合鴨農法

その昔、ヒポクラテスはこう言いました。「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」。

現在、この言葉は「オーガニック」の根幹を表すものとして使われています。毎日食べるものだから、より安全なものを選びたい人間の心理を突いています。

アメリカではすでに70%の人がオーガニック食品を食生活に取り入れ、フランスでは給食の材料の半量はオーガニックにすることを決定。

加えて、現在ではオーガニックを食の分野だけに限らず、衣食住すべての要素をオーガニックで満たすライフスタイルを実践する人も増えてきました。

日本でもオーガニックは日々身近な存在になりつつあり、日本酒の世界にもオーガニック日本酒(有機日本酒)が登場しています。

今回は、

  • 海外と日本のオーガニック事情の違い
  • オーガニック食品は健康と環境のためのベストな選択なのか
  • オーガニック日本酒は美味しいのか

について説明いたします。

オーガニックは今やライフスタイル

野菜

オーガニックとは、化学肥料や農薬を使わずに育てた農作物などのことで「有機」とも言います。

有機栽培と称して販売するためには農林水産大臣が定めた有機JAS(日本農林規格:Japanese Agricultural Standard「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」)制度の認定を受けなければならず、勝手に「有機・・・」と名乗れば厳しい罰則が待っています。

現在では、オーガニックは食べ物に関する法制上の区分けだけにとどまらず、その人の主義や生き方を表す言葉としても使われるほどポピュラーになってきました。

オーガニックなライフスタイルの具体例は、

  • 毎日の食事はオーガニック食品
  • 衣類に関してはオーガニック栽培のコットンやシルク、リネン、カシミアなどの天然素材を身にまとう
  • 住居を作る時にはシックハウス症候群の原因となるVOC(揮発性有機化合物)が含まれていない建材を使う
  • 掃除には重曹や酢など天然成分を使う
  • 車の使用を減らし、二酸化炭素排出量にも気を配る、etc…。

このようなオーガニックライフを持続することで、個人が自然で健康的な幸福感を得て、ひいては地球環境の改善に繋がる、と信じる人が増えています。

オーガニックは「有機肥料」を使っただけの生産物ではない

ニンジン

「有機」の定義をご存知でしょうか。

「有機農業に対する消費者の理解と関心に関するアンケート調査」によると、約20%の人が「有機肥料を使えば化学肥料や合成農薬を使っても良い農業」と間違った解釈をしていることが示されています。

「有機」を「有機肥料」にだけ関連付けして、農薬の使用不使用とは無関係、と間違って理解しているのです。

この混乱は、有機JAS法が施行される以前の農林水産省のガイドラインが原因です。

当時のガイドラインだけでは、農薬や化学肥料を使いつつ、有機肥料を一部使用することで「有機」として販売しても取り締まるだけの拘束力がなかったのです。このことから、いまだに消費者は間違った「有機」のイメージを払拭できていません。

有機JAS法が施行された現在での正しい有機の定義は、

農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産されること

出典:農林水産省「有機農産物の日本農林規格

難しく書いてありますが、簡単にまとめると、

有機(オーガニック)とは遺伝子を組み換えず、化学肥料を使わず、化学殺虫剤を使っていないものを指し、有機肥料を使い、化学農薬を使わずに作物を作る

ということです。具体的には、下記の事項も必須となります。

  • 播種または植え付け前2年以上(多年生作物にあっては、最初の収穫前3年以上)の間、堆肥等による土づくりを行ったほ場において生産されたもの
  • 農林水産省が認定する登録認定機関の認証を受けたもの
  • 有機JASマークが貼付されたもの

※ちなみに「無農薬」「減農薬」などの表示は原則的に禁止されています。

このように有機JASが厳格に改正された裏には、

海外の有機認証制度と日本の有機認証制度には大きな隔たりがあり、いくら日本で「有機」と認めていても、アメリカやEUは日本の生産物を「有機」として認めくれず、日本からアメリカやEUへの輸出を拒まれた

という面目ない事態が発生していたからです。

その頃の日本酒蔵の中にはオーガニック日本酒を海外で売るために、アメリカの有機米を使ってアメリカで日本酒を醸造し、それを日本に持ち帰り、再びアメリカに輸出する、といった笑い話のような手順を踏んでいたこともあります。

