洞窟の中の女性

日本酒はお米を原料にして作られるお酒ですが、中にはホカホカのお餅を混ぜたり、日本酒で日本酒を醸したり、洞窟にしまい込んだり、海に沈めたりする日本酒もあります。

今回は日本酒ファンを「う〜ん、こりゃ一度は飲んでみたい!」と唸らせる、変わった作り方の日本酒をご紹介します。

かわいそう!?凍えるほどにいじめぬいて得た上質の味わい『凍米(いてまい)』

長野県佐久市は、詩情豊かな千曲川が流れる風光明媚な地域。ちなみに、 千曲川の下流は新潟県になりますが、千曲川は新潟県に入ると信濃川と名前を替えます。

そんな佐久市の気候は暖温帯に属する、とされています。

しかし、標高700メートルにあるこの地の真冬の気温は内陸特有の寒さ!氷点下10℃が平均ですが、マイナス13℃から15℃にまで下がるのがごく普通です。

この地の人々が冬季に挨拶がわりに使う言葉が「昨晩はしみた〜(冷えた)!」です。「寒かったね」よりは凍てつくような寒さを感じます…。

「凍米」の作り方

1855年創業の木内醸造の『初鶯 凍米(はつうぐいすいてまい)』は、そんな極寒な冬の気候を逆手にとって誕生しました。木内醸造以外ではみられない手法の日本酒なので、希少価値は十分。

『初鶯 凍米』の特徴は、

  • 凍える寒さの中、蒸し米を一晩外にさらして自然に凍らせ、掛米(かけまい)として使用
  • 厳しい環境の中で発酵させることで雑味が少なく、淡麗で飲みやすい純米酒

凍った蒸米を使い「簡単には発酵させんぞ!」といじめることで、スッキリした飲み心地の純米酒が出来上がるのです。

 

■「掛米」とは■

お米を精米し、洗米、浸漬(しんせき:お米に水分を吸水させること)した後にお米を蒸し上げます。蒸し上がったお米は「麹用」「酒母用」「掛米用」に分けられますが、掛米用のお米は全体の70%を占めます。

この掛米はもろみを作る時に使われ、放冷(高温の蒸米を放置して決められた温度まで冷ますこと)した後(凍米の場合は凍らせた後)、何度かに分けてもろみに加えられます。

よく耳にする「三段仕込み」とは、掛米を3回に分けて仕込むことから、そう呼ばれているのです。

「凍米」の味

まさに日本酒といった香ばしい薫りがほどほどに、淡麗ながらも癖になる味わい。常温でしたが滑らかな口当たり&低アルコールで、いくらでも呑めそう。美味いですね!

出典:Twitter

 

『木内醸造』についてはこちら

熱いもち米をもろみに投入!?もち米熱掛四段仕込み『旭の出乃勢正宗』

 

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全国酒蔵図鑑 酒通販のCRAVITONさん(@craviton)がシェアした投稿 – 2018年10月月15日午前2時11分PDT

こちらは凍米とは逆に、アツアツのもち米をもろみに投げ込んで造られたもち米熱掛四段仕込の「旭の出乃勢正宗(ひのでのいきおいまさむね)」。

凍米作りのために蒸米が凍てつくのも辛いでしょうが、せっかく「発酵はぼちぼち終わりか〜♪」と一安心した矢先に、熱いもち米を入れられたもろみも大変です。なぜなら、再び活発な発酵状態にむりやり戻されるからなんです…。

 

■もち米熱掛四段仕込の「段仕込み」とは■

一般的な三段仕込は、以下のように4日間かけて行われます。

  • 1日目:初添(はつぞえ)「一段目」…タンクに酒母を入れ、そこに麹、蒸米、水を加え、櫂棒(かいぼう)でまぜて発酵。
  • 2日目:踊り…酵母菌を繁殖させるために何も加えず、よくかき混ぜるだけ
  • 3日目:仲添(なかぞえ)「二段目」…麹・蒸米、水を加える
  • 4日目:留添(とめぞえ)「三段目」…麹・蒸米、水を加える

もう一段多い「四段仕込み」とは、三段仕込みを終えた後にもう一段作業を加える事です。

その後、3週間から1か月ほどでもろみが出来上がります。
※後述しますが、なんと十回仕込みの日本酒も存在します!通常、仕込みの回数が増えるごとに甘い日本酒になるので、甘いもの好きな女子にぴったり♪

常に米不足状態にあった戦中では、もち米を日本酒造りに用いることはありました。しかし、戦後は酒造好適米が栽培されるようになったため、現在ではほとんどの酒造では酒造好適米あるいは食用米を用いて日本酒を作っています。

その理由は、蒸したもち米は米同士がくっつくため麹作りや仕込みの作業が難しくなり、もち米を使用した日本酒はスッキリとした味わいにはならない、というのが常識だからです。

『酒造好適米』をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇️

酒造り専用に作られるお米「酒米」について詳しくなろう!

