
果物を思わせるような華やかな香り。それでいてずっしりとした重厚な味わいが体中を駆け巡るようなものまで、さまざまな種類が存在する日本酒は、世界中で人気が高まっているアルコール飲料です。
日本酒を楽しみたいと日本酒バルや、居酒屋さんを訪れたとしても、純米酒や大吟醸酒など種類が細かく分類されていたり、ラベルには「精米歩合」なんてものが記載されている。
また、生酒や山廃止込みなんてラベルが貼られていることもあって、初心者の方にとっては敷居が高いと感じてしまうのは致し方ないことです。
絶対ではありませんが、日本酒には種類によって最も美味しく飲める「飲み方」があるもの。ここでは日本酒を美味しく飲むために覚えておきたい知識と正しい飲み方をご紹介します。
日本酒にも旬がある
いろいろな食べ物に一番美味しく食べれるタイミングである「旬」があるように、日本酒にも旬が存在します。
日本酒はそれぞれの酒蔵によってまちまちではあるものの、一般的に冬から早春にかけて製造され、一年を通じて飲まれていきます。
当然のように製造したてのタイミングで飲む場合と、一年近く寝かせて飲んだ日本酒とでは味が全く違ってきます。
味が違ってくるということは、一番美味しいと感じるタイミング、つまりは旬の時期があると思われる方もいらっしゃいます。
しかし、食べ物の旬とは違い日本酒の旬というのは、結論からいえば「飲む人の好み」によって旬が違っていると考えて下さい。
例えば、出来立てのフレッシュな日本酒の味や香りが好きだという方にとっての旬は新酒のタイミングになりますし、香りや味に個性が出る熟成酒が好きだという方の旬は、製造から一年近く経過した日本酒が旬ということになります。
ただし、日本酒の場合にはワインのように単純ではなく、火入れという作業をして年月が経過しても、味が変化しないように工夫されている日本酒もあるため、初心者にはややこしいと感じられるかもしれません。
この手の日本酒が好きという方にとっては、一年程度の時間経過では味に変わりはなく、一年中が旬を味わえるということになります。
日本酒の旬というものを考えた場合、それぞれの季節にしか飲めない日本酒というものがありますので、どういったものがあるのかをご紹介します。
四季折々でしか飲むことができない日本酒の種類
新酒が好きな人や熟成酒が好きな人、火入れをしている日本酒が好きだという人など、それぞれ嗜む人の好みによって旬は違うと紹介しましたが、春なら春にしか飲むことができない特別な日本酒というものが存在しています。
ここでは四季折々で旬になると言われている日本酒の種類をご紹介します。
春の季節は立春朝搾り
お酒造りは前述したように冬から早春にかけて行われます。そして最初に造られるのが「新酒」になります。若々しいフレッシュな日本酒が好きだという方には、新酒を飲むことをおすすめします。
この時期に造られた新酒を家庭用にある冷蔵庫では、そのままの状態で保管をしておくとができません。
熟成がどうしても進んでしまうことになりますので、手に入れたら早めに飲んでしまうことをおすすめします。
数多くある新酒の中で究極の新酒とも言われているのが、立春朝搾りです。立春朝搾りは、文字通り春先の朝に搾ったお酒をそのまま瓶詰めして、何とその日の内に酒屋さんの店頭に並ぶという日本酒になります。
立春朝搾りのようなアルコール飲料といえば、日本では大人気で毎年のように報道されるワインのボジョレーヌーボーがそれにあたります。
朝できたばかりのワインが夜に飲める。それまで美味しいワインは熟成されたものという常識を覆し、日本にフレッシュワインブームを巻き起こした立役者ですね。
まさにボジョレーヌーボーの日本酒版が、立春朝搾りになります。新酒の中でも最もフレッシュな日本酒であり、春に旬を迎える日本酒です。
夏は吟醸酒
湿度が高くじめじめと蒸し暑い日本の夏といえば、ビアガーデンを筆頭にしたごくごくと飲めて喉ごしが最高なビール。
