AIのイメージ

産地、酒蔵、銘柄によって様々な味わいがある日本酒。現在1,415の酒蔵(1)から造られる銘柄は10,000以上と言われています。そんな膨大な日本酒をあれこれ試して、自分の好みに合う1本を探し出す事も楽しみのひとつです。

しかし、あの味やこの味を飲んでもしっくりこない場合があるのも事実。自分は辛口の日本酒が好みだから辛口と言われる日本酒を飲んでみたけれど、甘く感じた…そんな経験はありませんか?

これからどれだけの日本酒を飲めば自分の味覚に合う日本酒と巡り会う事ができるのだろうか…、と絶望を感じていませんか?

そんな日本酒難民に朗報があります!AIが皆さんにぴったりの日本酒を教えてくれるのです。

今やAIの日本酒への関与はそれだけではありません。杜氏の経験と勘だけが頼りだった酒造りのノウハウをAIで管理しよう、と試みる酒蔵も現れています。

この記事では、

  • 敷居が高いとされる日本酒の世界をAIで簡素化
  • 相性のいい日本酒をAIがサジェスト、若年層への販路拡大への手がかりになるか
  • 日本酒造りにAI組み入れを試みる酒蔵の増加

について説明します。

日本酒離れの原因?知識を要求されるマイ日本酒選び

複数の重なる本

お気に入りの日本酒を見つける事は初心者にはハードルが高い、と言われています。その理由の1つが難解な日本酒用語。自分の口に合いそうな1本を見つけるだけなのに、ラベルを理解するだけでも「ある程度の知識」が必要になります。

例えば、純米大吟醸酒と純米酒のどちらを選ぶべきか、と悩んだら、まず「精米歩合」とは何か、を知らなければなりません。純米酒と本醸造酒の違いを知るためには、「添加アルコール」について調べなければいけません。

面倒だから甘口か辛口かで選ぼう、とすれば、「日本酒度」の意味を知る必要があります。

ネットで調べてみると、「糖質の多さでレベル分けされている」とあるのに、なぜかマイナス表示は糖質が多いことを意味している…なぜだ!と、ここで頭を抱えていては自分にぴったりの日本酒には巡り会えません。相性のいい日本酒を手に入れるためにはもっとお勉強する必要があるのです。

美味しい日本酒が飲みたい、でも勉強はイヤだ!そんなジレンマを解消してくれるのがAI(人工知能)です。

お好みの日本酒を選ぶAIの味覚診断サービスの名前は、「YUMMY SAKE(ヤミー・サケ)」。AIに診断してもらうのですから勉強は必要ありません。

AIは皆さんの味覚のタイプをすぐに診断し、診断結果を直感的に理解できるオノマトペ(擬音語)で教えてくれるからです。

日本酒の世界を深く知りたい方は、日本酒種類をわかりやすくまとめた下記の記事もご参照ください。

スマホで簡単!YUMMY SAKEの診断サービスの流れ

 

スマホでサイトを開く
10種類の日本酒がセットされた日本酒キットのお酒をブラインドテイスティング
テイスティングするたびにハートマークにチェックを入れて5段階評価する
すべてのテイスティングが終わったら、AIが味覚タイプを判定する
あなた好みの日本酒のタイプを「シャラシャラ」などのオノマトペ(擬音語)でAIが教える
判定されたら「シャラシャラ」な日本酒1杯とおつまみがサービスされる

診断方法は、銘柄表示のない10種類の日本酒を少量飲み、サイトで5段階評価をするだけです。AIはその評価から皆さんの味覚タイプを「シャラシャラ」や「キュンキュン」など12種類の表現で伝えます。このオノマトペ(擬音語)は唎酒師の監修のもとで分類されたものです。オノマトペを使うことで膨大な情報を一言で伝えることができ、情報を受け取る側も一般的な言葉の羅列で説明されるよりも、感覚的に理解できるようになります。

たとえばオノマトペのひとつである「モフモフ」。動物の毛や鳥の羽毛が空気を含んでふっくらとして、さわればふわっと心地よくほんのりした暖かみを感じる場合に使われています。モフモフな状態をオノマトペなしに単語を駆使して表現してもなかなか伝わりにくいものですが、私たちはモフモフと聞くだけで、曖昧で感覚的だからこそ多くの情報を得ることができるのです。

ちなみにシャラシャラとは、

リンゴや柑橘類のような爽やかな甘酸っぱい香りに、清涼感たっぷりな口当たり

(引用:天領盃

 

ここでは「純米無濾過生原酒」だの「あらばしり」だの「山廃」だの???な言葉は出てきません。日本酒のスペックや知名度、ブランドから来る印象も知識もないまっさらな状態の中で、ただ直感だけを頼りにハートマークにチェックをつけるだけのAI診断。そこから導き出された自分好みの日本酒はあなたにぴったりなはず!