そんな中でも丸世酒造はもち米にこだわっています。

その理由は、今は亡きおじいさまが他の酒造との差別化を図るために「よそと同じことをしてはいけない。もち米を使ってお酒を造るように」と遺言されたからです。

「もち米熱掛四段仕込み」の作り方

 

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全国酒蔵図鑑 酒通販のCRAVITONさん(@craviton)がシェアした投稿 – 2018年 8月月1日午後8時41分PDT

「もち米熱掛四段仕込」は、三段目が終わった後、蒸したての熱いもち米を団子状に丸めてもろみに投げ入れます。すると活動が弱まっていたもろみの温度が一気に上昇

まるで老体に鞭打つが如く、酵母や酵素が再び活動を始め、アルコール発酵や糖化のために働き始めます。すると、もち米も溶けてもろみと一体化するのです。

「もち米熱掛四段仕込み」の味

さて、もち米が溶け込んだ米熱掛四段仕込「旭の出乃勢正宗」のお味はというと、一言で言えば、

スッキリ感のある濃醇な味。マイルドで豊かな甘みもあり華やかな香りで女子好み。

甘さだけではなく、飲んだ後に酸味が感じられるため甘味が後を引きません。もち米を使っていながら完璧にデザインされた日本酒は試してみる価値大です。

今夜のお酒は旭の出乃勢正宗。酒屋さんが隠れた美酒と銘打っていたが・・・。いや、これは旨い!口付ける程度でやめようと思ってたけど、多分、今日中に四合瓶空けるわ…。

出典:Twitter

 

『もち米熱掛四段仕込み』についてはこちら

手間と甘さで日本一!?「日本酒度−93」で超ド甘『貴醸酒十回仕込み 千』

 

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日本酒専門店 和酒処 酒峰さん(@washushuho)がシェアした投稿 – 2019年 8月月31日午前12時07分PDT

貴醸酒とは、米、米麹、水で日本酒を造るべきところを、水の代わりに日本酒を加えることで甘いお酒に仕上げたお酒のことです。

『貴醸酒』について詳しく知りたい方はこちら⬇️

日本酒の種類についてその2

日本酒に日本酒を加えて作ることでリンゴ酸主体の甘口の日本酒が出来上がるのですが、その独特の甘酸っぱさと飲みやすさで、昨今では特に女子に人気となっています。

「貴醸酒十回仕込み 千」の作り方

この基本的な貴醸酒の造り方を10回繰り返しさらに濃厚な甘さを完成させたものが「旭興(きょくこう) 貴醸酒十回仕込み 千」。

この酒造が作る貴醸酒には「旭興 貴醸酒 百」という銘酒もあり、これを三段仕込みの最後(留め添え)に水の代わりに加え、その後もこの貴醸酒を用いて貴醸酒を仕込みます…。貴醸酒で貴醸酒を仕込む事10回を繰り返し、その結果完成したお酒が「千」。

なぜ「千」と命名したのかって?

だって「百」が10回加えられているので「千」になるのだ、という渡邊酒造の理屈です。

渡邊酒造はそれだけでは満足しません。出来上がった「千」をさらに1年間熟成させる、というかなり手が掛かる製法をとりました。

「貴醸酒十回仕込み 千」の味

さて、気になるお味ですが、

甘くて濃厚、しかし酸もしっかり効いているから後味サッパリ。黄金色の液体がとろりとお口の中に流れていき、ビロードのような濃密な甘さを感じる「千」は食後のデザートやオンザロックにぴったり

 

栃木の隠された銘醸とも言われる旭興(きょくこう)は、小さな集落にある小さな地酒蔵の渡邉酒造で醸されており、作られた日本酒の9割は地元で消費されてしまいます。

手に入れることは極めて困難かもしれませんが、何としても「千」を手に入れたい方は下記の情報をご参照ください。

『渡邉酒造』についてはこちら

 

戦車は要らない、なら「オーナーズボトル」を作ろう『洞窟酒蔵』

 

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Marさん(@popo.pitchi)がシェアした投稿 – 2016年10月月9日午前12時00分PDT

栃木県那須烏山市にある島崎酒造では、全長600mにもおよぶ地下洞窟を利用して10万本以上の日本酒を保存。大吟醸を長期熟成させて独特の味わいを作り出しています。

1849年創業島崎酒造のメインブランドが「東力士(あずまりきし)」であることから想像がつきますが、創業者は大の相撲ファン!

