
この10年で日本酒の常識は大きく進化しています。
かつては外見を見て、触って、匂いを嗅いで、経験と職人技で見極めるしかなかった日本酒の出来具合いも、今では機械で細かく数値化できるようになりました。
山田錦に代表される酒造好適米を用いて、「磨けば磨くほど上質になる」が常識とされてきた日本酒も、今では食用米であろうが、精米の数値が大きかろうが、旨い日本酒を完成させる新常識を持った酒造も出現。海外では賞さえも獲得するようになりました。
また、常識では日本酒造りで水が日本酒の味を作用する、とまで言われてきましたが、なんと水道水を使った日本酒が東京国税局酒類鑑評会で優等賞を受賞するなど、今までの常識では考えられなかった日本酒が造られるようになっています。
今回は、
- 米を磨くほど日本酒は美味しくなる、という「常識」は本当か
- 精米歩合が「高い・低い」の意味を知っていることは「常識」か
- 自然の水を使えば日本酒は美味しくなる「常識」は本当か
について説明いたします。
日本酒の常識「米は磨けば磨くほど日本酒は旨くなる」って本当?
精米歩合
日本酒を選ぶときに知っておくと便利な精米歩合。
精米歩合とは「元の玄米重量に対して、精米後の白米重量の割合」とされています、が、この説明で「なるほど!」と理解できる方はよほどの日本酒通とお見受けします。
しかし、私のように「いまいち理解できない」方も中にはいらっしゃるはず。そんな方には別の解説の方がわかりやすいかもしれません。それは、
日本酒を造る上で重要な精米は「磨く」という言葉でも表されます。
少々ややこしいのですが、
- 「精米歩合50%」とは、玄米を半分磨いた米で造った日本酒
- 「精米歩合60%」とは、玄米を40%磨いた米で造った日本酒
- 「精米歩合70%」とは、玄米を30%磨いた米で造った日本酒
とご理解ください。
上記の精米歩合を表したグラフでは、純米大吟醸と大吟醸が米を削り落とした量が一番多いので米粒はかなり小さくなり、本醸造は米を削り落とした量が少ないので米粒の70%以上が残っている、ということをイメージして表したものです。
日本酒の常識「精米歩合が高い・低い」の意味を知ってる?
さて、ここで質問です。
通常使われることが多い「精米歩合が高い・低い」という常識的な表現ですが、皆さんはそれがどんな酒質を表しているのか本当にご存知ですか?
精米歩合が低ければ低いほど美味しいかというとそうではなく、精米歩合が高めのお酒の方が好きという人も多くいます。
出典:うまさけ
- 精米歩合が高い▶️本醸造など旨味のある日本酒を表す
- 精米歩合が低い▶️吟醸や大吟醸など上等の日本酒を表す。一般的に高価で香り高く美味しいと称される。
(※筆者要約)
と表現するサイトもあれば、
一般的に精米歩合が高い、つまりより磨いている方が、華やかな香り高い日本酒になるといわれています。
反対に、精米歩合が低い日本酒は、華やかな香りは抑えられ、控えめな米本来の香りに仕上がります。出典:SAWANOTSURU
- 精米歩合が高い▶️より磨いている、と認識し「華やかな香り高い日本酒」になると表現▶️(吟醸や大吟醸など上等の日本酒を表す)
- 精米歩合が低い▶️「華やかな香りは抑えられ、控えめな米本来の香りに仕上がる」と表現▶️(本醸造など旨味のある日本酒を表す)
(※筆者要約、カッコ内は筆者加筆)
などと真逆のことを書いているサイトもあり、情報は錯綜しています(大げさ)。
例えば、「獺祭磨き2割3分」と「七本鎗 渡船(後述)」を比べると、
- 精米歩合2割3分の「獺祭」は、米の77%をヌカとして除去し、もとの米に対して23%に減った
- 精米歩合77%の「七本鎗 渡船」は、米の23%をヌカとして除去し、もとの米に対して77%に減った
では、どちらの数値を用いて、「高い、低い」で表現すればいいのか、という疑問には、日本醸造協会のサイトに答えがありました。
日本醸造協会のサイトでは、
吟醸酒製造として用いる場合には、精米歩合が低く、醪初期の栄養不足からの酵母の増殖の点などを考えると…
日本醸造協会とは、醸造業界の近代化のために明治政府によって設立された協会で、協会系酵母の頒布や清酒品評会や酒造講習会も行なっています。
加えて、酒類綜合研究所のサイトでは以下の記述が見られます。
精米歩合が低い(精米歩合の値が小さい)お米は砕けやすいので…
酒類綜合研究所の前身は国立醸造試験所。これも明治政府によって設立され、酒類の高度な分析や鑑定、酒類の品質評価、酒類や酒類業に関する研究・調査などを行っています。
ということで、精米歩合の数値の大小に従って「高い、低い」と表現した「うまさけ」サイトに軍配!
