
日本酒が運ばれてきた経路や温度変化、途中開封の有無、味の特徴など、様々な情報を教えてくれる「RFID」。
RFIDとはRadio Frequency Identifier の略で、日本語では「非接触ICタグ」とか「無線周波数識別タグ」なんて訳されていますが、簡単に言うと『ICチップとアンテナが内蔵された電子タグ』のことです。
海外では日本酒人気が高まっています。しかし、RFIDタグを日本酒につけることで、今まで以上に日本酒の品質管理を「見える化」でき、お客様に確認していただくことが可能です。
そうなれば顧客の安心感と満足度が上がり、日本酒に対する信頼感も増して、さらなる売り上げ増に繋げることも可能でしょう。
今回は、
- RFIDとは何か
- 日本酒+RFIDなら、なぜ消費者が安心して購入してくれるのか
- 日本酒+RFIDで、将来的にどのように利便性を増していくのか
などについて説明いたします。
日本酒+RFIDの関係
ちゃんとした酒屋さんなら、日本酒を常温棚に置いておく、なんてことはあり得ません。日本酒は専用冷蔵庫の中でしっかり保管されています。だから、私たちは酒屋さんを信頼し、高価な大吟醸でも安心して購入できるのです。
しかし、海外で日本酒を買う時はどうでしょう。日本にいる時のように安心して買えますか?
「この日本酒、ここに来るまでに高温で保管されたり、紫外線に晒されたり、移動中に揺れたりして品質が落ちたりしてないよね…」なんてこわごわしながらの購入です。
味は、開栓してから飲んでみるまでわからないので、いわば博打のようなもの。
海外では、日本酒は紫外線、温度変化、振動に弱いということは十分に理解されていないのです。
現に、海外のスーパーでは蛍光灯をあかあかと照らした棚の上段に、ウイスキーと一緒に日本酒が並べられたりしています。ラベルをチェックすると、製造年月は3年前…なんてザラです。
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日本酒の大きなウィークポイントは紫外線。太陽光が降り注ぐ部屋で保管すると、わずか30分で日本酒の色が変わり(日光着色)、劣化臭である「びん香」「日光臭」も発生します。しかし、紫外線は太陽光にだけ含まれているのではありません。蛍光灯にも…
最近、アジアでの日本酒人気にも目を見張るものがありますが、残念なことに、高級日本酒の空き瓶を買い取って、安い日本酒を入れて売る不届き者もいます。
海外の日本酒ファンは売っている日本酒が本物かどうか確信が持てず、いざ買おうと思っても踏みとどまることもしばしば…。
そんな時、
です。
「それならバーコードがあるでしょ」と思いますよね。
しかし、バーコードとRFIDでは、読み込む時の手間のかかり具合と情報量などで大きく差があります。
RFIDとバーコードとの相違点
レジでピッと音を出して情報を読み取るバーコードは、まず時間がかかりすぎます。その割にはバーコードが持てる情報には限りがあります。
バーコードはレーザー光を使って読む
バーコードとは、型番ごとに数字、文字、記号などがデジタル化されており、この情報を読み取るためには、商品と至近距離で、あるいは商品を手にとって商品1つ1つを手に取ってバーコードリーダーのレーザー光を当ててスキャンする必要があります。
中にはリーダーを15度に傾けてレーザー光を当てて読む、なんて機種もあるので結構面倒ですよね。
バーコード情報には限界がある
バーコードは太さや間隔が違う線を並べて、数字や文字情報を機械が読み取れる形になっています。その中で、私たちがよく見かけるJANコードと、スーパーのお買い得商品などに利用されているGS1-128コードについて説明いたします。
JANコード
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JANコードから得られる情報は、国番号、事業者番号、商品コード、チェックデジット(読み誤りがないかどうかをチェックするためのもの)です。
JANコードには「自店オリジナルの区分け」をした識別コードもあります。例えば、生鮮食料品などはスーパー毎に勝手に決めたコードを使っているので共通データとしては使えないし、賞味期限のデータも加えられない、という限界があります。
バーコードにはこのJANコードの他に、情報量を多くしたGS1-128というバーコードもあります。
GS1-128コード
#GS1-128 #JAN 医療関係にJANとGS1-128を2段で表示したバーコードラベル https://t.co/ogJI54AeSh pic.twitter.com/W1eoXUNZzB
— 印刷通販モール 印刷ネットドットコム (@barcodeya) May 26, 2018
GS1-128コードの情報量はJANコードより豊富で、「企業情報」「商品番号」「製造日」「賞味期限」「有効期限」「使用期限」「製造番号」「ロット番号」「注文番号」「梱包番号」「請求先企業コード」「出荷先企業コード」「値引額」などを入れることができます。
