
「酒蔵」って、日本酒を造るだけの場所と思っていませんか?
最近は日本酒造りだけにとどまらず、歴史的な空間を利用して結婚式場として解放したり、レストランとして再構築している酒造もあります。日本酒を利用した和スイーツも楽しめ、販売している酒蔵レストランもあります。
今回の記事では、時を刻むのをやめたかのような酒蔵をリノベーションしたレストランや、日本酒だけではなく様々な食の楽しみ方を提案する酒蔵複合施設もご紹介します。
常日頃の喧騒を逃れたい方はノスタルジックな酒蔵で、家族や友人と非日常を楽しみたい方は複合施設でのんびりしてみませんか♪
酒蔵レストラン『蔵元料理・天青』熊澤酒造:神奈川県茅ヶ崎市
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神奈川県茅ヶ崎市はマリンスポーツが盛んでおしゃれな街。
そんな茅ヶ崎市の中で唯一残っている熊澤酒造は、「自由で瀟洒な湘南」という雰囲気の中で酒蔵の伝統文化を守りつつも融合しあい、新しい世界を創り出すことに精力的に打ち込んでいます。
「おもしろい。やってみよう」精神で生まれたラグビー日本酒『全黒』
ニュージーランドのラグビー代表チーム「All Blacks」をそのまま漢字にした日本酒「全黒」。
ラグビー好きな日本酒ファンの間でも話題になりましたが、この日本酒は熊澤酒造の杜氏・五十嵐哲朗氏がニュージーランド唯一の酒蔵「NEW ZEALAND SAKE BREWERS LIMITED」代表のDavid Joll氏の提案を快諾したことから生まれたもの。
今回のラグビーワールドカップ2019日本大会では、David Joll氏はニュージーランドで全黒を造って日本に持ち込みたく思っていました。自国のラグビーチームを応援するとともにニュージランド内でも日本酒の話題を盛り上げ、日本酒を普及させることが目的でした。
しかし、現実には日本への日本酒の持ち込みは困難なことがわかり、次の一手として日本の酒造に「全黒」造りを相談しています。しかし、ほとんどの酒造はその申し出に躊躇…。
ところが、熊澤酒造は違っていました。David Joll氏に「おもしろい!」と膝を打ったのです。
ニュージーランドのラグビー代表チーム「All Blacks」をテーマにした「全黒」造りに協力する行動力や進取の精神は、蔵元料理・天青にも十分に現れています。
歴史ある酒蔵レストランで「蔵元創作料理」と「できたての新酒」
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かつては麹室として使われていた天青は落ち着いた奥行きのある広々としたスペースがご自慢のレストラン。
奥のガラスから見えているのは、たった今、日本酒を醸している酒造です。
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料理は美しい器に絵のように繊細に盛り付けられ、食べるのがもったいほどのインスタ映えぶり!
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圧巻は酒粕を使った生チョコレート!デザートに合う日本酒を店員さんに訊いて、マリアージュを試してみるのはいかがでしょう♪
酒蔵レストラン別棟の「MOKICHI TRATTORIA」でアツアツの石窯ピッツア
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熊澤酒造には天青の他にも、石釜ピッツアや自家製パンを楽しめる、気軽なダイニングレストラン「MOKICHI TRATTORIA」、自家製湘南ビールを楽しめる「MOKICHI FOODS GARDEN」も併設されています。
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大正時代の土蔵蔵では「MOKICHI BAKER & SWEETS」として、ビール酵母を使ってのパンも作られています。
「MOKICHI WURST CAFE」は、築200年の古民家を移築したもの。お子さん連れでも安心して楽しめるように、地下室はファミリールームとなっています。子連れだから…と遠慮している親御さんへの心配りが嬉しいですね!
『湘南の酒蔵レストラン』についてはこちら
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酒蔵レストラン『世嬉の一』(せきのいち):岩手県一関市
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蔵を利用した趣のある建物で、歴史の重みを感じさせる世嬉の一酒造は大正7年創業です。この酒造の敷地内には東日本大震災をも耐え抜いた、重厚な造りの歴史的建築物が今も残っています。
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蔵を改装した世嬉の一レストランの内部は貫禄を感じさせ、どっしり感でいっぱい。和の雰囲気と相まって、まるで別世界を訪れたかのような印象を受けます。
そんな世嬉の一で食べたいものの筆頭といえば、「お餅」!
1年に60日以上も餅を食べている一関市民
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一般庶民にとってお餅とは、お正月のおめでたい日に食べる特別な食べ物でした。
しかし、江戸時代にこの地を治めていた伊達藩は、毎月1日と15日に神様にお餅をお供えして平安無事を祈るだけではなく、安息日と決めたのです。
これで誰はばかることなく堂々とお餅を食べれるようになった一関の人々は、正月はもちろんのこと、入学、卒業、冠婚葬祭、農作業イベントなど、チャンスさえあればお餅をもぐもぐ。
その頻度は、なんと週に一度はお餅料理、なんですね!