しかし夏にベストなのはビールばかりではなりませんし、日本酒も存在しています。代表的な日本酒といえば、「夏吟」(なつぎん)と呼ばれる吟醸酒です。
夏吟の特徴はすっきりとした辛口の日本酒ということ。種類によってはアルコール度数を敢えて下げて造られており、ごくごくと飲めるような工夫がされているところ。
飲みやすく造られた夏吟をキンキンに冷やして清涼感のある喉ごしを味わう夏は最高とは言えないでしょうか。
更に「おりがらみ」や「にごり酒」も冬場や春先と比べると「微発泡」の状態となっており、弱めの炭酸感を味わうことができます。
このため「薄にごり」や「夏にごり」などとも呼ばれていますが、口当たりが良いため、夏にベストな日本酒として愛されています。
氷を入れてアルコール度数が低い日本酒をロックでごくごくと飲むIceBreakerも夏にベストな日本酒として若い女性から高い支持を受けており、ぐいぐいと飲める夏が旬の日本酒の代表格です。
秋の冷やおろし
秋になると「秋あがり」や「冷やおろし」といった日本酒が続々と出てきます。春先に出来上がった新酒に対していったん火入れをし、その後冷蔵貯蔵をします。
ひと夏を過ごし、秋の季節になった瞬間に冷やした状態のまま卸した日本酒を「冷やおろし」と呼んでいます。
冷やおろしの特徴は、少しの期間熟成されており、味が整い、味全体のバランスが良くなるのです。このため秋になると味が上がる=秋あがりとも呼ばれるようになりました。
穏やかであり、落ち着きがある香りが特徴で、濃厚で芳醇な味わいがあるとされており、日本酒の中で一番おいしいと紹介されることも多い日本酒です。
食欲の秋とも言われる秋の味覚との相性も抜群であり、最も美味しい日本酒が楽しめる時期とも言われています。
冬はにごり酒
何度も言いますが日本酒は冬から立春にかけて造られます。冬は新酒の季節ですが、新酒の季節とは、にごり酒を楽しめる時期でもあります。
にごり酒は荒く越しただけで、もろみがお酒の中に残っているという日本酒です。このため冬から春にかけて一番旬を迎える日本酒とも言えます。
「おりがらみ」といったものや「どぶろく」なども冬に旬を迎える日本酒になります。中でもおすすめの日本酒がまだ菌が生きていて、現在進行形で瓶の中で発酵が進んでいる「活性にごり」と呼ばれる日本酒です。
スパークリング感がバツグンに感じられる日本酒で、冬の時期にしか味わえない季節限定の日本酒といえるでしょう。
口に入れた瞬間にシュワシュワとした生命力を感じられる味わい深い日本酒は、冬場の醍醐味と言えるでしょう。
日本酒の正しい飲み方とは
季節ごとに一番美味しく飲める日本酒があるということが分かったところで、正しい日本酒の飲み方を覚えておくと、更に味わいが増すことになります。
飲み方などは、人それぞれと思われるかもしれませんが、日本の食文化には「作法」が存在します。いくつかの正しい作法をご紹介します。
受け手の作法
手酌で一人愉しむ酒もいいですがお酌を受けて飲む日本酒は格別です。お酌をされる側を「受け手」と呼んでおり、受け手にも作法があります。
お酒を注いでもらう前に盃に残っているお酒があれば、ひと口のみ、右手で差し出して左手を盃の下に添えるという形をとるのが美しく見えるコツです。
机やテーブルに置いたままにせず、必ず盃は持ったまま注いでもらうのが作法です。他と違う通な受け手になりたいなら、盃の底の部分にある高台を左手の中指と薬指で挟み込むという持ち方もあります。
注いでもらったら、必ず一口は飲み、テーブルの上に盃を置くというのが受け手のマナーです。
注ぎ手の作法
注ぎ手にも作法があります。徳利を右手でしっかりと持って、左手は注ぎ手の近くに添えるようにします。注ぐときには、徳利が盃に触れないように静かに注ぐのがコツです。
注ぎ方にもポイントがあり、最初は細く、次に太く、最後に細くなるように強弱をつけて注ぎましょう。
注ぎ終わりは徳利の口先を手間側に軽く回し、日本酒がこぼれないようにするのが作法です。