農産物や加工品を海外にオーガニックとして輸出するためには、日本の規則が諸外国と同等性を持たねばなりません。

現在の有機JASは、アメリカ、EU、カナダなどで海外オーガニックと同等の規格を持った認証として扱われています。

海外のオーガニック事情

販売されているりんご

日本でのオーガニック食品市場規模は1,850億円。アメリカの525億ドル(5.6兆円)、EUでの307億ユーロ(3.6兆円)に比べて、日本のオーガニック市場は微々たるものです。

アジアでは韓国は1.0%、中国では0.4%の面積比でオーガニック農産物が作られていますが、日本での有機農業は0.2%。

EUのオーガニック食品成長率は2012年に比べると2016年は47.7%増加しています。それを受けて、オーガニックに転向する農家も18.7%に増えていますが、オーガニック人気に対して供給が間に合わないほどに需要が膨れ上がっている国もあります。

国別オーガニック食品消費額

では、主な国別に年間オーガニック食品消費額を見てみましょう。

国名 国全体消費額 一人当たり消費額
アメリカ 525億ドル(5.6兆円) 159ドル(16,814円)
ドイツ 109億ユーロ(1.2兆円) 132ユーロ(15,577円)
フランス 84億ユーロ(9,900億円) 128ユーロ(15,111円)
日本 1850億円 1,468円

各国のオーガニック食品消費額を1人当たりに換算すると、日本の10倍以上もの金額を費やしています。

フランスのオーガニック事情

フランスでは、公共部門が購入する食料の半分はオーガニックでなければならない、と発表しています。

学校給食もオーガニックに

学校給食もオーガニックにと話す女性

公共部門とは学校も含まれており、2022年までには学校給食の材料の半分をオーガニック食品にすることに決定。未来を担う子供達を大事にする姿勢が感じられます。

普通のワインよりもオーガニックワインをチョイス

ワインとチーズ

フランスではオーガニックワインも人気です。

オーガニックワインとは、有機農法の原則に従って栽培されたブドウから作られたワインであり、化学肥料、化学農薬、殺菌剤、除草剤の使用は原則禁止されています。

今後数年間、フランスでのワインの消費量はほぼ横ばいになると考えられていますが、オーガニックワインだけは別。市場分析の結果では、2022年までに年間8750万本のオーガニックワインが飲まれる、と予測しているので、日本酒に対してもオーガニックが求められるようになりそうです。

世界でもオーガニックワイン市場を牽引しているのは主にフランス。すでにオーガニック市場の15%を占める勢いです。この傾向は都心部だけではなく、徐々に周辺へも広がりつつある、とのことです。

アメリカのオーガニック事情

アメリカでもオーガニックはトレンド。オーガニックワインも1つのワインジャンルとしてその地位を確立しています。

ワイン産地も続々とオーガニックに転向

例えば赤ワインの主な産地として知られるオレゴン州。ぶどう農家の40%がオーガニックの認定を受けているほど、オーガニックワインの人気は高まっています。

また、Sopexaによる「WINE TRADE MONITOR(ワイントレードモニター) 2018」では、35%以上の人がオーガニックワインの売り上げが今後2年間で大幅に増加する、と見ています。

海外と日本での農薬認識の差

海外でのオーガニック人気には目を見張るものがありますが、なぜ彼らは日本とは桁違いにオーガニック商品を求めるのでしょうか?

地球環境の保全、とする見方もありますが、誰しも我が身が可愛いもの。イギリスの調査では95%が「農薬の摂取を避けるため」と答えています。

日本ではペットボトルのお茶からも農薬

ペットボトルのお茶

それに対して日本政府は、いまだに海外で禁止されている農薬を許可し、使用量の規制も緩めています。

以下は朝日新聞記事「有機食材続ければ、体内の農薬大幅減 NPO調査」(2019年7月12日)の内容です。

福島のNPO法人「福島県有機農業ネットワーク」と「北海道大学大学院獣医学研究科」が共同で行った調査結果によると、有機栽培品を食べ続けると体内に蓄積された農薬量が減った、とのこと。

体内に蓄積された農薬とは「ネオニコチノイド系殺虫剤」6種。水に溶けやすく扱いやすいことから、年間400トンが使用されています。

また、市販のペットボトルのお茶すべてからもこの農薬が検出されています。(筆者まとめ)

