輸出用のコンテナ

日本酒人気のピークだった1975年が終わり、その後約45年もの間、消費量減少の一途をたどり続けている日本酒。その間、何の手も打ってこなかった国がやっと重い腰をあげました。

これまで、市場の縮小で酒蔵の転廃業も進んでいる現状が指摘され続けているにもかかわらず、

  • 日本酒の製造免許の新規発行を拒否する
  • 日本酒造りに新たな情熱とアイデアを持った人たちに対して門戸を閉じる

との方針を国はかたくなに守り続けてきたのです。しかし、ここに来て事態は何故か急展開。

その背景には、国内市場の日本酒販売量の縮小に対して、2018年に海外輸出された日本酒は約222億円に上昇。この9年間では過去最高を記録した、という事実があると考えられます。

喜ばしいことですが、この事実を逆手に取って日本酒人気にあやかり、海外で安価に生産されているSAKEの流通も増えて来るわけです。

このまま手をこまねいていては、アメリカ産、韓国、中国産日本酒が東南アジアやヨーロッパへ輸出され、安い値段で取引される事態に陥ります。日本以外で造られたSAKEが人気になり、日本の美味しい日本酒が売れなくなっていく恐れもなきにしにあらず…。

今回の記事は、2020年4月1日に施行が予定されている、輸出用日本酒に特化した酒税法改正の経緯と行方について説明いたします。

『酒税法』改正で国も「高級日本酒」造りを積極的にプッシュ

トンカチで漢字の「規制」をたたこうとする様子

政府はすでに、

  • G20サミットなどの国際会議で日本酒PRブースを設置して積極的にアピール
  • 2023年10月には現在の日本酒税額42円(350ml)を35円に引き下げる予定

などの行動を起こしており、今回の酒税法改正案はそれらに加えての「海外向け日本酒製造免許の新規発行計画」になります。

『酒税法』による「高級日本酒用」新規酒蔵の特徴

  • 海外向けに特化した酒蔵であること
  • 最低製造数量基準「年間6万リットル」の適用を除外するので小規模事業者も参入可能
  • 高付加価値のある日本酒を造り続けること

改正『酒税法』で海外向け「高級日本酒」限定で許可を与える背景

1975年に176万9千㎘あった日本酒の販売(消費)数量は、2015年には588千㎘と、40年間で最盛期の3分の1に激減しています。

その原因を皆さんはすでにご存知でしょう。

日本酒人気の下降

酔っぱらって栄養ドリンクを飲もうとする中年ビジネスマン

日本人全体のアルコール消費量が少なくなったことも理由の1つですが、特に若年層が日本酒離れを起こした原因は以下の通りです。

  • 劣化した日本酒のサービスで悪酔の経験あり
  • おじさんの酒、酔っ払うための酒、の印象がある
  • 太る、不健康、臭いイメージがある
  • 種類が多すぎて混乱する
  • 飲むだけなのに、わざわざ専門用語を理解する必要性がわからない
  • 飲んでいると日本酒についてウンチクを垂れる人がいる
  • もともと酔いたいとは思わない

薔薇とワイン

しかし、マクロな視点では以下の原因が考えられます。

  • 1975年前後から日本の高度成長期は終焉を迎え、接待で飲まれ贈られる量が減少
  • 普通酒を下支えしてきた日本酒消費者の高齢化
  • 消費者の飲酒志向の多様化
    1. 若者のヘビーユーザーは焼酎へスイッチ
    2. かつての日本酒の上客であったアッパークラスは上級ワインへ転向
    3. ミドル、ロウワークラスもお洒落な低価格輸入ワインを消費
  • 消費者全体の酒類家計消費額は4年連続減少、つまり消費者全体のアルコール離れの波をかぶっている(前年比4.1%減の34,430円[2018年度])

その結果、2025年の酒類への消費支出額見通しでは「減少の一途をたどる」との暗い予測になっています。

※焼酎ブームは2008年に終止符を打ち、その後、販売量は徐々に減少しています。

「高級日本酒」を造る酒蔵は少ない

 

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実際に日本酒を醸造している酒蔵数は、2017年では1,254場(帝国データバンク調べ)と推定されていますが、これらの酒蔵が造る日本酒のうち特定名称酒※※以外の日本酒(普通酒)醸造数は、58.1%を占めています。