しかしJANコード共々、一度登録したなら、その情報を書き換えることはできず、また印刷からやり直しです。
そしてやはり、1つ1つリーダーでチェックしなければなりません。
まとめて多数の商品の情報を読み取るRFIDには負けています。
RFIDの特徴
これに対してRFIDの特徴は以下の通り。
- RFIDは必要に応じて多くの情報量を登録できる
- RFIDは情報の自動更新・追加が可能。例えば、一定時間ごとに温度を記録するなど
- 棚や冷蔵庫にRFIDタグを読み取る装置をつければ、自動発注できる仕組みも構築できる
- RFIDタグと接触なし、目視なしで、箱の中身まで一発で情報を読み取れるので人的コスト削減につながる
- バーコードは型番ごとに割り振られるが、RFIDは製品1つ1つに対して個別に情報を書き込める
- RFIDの読み取りには短波13.56 MHzのHF(短波帯:電磁誘導タイプ)、UHF(極超短波:電波タイプ))を使う
- HF周波数を利用すると、エネルギー効率は高くなる。しかし、通信距離は短くなる
- UHF周波数を利用すると、RFIDタグの読み取り距離は数メートルに達するので、倉庫からの商品の入出庫を登録する時間とコストを大幅に削減する
- 複数でも単品でも管理可能
- 日本酒の販売状況を蔵元と共有すれば、蔵元は銘柄の売れ筋を知り、卸しの配送計画にも生かせる
- 店舗ではどんな消費者が商品を手に取り、買わずに棚に戻したか、あるいは購入したか、返品したか、などの購買行動を把握でき、売れるマーケティング戦略を構築できる
日本酒+RFIDの主なメリット:具体例
RFIDタグを商品につけることでメリットになる事項は以下の通りです。
- 棚卸し作業の時間を大幅に削減できる
- 在庫管理を自動化あるいは省力化する
- セールスをサポートして、購買欲をそそる
- 万引による盗難防止
- 賞味期限を自動でチェック
- トレーサビリティーがある
- 日本酒の位置情報を把握できる
では、RFIDが生み出す可能性について詳しく見ていきましょう。
1. 日本酒+RFIDで時短棚卸し
「棚卸し」とは、お店の冷蔵庫や倉庫などに今現在どれくらいの日本酒本数があるのか、在庫数をすべて数え上げて集計する作業のことです。
服や小物など軽量商品とは違い、日本酒の場合はガラス瓶に液体が入っているのでとにかく重い!肉体労働といってもいいくらいなので、人件費も時間もかかります。
ワイン+RFIDで棚卸し時間の劇的ビフォーアフター:洋食レストランの例
SATO Provides Resort Hotel with RFID Wine Cellar Inventory Solution https://t.co/IZ90rYdEBI pic.twitter.com/h2GmJ5HFnf
— TheBarCodeNews (@TheBarCodeNews) August 3, 2018
レストランの場合も同じです。
高級なワインを棚卸しする時には、ソムリエが1本1本慎重に棚から取り出して作業を行うため、ワインを大量に扱う洋食レストランでは2名で作業を行っても8時間近くかかることがあります。
それがRFID導入後には1名の作業で、2時間足らずで終了するという効率の良さ!
棚卸し時間は、なんと以前の8分の1に短縮されました。
2. 日本酒+RFIDで在庫管理を自動化・省力化
この動画でもお分かりの通り、重い一升瓶を取り出して、肉眼で数量チェックする作業はなくなりました。
パレットに置かれたダンボール箱の中の日本酒が「〇〇の銘柄が○本」「〇〇酒造の〇〇が○本」と一目瞭然。従業員もこれで筋トレとはおさらば♪
3. 日本酒+RFIDコンビでセールスサポート
RFIDタグには、その日本酒の詳細な情報を大量に埋め込むことも可能です。
日本酒を買いたい人は、日本酒につけられたRFIDタグをスマホで読むこともできますが、もう一歩進めて、店がRFID用のディスプレイを店内に設置するとどうなるでしょう。
お客様は指定の場所に買いたい日本酒を置くことで、RFIDタグが店員の代わりに商品の説明をしてくれるので、店内が混雑している時には大助かり♪
また、日本酒の会計の時にもディスプレイが内蔵されたカウンターを使えば、日本酒のラッピング時にもお客様は退屈せずに色々な日本酒の情報を得ることもでき、次回の来店時の購買にも繋がります。
以下に、RFIDタグがリアル店舗で活躍する流れをまとめました。
日本酒のボトルの底にICチップ系のRFIDタグをつける | |
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その日本酒について詳しく知りたいお客様は、RFIDリーダーの上に日本酒を置く | |
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お客様が知りたい日本酒のデータ(酒造名、製造年月、保管温度の履歴、アルコール度数、酸度、アミノ酸度、味、香り、適した食べ物、そのレシピ、価格etc…)などがスクリーンに表示される | |