しかし、正直申しまして、精米歩合の表現は混乱を招きます。
普通「精米歩合が高い」と言われると、価値が高い、と思うのが人情。誤解を招かないために、「精米の数値が大きい」などビジュアルに想像できる言い方にした方がいいのでは、とも思いますがいかがでしょうか。
余談ですが、精米の数値が小さければ小さいほど上質になるという常識があるため、中には1%まで精米数値を小さくした大吟醸(99%の米をヌカとして取り除いた)も存在します。
↓
🔸仰天!精米歩合1%も!【飲んでみたい純米大吟醸】おすすめ5選🔸
獺祭が精米歩合23%の日本酒を作った時には話題になったものですが、実は精米歩合1%の日本酒も…
なぜ日本酒造りでは米をたっぷり削ることが常識?
ご飯として食べている食用米にとって必要なのは、米の外側を覆っているタンパク質や脂質。これらの成分が旨味となるので、精米も90%前後で止め、玄米の胚芽とぬか層を取り除くだけにとどめています。
しかし、日本酒に使う米はタンパク質や脂質の旨味は不必要。それは以下の常識があるからです。
- 酒造りの発酵過程でタンパク質はアミノ酸に変化▶️日本酒に雑味が出る
- 脂質▶️大吟醸や吟醸特有の「含み香と上立ち香」の発生が妨げられる
精米競争で日本酒の個性が失われる、という新常識
今や世界的に有名な旭酒造の獺祭ですが、「獺祭磨き二割三分」(米の77%を取り去り、23%の米を使った酒)の誕生秘話には、日本酒業界の精米競争意識が垣間見えます。
最初は25%の計画でした。精米機に玄米を入れて精米し始めたのを確認して出張した私に、灘のある大手メーカーが24%精白の純米大吟醸を市販してると教えてくれた方がいました。一晩考えて翌日帰りの新幹線の中から車内電話でさらに2%磨いて23%にするよう精米担当者に要請しました。
出典:旭酒造「獺祭について」
高品質の日本酒造りを目指す旭酒造ならではの逸話ですが、あまりにも磨きすぎると、奥行きのない味の日本酒、似通った味の日本酒、特徴のない日本酒になる、というリスクがあります。
原則として、米は磨けば磨くほど、軽やかで綺麗な仕上がりになりますが、磨きすぎてしまうと日本酒にした時の味わいが平坦なものになってしまうという短所もあります。
出典:CRAVITON 「日本酒造りとは」
獺祭は、この辺のバランスの調節に優れているからこそ国際的にも「銘酒」と称されているのですが、残念ながら、中には米を磨きすぎる事でせっかくの米の個性が感じられなくなった日本酒も存在します。
しかし、米を磨くという常識を捨て、旨い日本酒造りを目指している酒造も存在します。
日本酒の常識を破って海外で受賞!精米歩合77%「七本鎗 渡船 純米」富田酒造
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幻の酒米と言われる「滋賀渡船6号」で仕込んだ「七本鎗」は精米歩合77%。