しかし、東力士という名前からは想像できないほど甘口の日本酒です。

島崎酒造が手がける酒類は日本酒のみならず。ワインやお酒に弱い方に人気のリキュールなど、幅広い層に楽しんでいただける酒造りを目指しています。

旧日本軍の命令で造った手掘りの洞窟を借り受け

洞窟

島崎酒造近くのJR烏山駅の側には、第二次世界大戦の時に掘削された洞窟が存在します。ここは軍事工場として戦車を作る予定だったのが、敗戦を迎えたためその目的は果たせず仕舞いでした。

驚いたことに洞窟は地域住民などによる手掘り。せっかく掘ったのに、そのまま朽ちさせるなんてもったいないですよね。

そこで当時、掘削に召集された島崎酒造会長が記憶を辿って、やっと洞窟を発見。その後、この洞窟を地主から借り受けて日本酒の貯蔵庫として使うことになりました。

洞窟でオーナーズボトルをキープ!

洞窟

この洞窟では、客が熟成酒ブランドである「熟露枯(うろこ)」を洞窟に貯蔵することもできます。これが、自分だけの熟成酒を作りたい方向けの「オーナーズボトル」制度

島崎酒造の日本酒から1本を選び、洞窟に寝かせてもらい、管理もお願いし、10年後や20年後などの自分にメッセージとともに熟成日本酒を贈るシステムです。

もちろん、誰かにサプライズプレゼントとして贈っても◎。

熟露枯が再びオーナーの手に戻った時、熟成して丸くなった日本酒と同じくオーナーも人間として成熟しているのでしょうか…。

預かり期間は5年〜20年。あなたも未来の自分に、自分だけの洞窟熟成酒を贈ってみませんか♪

6種類程、試飲をさせて頂きました😊
お米や年数で、こんなに香り・味が違うとは❗
私が気に入ったのは甘口の「東力士」ですが、今回はお友達にプレゼントなので、「洞窟の金ラベル」にしました。

出典:Google クチコミ

 

『20年前に自分に熟成酒プレゼントをしていなかった方』や『20年も待っていられない方』はこちら⬇️

日本酒【20年貯蔵の限定酒】 吟醸秘蔵酒 【since1998】720ml

 

『洞窟酒造』についてはこちら

フジツボのおまけ付き!?海中蔵が育てた『海中熟成酒』

「達磨正宗 海中熟成酒 2018」の瓶にはびっしりと酒好きなフジツボがくっついています。

海中熟成酒の作り方

それもそのはず。この海中熟成酒は7か月間もケージに詰められて南伊豆の水深15mの海の中に沈められていたのです。

しかし、なぜわざわざ海の中で熟成させる必要があるのでしょうか?

170年前の海底熟成シャンパンが味を証明

たくさんの古い瓶

話は2010年に遡ります。その年、バルト海でダイバーが海底で難破船を発見!

この難破船は170年前に沈んだもので、その中にはボトルの口を上にしたシャンパン168本が発見されました。発見された時の状態は完璧な状態だったとのこと。

そのうちの11本のシャンパンはオークションにかけられ、1本$43900(約470万円)でシンガポールの匿名入札者がゲットしています。

幸運にもこのワインを試飲した学者は「絶妙な状態だ、飲んだ後3〜4時間も香りが口に残った」と感想を述べています。

海中熟成酒の味

 

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Jaminさん(@underwaterwinecave_portofino)がシェアした投稿 – 2019年 4月月13日午前7時27分PDT

その後、2015年にアメリカナパヴァレーでは、ワイナリーの所有者がワイン48本を海中に沈める実験をしました。

ワインを引き上げ、ワインを口に含んだ彼は唖然とし、その後感激しています。ワインの味はアルコールの刺激が和らいだせいで柔らかく丸みがあり、色と香りがより強くなっていたからです。

彼は海が熟成を促している、として「ワインは地下か倉庫で熟成させる事が最善の方法である」というワイン界の常識を覆そうとしています。

※その後、アメリカでは「The Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau (TTB)」によって、海中熟成ワインは違法とされました。

シャンパンやワインで証明された海中熟成酒は、海中での様々な音や周波、深海での穏やかな揺らぎ、一定の温度と圧力、理想的な低照度環境によってまろやかさや深みのある味わいに作り上げられた、と考えられています。

フランスのシャンパン業者も海中熟成シャンパンに着手

バルト海で発見されたシャンパンのラベルはもちろん剥がれていましたが、コルクに刻された印から「ヴーヴ・クリコ(Veuve Clicquot Ponsardin)」であった事が判明。

現在では、ヴーヴ・クリコも海中でのエイジング実験を開始しています。

さて、あなたは海中熟成がお酒を売るための、ただのマーケティング戦略だと疑いますか?