ここからは「食材事典.COM」からの引用です↓。

一応袋を被せる前に農薬をかけることはありますが、そういった農薬も収穫時期まで残留しないようにちゃんと計算されて使われています。日本の残留農薬の基準は厳しいですが、国産ぶどうの99%はこの基準をクリアしているので心配はいらないでしょう。
出典:食材事典.COM「ぶどうは洗う?洗わない? 農薬は大丈夫? 皮ごと食べても安全?」

ここで不思議なのは、「体内に蓄積された農薬が減った」ことではなく、日本人が「日本の残留農薬の基準は厳しいので大丈夫」としているにも関わらず、なぜ体内にネオニコチノイドが蓄積されていたのか、という事です。

海外ではネオニコチノイドをキャンセル

女王蜂

ネオニコチノイドは、根から吸収されて植物全体に広がり、接触したミツバチなどの昆虫の中枢神経系に影響を及ぼし、麻痺と死をもたらす農薬、とされています。

ネオニコチノイドが使われた植物から蜜や花粉を得たミツバチは、帰る巣の場所がわからなくなることから多量のミツバチ失踪に繋がり、さらにネオニコチノイドで汚染された蜜が原因で女王蜂の産卵数も減少してミツバチの個体数が減った、とする研究もあります。

そこで日本を除く各国は、ネオニコチノイドが地球生態系の破壊をもたらす農薬として、

  • EUではすでに主要なネオニコチノイド3種類の使用を禁止
  • フランスはネオニコチノイド全面禁止
  • アメリカの環境保護庁は12種類のネオニコチノイドの承認をキャンセル
  • ミネソタ州ではネオニコチノイド使用に制限を加える以外にも、ミツバチなどの保護にさらに積極的

など、使用を制限・禁止する動きが活発です。

このように欧米では環境保全に関して非常に意識が高いのですが…。

日本では逆に規制緩和、人体に危険なフィプロニルもいまだに使用

農薬を散布する

日本での現状は、逆にネオニコチノイドの残留基準を緩めています。「もっと使っていいよ♪」と言うわけです。

人間や水産動植物への毒性が高いことが知られているフィプロニルという農薬もありますが、2017年からEUでは全面使用禁止となっているにも関わらず、我が国では現在でも散布はOKです。

オーガニックは美味しくて安全?検証8例

日本では、農薬や肥料の使い方による農作物の表示は3種類に分けられています。それぞれの意味することは以下の通り。

  • 一般農作物:スーパーや八百屋さんで手に入る普通の作物
  • 有機農作物:JAS基準をクリアした作物
  • 特別栽培農作物:その土地の状況に合わせて減農薬や無農薬を目指して作られた作物

※前述の自然農法は法律(有機JAS法等)では定義されていません。

有機農産物は有機JAS基準をクリアしていなければなりません。

前述したように、日本のオーガニックは欧米ではオーガニックと認められなかった過去があったので、農林水産省は我が国の農産物に欧米と同等性を持たせるために、かなり厳しい基準に変えています。

有機JAS基準とは、

  • 水田は農薬や化学肥料を使わないようにしてから3年以上の経過が必要
  • さらに、非オーガニック用水田と区分されており、農薬などの飛来・流入を避ける措置も必要
  • 土つくりには堆肥などや土壌動物、微生物の力を利用し、化学肥料は禁止
  • 有害動植物に対しては物理的、動物的排除すること。農薬は使用禁止
  • 紙マルチ使用は許されるが、生分解性マルチは使用できない
  • 収穫後も非オーガニック農産物との混合を避ける
  • 遺伝子組み換え技術を使わない…etc.

しかし、以下のように例外措置も認めています。

  • 種子及び苗は、有機農産物の生産の方法に適合する種苗の使用が困難な場合は一般の種苗でも可
  • 土壌管理については、作物の正常な育成が不十分な場合は許容されている肥料及び土壌改良資材の使用可
  • 農産物に重大な損害が発生する有害動植物の排除には許容されている有機 JAS 規格許容農薬(以降、「有機農薬」と表示)の使用可