本醸造の基準にも満たない精米歩合ですが、コク、旨味、甘味、酸味、渋味、辛味などの複雑な要素が絡み合って、あらゆる角度からの味わいを楽しめる日本酒となっています。
巷の口コミでは「力強く重厚な味わいながらも後味にはキレの良さがある」とのことで、呑み飽きしない辛口であることも魅力の1つです。
酸味や旨味みも特徴の一員で、旨甘いです。酸味が、なかなかいい感じ。精米歩合は77%。でも、変な雑味はぜんぜん感じません。むしろ、削らなかったぶん旨味がつまってて重厚な味わい。
国際品評会では「フードとのペアリングがバッチリ!」と高評価
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日本国内外での日本酒品評会では大吟醸クラスまで磨かれた日本酒が受賞することが常識でしたが、この低精米酒「七本鎗 渡船 純米」は、2018年 Kura Master Award で見事審査員賞を受賞*1。
Kura Master とは、2017年から開催されている「フランス人によるフランス人のためのフランスの地で行う、日本酒のコンクール」。
審査員はフランス人ソムリエ、レストラン関係者、ホテル・料理学校関係者…とフランス一色のコンクールですが、日本酒はこうあるべき、という常識や先入観がない状態でブラインドティスティングによる公平な審査が行われます。
事前に日本酒の常識を知っていると「知っているがゆえに見えなくなる」状態になることもありますが、まっさらな状態の彼らの五感で選ばれた日本酒は高評価されるべき品質と味わいを持っています。
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精米競争の本質は「日本酒単体で味わえるスッキリした味の日本酒を造るため」です。
しかし、最近では日本酒単体で飲むよりも料理とのペアリングを楽しむ」人が増えています。そのためには、米の個性を味わえて、香りよりも旨味を重視して造られた低精米酒がぴったり!
特にフランスでは料理と酒の相性を重視しており、「フランス料理の濃いソースにも合うしっかりした味わい」を持つ「七本鎗 渡船 純米」だからこそ受賞に繋がった、と推測できます。
今回の、精米歩合77%「七本鎗 渡船 純米」の受賞で、磨きに頼らない日本酒の味わいの広がりや多様性が新常識として認められるようになるのかもしれません。
「日本酒の新常識」低温発酵すれば雑味なしの日本酒に
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「米は磨けば磨くほど雑味がなく、スッキリした味わいになる」が常識の日本酒。私たちも日本酒を選ぶ時にはラベルを見て、
⬇︎
精米歩合の数値が小さいことを確認
⬇︎
米の表面をよく削っていると認識
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…ということは、雑味がなくスッキリした味わいの日本酒なんだ!