つまり、比較的低価格の普通酒が各酒蔵での主力商品となっているのですが、普通酒のコアユーザーは高齢者層。彼らの加齢に伴い、国内での普通酒消費量の増加は期待できそうにありません。

※日本酒蔵数はなぜ減少が止まらないのでしょうか。それは出荷量の減少が原因だけではなく、後継者がいない、日本酒醸造は重労働なので人手を確保できない、などの理由で休業に近い状態にある酒蔵が増加しているからです。

※※特定名称酒とは、吟醸酒(純米大吟醸、純米吟醸、大吟醸、吟醸)、純米酒、本醸造酒のことを言います。

「高級日本酒」よりも地酒に力を入れる酒蔵

最近「特定名称酒の売り上げが好調(近年では初のマイナス成長となりました)」と言われていますが、日本酒蔵の99%を占める中小の蔵元が造り続けているのは、地元のお客さんに好まれる「比較的安価でありながら、その土地の産物にマッチして、地元で飲んで喜ばれる普通酒」なのです。

※普通酒とランクされてはいても、酒米の王様「山田錦」を100%使用した日本酒も存在します。

国が日本酒輸出量をこれ以上増やしたくて「造れよ、増やせよ」とばかりに製法や原料にこだわった日本酒(すなわち高級日本酒)を海外へ、と奨励しても造る余裕がないのです。

国が諸手を挙げて応援している「優れた日本酒を造って海外輸出」に中小酒蔵が手を染めない理由は他にもあります。

「高級日本酒」造っても海外貿易に抵抗感持つ零細酒蔵

おじぎをして「「高級日本酒」造っても海外貿易に抵抗感持つ零細酒蔵」と話すビジネスウーマン

日本酒を輸出するためには、まず、添加物や成分、容器についてまで事細かく膨大なレポートを現地語で作成し、相手国に提出しなければなりません。

そこをなんとか通過したとしても、現地のレストランに置いてもらうのも一苦労。

現在、海外輸出で成功している酒蔵はいち早く国内需要の減少を憂慮し、以前から海外に目を向けていた、という歴史があります。

そんな先見の明があったからこそ、外国で販売パートナーを探したり、レストランに頼み込んで置いてもらう、などの努力を長年積み重ね、現在は多数の国と取引がある、という成果を成し遂げているのです。

それに対して、今まで地酒造りにこだわってきた中で、やっと日本酒輸出量の年々増加が明白になった現在、輸出の必要性を知り、輸出に参加して海外のレストラン詣でをしても、メジャーでもない新顔の酒蔵は受け入れてもらえない場合もあります。

また、置いてくれたとしても、適切な保管方法を知るレストランは少ないのが現状

※「獺祭」を置いているパリのレストランで、自社の日本酒を飲んだ旭酒造の会長が顔をしかめた、というのは有名な話です。

ワインとは違って保存料を使っていない日本酒は、製造年月から1年以内に飲まなければ味が変わって価値がなくなる、というリスクがあります。知名度が高い銘柄なら回転も早いのですが、名も無い「ぽっと出」のブランドなら売れることなく品質は劣化。知らずにその日本酒を飲んだ顧客からはクレームが発生…。

あれこれ考えていると「やっぱり今まで通り、地元密着型の少量生産で行こう。儲からなくてもいい。自分の代で蔵を潰さないように地酒を作っていこう」となるのではないでしょうか。

「高級日本酒」造りのハード面、資力、技術力に問題

酒蔵の規模が小さい場合、海外で売れる日本酒の生産は困難です。現在海外で人気があるのは純米大吟醸や吟醸酒。

吟醸タイプの日本酒を造るためには、米の外側にある雑味の原因部分を削ってデンプン質だけにする必要があります。つまり、もともと粒の大きな酒米(酒造好適米)が必要になります。

※米を敢えて磨かず、米本来の味を生かした高級日本酒で賞を獲得した日本酒もあります。

しかし、一般的に言って米粒のサイズが大きい酒米は、

  • 稲が倒れやすいなどの弊害が多く栽培が難しい
  • 育成に手がかかる
  • 単位面積あたりの収穫量が少ない
  • 販売価格は食用米の約3倍になることもある