①オーガニック農作物は一般農作物と比べて健康上の利点はない

健康上の利点なしと話す医師

スタンフォード大学チームによるメタ分析では、オーガニックに対して以下の結果が公表されています。

  • 一般農作物とオーガニック農作物には健康に及ぼす効果の差はない
  • ビタミン含有量も有意な差はない
  • オーガニックはリンの含有量が多い
  • しかし、オーガニックミルクにはオメガ-3が多い

残念ながら『オーガニックがビタミン、ミネラルが従来の農産物よりも多く含まれていて、一般農作物よりも栄養価が高い』という具体的な証拠はありません…。あったとしても、それは僅差に過ぎないという結果でした。

②オーガニック農産物が一般農産物より美味しいと言う証拠はない

オーガニックは味が濃い、との評価もありますが、オーガニックは地産地消タイプが多く、消費者は新鮮なうちに食べることになるので、その結果「美味しい」と感じます。

一般農作物でも同じ事が言えます。新鮮であれば美味しいのです。逆に、せっかくのオーガニックも冷蔵庫に入れっぱなしで数日経てば味も栄養も失われていきます。

オーガニック疑問視だけではなく、オーガニック食品の方が危険、とする説もあります。

③農薬なしで育てられた野菜は毒素を生成する

土に苗を植える

農薬や化学肥料で保護された一般農作物とは違い、オーガニックで育てられた野菜は多くの害虫や雑草と戦う必要があります。その結果、植物は自分の身を害虫や自然から守るために、普通よりも多くの天然毒素を植物内に増加させます。

例えば、ジャガイモのソラニンなどは死亡することもあるほど有害です。

ソラレン(セロリ、キウイ、オレンジなどに含まれる)には光毒性があり、太陽光の下では人間の皮膚にシミ、水泡、湿疹を引き起こします。

その他、オーガニックは虫から自分を守るためにフェノール化合物(抗酸化物質)も増加させる傾向にありますが、昨今流布されているような「フェノールは健康に貢献する」という十分な研究はありません

逆に高濃度のフェノールは突然変異をもたらす、鉄分の吸収を阻害する、という事実があるので、貧血気味の女性は気をつける必要があります。

④化学肥料を使わないオーガニック農産物にはバクテリアが多い

バクテリア

オーガニック農家が用いても良い堆肥とは、「家畜や家禽排泄物を敷料とともに腐熟させたもの」。

「家畜家禽の餌の内容物や使用投薬(抗生物質など)は問題視しない」と農林水産省は土壌改良剤として堆肥を用いることを推奨しています。しかし、排泄物が適切に堆肥化、熟成されていない場合には、農産物が汚染される場合があります。

例えば排泄物中の大腸菌O157は、90日から120日間も土壌の中で生き続け、農産品の可食部分にまで侵入し、適切な洗浄や加熱を怠れば重篤な疾患を引き起こします。

⑤昆虫や天候で弱まったオーガニック農産物はカビに対して脆弱

オーガニックの野菜は非GMO。つまり、害虫や自然環境に対して耐性がありません。

それなのに農薬の保護を受けず、害虫などの攻撃に耐えねばなりません。弱った植物は、マイコトキシンというカビによって作られた発ガン性有毒物質アフラトキシンに汚染されやすくなります。

オーガニック農産物は収穫時にも野菜に殺菌剤を使用しないため、貯蔵庫の中でもアフラトキシンは増殖し続けます。

※アフラトキシンとは、低容量でも肝臓ガンを誘発する可能性があるカビ毒です。

⑥有機農薬は化学農薬よりも環境に悪い

化学農薬は使用禁止、ですが、有機農薬は使っても良いことになっています。しかし、一部の有機農薬は作物を保護する益虫に対して有害になる、という研究があります。

有機農薬は、天然物又は天然物由来のものから構成されている、とのことなので安全な印象はあります。

しかし、実際には河川に流入すると「水産動植物に影響を及ぼす恐れ」がある、と明確に書かれている有機農薬も存在しますが、なぜか農林水産省は使用可、としています。

また、有機農薬は化学農薬よりも効果が薄い事が多いので、大量に散布する必要があります。いくら有機農薬とは言っても大量に使えば、生態系を破壊する恐れがあります。

⑦オーガニック農産物は高い

財布を開けてみる男性

有機農薬は高価です。ダニ用有機農薬「リモニカ」などは、田んぼ一反(300坪/990平方メートル)に対して2〜4リットル必要なのに、1リットルあたりの値段は33,000円!最大132,000円の出費です。