と理解して購入しています。
勘と経験でわかった「日本酒は低温発酵がポイント」という新常識
では、次になぜ米は磨く必要があるのか、を考えてみます。
それは、
と、どのサイトにも判で押したように書かれています。
しかし、以下のように今までの常識とは違う考えを持つ酒造もあります。
玄米を削る量を少なくすると、タンパク質や脂質などの栄養分が多く残る |
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その栄養分のせいで酵母が体力をつけて活動的になり |
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米のデンプンからできた糖分を一気に食べてしまう |
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雑味 |
日本酒の雑味の原因を上記のように分析したのは、福島県にある「敢えて米を削らない」取り組みを選択した曙酒造。
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曙酒造は、日本酒に雑味が発生する原因を以下のようにも捉えています。
- 通常は25日ほどの時間をかけて醸造が行われるはずなのに
- 活動を早めた酵母が原因で、半分の日数で日本酒ができるからではないか
もちろん、この速成日本酒の味はお世辞にも極上、とは言えません。
低温発酵のもろみでクリアな日本酒が実現するという新常識
日本酒造りの工程
国税庁「酒のしおり」より筆者作成
※クリックすると拡大します。
そこで通常のもろみの発酵温度とされる12℃を2時間キープ。その後9℃まで急激に下げる、という戦法を取ることにしました(日本酒造りの工程⑦)。
その後は米の力を信じつつ、酵母の声を聞きながら6℃まで温度を下げる、など柔軟に対応してじっくりと発酵させて、酵母が働く時間を長くする(日本酒造りの工程⑧)。
すると、86%の磨きであっても、さらに食用米であっても、透明感のある日本酒を作り出すことに成功したのです。
しかも、使った米は酒米ではなく、地元・会津坂下町産の瑞穂黄金(みずほこがね)という食用米。
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日本酒を造るにはやはり酒造好適米を使う方が無難ですが、実はコシヒカリなどの食用米で日本酒を造る酒造も現れてきました…
雑味は米の磨きで決まるわけではなく、作り方で決まる、ということを証明した「天明瑞穂黄金86」の新常識は以下の通り。
- 高級日本酒を作るためのテッパンである「酒造好適米」は使わず、食用米で造る
- 精米歩合も食用米とほぼ同じ86%
- 低温でゆっくりともろみを発酵させることで、酵母が働く時間を延長する
- 生み出された透明感と上品な旨味は「食事とともに楽しむ」というコンセプトがある
- 米の個性も味わえる日本酒
ちなみに、使用した食用米である瑞穂黄金は、
- 平成5年の冷害にも負けず、通常の稲よりも早々と実をつけていた株を大事に育てたもの
- 「超早場米」として平成17年には新品種として登録
と、なかなかのストーリー性がある米。
これは将来プレミアムがつきそうな予感さえしますね!
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プレミアムがついた日本酒を資産として捉える海外の事情や、1本60万円の日本酒をご紹介しています…
研究も「磨かない米の日本酒」を後押し
一酒造の思いつきで磨きの少ない米でも透明感のある日本酒が完成したと思いきや、実は曙酒造のアイデアを後押しする論文もありました。
それは、
精米歩合90%の醪では原料が溶出する窒素量は多いが、酵母によって取り込まれる窒素量が非常に多いため、その差である液相の窒素量が少なくなることが明らかになった。
というものです。
日本酒における原料米の窒素(アミノ酸やタンパク質に含有)は日本酒の老化に関係しているとも言われています*2。そのために各酒造は米を磨いているのです。
この研究の発端は、精米歩合が高い米にはタンパク質が多く含まれているにもかかわらず、アミノ酸度が低下する原因究明のためです。
研究者は以下のように結論付けています。
- 酵母によるエタノールの生成により、もろみでのタンパ クの溶解が低く抑えられた
- 精米歩合の高い米で仕込んだ場合にもろみのアミノ酸度が低下する
