
古い話になりますが、皆さんは「カンパイ!世界が恋する日本酒」をご覧になりましたか?
これは、日本酒に魅せられた2人の外国人と海外を飛び回る南部美人の蔵元を描いた日本酒ドキュメンタリー映画。
2015年に、スペイン・バスク州の「サンセバスチャン国際映画祭」でワールドプレミア上映(映画館や映画祭で初めて行う公式の映画上映)されました。
この映画では、日本酒を飲まない人でも飲みたくなる気分になるほど外国人が日本酒を熱く語っています。
しかし、日本で外国人が日本酒に関わっているのは2人だけではありません。
現在では多くの外国人が日本酒を知るために酒蔵で修行を積み、世界ではいまだに少ない酒ソムリエとして日本酒の魅力を伝え、斬新なアイデアで杜氏として日本酒を造ったり、日本酒をもっと世界に広めるためのビジネスに関わったりしています。
今回は、
- 日本で日本酒を自ら造り、母国で製品をリリースする外国人
- 海外向けの新しい日本酒開発&醸造する外国人杜氏
- 外国人登用後、32か国に日本酒を輸出するほど成長した酒造
についてご紹介します。
日本酒LOVEな外国人が増加の一途
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米ロサンゼルス在住のフィルムメーカーで映画ジャーナリストでもある小西未来氏の作品、「カンパイ!世界が恋する日本酒」に出演する3人のうち2人の外国人は、イギリス出身で外国人初の杜氏となったPhilip Harper(フィリップ・ハーパー)氏とアメリカ出身で、鑑評会で評価員の経験もあるJohn Gauntner(ジョン・ゴントナー)氏。
もう1人は、日本酒を広めるために忙しく世界中を飛び回っている南部美人の蔵元・久慈浩介氏です。
フィリップ・ハーパー氏とジョン・ゴントナー氏は、ともに英語で日本酒を語れる存在として日本酒の本を出版したり、「ジャパンタイムズ」などの雑誌に寄稿して世界に日本酒を広げる活動をされているので、すでにご存知の方も多いでしょう。
しかし、
蔵での修行後、それぞれの天職を見つけた2人のアメリカ人
アメリカの日本食レストランで酒ソムリエとして働きながらも、自分のレストランに置く日本酒のプロデュースのために、日本酒造りの修行を積んだスチュアート・モリス氏。
奥さんを追って来日後、飛騨高山で酒造りを続け、今やアメリカ大統領に日本酒を飲んでもらう事が目標になるほどベテラン杜氏に成長したブレイルズフォード・ダリル・コディ氏。
この2人のアメリカ人についてご紹介します。
「久保田 千寿」で衝撃→日本酒造で自ら酒造り→母国レストランでリリースする『スチュアート・モリス』氏
朝日酒造の「久保田 千寿」を初めて飲んだ時、Stuart Morris(スチュアート・モリス)氏が強い衝撃を受けました。
朝日酒造は米どころ酒どころ新潟県で「酒作りは米づくりから」とのモットーを掲げ、農業生産法人「有限会社あさひ農研」を立ち上げている酒蔵。
それだけではなく、米作りに欠かせない自然環境も守るために環境保全活動のための財団法人「公益財団法人こしじ水と緑の会」も設立して、「ホタルの保護活動」も行なっている酒造です。
それほど酒米にこだわって完成した朝日酒造の千寿は、「食事と一緒に楽しめる日本酒」をコンセプトに造られたスッキリ辛口の日本酒。ほのかなお米の香りと柔らかい口あたりは、肩の力を抜いて飲みたい時に最適です。
日本人の「おもてなし」に感激
当時モリス氏はアメリカでシェフとして働いていましたが、「久保田 千寿」に魅せられてからは、時間さえあれば日本酒の勉強を継続。その成果もあって2009年にSSI(日本酒サービス協会)※で日本酒のプロを示す「利酒師」」の資格を東京で取得しました。
『酒ソムリエの詳しい情報』についてはこちら↓
彼は日本で行われる試験のために初めて東京を訪れましたが、その時、道に迷っています。しかし、迷子の経験で彼はさらに日本酒と日本と魅了された、と告白しています。
それは、ほとんど日本語を喋れない彼に、日本人はわかりやすく道順を教えてくれた日本人のおもてなしの心に感激したのです。彼はその体験後、日本を世界でもっとも親切な国、美味しい食べ物の国、と語っています。
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アメリカに帰ったモリス氏はサンフランシスコのMINAグループの日本食レストランで酒ソムリエとして働いていましたが、ある日、日本人がレストランで食事をしている姿をみかけます。そして、彼が山形の老舗「新藤酒造店」のオーナーであることを知り、つい話しかけてしまいました。
新藤酒造店で日本酒造り、米国でリリース