オーガニック農産物は草取りなどの手間がかかるから高価になる、と言われていますが、実は高い有機農薬を使うので値段が上昇しているとも考えられます。

⑧オーガニック農産物は地球温暖化の原因になる

地割れ

有機農作物は育ちが悪いことも多く、作付け面積を増やす農家もあります。それは二酸化炭素排出量の増加につながり、地球温暖化に拍車をかけます。

中でも有機穀類や有機豚は、一般農産物よりも温室効果ガスの排出量が多い、との研究結果もあります。特に有機水田はCO2より25倍も熱の保持能力が強い温室効果ガスであるメタン(CH4)を多量に発生させています。

東京オリンピックではオーガニック農産物よりもGAPを優先

東京オリンピックではオーガニック農産物よりもGAPを優先と話す男性

東京オリンピック・パラリンピックの選手村で使う食材は、GAP管理を行っている農家から調達することになっています。

GAPとは、やみくもに農薬を否定するものではなく、如何に農薬を使用しないようにするか、に工夫が求められている農法のことです。

農薬を使用する場合は科学的に安全が保証され、実践的にも適合性と必要性が認められた農薬に限り、公的機関の助言のもとで使用することができます。

 

※「GAP」とは、「Good Agricultural Practice」で、「良い農業の取り組み」という意味です。残留農薬基準違反の防止と工程管理に基づく品質保証が大きなポイントになっています。発祥はドイツ。現在では各地域に合わせたGAPが誕生しています。

オーガニック(有機)日本酒とは

田んぼの稲穂を触る男性

水田、お米の栽培、醸造に至るまで化学物質に頼らず、自然の力によってお米本来のポテンシャルを最大限に引き出した日本酒。それがオーガニック日本酒

オーガニック日本酒に対しても、農林水産省から厳しい条件が出されています。

蔵の掃除も薬剤を使わない

オーガニック米を使うことは必須ですが、お米だけではなく「酵母も有機」という証明書が必要です。さらに日本酒を造るすべてのプロセスからも化学薬品や化学物質を排除しなければなりません。

例えば、設備。

蔵の壁に合板は使用禁止。蔵の掃除も薬剤は禁止。すべて手作業での熱湯消毒となります。

そこまでやっても貰えない有機JASマーク

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#日本酒 #japanesesake #茨城県の地酒 #和の月

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オーガニック日本酒を造るためには徹底した管理が必要なのですが、実際に国から許されたマークは、全然目立たない(有機農産物加工酒類)という小さな表示だけ…。これでは他の日本酒との差別化は厳しい状況です。

 

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❤︎❤︎さん(@dla.you)がシェアした投稿 – 2019年 6月月19日午前8時32分PDT

できれば、この商品のように有機JASマークをドーンと目立つようにつけることができれば、オーガニック日本酒であることが消費者にもわかりやすいのですが、日本酒は国税庁の管轄なので農林水産省の有機JASマークはつけられないとのこと。

フランスではフランス政府によるオーガニック認証ロゴ「ラベルAB」がワインに表示(赤い丸印で囲んだ部分)されているので、消費者が商品を選ぶ時にはわかりやすいですよね…。

「テイストファースト」で日本酒を選ぼう

お酒 乾杯

日本酒造りにも有機米を使うと飲む側にも安心感があり、有機の力でスクスクと育ったお米の美味しさを味わえるでしょう。

しかし、

日本酒に至ってはもともと玄米の表面を削り取り、洗米した後に清潔な蔵で造られるもの。だから、基本的に日本酒とはオーガニックであった

とも言えます。

健康な生活を送るために有機にこだわり、地球環境に思いを馳せる生活は素晴らしい事です!