そんな餅歴史がこれでもか、というほど多種多様な進化したお餅料理を創り出しているのです。
現在では、一関では300種類以上の餅が存在し、現在進行形でさらなるアレンジ餅が創作されているとのこと。餅好きにはまさしくパラダイス!
では、酒蔵レストラン 世嬉の一の料理の一部をご紹介しましょう。
酒蔵レストランでは毎日搗き立て!9種の餅だれで味わう「もち膳」
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酒蔵レストラン世嬉の一に行ったからには外せない料理が、搗き立ての9種類の餅が勢揃いした「果報餅膳」。
お餅に絡めてあるのは沼エビ(淡水生のエビ)や納豆、くるみ、ずんだ(未熟な枝豆や空豆をすりつぶして作られた緑色のペースト)など。食べ飽きしないよう口洗いのために箸休めの甘酢大根も添えられています。
また、食べている途中にもお楽しみが!
なんと餅のいずれかに萩の小枝が隠れているのです。
小枝を最初に食べたお餅から発見するとその日がラッキーデーとなり、2番目に食べたお餅に入っていると明日がラッキーデーになるんだそう。こんな小さな心配りって女子の心をくすぐりませんか?
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餅とチーズがとろけあって絶妙な味わいを作り出している、酒蔵レストラン特製餅フォンデュもお忘れなく!
日本酒が白ワインの代わりに使われているので、お酒の風味がほんのり!一緒にお皿に添えてある野菜を絡めて食べれば、柔らかもっちりの中にも野菜の歯触りが楽しめます。
「チーズフォンデュにはフランスパンより餅だよね!」と誰もがスイスの皆さんにお伝えしたくなるほどのマリアージュです。
日本で5人しかいない専門職人が作る、酒蔵レストランご自慢アイスバイン
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お餅ではお腹が膨れてお酒が飲めなくなる、と心配する向きには、飼育から手がけた豚のスネ肉アイスバイン(香草焼き)や、マイスターソーセージ盛りなどのドイツ料理はいかがでしょうか。
日本酒は蔵で試飲もできますが、レストランではお得な「蔵人利き酒セット」、ビールではクラフトビールの「いわて蔵ビール」も人気です。珍しいホットビールも是非試してみてくださいね。
『蔵元レストラン 世嬉の一』についてはこちら
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酒蔵レストラン・カフェ「酒泉館」賀茂泉酒造:広島県東広島市
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日本には「日本三大渓谷」や「日本三大祭り」などと言われる場所や物事がありますが、日本酒に関しても「日本三大酒処」が存在します。
それは、灘(兵庫)、伏見(京都)、西条(広島)。筆者は灘と伏見は合点がいきます。しかし、3位には新潟ではないか、とも思えるのですが、皆さんはどのように感じられますか?
とはいえ、一般的に日本三大酒処の1つ、と言われている広島県の西条は、酒造家で吟醸酒の産みの親である三浦仙三郎氏の生誕の場。
西条は狭い地域とはいえ、白と黒のなまこ壁や白壁の蔵、レンガで造った赤煙突など風情ある昔ながらの七軒の酒造があります。散策の途中でご自分の気に入った酒造で試飲をするのも楽しい一角ですが、おすすめは蔵元直営の酒蔵レストラン・カフェ「酒泉館(しゅせんかん)」。
瀟洒なアンティークな酒蔵レストラン・カフェで20種類以上の飲み比べ
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まるで時間が止まっているかのような印象を受ける、酒蔵におよそ似つかわしくないレトロな白い洋館が酒泉館。
「賀茂泉酒造」の敷地内にある酒泉館は、1929年に建てられた旧広島県の西条清酒醸造支場を改修したもので、常時20種類以上の日本酒の飲み比べが可能です。
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蔵元限定飲み比べ日本酒は「大吟醸飲み比べ」「熟成酒飲み比べ」などテーマ別。
やみくもに多種類を飲み比べするのではないので、日本酒テイスティングのお勉強をしたい人にはうってつけです。
酒造の女将さん手作りのおつまみもおすすめ。柔らかな日差しが入ってくる 窓辺の席でゆっくりとくつろぎながら日本酒をしみじみいただきましょう。
日本酒はじめてさんには梅酒やピンクの日本酒、純米大吟醸生酒の「フルーティー飲み比べセット」がおすすめ。
今でこそ純米酒オンリーの酒造は多いのですが、賀茂泉酒造は醸造アルコール添加日本酒がメインだった時代に、戦時中に失われた「米と米こうじだけの酒造り」の復活に取り組み、純米酒造りを始めた進取の気性ある酒造です。
『純米酒とアルコール添加酒』についてはこちら↓
活性炭濾過をしない純米酒はほんのり山吹色。広島杜氏伝承の技で丁寧に醸された純米酒の豊潤な旨味と香りを酒蔵レストランで体験してください。
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酒蔵レストランで女子にもポイントが高いのが日本酒スイーツ!特に古酒に漬け込んだドライフルーツをふんだんに使ったフルーツケーキはプレゼントにもおすすめです。
発酵ファンも注目する「ブルーベリーソースをとろりとかけた酒粕ムース」の甘酸っぱい体験もお忘れなく♪
酒蔵レストラン・カフェおすすめ!新酒シーズンには「幻の酒壺」
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酒泉館では月替りで蔵出しの生原酒のサービスもあります。これは「幻の酒壺」と呼ばれ、酒泉館でのみお目にかかれるメニュー。
加水調整や加熱処理なしの生原酒には、純米酒が持つふっくらとした旨みと甘い上品な香りがあります。「量り売りでお持ち帰りも可」なので、11月から3月の新酒の季節には是非とも訪れたいものです。
酒蔵(レストラン)カフェ「酒泉館」についてはこちら
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社員食堂が酒蔵レストラン!『魚沼の里』八海醸造:新潟県南魚沼市
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八海山で有名な酒造「八海醸造株式会社」が運営する「魚沼の里」。
酒造りの酒蔵を中心として、試飲コーナー、そば屋、カフェ、和洋菓子、バームクーヘン、ベーカリー、ビール醸造所などがゆったりとした敷地に点在する複合施設で、最大1000トンの雪を蓄えることができるという珍しい雪室見学もできます。
レジ通過者数だけで年間25万人が訪れる魚沼の里には1日中楽しめる魅力がぎっしり!