- その原因は、精米歩合の高い米では酵母数が著しく多いためである
- 精米歩合90%のもろみでは窒素は酵母により取り込まれる割合が最も高く、その結果、液相に残る窒素量が少なくなる
一蔵人の体験と経験による確信で造られた日本酒ですが、実はしっかりと裏付けられていたのです。
今までの常識を破って造られた日本酒の味は、
無濾過一回火入れのお酒です。ラベルがチャーミングですね。言葉少なげなのが、かえって饒舌に語りかけて来るような気さえします。スッキリと甘酸の洗練された香りと品のあるまろやかな甘みや喉越しが印象的です。
出典:食べログ
そのほか、日本酒の精米歩合の常識を変えたのはハード面での革新です。
「日本酒の新常識」洗米を機械化すれば雑味は取れる
洗米は「第2の精米」とも言われ、日本酒造りでは重要な工程とされています(日本酒造りの工程③)。
洗米とは「ただお米を洗うだけ」と思っている方が大部分だと思われますが、実は日本酒作りにおいては少々異なります。
それは、米の表面に残っている脂質、タンパク質などを水洗いによって徹底的に除去するだけではなく、洗米に使う水分が吸収されて日本酒の仕上がりを左右するため、洗米時間も重要なポイントになるからです。
- 米の吸水率を超えると柔らかい蒸米となり、麹の菌糸が米の表面だけに広がる
- 給水が足りないと生蒸け(なまぶけ)になり、蒸米に芯が残る
したがって、ストップウォッチなどで時間を細かく測るなど細心の注意を払って行わなければなりません。この技術は「限定給水」のワザと称されていますが、現在では洗米技術が向上した高性能の洗米機が登場。
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この洗米機を使えば気泡状になった水でスピーディーに洗い上げ、時間も僅か1分。割れ米も少なく、ヌカも完全に取り除かれます。
その後、米は浸漬され、終われば脱水機が吸引脱水。米の吸水率も均等になります*3。
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少ない水で完璧に米を洗うことは、サバケ※の良い蒸米を作るための重要なポイント。サバケの良い蒸米だと、次の段階で種麹を米に付着させる作業である「整麹(せいぎく)」(日本酒造りの工程⑤床もみの前段階)作業もスムーズに進みます。
さらに、精米機で洗った米でできた日本酒の味わいは「飲み飽きしない」とコメントする酒造もあります。機械での洗米は今や常識となりつつあります。
今は手作業よりこのウッドソン社の気泡で洗う機械を使い、後に脱水機で水分調整を間違いなく行うことが必需になってきました。
見た目は手洗いがいいのですが、洗いムラや、糠の抜けが全然違い、よりクリアな酒が生まれます。
「日本酒の新常識」水道水でも日本酒は造れる
酒造の大きな蔵の中は薄暗く、巨大な和釜や日本酒を絞るための「酒槽」(さかぶね)が並んでいる…。そして周囲の環境は自然が豊かで清流があり…。私たちは日本酒を作る蔵元をそんな風に想像していました。日本酒は米にこだわるだけではなく、仕込み水も重要、が常識だからです。
ところが東京のど真ん中で水道水を使い、間口の狭い敷地22坪の4階建て町屋風ビルで日本酒を醸す酒造があります。それが都心・港区にある「東京港醸造」。
日本酒造りの重要なシーンで使われる水
日本酒(に使う醸造用水) pic.twitter.com/knjBF1WvjG
— 迷鯱 (@Blancdieu758) January 2, 2019
まず、日本酒はどのような場面で水を使うのかをおさらいしておきましょう。
- 洗米と浸漬(しんせき):精米後、米の表面についたヌカを洗い落として、米を水につける(日本酒造りの工程③)
- 蒸米つくり:甑(こしき)を使って外硬内軟になるように米を蒸す(日本酒造りの工程④)
- 酒母つくり:麹米、蒸米、酵母、水を混ぜて酒母を作る(日本酒造りの工程⑥)
- もろみつくり:酒母、麹米、蒸米、水を混ぜる(日本酒造りの工程⑦)
いずれも、日本酒造りで重要な場面で水が使われていることがわかりますね。
水質は軟水と硬水に分けられますが、
- 軟水:カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が少なく、発酵がゆっくり進む▶️柔らかな味わいの日本酒
- 硬水:カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が多いので、発酵が活発になる▶️引き締まった味わいの日本酒
