめ。山田錦の米の旨味が十二分に口の中に広がり、最高は、裏ラベルにうたわれているとおり、上質な大吟醸を彷彿させる優しい余韻。
秋の夜長を満喫できる最愛のともとなる一本です。

出典:SAKE TIME

 

無風 山田錦50 等外米を詳しく見る

 

フルーティーでおすすめ!女子受けよしの普通酒【よこやま 等外 生酒】重家酒造

壱岐島で日本酒作りを再開したい…。そう願い続けた杜氏の思いが叶い、2018年にめでたく壱岐島に日本酒蔵が完成しました。

その新しい酒造で30年ぶりにできた日本酒が「生よこやま等外」。杜氏の熱い思いが詰まった日本酒と言えます。

よこやまは加熱処理を行っていない生酒。だからフレッシュで甘いもぎたてのブドウのような味わいを楽しめるばかりか、香りもラ・フランスを思わせるようなフルーティーさがあります。

調和のとれた口当たりは、まるで白ワインのようにスイスイと喉を通ります。日本酒が苦手な人も楽しめる生酒です。

よこやまをいただく時は、キリッと冷やしてワイングラスに注いでお召し上がりください。ほんのりとした甘みを感じたい人は、ちょっと温めて飲むのもおすすめです。

商品名読み方 よこやま とうがい なまざけ
原料米 山田錦等外米
精米歩合 50%
使用酵母 協会7号酵母
アルコール度数 16度
おすすめの飲み方 冷酒で

 

口コミ:

新蔵で製造した記念酒。約30年振りに壱岐島で醸された日本酒。山田錦の等外を使用。

マスカットのような綺麗な香り。甘めだが、酸がしっかりとあるため甘ったるい印象は受けない。余韻も程良い。説明文にもあるが、しっかり冷やしてワイングラスで飲むのが美味しそう。

出典:ツイッター

 

よこやま 等外 生酒を詳しく見る

日本酒本来の濃厚味を楽しむ人におすすめの普通酒【姿 SG 無濾過生原酒】飯沼銘醸

山田錦特有のフルーティーな仕上がりと、きりりと辛口でキレの良い日本酒です。

飯沼醸造は、発売するとすぐに売り切れることで有名な「姿 純米大吟醸 山田錦 無濾過生原酒」を醸している蔵元。

大吟醸に使われている山田錦の等外米を使うことでお得なSGも出しています。

SGとは姿(SUGATA)からとったもの、と飯沼銘醸は説明していますが、実はすごい(SUGOI)からきた名前ではないか、との噂も…。

味わいは価格以上です。口に近づけると静かに放たれる上品な香り立ち。口に含めばパイナップルのような味が口中に広がったかと思えばすぐに消えてしまう。酸味の切れ味が料理の味を一層引き立てます。

70%精米だからこそ味わえる山田錦のふくよかな風味と無濾過生原酒だからこその味の濃さも見逃せません。

日本酒の味の豊かさをしっかりと感じ取りたい方や吟醸風味に飽きた方、辛口の日本酒が好きな方にこそ飲んでいただきたい「コスパ良し、味良し」の普通酒です。

商品名読み方 すがたえすじーむろかなまげんしゅ
原料米 山田錦等外米
精米歩合 70%
使用酵母 協会1801号酵母
アルコール度数 17%
日本酒度 +4
酸度 1.6
辛口
おすすめの飲み方 冷やして

 

口コミ:

本日の一本はここ最近呑んでた姿SG。
SGってなんの略でしょう?
単にSuGataから取ったのでしょうか?

全量山田錦ですが、等外米を使用していることから一升瓶の純米吟醸企画ながら2000円切るSuper Greatなお値段‼️あ、SGだw

甘酸っぱい呑み口とギュッと纏める後味。
鼻を抜ける香りが姿感。
初一升瓶で呑み止め時がわからないw

出典:インスタグラム

 

姿 SG 無濾過生原酒を詳しく見る

まとめ:等外酒は伸び悩む普通酒の挽回となるか?

等外酒は伸び悩む普通酒の挽回となるか?と話す女性

市場に出回っている日本酒の約7割は普通酒です。

しかし、ここ数年、特定名称酒、特に純米大吟醸、純米吟醸酒、純米酒の伸びは目立っていますが、普通酒の販売数は低迷しています。

レストランや和食店でも特定名称酒の仕入れには熱心ですが、普通酒となると「なんの特徴もない安酒」とばかりにいい加減なチョイスをしてしまうところが少なくありません。

客層が富裕層ばかりの飲食店ではそれでもいいのでしょうが、会社帰りにちょっと寄って日本酒を楽しむお父さんたちにとって、普通酒は財布の強い味方。

今まで「質より量」「安かろう悪かろう」とばかりに下にみられていた普通酒の味は、各蔵元の工夫や努力によって日々進化しています。

日本酒を飲み始めたばかりの頃は「純米大吟醸」などと書かれたラベルを指標にして選ぶ事が多いものですが、日本酒の味わいは個人の味覚に大きく作用されます。

特定名称酒の純米大吟醸酒や吟醸酒などの名称は、国の税収のために「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」( 略称:酒類業組合法)で種類分けされたもので、誰の口にでも合う事を保証したものではありません。

これからは特定名称酒にこだわらず、自分の舌が納得した日本酒を選んで楽しみたいものですね!

 

参考資料:

公益社団法人米穀安定供給確保支援機構「清酒の動向 」

農林水産省「酒造好適米の平成29年産生産状況」