
熟成酒とは、ビンテージワインのように、日本酒を最適な温度や条件の下で長期間保存してゆっくりと自然な変化を行わせたお酒です。
ほとんどの日本酒は製造年月から1年以内に飲んでしまうことが推奨されていますが、蔵元で管理され、じっくりと熟成された日本酒はより洗練された豊かな味が完成、しかも健康にもプラス効果が期待できる、ということで人気も盛り上がりを見せています。
しかし最近では、わずか20分待つだけで自宅で日本酒をまろやかな味にする、と言われる超音波のデキャンタも発売されるようになりました。
今回は、
- 日本酒にデキャンティングは必要か
- メガネ用超音波洗浄機を使った熟成法
- ソニックデキャンタを使った熟成法
- クレ・デュ・ヴァンでかき混ぜる熟成法
- 超音波熟成日本酒は本物の熟成酒なのか
について説明させていただきます。
日本酒とデキャンティング
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レストランでワインを注文すると、表面積が大きな容器に移し変えて少々時間を置いてからグラスに注がれることがあります。この方法はデキャンティング、デキャンタージュなどど呼ばれています。
お酒をデキャントする理由
- ボトルの底に沈んでいる、渋みや苦味の原因となる沈殿物(特に古いワインに多い)を分離するため
- ワインにはコルク栓が使われており、通常は酸化防止剤(亜硫酸塩:硫黄を燃やした後に出るガスが原料)も含まれているので、それらのコルク臭と硫黄臭を取り除くため
- ワインを空気に接触させることでワインの熟成の速度を早め、味を柔らかくさせるため(エアレーション)
- ワインと酸素を混合させて香りを開かせるため
- 渋みの原因であるタンニンの味を和らげるため
ワインはフルーツベースの飲み物。お米と違ってフルーツは酸素に反応しやすいのです。
例えば、リンゴなどはカットするとその面は空気に触れることで、すぐに茶色に変色しますよね。
だから、ワインは開栓すると急激に味や香りに変化が起こり、補助的に熟成を進めることができます。
しかし、以上はワインのお話です。
お米でできた日本酒のデキャンティングは必要なのでしょうか。
日本酒の徳利はデキャンター?
日本酒に沈殿物はありますが、それは「にごり酒」という立派なカテゴリーのお酒の瓶底に沈んでいるもので、「オリ」と呼ばれるものです。
オリが入った日本酒を飲む前に瓶を振ってから飲む人や、ひと瓶飲み終わる寸前の最後の楽しみとして瓶の底に敢えて残している人もいます。どちらにせよオリが必要だから選んだ日本酒なので、デキャンティングで取り除く必要はありません。
また、ワイン用のデキャンタのように、日本酒を強制的に広い面積で空気と接触とさせると、せっかくの「上立ち香(飲む前にグラスから立ち上る香り)」も拡散してしまいます。
日本酒を飲む時に徳利に移し変えて、おちょこやぐい飲みなどに注いで飲む事もあります。したがって、「徳利はデキャンターである」という説もありますが、空気と接する面積が極小の徳利は日本酒と酸素を混ぜ合わせるために作られたわけではありません。
酒を飲む相手と「差しつ差されつ」コミュニケーションを取りながら飲むためのツール、あるいは、昔は一般的だった一升瓶からその都度注ぐ手間を省くために使われたものなので「デキャンター」とは別物です。日本酒は基本的にデキャンティングは必要がないからです。
しかし、新酒は別です。
若い味の新酒はデキャンティングで熟成する手もあり
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年末から春にかけて出回る新酒は新鮮ではあるけれど、出来立てだからこその苦味や飲んだ後に来る渋み、キレの悪さ、アルコールのピリッとした刺激があります。
新酒の味わいを楽しみに待っていた方はそのまま新酒のフレッシュな味わいをお楽しみください。
「ちょっと刺激が強いかな」と思われる方は、開栓後、冷蔵庫で3日〜1週間ほど保存しておけば、日毎に変わる味の変化を楽しめます。
あるいは、一定の温度である期間保存しておけば新酒の熟成酒が出来上がります。
ここからは、日本酒を熟成する通常の方法をご紹介します。
日本酒の熟成方法
日本酒を通常の方法でデキャンティングしても熟成した味わいにはなりません。
熟成酒の作り方
そこで何としても熟成酒のような丸みのある味わいに変えたい場合は、
