肝臓のイメージ(空に肝臓のイラスト)

杜氏の手は美しい

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日本酒造りに携わる杜氏(とうじ)や蔵人(くろうど)、蔵の女将の肌はきめ細かく、色白で美肌の人が多いと言われています。実際、高級化粧品のCMでもキャッッチコピーとして紹介し、日本酒成分を使用しています。また日本酒の成分を入れた美容商品は幅広く、色々な場所で見かけるようになりました。例えば、「獺祭(だっさい)」を醸す旭酒造(山口県)は「手造り酒粕石鹸」を出しており、「白鹿(はくしか)」(兵庫県、辰馬本家酒造)が開発した日本酒由来成分「α-グルコシルグリセロール(αGG)」を配合した化粧品は、美意識の高い女性からも支持されています。α-グルコシルグリセロール(αGG)は、清酒300ミリリットル当たり、わずか1グラムしか含まれていない希少な成分です。研究の結果、保湿成分、リフトアップ効果など、スキンケアには欠かせない作用をはじめ、他の成分では類を見ない脂肪燃焼効果もあることが明らかになりました。化粧品だけでなく、保湿性に加え、柔らかくなめらかな風合いが特徴的なα-グルコシルグリセロール(αGG)は保湿成分と柔らかく滑らかな風合いをもつ特徴があるため、α-グルコシルグリセロール(αGG)を含ませた繊維も開発されており、女性用のインナーやブラウスとして発売されています。α-グルコシルグリセロール(αGG)を含んだ生地は、未加工の生地に比べ肌の水分量が改善する効果があるといわれています。

日本酒造りには欠かせない米麹(こめこうじ)には、シミ・ソバカスを防ぎ、肌を白く保つ物質が多く含まれており、美肌効果が高いと言われています。その美白効果を担っているのはコウジ酸です。コウジ酸はシミの持つメラニン色素を生成する酵素の働きを止めてくれます。

私たちが紫外線を浴びると、メラノサイト(表皮の基底層にあるメラニン生成細胞)が活性化しメラニン色素を生成します。メラニン色素は細胞を守るため、つまり肌の奥まで紫外線が届き細胞へのダメージを防ぐために私たちの皮膚に黒く表出してきます。強い紫外線を浴び続けると活性型のメラノサイト自体の数も増殖し、その結果メラニン色素が過剰に発生します。これがシミやソバカスの原因となります。

コウジ酸はメラノサイトでメラニンを生成する酵素を阻害するため、肌へのダメージを防ぐことから美白効果が高いといわれています。

美白だけにとどまらない米麹の様々な効果

また米麹には老化の原因の一つである酸化にも効果があることがわかってきました。米麹に含まれるデフェリフェリクリシン(Dfcy)に、生活習慣病、慢性疾患、老化、がんなどの原因となる活性酸素種を消去する抗酸化活性があることが月桂冠総合研究所や京都府立医大により学会発表されています。人体にはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)などの活性酸素を消去する酵素やアスコルビン酸(ビタミンC)、α-トコフェノール(ビタミンE)等の抗酸化物質があり、これらの働きで体内の活性酸素は除去されます。デフェリフェリクリシン(Dfcy)は、既知の抗酸化成分であるアスコルビン酸(ビタミンC)やフェルラ酸と同様の効果があることが分かり、米麹を摂取することで、体内の活性酸素種を減少させ、疾病のリスクを低減させる可能性も期待されています。

フェルラ酸とは?