それとも母なる海が生み出した神秘の日本酒だと思いますか?

異常なほどのまろやかさ。最高にうまい。市場に出回ることは稀。

出典:Twitter

『2019年6月に引き上げた海中熟成酒』についてはこちら

100万分の1mmの気泡でお米を洗った『ウルトラファインバブル日本酒』

 

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『Shimatabi』JapaneseRestaurantさん(@amakusa.shimatabi)がシェアした投稿 – 2015年 7月月8日午前3時36分PDT

創業300周年を迎えた油長酒造は、日本酒発祥の地と言われる奈良県にある「技術革新」酒造です。

例えば、日本酒を搾る段階で高級酒を作る時に用いられる「袋吊り」という方法がありますが、油長酒造は袋吊りには2つの欠点があることに注目。

それは、袋からお酒がにじみ出る時に周囲の空気に触れることによって発生する「酸化」と「香気成分の揮散」です。

しかし、油長酒造は「笊籬(いかき)採り」という手法で、袋吊りの欠点を補うことに成功しています。

※笊籬とは、細かいメッシュの網目状ザルのことで、それを筒状にしてもろみの中に沈めます。すると、もろみとお酒がほぼ無加圧で分離するので、酸化は発生せず香りも飛びません。

オフフレーバー無しの日本酒分離技術「氷結採り」の作り方

https://twitter.com/koba4h5450/status/1089166800133120000

油長酒造のチャレンジはまだ続きます。

開栓後3週間経っても劣化の兆しがない、という氷結採りの技術も成功させました。

今までの製法を用いた日本酒は、「老香」「日光臭」「ゴム臭」「つわり香」などの異臭が発生する事があり、それらの劣化臭の事を「オフフレーバー」と称します。

オフフレーバーの原因は、もろみが器具に使用されている金属、ゴム、プラスチック、布等に接触する事

しかし、氷結採りではそれらの器具を必要としません。タンクの中の上澄み部分だけを分離するためオフフレーバーは発生せず、最後の一滴まで美味しく飲めるというわけです。

日本酒ファンにとってはこれだけでも素晴らしい技術の開発と思われますが、油長酒造はこれらだけで満足することはありません。

磨かない米が作り出す日本酒の可能性

磨かない米が作り出す日本酒の可能性と話す女性

それはウルトラファインバブル水による洗米です。

ウルトラファインバブルとは100万分の1mmの極小気泡です。

肉眼で見ようとしても、ただの水にしか見えないくらい非常に細かい泡で、「風の森80series」の一部の製品の洗米時に使用されています。

半導体の洗浄にも使われているくらい、目に見えない汚れを落とすウルトラファインバブル水。これを用いて洗米することで、バブルが米粒のあらゆる隙間に入り込み、日本酒造りに不要なミネラル、タンパク質、油分を剥離除去します。

また、除菌効果も高いことから、米表面に付着した菌も取り除かれるので、酵母増殖時の有害細菌の繁殖も抑えられます。

80%精米歩合でお米の個性を楽しめる日本酒の作り方

 

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noriさん(@nori_m06)がシェアした投稿 – 2019年 6月月3日午前4時31分PDT

日本酒は精米歩合のパーセンテージが小さいほど高品質の日本酒ができる、と言われています。しかし、ナノサイズの微細な気泡で洗われた米なら「磨かないからこそ、米の味わいが生きる美味しい日本酒」が完成します。

ウルトラファインバブル洗米酒の味

お米を磨きに磨き抜いて、半分以上のお米を捨ててしまう現在の日本酒造りのあり方に疑問を持った油長酒造の新しい試みの日本酒です。

今日の酒。「風の森 愛山 80 純米しぼり華」 風の森らしいジューシーな甘み酸味に加えて精米80%ゆえの複雑み、深みがバランス良くて結構うまい。

出典:Twitter

 

『復刻米 愛山』についてはこちら⬇️

【復刻米】限定酒が大人気!?『復刻酒』が国内外で注目される納得の理由

まとめ:日本酒好きなら一度は飲んでみたい「変わった作り方の日本酒」

日本酒は酒造によって香りや味のバラエティーを楽しむことができます。

それ以上に嬉しいことに、従来の伝統的な日本酒造りの手法にこだわらず、新しい作り方や科学を取り入れた方法を用いて、今までにない日本酒造りを始める蔵も増えてきました。

どちらかというと、保守的な印象の日本酒蔵ですが、これからも新しい視点で革新的な味わいの日本酒が生み出されることでしょう。

皆さんもそんな日本酒をどんどん応援してくださいね♪