冷涼な半乾燥地帯が多い欧州やカラリとした気候のアメリカ、それに対して温帯モンスーン気候で雨や湿気が多い日本では虫や雑草が発生しやすく、オーガニック農作物の生産は困難な面が多いと思われます。

オーガニックを作るってこんなに大変なんですよ、と書かれているブログを読ませていただくにつれそんなご苦労を克服されている有機農家の方には頭が下がる思いでいっぱいになります。

とは言っても、「オススメは有機」「儲かります」とおっしゃっている農家さんのサイトもありますが…。

GIAHS(ジアス:世界農業遺産)に認定!新潟・佐渡島のお米で日本酒

佐渡島 海

2011年にFAO(国連食糧農業機関)が、日本で初めて新潟県佐渡島をジアスに認定しました。

化学農薬や肥料を減らして生物と自然に調和する方法で佐渡米を生産している事が、世界農業遺産に認められた理由です。

佐渡島がジアスに認定された理由は3つありますが、その中でも「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」という農業システムが高評価を受けています。

この認証は、

  • 農薬や化学肥料を減らして「生きものを育む農法」を目指していること
  • 生物の命と自然をリスペクト」しながらお米を栽培していること
  • できたお米は「安全でおいしい」と認められた農業生産物であること

をクリアした農業システムだけに与えられます。

安全で美味しい佐渡米の売り上げの一部は「佐渡市トキ保護募金」に寄付。安全な佐渡米を買うことで、減少しつつある朱鷺を保護することができます。

このシステムは、「地球環境を守る」と言う漠然としたスローガンよりも、地球の生態系を守るための具体的な方法です。世界各地で絶滅しつつある生物保護に明確な金額を寄付することで「地球環境保全」に繋がります。

そんな佐渡島で、農家と契約栽培して育てられた山田錦を35%まで磨き上げ、長期低温発酵させた日本酒があります。

は、開栓すればふんわりと漂う「フルーツを感じさせる芳醇な香り」と「繊細かつ高級感のある味わい」が特徴。

佐渡の澄み切った空に、朱鷺が大きくはばたいている姿を思い浮かべながら、今夜の晩酌をお楽しみください。

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オーガニック日本酒のまとめ

田んぼ 稲穂
日本でも有機にこだわりを持つ人が増えています。

自分と家族の健康も含めて地球環境を考慮に入れ、ライフスタイルをオーガニックに変えることは意義がある、とお考えになるなら、価格が少々高めでもオーガニック食品は第一の選択肢です。

しかし、日本酒に関しては、「一般のお米で造った日本酒には農薬が残留して危険」「オーガニックじゃないから味が落ちる」などと気にする必要はないように思えます。

化学肥料、有機肥料、人や動物の糞、動物の糞の堆肥、肉骨粉、魚粉、油粕、米ぬか、くん炭、農薬など外部から持ち込むものを一切使用しない「自然農法」の山田錦を使った日本酒も登場しています。

注:オーガニック自然農法は同じものではありません

自然農法の定義とは、

農薬や人糞肥料・化学肥料を⼀切使⽤せずに、枯れ草や藁などで堆肥を作って⽥畑に還元し、⾃然界の⼟壌と同じ⽣命⼒溢れる⼟を作り出し、⾃然の仕組みを上⼿に再現した農産物⽣産⽅法

出典:ウィキペディア「自然農法」

自然農法では有機農薬動物の排出物も使いません

  • 土地を耕さない
  • 除草しない
  • 無農薬
  • 枯れ草を利用する以外は無肥料

と、究極のほったらかし「自然栽培」です。しかし、自然農法は「より自然で永続的、循環的な農法」と言えるでしょう。

 

できればジャンル分けせずに、オーガニック日本酒や自然栽培日本酒など様々な地酒を楽しんでいきたいものです。


参照サイト

・農林水産省「有機食品の検査認証制度について」

・News European Parliament

・吉野馨子「有機農業に対する消費者の理解と関心に関するアンケート調査」

・Sopexa

・財団法人日本土壌協会「有機農業で使用可能な資材等」

・農林水産省「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組」

・JETRO「海外ビジネス情報」

・ScienceDaily「Organic pesticides not always ‘greener’ choice, study finds」

・Stanford Medicine「Little evidence of health benefits from organic foods, study finds」

・IFLScience 「Organic Food Is Worse For The Climate Than Non-Organic Food」

・日本農薬株式会社「日農スプレーオイル[マシン油乳剤]」

・愛媛大学農学部「有機栽培水田における水稲生育・収量・品質の評価とメタンおよび亜酸化窒素発生に関する研究」

※2019年8月の為替で計算しています。

※この記事は参考となる情報をもとにライター独自の見解を述べたものです。必ずご自身の責任と判断において情報をご利用ください。その結果生じた直接的または間接的な損害についてライターおよび発行者は一切の責任を負いません。あらかじめご了承ください。