- 直射日光が差さない冷暗所がある
- 振動や騒音がない
- 温度管理ができる
以上の3点をクリアして数年置けば熟成酒ができる、と言われています。
温度管理は、日本酒の種類で変わってきます。
- 本醸造や純米酒は常温保存でも可(長期間の熟成は老香が出てくるので注意)
- 吟醸酒や大吟醸酒は冷蔵庫で1年保存した後、ワインセラーで15℃をキープして保存
- 火入れを一切していない新酒(生酒)は、酵素の働きを止めるために−5℃で氷温貯蔵
新酒は氷温で管理することで熟成の進行がゆるやかになり、旨味、甘味、渋味、酸味といった、いくつもの味覚が時間をかけて調和し柔らくなっていきます。
熟成酒の健康上のメリットや食材とのマッチングについてはこちら↓
熟成に何年もかけたくない方におすすめの方法が超音波熟成
しかし、悠長に待っていられない時には超音波を使ってのデキャンティングという手があります。
超音波熟成で注意していただきたい事
管理や保存場所選びに手間がかかららず、しかも20分でやってのける超音波熟成処理ツールをこれからご紹介していきますが、その前に、ご注意しておきたいことがあります。
まずは、超音波熟成の仕組みからご説明します。
熟成前と熟成済みの分子の状態
できてから時間が経っていない新酒は、アルコールと水が不均等に混ざり合っていて、こちらには水のかたまり、あちらにはアルコールのかたまりがある、という状態です。だから新酒を冷凍してみると凍りやすい部分もある事がわかります。
しかし、熟成させた日本酒はアルコールと水分子が均一に混ざっているので、全体的に凍りにくい状態になっています。
そこで、アルコール分子の集団と水分子の集団に分かれている新酒を超音波で振動させます。すると、短時間で水分子とアルコール分子が強制的に混じり合い、熟成させた日本酒と同じ状態になります。
強制的熟成をする前に納得しておこう
日本酒に超音波処理をすると以下の現象が起こります。
- 新鮮な味は無くなる
- 味は変わり、気に入らないからといって元の味に戻すことは不可能
- 味が変わっても成分は変わらない
- 超音波で分子がぶつかりあうので日本酒の温度が上昇する
- 酸化が進みやすくなるので、処理後はできるだけ早く飲みきる必要がある
以上のことをご理解された上でも、やっぱり超音波熟成をやってみたい方は次のステップへお進みください。
ちなみに、ご用意いただく超音波熟成装置のスペックは40000Hzから45000Hz(1秒間に40000から45000回振動する事)が最適です。
では、現在手に入りやすい、デキャンティング可能な超音波ツールをご紹介します。
安価だけど5分タイマーがネック!?『メガネ用超音波洗浄機』
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家庭用の超音波洗浄の代表とも言えるメガネ用洗浄機は、アクセサリーや時計、カトラリーも洗えて便利ですよね!
お値段も手頃で、3,000円台から色々な種類の洗浄機が揃っています。
メガネ用超音波洗浄機で熟成させた日本酒の味は変わった?
さて、この超音波洗浄機で日本酒を熟成させた結果はどうなるのでしょうか。実際に超音波をかけた日本酒と、かけていない日本酒を飲み比べた人のレポートがありますのでご紹介します。
(2つのカップ酒を用意。1つは20分間メガネ洗浄機に入れて熟成させ、熟成させていない別のカップ酒とブラインド・テイスティングした後の感想←筆者加筆)
超音波を当てていない方からティスティングしたのですが、当てたものの方がアルコールの分離感がなく、味全体が熟れてまとまっていました。感覚的には、味が格段にまろやかになります。イベントでも、ほとんどの方が驚かれていたほど、その違いは一目瞭然…
出典:SAKETIMES
まずまずの味に変化したようで、一応成功です。
メガネ用超音波洗浄機の使い方
メガネ用超音波洗浄機を日本酒熟成用として使う時は、まず水を入れてから、
- ボトルをそのまま洗浄機に入れる
- あるいは、コップに移し換えてから洗浄機に入れる
- 超音波にあてる時間は20分
以上です。
簡単ですが、装置によっては5分で作動終了する場合もあるので、こまめにスイッチを入れる必要があります。しかし、連続操作で壊れる装置もあるようなので、こちらも注意しながら操作してください。
果実酒作り、カレーにも応用可能!?