その縁で新藤酒造店で日本酒造りを基礎から学ぶ事になったモリス氏。
新道酒造店では、まず床掃除から始まりました。その後新藤氏から直接酒造りを教わり、最終的には酒造りの全てのプロセスに加わってアメリカでリリースした日本酒が「九郎左衛門 雄町 大吟醸」です。
新藤酒造店のように伝統があり、小さな酒造業者が外国人を招待して日本酒を造らせる、ということは非常に稀な事です。
現在ではその誓いを胸に、レストランを訪れる人々に酒ソムリエとして日本酒の的確なペアリングを提供し、現在では多くの常連客を惹きつける存在に成長しています。
元アメフト選手→日本女性と恋に落ちて日本へ→醸造所の募集広告→義父に背を押された『ブレイルズフォード・ダリル・コディ』氏
ユタ州でアスレチックトレーニングを学び、フットボールの選手として活躍、その後アメフトチームやバスケットチームのトレーナーも務めたほどの体育会系男子Brailsford Daryl Cody(ブレイルズフォード・ダリル・コディ)氏。
そんな彼が日本に来て杜氏をしているわけは、ユタバレー州立大学で出会った飛騨高山市出身の奥様、雅さんの帰国が原因です。
日本女性を慕って飛騨高山に来るも仕事なしの日々で酒蔵に就職
彼女と一緒にいたい気持ちが募り、飛騨高山まで追ってはきたものの、スポーツトレーナーとしての仕事はありませんでした。
しかし偶然に見つけた渡辺酒造の蔵人募集のチラシ。
当時の彼には、日本酒とは熱くしても飲める面白い酒、という印象しかなかったのですが、義理の父から推薦されたこともあり、渡辺酒造の日本酒を飲んでみたのです。
彼は日本語はあまり得意ではなかったため、通訳を通じて日本酒への情熱を渡辺酒造に伝えて見事入社に成功。
食事で箸を取るのも、お風呂に入るのも先輩から、という古いしきたりが残る酒造に言葉も不自由な外国人が入るなんて常識では不可能としか思えませんが、若い蔵元はすんなりとコディ氏を受け入れたのです。
その時は、蔵元もコディ氏を蔵に迎え入れる事で海外へ飛躍する酒造に成長するとは思いもよらなかった事でしょう。
家に帰ると口もきけないほど疲労困憊で30kg減
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日本酒について何も知らなかった彼の毎日は平穏な日々ではありませんでした。
上述のモリス氏のように日本酒についてある程度の知識があれば、少しは修行も楽だったかもしれません。しかし、なんの前知識もないコディ氏は漫画「夏子の酒」を読む事でなんとか日本酒についての理解を深めるのがやっとの状態。
彼の仕事は朝5時からの洗米。極寒の時期に、氷水で大量の米を洗い高温で蒸すことから始まりました。
130kgに鍛え上げた彼の体重はみるみる30kgも減少。彼は当時を振り返って、この仕事を辞めようなんて考えたことは一度もなかった、と言います。それどころか、このような伝統的な職場で働くことに幸せを感じていたそうです。この強い精神力はアメフトで鍛え上げられたおかげでしょうか…。
しかし、奥様は、「帰宅した彼は本当に疲労困憊していて、話しかけるのも遠慮するほどだった」と回想されています。
そんな苦労を積み重ねながらも日本酒を造り続けるうちに、彼はアメリカにこの日本酒を送って、本物の日本酒の良さを知ってほしいと望むようになります。ビールの中におちょこのお酒を混ぜて飲む「酒ボム」は本物の日本酒でないと証明したかったのです。
『酒ボムの正しい方法』についてはこちら↓
しかし、
渡辺酒造はその頃は、海外への日本酒輸出にはまだ取り組んでいませんでした。そこで、渡辺酒造の初海外ビジネスのために、コーディと蔵元は外国人の食事に合う日本酒を模索。様々な情報を得て新しいタイプの日本酒の完成にこぎつけました。それが「コディの酒(Cody’s Sake)」。
コンペティションで数々の賞を受賞する「コディの酒」
コディの酒は、入賞率8.3%の難関と言われる「全国推奨観光土産品審査会」で日本酒唯一の特別審査優秀賞を受賞。この他にも「ロサンゼルス・ワイン・コンペティション」で金賞&ベストオブクラスも受賞しています。
彼の今後の夢は、岐阜県飛騨市のこの小さな酒蔵で醸した日本酒をアメリカ大統領に召し上がっていただくこと。そして、日本の小さな地方で酒造りに勤しむ多くの蔵人の誇りを取り戻すとともに、日本酒を世界に発信するさらなる機会を得ること。
飛騨高山の奥様に恋をしたばかりに日本酒の世界に誘い込まれ、アメリカ人で初めての杜氏になった彼は、今や若いスタッフたちの人生の目標になるほど知識豊かで経験を積んだ頼もしい先輩になっているとこのことです。
日本酒好き外国人が経営参加して輸出拡大