酒蔵レストランを超える!?『みんなの社員食堂』
酒蔵を利用したレストランではありませんが、試飲をした後に小腹が空いた時に利用したい、社員食堂での昼食。
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今までご紹介した酒蔵レストランがおしゃれすぎたので、「えっ、社員食堂?」とガックリされるかもしれませんが、侮るなかれ!
メニューは麹や甘酒を使って調理した魚や肉と小鉢3つの定食で、すべて社員の栄養バランスを考えて丁寧に作られています。
これだけで立派な日本酒のおつまみですが、なんとブランド米の「魚沼産コシヒカリ」が食べ放題!ついでにお味噌汁も飲み放題!社員食堂だからコスパも最強。
「社員食堂で昼間から日本酒を堂々と飲めるのか」と不安に思っておられる方はご安心ください。社員とは飲食スペースが区切られており、ドリンクメニューにもしっかりと日本酒も書き加えられていることを確認しました♪
魚沼市民の間でも「お客さんを連れて行くならココ!」の声も高い「みんなの社員食堂」ですが、もう1つご紹介したいのが猿倉山ビール醸造所。
酒蔵レストランファンも満足!ブルワリー丸見え『猿倉山ビール醸造所』
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みんなの社員食堂から徒歩2分ほどの場所にあり、素晴らしい眺望を独り占めしている建物が猿倉山ビール醸造所です。
ここではガラス張りのブルワリーを見学でき、「ヴァイツェン」「アルト」「ポーター」「ペールエール」に加えて話題の「IPA」「新ピルスナー」もビールバーで楽しめますが、天気が良い日はテラスで雄大な自然を眺めながら飲むのもおすすめ♪
「飲む前に知っておきたいクラフトビール用語、飲み方、料理との相性」についてはこちら↓
古民家利用で酒蔵レストラン風。日本酒通は蕎麦で日本酒『そば屋長森』
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蕎麦といえば、日本酒との相性も抜群。
「蕎麦前」という言葉もある如く、一昔前(現在でも)は、店主がそばを打っている間、板わさやだし巻き卵をつまみに日本酒を飲んで時間をつぶすスタイルが一般的だったそうです。なぜ日本酒が好きな人は蕎麦屋に行くのでしょうか?
それは蕎麦屋では上質な日本酒を数多く取り揃えていたから、飲兵衛の足は自ずと蕎麦屋さんへと向いていたのですね。
ところで、日本酒とのマリアージュが最高な蕎麦屋さんが魚沼の里にあることをご存知ですか。
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それは「そば屋長森」。
旧家を移築して建てられた古民家風の佇まいはしっとりと落ち着いた空間。建物の裏側の広大なそば畑がこれから食べるそばへの期待を弥が上にも高めてくれます。
混んでいるときには囲炉裏を囲んでウェイティング。食べるテーブルは座布団席やこたつだけではなく、椅子席もあります。外国からのお友達をお連れしても大丈夫ですよ。
日本酒は、と言えば、八海山の有名どころが勢揃い!
卵焼きやかき揚げをつまみに、そばが打ち上がり、茹で上がるまでゆっくりと日本酒を堪能しましょう。
『各種施設、無料送迎バス』についてはこちら
↓
『東京から日帰りできる新潟の酒蔵見学』についてはこちら↓
まとめ:乾いた心と喉は酒蔵レストランで潤す
「家にいる時も仕事のことを考えて、休日でもリラックスできていない…」。そう感じているなら、思い切って家から離れるのが一番手っ取り早い解決法。
出かける先はノスタルジー溢れる酒蔵レストラン。
歴史ある建造物の中で日本酒を口に含めば異次元へするりとトリップし、気持ちも不思議と満たされるものです。明日の仕事への情熱も再びわいてくるでしょう。
皆さんも、時が止まったような酒蔵レストランにしばらくの間とどまって、旨い日本酒を飲みながら時間の流れをゆっくりと感じ取ってくださいね。