フェルラ酸は植物の細胞壁などに含まれるポリフェノールの一種で、ほとんどの野菜や果物に含まれています。また、その強い抗酸化作用を有効に使うために、変色・退色防止や、細菌抑制効果を期待され、私達の身近なもの、たとえばお菓子やデザートなどの酸化防止剤としても使用されています。

ビタミンCや他のポリフェノール等のように、活性酸素の毒性から細胞の酸化を防止し、脳機能の改善や美白にも優れた効果を発揮してくれます。

これまでは化学合成により人工的に生産されていましたが、近年、米糠(こめぬか)から抽出する技術が生まれたことで、健康食品や化粧品にも用いられるようになってきました。

食品添加物として酸化防止作用、化粧品用ではメラニン生成の抑制作用が確認されており、細菌の抑制、紫外線吸収、アルツハイマー型痴呆(ちほう)への効果も注目されています。

フェルラ酸の効果

アルツハイマー病の予防

日本人の死亡原因の3分の2は生活習慣病によるものとされていて、しかも生活習慣病が認知症に大きく関わっていることが分かっています。内閣府が作成した「高齢社会白書」によると、認知症高齢者数は2012年の時点で約462万人(65歳高齢者数約3000万人)と推計されており、約10年で1.5倍にも増える見通しです。これに「認知症予備軍」といわれる軽度認知症障害(MCI)を加えると約1300万人もの患者数になるともいわれています。

フェルラ酸は、脳の中で酸化ストレスから炎症を引き起こすβ-アミロイドペプチドに対して防御する役割をはたし、アルツハイマー病の予防効果が期待されています。β-アミロイドペプチドとは、脳が活動したときに生まれる老廃物です。通称「脳のゴミとも呼ばれています。この物質の蓄積がアルツハイマー病発症の引き金と考えられています。このアミロイドβペプチドの排出力の低下がアルツハイマー病と関係があるということが近年の研究で明らかになってきています。

フェルラ酸は、年齢を重ねていくごとに減少していく脳神経細胞の老化防止と、アルツハイマー病の原因となるβ-アミロイドペプチドの蓄積を予防する効果が期待されています。物忘れや記憶力の低下が気になる方々の知的な活動を徹底サポートしてくれる成分なのです。

優れた抗酸化作用

抗酸化効果とは、活性酸素を取り除くことを指します。活性酸素は呼吸で吸収した酸素の一部が変化することにより発生します。悪いもののように捉えられがちな活性酸素ですが、細菌を除去する、白血球などの働きを助ける、余分な水素を排出するなど、実は体にとってはなくてはならない働きを担っています。

体にとって良い働きをする活性酸素ですが、多すぎると正常な細胞を酸化させてしまい、逆に害になってしまいます。シミやシワなどの老化のほか、がんや動脈硬化などの病気を引き起こすこともあります。

活性酸素が増えすぎて害になるのを防ぐために、体にはもとから抗酸化機能が備わっています。しかし様々な原因によりその機能では対処しきれない量の活性酸素が発生することもあります。フェルラ酸を摂取することで抗酸化作用を高め、増えすぎた活性酸素を取り除くことができます。

また、抗酸化作用及び活性酸素種の消費作用から、多くの食品の「酸化防止剤」として、変色・退色防止に用いられ、細菌の抑制効果もあるとされています。

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美肌効果

フェルラ酸には強力な抗酸化作用があります。フェルラ酸を摂取することによって、体内の細胞に働きかけてくれるので、老化を予防し若々しさを保つことができます。

このフェルラ酸の紫外線吸収、メラニン生成の抑制効果により、美白・美容作用成分としてシャンプー、洗顔料、ローション、化粧水等の化粧品用途で用いられています。

高血圧の予防や肝機能の改善

フェルラ酸は、植物に含まれている他のポリフェノールよりも体内への吸収率が非常に高いということが確認されており、さまざまな疾患や症状に高い効果が期待され、多くの医療機関でも取り入れられるようになってきています。

悪性腫瘍の増殖抑制、血糖値降下作用、脳機能改善作用などが報告され、機能性に富んだ注目の素材といわれています。

抗うつ作用

現代社会における様々なストレスから引き起こされて世代を超えた社会問題にもなっている精神疾患、うつ病。

フェルラ酸には、精神的なストレスによって生じる活性酸素を除去し、ビタミンCやビタミンEと一緒に取り入れることで、酸化ストレスを減少させる働きがあることも分かってきました。ストレスなどにより活性酸素が増えて、抗酸化作用が衰えている体に、特に効果を発揮してくれます。

