5本の日本酒の瓶

これまで日本酒にあまり馴染みのない方は、純米酒や醸造酒と言われても、どのような違いがあるのか、どんな味なのか想像もつかないものではないでしょうか。

吟醸酒や純米酒、本醸造酒と呼ばれる日本酒には、それぞれ条件が設けられており、一定の条件を満たしたお酒を「特定名称酒」と呼んで普通酒と差別化しているのが現状です。

純米酒とは、米と米麴、そして水だけで造られたその名の通り「純粋にお米だけを使って造られた日本酒」ということになります。

日本酒好きな方の中には、純米しか飲まないだとか、純米酒しか日本酒としては認めないといった頑固な考えをお持ちの方も少なくありません。

そこでここでは、純米酒にスポットを当てて、その特徴や味わい、より美味しく味わえる飲み方などをご紹介いたします。

純米酒の特徴と種類

様々な日本酒の瓶

日本酒の製造は大きく分けて、醸造アルコールと呼ばれるアルコールを添加して造られるものと、添加せずに造るものとに分けられます。

アルコール添加を行わず、米と米麴と水といった最小の原料だけで造られる日本酒こそが「純米酒」と認められるのです。

特定名称酒の中でも、原料である米の旨味と深いコクを味わうことができる日本酒として、日本酒ファンには愛されているタイプの日本酒です。

純米酒は、精米歩合や香味、更に製造方法といったものの違いで更に細かく名称が変わります。

純米大吟醸・純米吟醸

純米酒の中でも、吟醸造りといって原料である米を吟味して醸造する製造方法です。より精米した白米を低温状態でじっくりと発酵させて、粕の割合を高くします。

こうすることで吟醸香と呼ばれる吟醸酒独特の香りを持った日本酒が誕生するのです。より具体的に言うと、10℃前後の低温で1ヵ月前後の時間をかけ、発酵させるという製造方法になります。

純米だけでもこだわりがあるのに、更にそこから磨きと発酵にもこだわりを持って造られる日本酒ですから、杜氏の腕がはっきりと現れる特定名称酒ともいえるでしょう。

吟醸酒として認められるポイントとしては、「精米歩合」といって原料の白米をどのくらい磨くかで変わります。

精米歩合は吟醸酒で60%以下と決められており、大吟醸酒になると50%以下ですから、半分以上のお米を磨く必要があるのです。

特別純米

特別純米の条件は、純米吟醸のそれと全く同じです。原材料は米、米麴、そして水。更に精米歩合は60%以下であることという条件のみですから、吟醸純米の規定と全く変わりはありません。

それでは何が違うのかというと、まずは酒蔵ごとに決められている基準の違いにより、純米吟醸と特別吟醸とに分けられるということです。

酒蔵には酒蔵独自の考えというものがあるものです。そのこだわりが個性となり、それぞれの銘柄が誕生しているわけです。

酒蔵の中では、こだわりを持ち、独自のルールを設けて一般基準の純米吟醸酒や純米大吟醸、特別純米とでは明確に違うルール設定をしているところも珍しくありません。

このように酒蔵が設定している独自のルールによって、特別純米なのか純米吟醸、純米大吟醸なのかを決めているような状況なのです。

一般的には、純米酒よりも更に米を磨き、吟醸香とは違うすっきりとした香味を目指して製造されるものが多いという特徴を持ちます。

吟醸酒は吟醸香独特の甘く華やかな香りをまとった日本酒を味わってほしいというコンセプトを持っていますが、特別純米はすっきりとした香りの中にも、純米らしいボディのある味わいがコンセプトにして造られています。

条件は同じであるものの、「コンセプトの違い」によって特別純米と純米吟醸という違った名前の特定名称酒として発表・販売されているのです。

純米酒の楽しみ方

5本の日本酒の瓶

純米酒の楽しみ方としては、米だけにこだわって造られた日本酒ということもあり、純米酒の良さをきっちりと味わえる飲み方で楽しむのが「作法」と言えるでしょう。

ただ勘違いをして欲しくないのは、醸造酒には醸造酒の良さがあり、純米酒には純米酒の良さがあるということです。

このため、醸造酒よりも純米酒の方が上だというような思い込みを持って遠ざけてしまうのは勿体ない考えであり、どちらが上だとか下ということはありません。

よく純米酒でなければ日本酒ではないなどと言われる方もいらっしゃいますが、アルコール添加をした日本酒ならではの味わいや、それぞれの酒蔵の伝統の製造方法がありますから、一概に純米が上、醸造は下とは結論づけられないのです。