意外と多くの方が間違っているのが、徳利の注ぎ口です。注ぎ口は片側を尖らせて絞っている部分がありますが、実はこちらからは注ぎません。
尖っている部分を上側に向けて注ぐのがマナーとされており、細い部分を上に向けた形が注がれた側から見ると、「宝珠の形」になり、美しさを感じられるからという説があります。
他にも「円の切れ目」=「縁の切れ目」という語呂合わせで、そちら側から注ぐ行為というのは、「縁を切りたい」という意味にとられるため、向けるようにするというのが作法という説も存在しています。
日本酒を愉しむ際にしてはいけないNGマナー
美しく見える作法があるとご紹介しましたが、してはいけない恥ずかしいNGマナーというものも存在します。知っている人が見た場合には、不快な思いを抱かせるかもしれませんし、何よりご自身が恥ずかしい思いをすることになりますので、覚えておくことをおすすめします。
覗き徳利
文字通り徳利の中にお酒が残っているかを覗き見る行為です。片目をつぶり除き込む姿は、美しいとは程遠い姿ですね。
振り徳利
振り徳利も文字通りに徳利の中にお酒が残っているかどうかを徳利を振って確かめる行為になります。覗き徳利もそうですが、徳利の中に入っている日本酒が残っているかどうかを確かめる行為は、無作法とされるケースが多いですから、注意しましょう。
燗酒の場合には、中身が冷めてしまう原因を作ってしまうことにもなりますので、日本酒の味を損ねてしまいます。マナーばかりではなく、味まで落ちる振り徳利は絶対に行うべきではありません。
併せ徳利
少しずつ徳利に残っているお酒を集め、1本の徳利の中にまとめてしまうという行為です。別の銘柄の日本酒はもちろん、同銘柄の日本酒だったとしても無粋な行為とされています。
日本酒の温度と味に大きな影響を与えてしまう行為とされており、やはり日本酒を嗜む場所では起こべうべき行為ではありません。
逆手注ぎ
一般的には注ぎ手の右手の掌を下側に向けて注ぎますが、掌を上側に向けて注ぐアクションを逆手注ぎと呼んでおり、不祝儀とみなされます。
両手を添えていたとしても、両手の掌が上を向いてしまう逆手注ぎは、やはり不格好であり、美しくない行為と言えるのです。
逆さ盃
テーブルの上に盃の飲み口側を下にして置く行為を逆さ盃、もしくは逆さ杯と呼んでいます。実際に口に触れる飲み口面をテーブルに触れさせるわけですから不衛生ですし、テーブルを日本酒で汚してしまう行為ですから、無作法この上ないアクションと言えるでしょう。
大盛盃
良かれと思ってお猪口や盃、グラスなどになみなみと日本酒を注ぐ行為も無作法とされます。
表面張力ギリギリになるほど注がれたお酒は飲みにくいもの。またこぼしてしまう原因にもなり、その場を汚してしまう行為です。
升の中にグラスを置き、敢えてこぼして注ぐ「盛りこぼし」というサービスがありますが、注ぎ手側であるお店のサービスになりますので、これは例外と言えるでしょう。
注ぎ手と受け手とで日本酒を嗜むという場面であるなら、なみなみといっぱいには注がず、こぼすことがない程度の量を注ぐように心がけましょう。
旬はあるが好みはそれぞれ
このように日本酒には、その季節にしか飲むことができない旬とも呼べる日本酒が存在しています。しかしながら、フレッシュな新酒が好きな方もいれば、ある程度に寝かせた熟成酒が好みだという方もいらっしゃいます。
秋に旬を迎えると言われている冷やおろしが一番美味しいと評価する方もいれば、新酒や生酒の方が好きという方もいらっしゃいます。
更に合わせる料理によって、日本酒の味わいというのは大きく変わってくるものです。季節ごとの肴を味わいつつ、自分の好きなタイプのお酒が最も美味しく飲める時期を探すのも、日本酒の愉しみと言えるでしょう。
また、それと合わせて日本酒を愉しむ場のマナーもしっかりと覚え、無粋なアクションを起こさないようにすることも忘れてはいけません。
旬の日本酒、日本酒を愉しむ際のマナーなどをしっかりと覚え、自分なりの日本酒の愉しみ方を探してみてはいかがでしょうか。