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納得したお客様は日本酒を購入 | お客様は購入をやめて、手にした日本酒を棚に戻す |
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いつ、どこで、どんな人が買ったというデータが残り、仕入れの参照に使用可能 | いつ、どこで、どんな人がボトルを持ち上げ興味を持った、というデータは残るので、今後の商品の仕入れの参考として使用可能 |
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万が一、返品になってもデータがあるので素早く対応することでお客様の信頼感を獲得 | お客様をパーソナライズして、レコメンド機能で販促活動を開始 |
詳しくは上記の動画をご参照ください。
4. 日本酒+RFIDで万引きによる盗難防止
小売業におけるロス対策に関する世界的な調査の報告書『GRTB(Global Retail Theft Barometer)』によると、日本におけるロスは、アメリカと中国に続いて3番目に多く「$14.90 billion」となっています。
具体的な不正の手口は商品の窃盗ですが、これを予防するには、倉庫や店舗の出入り口にアンテナを取り付け、RFIDタグがついた商品を不正に持ち出そうとした場合、発覚できる仕組みを構築します。
今までのセキュリティーシステムや警備員を使うよりも経済的になります。
日本酒+RFIDで盗難防止具体例
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RFIDをどのようにして盗難防止にも役立たせるのでしょうか。
具体的には、天井と床、横から読み取るための出口センサーとして使います。
という流れになります。
このシステムは、IoT(インターネット・オブ・シングス)から派生した言葉で、SoT(セキュリティ・オブ・シングス)とも呼ばれています。
このRFID追跡システムを導入した会社では、その後の盗難事件発生はゼロ、とのこと。
詳しくは『RFID Network』をご参照ください。
5. 日本酒+RFIDで賞味期限チェックもお手の物
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吟醸酒や大吟醸、生酒は要冷蔵品なので、品質管理が特に重要な課題となってきます。
日本酒の賞味期限は、冷暗所で未開封の状態で保存されているなら吟醸酒が約10ヶ月、普通酒で1年が目安とされていますが、日本ではしっかりした酒屋さんでは冷蔵保存をされているので、保存状態はほとんど良好であると思われます。
それでも、製造年月にこだわるお客様も多いので、日付の把握は必須事項です。
…が、日本酒ラベルを一本一本チェックするのも一苦労。
そこでRFIDタグの出番です。
日本酒管理はスマートRFID冷蔵庫・スマートRFIDシェルフにお任せ
もし、酒屋さんの冷蔵庫が「RFID」と「IoT」に対応している場合※は、冷蔵庫の中に入っている日本酒の情報はすぐにわかります。
※海外ではRFID対応冷蔵庫は医療機関などですでに2007年から利用されていますが、日本ではまだ開発されていないようです。
日本酒の在庫情報をRFIDが自社ECサイトにリアルタイム反映
このスマート冷蔵庫はもちろんWIFIを利用するので、冷蔵庫にある日本酒は自動的にネットに上がり、お客様はネットで情報を得て欠品なしで購入できます。
スマートシェルフ(棚自体もRFIDリーダー)でも同じことができます。
せっかく買おうと思ったら「在庫なし」表示で、お客さまががっくり来ることはなくなります。
日本酒在庫が少なくなったらRFIDが自動発注、賞味期限間近商品も自動でLINEやECサイトに
同じく、もうすぐ売り切れそうな日本酒も冷蔵庫が知っているので、蔵元や直売店に納品の催促も自動でやってのけます。
賞味期限が近づいた日本酒については、割引した値段をつけて自動的にLINE等でお得意様に知らせて、お客様はお得なお値段で購入。酒屋さんも廃棄処分にしなくていいので、双方損なし、ということになります。
これはスーパーなどでも同じことが言えます。
スーパーではRFID利用で食品ロスが解決
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スーパーですべての商品にRFIDタグをつけることで、レジではスルーで会計が終わり、お店もお客様もwin-win状態♪
食品も賞味期限間近になったら、自動的にLINEで顧客に連絡。お客様は普段より安い価格で購入できるのでスーパーにやって来て購入してくれます。彼らは来たついでに何かを買ってくれるので売り上げも伸びます。
RFIDはお店ばかりを便利にするわけではありません。家庭でもRFIDがあれば買い過ぎや使い忘れは減少することが予想されています。