純米酒の楽しみ方ですが、純米酒は原料であるお米のポテンシャルを十二分に引き出すような製法を取っているため、非常にコクがあります。

このため薄味の料理のお供にしてしまうと、完全に料理を食ってしまう恐れがあります。基本的には、淡白な薄味の料理と一緒にいただくのではなく、脂身の多い肉料理などと相性が良いのでおすすめです。

また冷やして飲むのが好きという方も多くいらっしゃいますが、通の方であれば、常温のまま飲んだり、低い温度での燗酒として頂くとより一層楽しめることでしょう。

低温での燗をすることによって、純米酒独特の旨味が引き立ちます。純米吟醸であれば独特の吟醸香が強調されることになりますし、特別純米であればすっきり感が尚更強調されることになります。

純米酒は、もともと酸度が強い傾向がありますので、燗酒にしたとしても変に苦みが出るようなことがありません。

この酸度が純米の印象を大きく変えることになり、酸度があって強いものであればあるほどに辛口に感じ、酸度が低い純米酒の場合には甘口に感じるといった非常に不思議な日本酒であることも魅力の一つになります。

さまざまな温度帯で違った顔が見れることこそ純米酒の魅力

温度計

純米マニアの方の中には、「純米酒ほどいろいろな温度帯で顔が変わるお酒はない」と言われる方も多くいらっしゃいます。

それほどに純米酒はどのような温度で飲むかによって味わいが変わってくる日本酒なのです。

ここで少し、日本酒の温度の違いによる名称を覚えておきましょう。

日本酒の温度は、「冷酒(れいしゅ)」「冷や(ひや)」「熱燗(あつかん)」の3つに分類することができます。

熱燗はご存知の方が多いと思いますが、温めた日本酒のこと。問題は、「冷や」と「冷酒」はどう違うのかということではないでしょうか。

結論からいえば、「冷酒」は冷蔵庫で冷やした0℃から15℃の日本酒であり、「冷や」というのは、16℃から29℃の温度帯の「常温」の日本酒のことになります。

なぜ常温なのに「冷や」と呼ぶのかというと、その昔、冷蔵庫というものがなかった時代には、日本酒は熱燗で飲むか、常温で飲むかの二択しかありませんでした。

日本酒を注文するときに、温めて飲みたいときには「熱燗」と注文をし、常温の日本酒を飲みたいときには、熱燗と区別するために「冷や」と注文していたのです。

つまり「冷や」というのは、あくまでも温かくない日本酒という意味で使われており、決して現代のように冷やすという意味では使われていなかったわけです。

3つの温度帯があることが分かりましたが、更に5℃ごとに名前が付けられているのをご存知でしょうか。

各温度帯の呼び方を表にまとめましたので、日本酒通になりたい方は是非覚えておくとよいでしょう。

分類 温度 名称
冷酒 0℃ みぞれ酒
5℃ 雪冷え(ゆきびえ)
10℃ 花冷え(なまびえ)
15℃ 涼冷え(すずひえ)
冷や 16℃~29℃(常温のもの) 冷や
熱燗 30℃ 日向燗(ひなたかん)
35℃ 人肌燗(ひとはだかん)
40℃ ぬる燗(ぬるかん)
45℃ 上燗(じょうかん)
50℃ 熱燗(あつかん)
55℃ 飛び切り燗(とびきりかん)

話が逸れましたが、純米酒は冷酒、冷や、熱燗とどの温度帯でも楽しむことができる日本酒です。

気候や料理に合わせ、ベストな味わいの温度帯はどのようなものなのかを探す愉しむことも、純米酒の大きな魅力といえるでしょう。

純米酒を際立たせるのは冷や~ぬる燗

純米酒を際立たせるのは冷や~ぬる燗と微笑みながら話す女性

ご紹介したように季節や気候、どのような料理と一緒に飲むかによって、いろいろな温度帯で楽しむことができる純米酒ですが、純米酒が持つ独特の「米の旨味」を十二分に味わいたいのであれば、冷や~ぬる燗の温度帯がベストと言われています。