今や日本酒の大きなマーケットとなっているアメリカやヨーロッパ。
もっと日本酒の輸出を増やすためには、英語を母語とする日本酒好きに経営に参加してもらうことが一番てっとり早い方法です。
ここでは、女性従業員が多い酒造でアメリカ人女性としての感性をプラスして新しい酒作りと海外取引にも参加しているケリー・カミンスキーさんの事例をご紹介します。
酒蔵に応募→米作りから修行→輸出業務担当→海外販路拡大で32カ国輸出『ケリー・カミンスキー』さん
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「ここに美酒あり 名づけて小鼓といふ」と高浜虚子が歌に詠んだ銘酒は、日本三大杜氏の一つと呼ばれる丹波地域の西山酒造場で造られています。
国の登録有形文化財に指定されているほど歴史ある酒蔵は、スタッフの70%が女性。西山酒造場の利点は女性の繊細な感覚をもの作りに生かした日本酒です。
本日頂いたお酒。
小鼓 チョコレートリキュール
豊かなチョコレートの味わい。
結構甘みが強いのでよく冷やした牛乳で割った方が良い。
アルコール度数も5度と低く、チョコレート好きにはぴったりのお酒。 pic.twitter.com/CGJN4w1EfZ— フジワラヨシト (@fuji25) 2019年2月5日
女性ならではのアイデアを生かして、ヨーグルト甘酒や「第4のチョコレート」として話題のルビーチョコレートを使った「小鼓 チョコレートリキュール モンテオエステ ロゼ」も新開発。バレンタインに食後のデザートに、と人気も上々です♪
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そんな酒蔵に入社してきたKelly Kaminski(ケリー・カミンスキー)さんはアメリカ出身で、JETプログラムの※卒業生。
Delighted to welcome new Irish JETs to Japan! We wish them luck, especially in Shizuoka and Kobe where Ireland will play #RWC2019 games! 今年もJETプログラム参加者の皆さんがアイルランドから来日!英語教員や国際交流員として、そして両国の架け橋としてのご活躍を期待しています! pic.twitter.com/ZmwSEnsf89
— アイルランド大使館 Ireland in Japan (@IrishEmbJapan) August 1, 2018
その後、JETプログラムの卒業生への求人広告で、日本酒造りの募集を発見。アメリカでバーテンダーをしていた時にクラフトビールを作ってみたいと思っていたことから興味を持ち、応募した事がきっかけとなりました。
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彼女は今や日本酒の開発にも余念がありません。兵庫北錦を用いたフルーティーな純米大吟醸や、五百万石を使用したすっきりとした酸味の純米大吟醸など試行錯誤しながらも完成させています。
これからも、輸出業務だけではなく新商品の展開にも積極的に加わって行きたいと抱負を語るカミンスキーさんですが、最近の悩みは「英語を時々忘れている」とのこと。
すっかり日本に馴染んでしまった彼女がプロデュースする新しい日本酒の完成が楽しみですね!
まとめ:経営だけじゃない!ラベルにまで登場する人気の外国人アーティスト
2011年のデビューから類まれなる楽曲のセンスで世界中を魅了してきたシンガーソングライター、エド・シーラン。大の日本食、日本酒ファンであるエド・シーランの来日を記念したお酒2種類が登場!https://t.co/oggNPqEdyk #グッズ_タワレコ #エドシーラン #EdSheeran pic.twitter.com/8tysBPZL5p
— タワーレコード オンライン (@TOWER_Online) August 12, 2019
1550年創業の小西酒造では、ブルゾンちえみとのオフィシャル・パロディ・ビデオで話題のシンガーソングライター「Ed Sheeran(エド・シーラン)」をラベルにあしらった日本酒を発売。
エド・シーランのイラスト日本酒は外国人にとっても手に取りやすい気楽な雰囲気があるし、彼ファンへのプレゼントにも最適、と話題になっています。
日本酒好きなエド・シーランも、最新アルバム「Divide」をテーマにして造られた日本酒でご満悦の様子。
これからも国の垣根を超えて、日本酒蔵やラベルデザインにどんどん外国人に参加してもらい、世界中にもっと日本酒の魅力を広げていって欲しいものです。