消費者側でのRFIDメリット
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家庭内でもRFIDタグは活躍します。
RFIDタグが一般化すれば、ネットワークにアクセスできるスマート冷蔵庫(インターネット冷蔵庫とも)も開発されることになります。スマート冷蔵庫が一般化すれば、RFIDタグの付いた食品を買うと、どんな種類の食品が庫内に入っているかを冷蔵庫が認識します。
この時、RFIDタグには賞味期限情報も入っているので、例えばスーパーで「納豆は何個残っていたかな?」「あの卵、いつ買ったんだっけ」なんてことを知りたい時にもスマホでチェックできるようになるんです。
もちろん、冷蔵庫の材料で作れるレシピもご提供♪
消費者にとって嬉しいことがもう1つ。
この電子タグが付いていることでトレーサビリティが明確になることです。
6. 日本酒+RFIDで安心のトレーサビリティ
トレーサビリティとは、日本酒を例にとると、日本酒の生産段階から消費者の手に入る段階まで、あるいは廃棄段階まで追跡できる状態、つまり「追跡の可能性」がある、という意味です。
消費者も、買おうとしている日本酒の製造年月、太陽の光に晒されたことはなかったか、適切な温度で保管されていたか、がわかるし、RFIDは登記役も兼ねているので、本物か偽物かなんて情報までわかるのだから安心です。
さらに、蔵元情報やこの日本酒の特徴、美味しく飲める温度帯、とか、この日本酒にぴったりの料理とは、さらにその料理のレシピは、などの広範囲な情報までもRFIDタグにスマホやタブレット、PCで知ることができます。
蔵元側や酒屋さんとしては、出荷時から酒屋さんに日本酒が届くまでの温度履歴などの情報を知ってもらうことができるので、「あそこの酒屋さんなら安心♪」と消費者からの信頼を得ることができて、売り上げアップにも繋がります。
7. 日本酒+RFIDで位置状況も把握
酒屋さんの例を挙げます。例えば、今日中に届くように発注したのになかなか日本酒が届かない、なんて気を揉む時もあるでしょう。
そんな時にも、日本酒にRFIDタグが付いていれば、今トラックはどの辺を走っているのか、あと何時間で到着するのか、などと状況を把握できるので、精神衛生上よろしいですよね。
日本酒+RFIDは進化し続けている
現在ではRFIDのサイズはゴマ粒大。海外ではワインのコルクの中に仕込まれていたり、裏ラベルの内側に仕込まれたりもします。
辰馬本家酒造で日本酒RFID電子タグ実証試験プロジェクトが2/1(金)よりスタート! | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」 – SAKETIMES https://t.co/vajcaYIDeO
— SAKEレビュー.日本酒専門メディア (@SAKE_review) February 17, 2019
日本では、辰馬本家酒造で日本酒RFID電子タグ実証試験プロジェクトが行われましたが、日本酒瓶の首とラベルにRFIDを貼り付けたため、結露で失敗した場面もあったとのこと。
その後、水に強いRFIDを使った、とのことですが、実は、洗濯機でじゃぶじゃぶ洗えるRFIDはすでに誕生し、実用化されています。
「日本酒+RFID」まとめ:ホテルはあなたがタオルを持ち帰ったことを知っている!
バスタオルにRFIDを仕込むホテルが増えています。
ホノルル、マイアミ、ニューヨークのホテルが「水洗いできるRFIDタグ(Washable RFID tag)」を使って、盗難対策を行っています。
もちろん、盗難防止のためだけではなく、タオルの在庫管理やクリーニングに出した枚数や帰ってきた枚数を調べるためでもありますが…。
実際、ホノルルの某ホテルでは、毎月4000枚ものプール用タオルが紛失しているとのこと。
「そんなに持って帰る人がいるの〜!」とびっくりしますが、イギリスの MyVoucherCodes の世論調査によると、英国人の68%がホテルからタオルやリネン類を持って帰りたい、という誘惑にかられるそうです…!
だから、宿泊客の半分以上が、ホテルが用意している数種類のタオルを土産代わりにしているかもしれないので、4000枚というのは本当らしいですね。
そこで、RFIDタグをタオルに組み込んでいる、という告知を徹底したことで、なんと4000枚→750枚に激減!これを日本円に直すと、毎月130万円の節約になるのだそうです。
恐ろしいことに、出入り口にRFIDリーダーを取り付けているホテルもあります…。
このブログの読者様の中にはそんな方はいない、とは固く信じていますが、もし発覚したら「当ホテルのタオルがおカバンに紛れ込んでいるようですが」と極めて慇懃に返却を求められるそうなので、ホテルの出入り口で恥をかくことに…。
海外に旅行するときは(日本でもやっているかもしれない…;゚д゚)、RFIDタオルがスーツケースに紛れ込まないように、くれぐれもお気をつけくださいませ。