温かいご飯が一番お米の旨味を感じられるものではないでしょうか。日本酒も同じように冷やの状態が最も旨味を感じられるものなのです。

また、少し温かい温度にすることで、体内へのアルコール吸収のスピードが緩やかになるとも言われており、肉体的な負担が少なく、悪酔いや二日酔いをしにくくできるというのも、冷や~ぬる燗で純米酒をいただくメリットになります。

ただし、「純米酒」とひとくくりにして、どのような純米酒でも冷や~ぬる燗で飲もうとするのは間違いです。

例えば「純米吟醸酒」などの吟醸酒の場合には、香りを意識して造られているフルーティーさをウリの日本酒の場合には、口当たりはキリリとドライなものがよく、口の中の温度で温まり、口内で味わいが溶け出すような愉しみ方がおすすめです。

このような特徴のある吟醸酒は冷や~ぬる燗よりも、雪冷えなどの冷酒で飲むことがおすすめです。

ただしタイプによっては、酒の香りや味わいが感じられず、面白みがなく、固い味わいと感じてしまうことにもなりかねません。

対面購入をする酒屋さんや問屋さんなどにおすすめの温度を訊ねてみるのも、一つの方法です。

一般的には吟醸酒であれば、花冷えと呼ばれる10℃程度の温度帯で飲むと持っているポテンシャルを際立たせることができるとされています。すっきりとした中でサラリと飲めるようなシャープな純米吟醸酒を味わいたいなら花冷えがベストです。

純米酒ほどマリアージュが楽しめる日本酒はない

2本の焼き鳥と徳利&おちょこ(日本酒)

マリアージュとは、料理とお酒の最も良い組み合わせを見つけることです。もともとワイン用語として世の中に広がりましたが、現在ではワイン以外のアルコールでも使われるようになっていますね。

マリアージュの語源となっているのは、フランス語の結婚という単語です。料理とお酒をペアリングし、良い組み合わせを見つけ出し、お酒単体、また料理単体では味わえない第三の味わいを生み出すということが目的です。

マリアージュを上手に行うことができれば、料理の苦みや、お酒のえぐみなどを打ち消し、旨味や甘味といったものを生み出してくれるのです。

ある程度に敷居の高い飲食店では、マリアージュを非常に重要視しているため、ソムリエや利き酒師などを常駐させ、最高のマリアージュを訪れる顧客に提供しています。

純米酒は水とお米だけで造られているお酒ですから、基本的には真っ白いご飯がすすむ料理全般にマッチします。

和食を筆頭として、洋食とも中華料理とも相性が良いとされています。中でも肉料理との相性がバツグンです。

日本酒をマリアージュする際に気を付けるべきことは、日本酒の持つ香味です。主に日本酒の香味と味わいをカテゴライズすると、大吟醸酒や吟醸酒は香りが高く味が薄いという特徴があり、長期熟成酒は味も濃く、香りも強くなります。

本醸造酒は味が薄く、香りも低いという特徴を持っているのです。肝心の純米酒ですが、香りは薄いのに味はしっかりと濃いという特徴を持ちます。

このため、こってりとした味付けが多い肉料理や、油分が強く味もしっかりとつけられている中華料理にベストな日本酒といえるのです。

純米吟醸となると、通常の純米酒よりも香りが強くなりますから、より濃い料理と相性が良くなります。

具体的な料理名を表にしてみましたので、是非純米酒とのマリアージュをお楽しみください。

純米酒 トロの刺身、唐揚げ、仔牛のステーキ、ホタテのテリーヌ、チキンソテー、牡蠣グラタン、ゴマダレしゃぶしゃぶなど
純米吟醸酒 真鯛の炭火焼き、伊勢えびの藁焼き、ホタテのクリームソース、フォアグラのテリーヌ、アワビのステーキ、北京ダック、小籠包、スモークサーモンなど

自分なりの愉しみ方を探す喜びが得られるのが純米酒

いかがでしたか。

純米酒こそ日本酒の王道という意見が多い理由も少しは納得できるのではないでしょうか。

日本酒の特定名称酒の中でも純米酒は、温度の違いや料理との相性など、幅広い愉しみ方ができるのが特徴です。

自分に合った日本酒の愉しみ方を探すという喜びを感じられるのが純米酒の最大の魅力です。

季節、気候、マリアージュと純米酒ならではの愉しみを是非見つけて下さい。