日本酒を熟成させるだけではなく梅酒などの果実酒も作れます。
レモンを焼酎に漬け込んで果実酒を作る別の実験では、「レモンエキスがたくさん出てきた、焼酎のきついアルコール風味が抜けてマイルドで飲みやすくなった」というレポートもあります。
意外な応用法としては、カレーや残った煮物を超音波装置の中に入れて熟成させる方法。なんと時間をかけて煮込んだような濃厚な味になるそうです。
と言うことは、熟成肉もできる、ってことなんでしょうか???
ビールの泡立ても簡単
メガネ用超音波洗浄機は、なんとビールの泡立てマシンとしても使えます。しかも、時間は一瞬!
メガネ洗浄機で泡立ちビールを作る上での注意点は以下の3つ。
- メガネ用超音波洗浄機に必ず水を入れておく
- ビールを入れたグラスを置く
- スイッチオンして細かい泡が立ってきたらすぐにスイッチオフにする
なお、ビールグラスは底が厚手のものを推奨します。
泡はすぐにブア〜っと膨れ上がりますので、くれぐれもビールを水の泡にしないように注意してくださいね^^;
簡単操作で人気『ソニックデキャンタ』
ワインを20分で熟成させる、というソニックデキャンタは2014年にKickstarter(アメリカのクラウドファンディング)で予定の資金の2倍を調達してアメリカで販売に至っています。
ソニックデキャンタについて海外では様々な批評が行われましたが、実際に試した人からは肯定的な意見も述べられています。人気はそろそろ落ち着きてきたかな、と言う印象です。
今回、海外でも話題のソニックデキャンタが日本で発売になったことから、ワインだけではなく日本酒も熟成させている人もいるとのこと。
ソニックデキャンタの操作は簡単で、少量の冷水とワインボトルや日本酒瓶をソニックデキャンタに入れて、スタートボタンを押すだけです。
作動時間は、白ワイン15分、赤ワインは20分。
ソニックデキャンタしたワインの感想
超音波をあてた後の味の感想は、人によって8年熟成ワインの味、20年熟成ワインの味、と様々ですが、赤ワインはタンニンの渋みが弱まりまろやかに、白ワインは果物の微妙な風味が感じられ、爽やかな酸味が出てくるとのことです。赤ワインについては、甘みが15%も増した、との実験結果も出ています。
しかし、ソニックデキャンタ後にはワインの温度が上昇します。白ワインはぬるくなるのでご注意。
500円の安いワインを買ってきて、デキャンタしない状態のものをコップに一杯。。。そのあと20分(赤ワインです)ソニックに当てましたが飲み比べるまでもなくソニックしたほうは口にスーッと入ってきて全然違う!っていうのを感じることが出来ました。
日本酒だったら5分も当てると味が変わるので不思議!出典:Amazon
かき混ぜるだけ『クレ・デュ・ヴァン (ワインの鍵)』
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ここでご紹介するのは超音波熟成ガジェットではありません。
しかし、持ち歩き可能なので、ちょっと一杯居酒屋で安いお酒を飲む時などに便利そうなのでご紹介します。
クレ・デュ・ヴァンとは、フランスでのソムリエ大会優勝者であるFrank Thomas氏がワイン醸造学者で生物学者でもあるLauret Zanon氏とともに10年という長い月日をかけて開発した、携帯にも便利な「瞬間ワイン熟成スプーン(鍵タイプもあり)」。
クレ・デュ・ヴァンの素材は金と銀、銅を合金にしたもので、その触媒作用でお酒に分子レベルで作用します。
元々は購入前のワインを試飲時に「このワインは数年後に美味しくなるのか、なるとしたら何年後が飲みどきなのか」を知るために開発されたものです。説明書には「ワインを美味しくする」とは書いてありません。しかし、実際に硬い味の日本酒に使ってみるとカドがとれてマイルドになります。
1秒混ぜれば1年熟成!?
使い方はごく簡単。グラスに100mlの日本酒を注ぎ、クレ・デュ・ヴァンでかき混ぜるだけ。
1秒かき混ぜると1年間の熟成酒になります。1秒ごとにテイスティングして、8秒目が一番美味しかったのなら、その日本酒は8年間熟成させれば一番美味しい熟成酒になる、ということです。
逆にクレ・デュ・ヴァンでかき混ぜても美味しくならない場合は、熟成させずに今飲んだ方がいい、の意味です。
これは何本か同じ銘柄を買った場合、1本を試飲用に開栓した時にいつまで熟成できるか(いつまで保存可能か)がわかるので便利ですが、実際にはワインを美味しくするための道具として使っている人が多いようです。
最初は半信半疑どころか三信七疑くらいでしたが、使ってみたら本当に味が変わる! 疑ってごめんなさい!