ちなみに、全国2位の日本酒製造量を誇る酒どころ京都・伏見の水は「中硬水(中軟水とも)」。ミネラルも適度に含んでいるので、良質な日本酒ができると言われています。
日本酒の新常識を目指す「東京港醸造」
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さて、今回ご紹介したい「水道水」で造る日本酒ですが、水道水の水質は京都・伏見と同じく中硬水。
水道水とはいえ、東京の水道水は世界的にも有名になっているほど高度浄水処理がなされているので、品質も良く安全と言われています。
日本酒造りの支障となる鉄分やマンガンは含んでいません。水道水に特有の塩素の匂いはするけれど、1ヶ月の発酵が終わる頃には塩素は消滅しています。
東京港醸造で醸す日本酒は、水質が似通った伏見の酒と同じく少々甘口に出来上がるとのこと。女性にも人気は上々のようです。
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水道水を使うミニ・ブルワリーながらも数々のラインナップの日本酒を取り揃えた東京港醸造。その中でも純米吟醸原酒「江戸開城 山田錦」は、東京国税局酒類鑑評会で清酒純米燗酒部門の優等賞を受賞しています。
しかし、東京港醸造の魅力は日本酒だけではありません。
日本酒の常識を破る酒造の先祖は怒涛の幕末舞台「若松屋」

当時、西郷隆盛や勝海舟が通っていたとされる造り酒屋「若松屋」は東京港醸造の前身です。奥座敷は彼らの密談の場所であり、「江戸城無血開城」の会談を行なっていた、との話も…。
このような歴史的な事件に関わってきたことがブランド酒「江戸開城」命名のもととなっており、酒造が持つストーリーにも魅力を感じている人も多いはず。
安全な日本酒造りを目指すのも日本酒の新常識
また、「江戸開城」シリーズには「尿素非生産性泡なし酵母」である1901酵母を使った銘柄もあり、これからの海外輸出で問題になりそうな「カルバミン酸エチル※」が発生しない日本酒として、国際的規制にも安心な酒造りを行なっています。
鑑評会での受賞、安全な日本酒の生産だけではなく、自家培養乳酸菌を使った日本酒造りなど、常識を覆す手法でチャレンジし続ける東京港醸造。
そんな努力や試みが「水道水を使った日本酒なんて」と言っている人もさらに虜にしていくことでしょう。
「日本酒の常識」まとめ
現代ではほとんどの方が普段の水にもこだわりを持つようになりました。また、日本酒は高度に磨いた米で造れば良いお酒、との常識を持っておられる方が大多数です。
そんな方はスッキリした飲みごごちと吟醸香に酔いしれて幸福感を覚える人も多く、新しい常識で醸した日本酒には違和感を持っておられるかもしれません。
そんな方におすすめしたい日本酒が「純米 今代司 天然水仕込み 1800ml」。
精米歩合は60%。この記事でご紹介した86%や77%の日本酒には及びませんが、純米なので米の旨味はしっかり。
使用酵母は新潟県醸造試験場が保有し、新潟県内だけで使えるG9酵母。この酵母で醸した日本酒は、
- 絶妙な香りのバランス
- 酸の抜けが良い
- 雑味がない
という特徴を持ちます。
加えて、Los Angeles International Wine Competition では燗酒の部で金賞を獲得しているほどなので、熱燗ファンの喉越しも満足させてくれる、というお墨付きです。
新潟の地酒「今代司」純米酒。今回飲んだお酒、純米酒にしてはフルーティなフレーバーが最初にやってくる。口当たりのまろやかな舌ざわりで、飲み終わりは比較的スッキリしている。和食なら比較的どんな料理にも合わせやすいかなぁ〜と思います。
出典:Instagram
日本酒の常識を破って造られたお酒を試してみたいけれどちょっと躊躇している人は、新潟の純米オンリー老舗酒造が醸す「純米 今代司 天然水仕込み」から試してみることをおすすめします。
参照サイト
1, Kura Master「2018年度 受賞酒発表」
2, 奥田将生「原料米の窒素及び硫黄化合物が清酒貯蔵後の香気変化に及ぼす影響」国立研究開発法人 科学技術振興機構
3, ウッドソン「酒造用洗米機コメクリーンMJP洗米機」
※この記事は参考となる情報をもとに筆者独自の見解を述べたものです。必ずご自身の責任と判断において情報をご利用ください。その結果生じた直接的または間接的な損害について筆者および発行者は一切の責任を負いません。あらかじめご了承ください。