 

このように、日本酒には生活習慣病への様々な効果があることが分かりました。しかし一升瓶を購入してしまったり、贈答品などでせっかくいただいたものの、度数が高くてなかなか飲みきれない、またはアルコール全般が苦手だという方も少なくないかもしれません。日本酒を消費しづらい、または手軽に食中酒として楽しむことができない場合の、日本酒を日常生活への取り入れ方について、いくつかのアイデアをご紹介します。

食材を復活させ、より美味しくする万能調味料

欧州では中世後期以降、ワインが調味料として使われていました。それはワインの香りが肉特有の臭みを消し、アルコールが肉の組織に作用して肉を柔らかくするからです。一方日本では日本酒が古くから調味料として使用されてきました。平安時代には朝廷の造酒司(みきのつかさ)によりつくられた日本酒の中に、麹と蒸米と酒が原料の「醴酒(れいしゅ)」、博多地方で作られた「練酒(ねりざけ)」、発酵中の清酒もろみに木灰を入れて発酵を停止してつくる熊本の「赤酒(あかざけ)」や鹿児島の「地酒(ぢしゅ)」、いずれも甘い酒で、当時砂糖などの甘味料が少なかったため甘味を加えるための調味料として使われていました。これが調味酒の起源となります。室町時代後期にはみりんが誕生したため、日本酒は「淡麗辛口(たんれいからくち)」へと以降していきました。それ以降、甘味を控えたい料理には日本酒が使われ、みりんや砂糖で甘味を調整するようになります。

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日本酒は調味料として、酸味、甘味、うま味、香りのバランスが取れていて、食塩との相性が良いので、調理に利用しやすいのが特徴です。料理に日本酒を加えると香りが良くなり、濃くやまろみ、甘味や酸味がつき、味に深みが出ます。また、ツヤが良くなり、仕上がりが美しくなる万能調味料なのです。

食材を柔らかく

お米200gに対して日本酒を小さじ1〜2杯程度を加えると、炊き上がりのご飯に光沢が出て、甘みが増します。また、古米などの独特の匂いを消す効果もあります。炊飯器のメニューを間違えたり、水加減を失敗した芯のあるご飯には、大さじ一杯程度の日本酒をふりかけ、よく混ぜた後に再度炊飯スイッチを押すことで、ふっくらとした美味しいご飯に生まれ変わります。また、冷やご飯に日本酒をふりかけレンジで加熱することで、炊きたてのようにふっくらとした美味しいご飯に戻ります。

また、インスタントラーメンに日本酒を加えると、油で揚げた麺の独特の匂いが消え、スープはマイルドになり油っぽさが抑えられるため、より美味しくすることができます。

硬くなってしまったお餅に日本酒を吹きかけて1時間ほどおいておくと、包丁がスッと通り切りやすくなります。また同様に硬くなってしまったチーズに塗って2〜3分おいておくと、ほどよい柔らかさが戻り、美味しさが復活します。日本酒に含まれるアルコール成分が脂肪分を分解し、柔らかくする作用があります。

肉や魚を煮たり焼いたりすると筋腹繊維(きんげんせんい)のミオシンタンパク質などが変性、凝集(ぎょうしゅう)していってしまい、硬くなったり小さくなってしまいます。食材が酒を事前に含んでいたり、水と同量かそれ以上の酒で煮たり蒸したりすると、アルコールの作用により保水性が高まり、硬くなりすぎず柔らかく仕上げることができます。しゃぶしゃぶや水炊きなど、肉類の鍋物などで出やすい灰汁も出にくくなる効果もあります。