これで日本酒選びに失敗する確率はグーンと下がりそうですね!

これから日本酒の注文はオノマトペ(擬音語)だけになる!?

 

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Nachi Kato(@nachi_kato)がシェアした投稿 – 2019年 9月月29日午前12時56分PDT

ご自分のタイプがわかったら、AIと提携しているお店で「私はシャラシャラです」と言えば、シャラシャラタイプの日本酒を購入できたり、飲食店ではシャラシャラな日本酒とおつまみを提供してくれます。

例えば、日本酒バーなどに行くと今の時期の日本酒なら○○がおすすめ、とか、この料理にはこのブランドの純米酒、などと勧められることがあります。これはとてもありがたいことで、未知の日本酒の味に出会うこの上ないチャンスでもあります。しかし、毎回よそ様の勧めで日本酒を選ぶのは気がひける場合もあるのでは…。

そんな時AIの診断結果が分かっていると、周囲の雑音に惑わされる事なく自分軸な日本酒を飲めることになるのです。

YUMMY SAKE の展望

まだ始まったばかりのYUMMY SAKE のAI診断サービスですが、この後どのような展開になるのか気になりますよね。

ドンピシャの1本を見つける

今現在、オノマトペは12種類。これは、銘柄が10,000以上あると言われる日本酒を12分割するということだから、1つのオノマトペに大変な数の日本酒が当てはまることになります。

これに対して、開発者は今後、数ある日本酒の中でも「最適の1本はこれ!」というところまで絞り込めるようにしたい、と意欲を燃やしています。近い将来、シャラシャラな日本酒の中で私の最高の1本、という日本酒がわかるようになるなんて楽しみですね。

どこでも気軽にブラインドテイスティングできるようになる

現在のところ、この日本酒AI診断に必要なブラインドテイスティングは代官山と吉祥寺にある未来日本酒店に行く必要があります。しかし、YUMMY SAKE ではテイスティングキットを販売することも視野に入れているので、わざわざ東京に行かなくても自分のオノマトペを知ることも可能になることが予想されます。

酒蔵存亡の危機「杜氏不足」の救世主【AI杜氏】で勘と経験を継承

酒蔵で酒を造る杜氏

黒字経営が続いていた酒蔵が突然廃業。原因は技術者の確保が難しくなったこと…。最近このような事例は多いのではないでしょうか。

国税庁「清酒製造業の概況(平成29年度調査分)」によると、年に100kl以下を生産する小規模の酒蔵数は平成24年には841蔵だったものが平成28年には746蔵にまで減少しています。

これは日本酒の国内消費量が減少したことが原因のひとつではありますが、技術者の減少や杜氏の高齢化によって手造りと勘に頼る酒蔵の酒造りが難しくなったからとも言えます。また、職人技の技術継承は時間がかかるものです。

杜氏とは?

杜氏とは酒造りの膨大なプロセスを一貫して監督する責任者のことで、その技術は長年の経験から得られたものです。特に経験から取得した「勘」と言うものは属人化しており、酒造りの重要なノウハウやポイントは杜氏にしかわかりません

不幸にも杜氏が病に倒れたり辞めたりすれば、もうその蔵での日本酒造りは不可能になります。そんな薄氷を踏むような現状を変えるためにAIの導入を試みている酒蔵も存在します。

AIに日本酒造りのプロセスを学ばせれば、これまで杜氏だけが持っていた経験や勘を数値に置き換えることができます。世代交代の際にもスムーズに引き継ぎができるようになります。

技術者不足からくる不安を解消するために、AI導入を積極的に推し進めている酒蔵のひとつが「南部美人」です。

南部杜氏酒蔵【岩手・南部美人】のAI活用例

南部美人は国内外で数々の受賞歴がある酒蔵。2017年には、世界最大のワインコンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」のSAKE部門で最高賞「チャンピオン・サケ」に選ばれ、国際的にも高評価を得ています。