などで、一般の米よりも高い値で取引されています。その上、高級日本酒を作るためには酒米を磨く必要があり、長時間の精米(50%の磨きにかかる時間は、推定50時間)にかかる費用も安くはありません。

そこをクリアしてなんとか高級日本酒の生産に漕ぎ着けたとしても、

  • 現地法人の立ち上げに関する情報が少ない
  • 信頼できる現地メンバーを集められない
  • 輸送中の酒質劣化を食い止める技術を知らない
  • 輸出免許を取らなくてはいけない

など人材から資金繰りまで解決しなければならない問題が山積。

零細酒蔵も海外市場の有望性は知っていますが、現時点では輸出には二の足を踏んでいます。とはいえ、将来的には海外輸出も視野に入れているはずです。

しかし、その頃には、今回の酒税法改正で輸出に特化した酒蔵が海外輸出を行っているわけですから、零細酒蔵が入り込む余地はなく、国際化の波に乗り遅れて弱体化する、などの事態に陥るでは、と素人目にも心配するのですが、単なる杞憂であることを望みます。

日本酒を世界酒にするための方法:各家庭への浸透

 

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とは言え、日本酒を世界でワイン並の日常酒にするためには、現在の日本酒輸出量では足りないのは明らかです。

輸出量が伸びたとはいえ、年間1兆円分輸出されているワインに比べると、日本酒はまだ222億円の輸出額(2018年)です。ワインのように「世界中で愛されるお酒」になるためには、さらなる日本酒の輸出が必要です。

現在、海外での日本酒ブームを牽引しているのは日本食レストランです。お客はレストランで「ヘルシーな和食に合うヘルシーなお酒」として日本酒を好んで飲みますが、各家庭で飲むのはワイン。

日本食レストランもそろそろ飽和状態になりつつある中、日本酒の輸出の伸びも2020年以降はこれまでの伸びは期待できない、と予想する方もおられます。

日本酒輸出量がダウンする前に日本酒の裾野を広げて、ワインのような日常酒にする。それが日本酒に与えられたミッション「グローカリゼーション」です。

※グローカリゼーション:グローバリゼーション(世界普遍化)とローカリゼーション(地域限定化)をマッシュアップした造語。グローバルでありながらローカル性を持つ、と相反する意味を組み合わせたこの言葉は、日本の経済学者によって初めて提言されました。グローカリゼーションの目的は「物事を普遍的かつ特別なものにする。国際的でありながら、地方にも受け入れられる製品を作成すること」です。グローカリゼーションされた商品は、様々な違いがある文化や環境下であっても地域と適合すれば、結果的には企業に大きな利益をもたらす、とされています。

日本酒のグローカリゼーションに必要なこと

グローカリゼーションで求められるものは、まず日本酒の流通量を世界中で増やすこと。

日本食レストラン内だけでの特別な飲酒ではなく、

  • スーパーに行けば様々な種類の日本酒が棚に並んでいるからいつでも買える
  • 通販でも手に入る
  • 日本酒のサブスクリプションサービスも増えてきた…

などが現実となり、日本酒が世界中に溢れ、特別な存在ではない酒になれば海外需要は伸びます。

アメリカでの日本酒サブスク事情についてはこちら↓

日本酒【サブスクリプション】が大好評!米『Tippsy Sake』の壮大ストラテジーで日本にも恩恵が!?

その役割の片方をになっているのが、実は海外で作られている日本酒なのです。

その国の米で造られた「高級日本酒」で酒を知る

 

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Riz De Camargue Canavere(@riz_de_camargue_canavere)がシェアした投稿 – 2019年11月月11日午前6時06分PST

日頃、自国のワインを飲みなれているので、異国からやって来た「SAKE」には拒絶反応をおこすローカルな人々。しかし、その土地の米を使った地酒と聞けば、頑固な彼らもすんなりと飲んでしまうものです。

まず、地元の人々が「異国の酒でありながら地元で造られたSAKE」とは、と興味津々で飲み始め、日本酒とは美味しいものであることを発見。そして日常的に地酒を飲む習慣がつく。