殺菌して旨みを倍増

アルコール成分、つまりエタノールには殺菌作用があり、魚や肉などに調理前になじませておくと臭みの原因となる細菌を殺菌する作用もあります。特に魚介類に多い揮発性トリメチルアミンは、日本酒の揮発性カルボニル化合物と反応して臭みが消えます。生牡蠣のように生食するシンプルな食材の場合に食前に日本酒をふりかけておくことで安心して食べることができます。また日本酒に含まれる高級アルコール(バラのような芳しい香り)はもちろんのこと、アルデヒド類(ナッツのような香り)、様々な有機酸の一つであるコハク酸などの香りが食材にプラスされ、臭みを消すと同時によい香り付けをします。また貝類に含まれるグリコーゲンとも相性がよいため、旨みが引き出され食材がより美味しくなる効果もあります。

また日本酒に含まれるグルタミン酸には昆布だしと同様に旨み成分が多く含まれています。カツオだしや赤身魚などイノシン酸が含まれる食材に使用すると、グルタミン酸が旨みを増幅させるので、料理がより美味しく感じられます。

焼き色と香りを良くする

日本酒に含まれている糖分やアミノ酸は、加熱すると糖質のカラメル化が早くなるため、美しい焼き色と風味を作ります。魚を焼く際、塩を振り旨み成分を表面に凝縮させ、その後に日本酒を塗って焼くと、美しい黄金色の焼き色がついて香ばしさが増します。また、日本酒を塩で調味した酒塩に魚を吸う風漬け込んでから焼くと、アルコール分で塩の浸透が早まるため、中心部まで適度な塩味が染み込みます。保水性も保たれるので、しっとりとした柔らかい焼き上がりになります。肉類も同様の工程で焼き上げることで、美しい焼き色とふっくらとした柔らかな仕上がりにすることができます。

味つけをまろやかにする

日本酒の甘味やうま味成分は、酢の物や漬物、和え物などの酸味や塩味をまろやかにします。また、アルコールの効果で、調味料の吸収率が上がり、調味料の使用量を減らして減塩が可能になります。キュウリなどの野菜の即席浅漬けには、材料の3%の塩が必要ですが、塩とともに日本酒を振って一晩おくと、アルコールで調味料の浸透が進むため、塩を半量の1.5%にすることができます。日本酒の水分も加わり、食感も良くなります。また日本酒の甘味や酸味、うま味も加わり、まろやかで奥行きのある深い味わいの美味しい漬物ができます。

また、酢の物や和え物などを作り、酢が強かったり、醤油が多すぎたりする際、日本酒で味の修正をすることができます。加熱調理をしないため、アルコールが苦手な場合は煮切り酒を使うのがおすすめです。煮切り酒は、日本酒を鍋でアルコール臭がなくなるまで加熱、もしくは耐熱容器に日本酒を入れ、ラップをかけずに電子レンジで加熱して作ります。

まとめ

日本酒は飲むだけでなく、アルコールが苦手な方にも日常的に取り入れやすく、様々な食材や料理を美味しくしてくれる万能調味料です。また豊富な栄養素や生活習慣病の抑制に作用する様々な成分を含み、美容健康への高い効果が期待されています。バリエーション豊かな食生活を楽しみながら、日々積み重なる生活習慣病のリスクを軽減し、美しく健康な毎日につなげることができます。日本酒を普段から様々な用途で取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

参照文献及び参照サイト

  1. 日本認知症予防学会 「フェルラ酸,α‐グリセロホスホコリン,イチョウ葉エキスおよびビタミン C を 含む錠剤の 6 か月摂取が軽度認知障害を有する高齢者に与える影響 -無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験‐ 石井 有理*・松岡 小百合*・江田 諭司*・大濱 寧之*・由井 慶*・矢部 真**・板東 邦秋** 」
  2. 城西大学 松崎広和著「抗うつ作用を有するフェルラ酸誘導体の探索
  3. FANCL「フェルラ酸に認知症予防の新機能を発見
  4. オリザ油化株式会社「フェルラ酸
  5. オカヤス株式会社「フェルラ酸
  6. 食協株式会社「米糠に含まれる機能性成分とその生理作用
  7. 橋爪克己著「清酒と原料米のフェノール酸関連化合物