ワイン初心者なので、本当に熟成が進んだのと同じ味の変化が起こっているかどうかはわかりません。でも、味が変わるのも本当なら、それによって美味しくなったと感じるのも本当です。(使いすぎると不味くなりますが)
楽しいワインのひと時に、あれやこれや言いながら試してみると、さらに楽しくなる。美味しくなる。そんな品だと思います。かって良かったです。
出典:Amazon
まとめ:ちょっとの一手間で日本酒は本当に熟成できるのか
日本酒の熟成プロセスの短縮は我々庶民にとっても嬉しいニュース!「20分で安酒が熟成酒になる」のなら誰だって興奮してしまいます。
超音波熟成機はワインや日本酒だけではなく、醤油や酢も熟成味になるとのことで、一時ネットでは品薄になったこともあるようです。
確かにウイスキーやバーボン、焼酎など骨太な味わいのお酒も、口コミによれば隠れた旨味や甘みを引き出してくれるとのこと。しかし、高級なお酒には使わない方が無難です。高級酒はすでに完成しているお酒なので、その風味を壊してしまうからです。
本物の熟成酒とは複雑な味わいがあるからこそ高級酒と称されています。
日本酒の熟成酒とは、熟成させるべく造られた日本酒の各生産プロセスが微妙な影響を及ぼした結果、成功したお酒のことを言います。
精米から上槽されるまでを熟知している蔵元が細かく管理を続け、お酒を何年も我が子のように育んできたからこそ特有の風味が醸し出された結果が評価された本物の熟成酒なのです。
だから、ご紹介したお酒の熟成ツールで作られた「熟成酒」は「熟成されたお酒」ではなく「熟成されたお酒と同じ分子構造を持つお酒」と言えます。
アメリカでのソニックデキャンタ評価
ソニックデキャンタの産みの親であるMichael Coyne氏はこう言っています。
彼は、さらに付け加えています。「そうは言っても、ソニックデキャンタをかける以前のお酒よりもより滑らかでフルーティーなフレーバーを持つようになり、より多くの香りとより長い余韻のフィニッシュが得られるワインになった」。
フィラデルフィアのワインスクールの創設者はCoyne氏に対して「10ドルのワインを100ドルのワインにするという詐欺だ」と抗戦。
これに対してCoyne氏は、300サンプルをアメリカ最大のワイン研究所に送り、その結果「二酸化硫黄が15%減少し、酸性度が低下した」との報告を受けています。
またアメリカでは、「このツールを試した一部の人にとっては熟成味を感じるかもしれないが、時間を置くとすぐに味わいは劣化していく」との意見もありました。しかし、これはワインを超音波ツールで熟成した時のお話。
超音波ツールで温度が上がったワインの品質は変わって時間の経過によって劣化していくのみかもしれませんが、本物の熟成日本酒は別です。
燗冷ましにしてもさらに美味しくなる熟成日本酒
日本酒には上燗(45℃前後)や熱燗(50℃前後)にしたあとに冷まして楽しむ「燗冷まし」という飲み方があります。上燗や熱燗の温度は日本酒の味わいをさらに深くしてくれますが、そのままの温度では舌が旨味や甘味を感じにくい、という欠点もあります。
そこで燗をつけたお酒を40℃以下に冷まします。すると、あら不思議!旨味や甘味、ほのかな香りさえも蘇ってくるではありませんか!それが「燗冷まし」です。
特に、熟成日本酒をオンザロックや冷酒で飲む時には、あえて燗冷ましにすると旨味が際立ってくる、という懐の深さも持ち合わせていますが、これは本物の熟成酒でのお話。
様々な意見を見てみますと、超音波ツールや合金ツールは、あくまでも「熟成が足りないな」と感じるお酒のポテンシャルを高めるために使ったり、「熟成酒に似た風味」を作り出すことでパーティーの場を盛り上げるために使う、などが最適のようです。
皆様におかれましては、くれぐれも失敗しても後悔しないお酒を使う、ということをお忘れにならないようにお楽しみください♪
本物の熟成酒を楽しみたい方はこちら↓