そんな南部美人でも杜氏は蔵に1人。杜氏にもしものことがあれば代わりがいません。いわばバックアップできないデータを日々使っているような心もとない状況なのです。

日本酒造りの全プロセスをAIに学ばせるのは無理、と考えた蔵元は米の「浸漬」の工程をデータ化することから始めました。米の給水時における膨張率は麹菌の繁殖度に影響を与え、日本酒の仕上がりの決め手となるからです。タイミングを少しでも誤まると取り返しがつかない浸漬のデータをAIに取り込むことで、杜氏だけに任せていたプロセスの1つを共有することができ、リカバリーできない失敗も避けられます

博多の酒蔵ブランド「杉能舎」浜地酒造でもAI実験開始

日本酒をメインで製造している浜地酒造。現在は地ビール製造に参入し、パン工房やビアテラスなど多角的な経営に乗り出していますが、岩手の南部美人と同じく、複雑な醸造過程をデータ化し世代交代時にも引き継ぎを簡易化するためにAIの導入を推進。九州大学との産学連携で伝統技術の存続と最新技術の導入を目指しています。

あの獺祭ではAIが日本酒造り!?

獺祭の旭酒造は、すでに醸造過程と杜氏の技術をデータ化して分析しています。今では杜氏がいない酒蔵としても有名ですが、富士通のAI技術をさらに活用することで社員の経験やノウハウを見える化できるかどうかの実験に取り組んでいます(2)

具体的には、旭酒造は富士通から提示された支援情報に基づいて日本酒を醸造し、日本酒造りでのAIの有効性を試みます。そしてAIの実用化に向けての検証を行なっている最中です。

AIが実用化されるようになれば、勘や経験に頼らなくても高品質で圴一な日本酒を造ることが可能になるとのことです。

まとめ:AI活用で日本酒市場を活性化

日本酒を飲む若い女性

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「飲酒・日本酒に関する調査(3)」によると、現在は日本酒を飲んではいないが(いずれは)日本酒を飲んでみたい、と思っている20代女性は40%。彼女たちがなぜ現在日本酒を飲んでいないのか、についての意識調査はされていませんが、もし「日本酒は難しくて敷居が高い」と思っていることが原因なら非常に残念なことです。

しかし、日本酒に苦手意識がある人たちの敷居を低くするAI「YUMMY SAKE」の登場は、日本酒国内需要低迷の打開策となる可能性を秘めており、これからの展開が楽しみです。

実は、好みの日本酒を簡単にチョイスするためのAI利用はYUMMY SAKEだけにとどまりません。

有名な米どころでもあり、日本三大杜氏「越後杜氏」の発祥地で日本一酒蔵が多いとされる新潟県。ここで毎年開かれる「新潟淡麗 にいがた酒の陣」でもAIがコンシェルジュとして活躍しています。

酒蔵が多いと言うことは銘柄も多いと言うこと。その中から自分にマッチした日本酒を選ぶ労力は並大抵ではありません

しかし、NTTコミュニケーションズが提供しているAIと日本酒データベースを連携させることで、好みの日本酒を簡単に選ぶことができるようになったのです。それぞれの嗜好やシチュエーションをAIに伝えることで最適の日本酒がAIからレコメンドされる、と言うわけです。

日本酒選びだけではなく、人手不足や技術者不足で年々酒蔵の数が減っている現実を少しでも食い止めるために、AIの活用に目を向ける蔵元もこれからますます増えてくることが予想されます。

「日本酒の国内消費が減っている」とはいえ、それは普通酒の話であることが多いものです。逆に大吟醸酒や純米酒などの特定名称酒の消費量は増えています

海外での和食ブームに勢いを得て日本酒の輸出も右肩上がり!この勢いに乗りつつAIを酒造りに利用することで、日本酒業界のさらなる活性化と若い世代への普及に繋げていって欲しいものです。

 

 

参考サイト:

1. 国税庁「清酒製造業の概況(平成29年度調査分)」

2.富士通「旭酒造と富士通、予測AIを活用した日本酒醸造の実証実験を開始」

3. クロス・マーケティング「飲酒・日本酒に関する調査」