最終的には「メイド・イン・ジャパン」ブランドを飲んで日本酒の本当の魅力を発見して夢中になる。この構図が成功すれば、これからも日本酒の安定した需要が見込めます。

「高級日本酒」の魅力広める、実力派海外酒蔵

 

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Riz De Camargue Canavere(@riz_de_camargue_canavere)がシェアした投稿 – 2019年10月月12日午前1時10分PDT

アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、スペイン、オーストラリア…と、日本酒を造る海外酒蔵は多くなりました。日本酒をその土地で造ればローカルに日本酒が受け入れられやすくなり、人々の生活にも自然に溶け込むことが予想されます。

特に美食の国フランス・パリで日本酒を置くレストランが増加すれば、「あの三ツ星レストランも日本酒をリストに加えた」との噂が流れ、地方のレストランでも日本酒を置くようになり、地元の人も日本酒に慣れていくと予想されます。

こうして日本酒は次第に「都会のレストランで飲む日本酒」ではなく、地方でも日本酒は健康的な日常酒となり、輸出がさらに拡大する可能性はあります。

フランス:フレンヌ「WAKAZE」米も水も酵母もフランス産高級日本酒

 

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WAKAZE FRANCE(@wakaze_france)がシェアした投稿 – 2019年10月月15日午前8時29分PDT

「既存の酒蔵以外、日本酒製造を認めない」という法律で国が日本酒メーカーの新規参入を阻んでいた時点で、すでに海外で日本酒を醸造することを決定したグループもあります。

それが、山形県にオフィスを構えるベンチャー企業「WAKAZE」です。

免許を持たないWAKAZEはOEM生産で高級日本酒「ORBIA(オルビア)」と、酒税法上は「その他の醸造酒」であるボタニカルSAKE「FONIA(フォニア)」の自社生産も行い、新時代のSAKEを開発し、世界中に発信して好評を得ています。

※OEM生産とは、醸造を他の酒蔵に委託するという「委託醸造」のことです。

そして、今回、パリ近郊フレンヌに念願のマイクロブルワリー「Kura Grand Paris(クラ・グラン・パリ)」が完成。海外市場をメインターゲットに据えた日本酒造りにさらに拍車がかかります。Kura Grand Parisで誕生する日本酒の特徴は、現地の水を仕込み水にするだけではなく南仏カマルグ地方の米を使用している事。

酵母は日本酒酵母を使わず、ワイン用酵母使用

テロワールにこだわる徹底した地酒造りですが、さらにバラエティな特徴を持ったお酒を完成するために、熟成用の樽もワイン樽だけではなくシェリー樽、ヴァン・ジョーヌ樽、カルバトス樽など種類を変えて使う予定とのこと。こうなれば、日本酒に合わせる料理の幅もぐんと広がりますね。

WAKAZEのお酒は、これまでにない斬新な方法で洋食とのペアリングを念頭において造られているので、その土地での市場にも受け入れられやすく、フランスでの日常酒になる可能性も秘めています。

実際、10月にパリで行われた「Salon du sake(サロン・デュ・サケ)」では、WAKAZEもカマルグ米の試験醸造酒を出展しましたが、ブースには人が溢れるほどの注目を集め、人々の反応も好調でした。

※Salon du sakeとは、日本酒をさらに多くの人々に知ってもらうためのイベント。第6回目に当たる2019年は日本酒600種類が出展され、来場者数は5,129名、と年々増加しています。毎年開催され、日本の伝統の味と食材や料理との新しい調和を開拓しています。

 

フランス:ローヌ・アルプ「昇涙酒造」日本にも輸出する高級日本酒造り

 

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Gilles Barboux(@gillesbarboux)がシェアした投稿 – 2019年11月月22日午前12時43分PST

今後、日本酒業界が日本酒需要をさらに開拓したいと願っているヨーロッパ市場。

ヨーロッパでも日本酒を造っている酒蔵は多いのですが、美食とワインの国フランスで誕生した本格的酒蔵「昇涙酒造」は日本にも日本酒を輸出するほどの実力派。

アルプスの天然水を仕込み水に使った昇涙酒造の5銘柄は、フランスの3つ星レストランでもオンリスト。天皇陛下もフランスの日本料理店をご訪問された際に、昇涙酒造の日本酒をお飲みになったとのことです。

ローヌ・アルプの天然水で造った日本酒は、お米の旨味をしっかりと感じる辛口。60℃以上のお燗でいただくのも美味しいと評判です。

 

愛知県:「萬乗醸造」フランスで米作りから始める老舗蔵の高級日本酒

萬乗醸造は海外の醸造所ではありません。しかし、日本に籍を置きながら、フランスのカマルグで米の生産に関わっている希少な酒蔵です。

「醸し人九平次」ブランドで世界中に名を馳せる萬乗醸造は、ブルゴーニュ地方でワイン蔵も持っていることから、ヨーロッパの人々がテロワールにこだわっていることを熟知しています。

日本酒の営業のためにレストランに飛び込んでも、必ず聞かれるのが「その日本酒に使っている米はどのようにして作っているのか」。

ワインはぶどう作りから手掛けるフランスにとっては、至極当たり前の質問です。

フランスに反して、日本酒用の米は自分で作らずに外部から買い付けることが多い日本酒の世界にいると、返答に困ることもしばしば…。

そこでフランスに日本酒を売るためには、フランス産米で造った日本酒でなければならない、とフランスでの米作りに取りかかったのです。

その結果完成した日本酒が「醸し人九平次 CAMARGUEに生まれて、」です。

その味わいは「日本の米で造った日本酒とは香りが違う。後味に土壌にある塩気を感じる。ヨーロッパ人にとっては飲みやすい酒」とのこと。

 

 

ヨーロッパで世界酒としての日本酒の普及を目指す3酒造をご紹介しましたが、彼らの地道な努力があってこそ、地元の方々のライフスタイルに溶け込み、これからの日本酒のさらなる飛躍が期待できるのでしょう。

まとめ:酒税法改正後の日本酒の行方

地球儀

ビールは1994年4月に酒税法改正があり、これまでの「年間製造量2000キロリットル以下は製造販売不可」という規定が外され、60キロリットルにまで引き下げられました。

これによって「第1次地ビールブーム」が発生しましたが、高価な割には品質に問題があるなどで人気も下降した、という不名誉な歴史を残しました。しかし、その後2010年あたりから、新しくクラフトビールブームが発生し、ビール新時代を迎えています。

では、酒税法改正後の日本酒の場合はどうなるのでしょうか。

国は国内販売を中心とする既存の酒蔵への影響を最小限に抑える、と言っていますが、前述したように零細酒蔵は海外輸出から取り残されてしまい、国内日本酒販売量のさらなる減少で経営悪化も考えられます。これでは、実質、見捨てたことになります。

それだけではなく、資金力のある大手食品会社などの参入が最優先されて海外向け日本酒を大量生産し、今まで海外で頑張ってきた中規模酒蔵のテリトリーを犯すようになるかもしれません。

数量基準を適用除外することで、1994年以降は中小地ビール工場が乱立し、脆くも潰れていったことは、まだ記憶に新しい事実です。

もちろん市場の活性化には多くのプレーヤーは必要ですが、過去に地ビールが引き起こしたごとく、日本酒の品質を落として自滅する可能性も否めません。

日本酒を世界酒とし、生活の一部に溶け込む存在へと変えるためには、これまで以上に品質にこだわった日本酒を造ることが必要です。

そうでなければ、メキメキと腕を上げてきた海外酒蔵に「國酒 日本酒」のお株を取られてしまうのでは、と心配するのは私だけでしょうか。


参照資料

・国税庁「清酒の製造状況等について平成29酒造年度分

・帝国データバンク「清酒メーカーの経営実態調査

・産経新聞社「日本酒づくり、新規参入を許可へ 輸出向け特化 政府が酒税法改正へ

・井出文紀「日本酒蔵元の集積と販路拡大、海外展開」立命館国際地域研

・GD Freak「酒類の家計消費支出

・T, The New York Times Style Magazine「Le Saké Made in France

・国税庁「「SALON DU SAKE 2019」における日本産酒類のプロモーション

・日本国際経済学会第77回全国大会「日本酒蔵元の集積と海外展開-飛騨・信州の事例から

・Salon du Sake